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僕の問いかけに互いに顔を見合わせて、一人前に出る。
マーニ兄位の年かな?
ひょろいけど。
「一応こいつらを連れて行くよう指示されたものだ。
北部テュモラー領暗殺者ギルドの一員、コカだ」
「あなたたちは他の地域に筋も通さずに動いた場合どうなるか知らないのか?」
「知らんな、聞いたことも無い」
「それは、そっちのギルドの長からも聞いてないということか?」
「その通りだ」
うっわぁ……。
「念の為だが……。
そちらのギルドは今の長になる際に先代の長を殺したとかあるか?
分かればいつ頃の話かも知りたい」
「あるな。
俺が入る前の事だから伝聞でしかないが派手にやり合ったと聞いている。
ざっくり二十年は経ってないとは思うが……」
……なんか、当たりっぽい?
「カル様、確認です。
今回のように北部の者がやってきたことってあります?」
「俺が長になってからは無いな」
「他の地域は?」
「あるぞ?
逆に王都側から他地域に行くのも含めてな」
当たったっぽいな、これ。
「カル様、それとコカだったな。
この事態が起こった可能性が二つあります。
一つは北部でこの規則が引き継がれなかった可能性。
先代と今代で殺し合いしている時点で引継ぎは一切行われてないでしょう。
となれば知らないのも納得いくかと」
「……その場合、他のギルドに聞くとか考えなかったのか?
最低でも娼館ギルドは動くだろ?」
「ええ、そこがあるので可能性と申し上げました。
で、二つ目。
コカたちを消すために王都に送った」
「はぁ?」
コカも驚いているようだが、可能性としてはあり得るんだよなぁ。
「コカ、あんた向こうで長との仲は?」
「良し悪しで言えば悪い寄りの中立だな。
ただ、今回ここに来た件で止めた方がいいと指摘し……おい、まさか?」
「部下たちと一緒に処刑ついでに王都に喧嘩売ってこいってことじゃないかな?
まぁ、あんたが規則を知らないだろうと判断して指示したとしたらだけどね。
なお、そっちの長は規則を別の所から聞いている可能性がある。
当然、テュモラー領でも争いを避けたいだろうしね。
そっちの娼館ギルドから説明を受けてるんじゃないかな」
カルと一緒に絶句するコカ。
まぁ、気持ちは分かるけどな。
「ちなみにどちらが該当するかは分かりません。
ですが、一つ目ならまだいいのですが二つ目だと……」
「こっちのババアが他にも連絡して戦争を選んじまうな。
ただでさえ今でもブチ切れているのに」
「でしょうねぇ。
そして、向こうは言い訳を用意しておくのでしょうね。
『こちらは争う気はない。
こいつらが勝手に暴れたことだ』
ってところでしょうか」
頭抱えるカルに呻くコカ。
本気でどうしよう……。
「コカ、そっちにいる奴らは暗殺者ギルドの部下か?」
「いや、違う。
強盗ギルドの方から借りた者たちだ。
本来俺は周辺監視役だったんだ。
こいつらが実行部隊。
ほら、暗殺ならともかく誘拐だから……」
「あぁ、そういうことね。
ちなみに強盗ギルド側の面々はコカのように長との仲は悪い?」
そう聞くと、集まってごにょごにょと話をしだす。
もしかしてこいつらかなり末端の方の奴ら?
「あぁ、皆あまり仲良くはしていない。
とはいえ、全力で喧嘩売るようなこともしていないがな」
「互いに好かないが表立って喧嘩はしない。
あえて言えば冷戦状態?」
「その言葉が近いな」
となると、纏めて消せばいいって考えたか?
消すのは王都だし、ちょっと謝罪して済むのなら手を汚さずに済むだけ楽だな。
自分で消したら内部がギスギスするだろう。
だが、これなら外部の判断だから問題無し。
他の部下たちはこいつらの暴走と伝えれば済む話だし。
これ、作戦変更しないとまずい?
こいつらが長とツーカーなら死ねって命ずることに意味があるけどさ。
むしろ長の敵になりそうだよな?
なら生かしといた方がいい?
ただ、その場合どうやって依頼主に辿り着かせるか……。
推測ではセリナ様の実家なんだろうけどさ。
第一に捕まえさせるのは無理だな、となると……マーニ兄だよなぁ。
「すまんが確認だ。
まず、お前ら変な薬貰ってないか?
仮死の薬とか?」
ビ ク ッ !
おうおう、イイ反応で。
「……何故知っている?」
「お前らの前に捕まった奴らがその薬飲んで死んだぞ?
あれは仮死とはいわん、本気で死んでたな」
いや、そこ、ポカーンって顔しないの!
「理解できるかお前ら?
仮死の薬と言ってるが、あれは只の毒薬だ。
死にたいならともかく生き延びたいならさっさと捨てろ!」
「わ、わかった!」
全員服の隠しポケットから薬を取り出し即刻捨てた。
後で拾っておくか。
王宮の薬師に渡して調べさせたら何か分かるかもしれないしな。
「次に相談なんだが、依頼主をばらす気はあるか?
お前らの本当の後ろ盾はテュモラー家なんだろうけどさ?
でもそれ以外にあの修道院に誘拐しに行くことを求めた奴がいるだろ?
そいつが誰か教えて欲しい」
「その位なら構わん。
トリアルク家からの依頼だった。
テュモラー家経由で俺たちに依頼が来て、受けざるを得なかったって感じだ。
まぁ、あの長共のことだから理由なんぞどうでもいいとか言いそうだが」
やっぱり……。
「分かった。
で、最後にいくつか提案だ。
一つ目、明日我々王都の犯罪者ギルドで先日の襲撃について話す予定だ。
そこでお前らを連れて行き、説明してもらう」
「え゛、ちょっと待てよ!」
誰が待つか!
「なお、カル様……というか多分僕が大体の状況を説明する。
こちらとしてはお前らに全ての責任を負わせる気はない。
とはいえ、お前らの行動のお陰で王都側は迷惑かけられまくってるんだぞ?
ちゃんと自分たちのやらかしを謝罪しな?
できないなんて愚かなことは言わねえよな?」
「……そりゃ、謝罪位は出来るけどさ?
たかだかギルドの中堅程度の謝罪を受けてそっちは納得するのか?」
「納得はしないだろうな。
でも、お前らの長はクズかもしれんが自分らは違うという評価は不要か?
部下はマトモであること印象付けた方が今後を考えると良くないか?」
「まぁなぁ。
長のやらかしとは別に見てもらえるのならありがたいのは事実だ。
あっちから抜けてこっちに移転ということも検討できるしな」
お?
理解できたか?
「一応方向性としては、お前らは王都側に謝罪する。
事前に筋通すということ自体を知らなかった。
北部の長が教えてくれなかった。
僕たち暗殺者ギルドに指摘されたので、改めて謝罪しに来た。
こんな感じで詫びておけ」
「その位ならやろう。
だが、長が何も罰を受けないのは気に食わねえなぁ……」
安心しろというべきか……そこらはちゃんと考えているぞ?
「王都側から北部側に正式に手紙を出すことになるだろうな。
別地域からの叱責の手紙なんて受けたらかなり問題ってことは分かるはずだ。
ついでに、そこにこんなこと書かれていたら責任問題になるんじゃね?
『派遣された者たちは一切長からは説明をされなかったそうだ。
説明したら、ちゃんと謝罪してきた』
こんな風に書いてもらえば、お前らが悪いとは誰も言えんだろ?」
「……これで長が罰せられるか?」
「何でそこまで罰を与えることを期待してるのか分からんが……。
北部の他のギルドからすれば他地域に喧嘩売った暗殺者と強盗に不信感を抱く。
当然王都と争いたい訳じゃないんだから、ちゃんと筋通せと叱責されるな」
「なら良し!
協力するぜ!!」
変なところで軽いなコイツ。
「ついでに言うと、これは他のギルドがまともであるのが条件だ。
こちらからの叱責の手紙をどこのギルドも気にしなかったら意味が無い」
「……それは」
「僕たちもそこは判断できない。
最低でも娼館や商業、生産辺りは普通の感覚を持っていることを祈るのみだな」
コカも大丈夫だと明言できなそうだし、これは本気で祈るしかできないな。
「で、二つ目なんだが……お前らの中で長にべったりな奴っていないんだよな?」
「その手の奴らはすでに死んだよ」
……え?
「ちょっと待て、先行して襲撃した奴らは全て長の側の奴らってこと?」
「そうだ。
俺たちに役立たずの烙印を押すつもりだったんだろうな。
あいつらが一通り仕事を完遂させるつもりだったぞ?」
あ~、そういうこと?
となると、作戦変更しておきたいな。
こいつら殺してもこちらは誰も利が無いし、むしろ生かしておいた方が……。
「なら予定変更しておいた方がよさそうだな」
「……なぁ、予定ってなんだ?」
「お前らが反抗的なら『お前らの中で誰か一人死体となれ』って指示してた」
「おいぃ!!」
そんな騒がれてもなぁ。
「騒ぐなよ。
こちらからすれば、お前らの行動のお陰で王都での仕事がやり辛くなってんだ。
サッサと偽の犯人突き出して鎮静化しないと面倒なんだよ!」
「いや、でも、だからって……」
「一応言っとく。
お前らが大人しく質問に答えてくれたから予定変更するんだぞ?
それとも予定通り死体になりたいのか?」
「いや、予定変更で頼む!」
ったく、グチグチ五月蠅い奴だ。
「ニフィ、予定変更とは言ったがどうするつもりだ?
確か元々は死体を修道院に渡すよう指示するんだったよな?
んで、トリアルク家の情報を死んだ奴が言ってたことにしろだったよな?
結果、騎士たちがあの家を調査しやすくするんだっけ?
それをどういう感じに変更するんだ?」
カル、気持ちは分かるんだけどさ……今振られても無理だよ。
「正直、全く思いつきません。
というか、この件色々あり過ぎて即興で考えるのも限界……」
「あぁ、確かになぁ」
「なんで少し時間下さい。
それとコカ。
トリアルク家に向かう予定はあるか?」
「明日午前中……十時くらいか?
その位に俺が行って報告予定だが?」
「なら、その辺りに騎士が突撃するよう情報流してみるか」
「おい、ちょっと待て!!」
なんだよ、やかましい。
「そんなことやってどうやって逃げろと言うんだよ!」
「何言ってるんだ?
騒がしくなった時点で問答無用で裏から逃げるんだよ。
ついでにお前らの北部の服装、一つくらいあの家に置いていけ。
いや、むしろあの家に来た騎士に投げつけろ。
そうすれば騎士たちがトリアルク家を潰せる。
騎士たちもお前を追うより依頼主を潰した方が有用だからな?」
……なぁ、コカ?
何だ、その怯えた表情は?
「カルさんよ、こいつ何者だ?
めっちゃ怖えんだけど?!」
「うちの若手のトップだよ」
「……王都って魔界だったのか?」
アゼル兄は領地だから魔界は別の所だな。
むしろ【死神】や【狂犬】がいる位だから王都は冥界?
「その辺りは気にすんな。
で、コカ。
今言った流れで動けるか?」
「……ったく、分かった。
裏から逃げればいいんだな?」
「あぁ、その位は出来るだろ?
それと、明日の夜お前らを迎えに行くから宿教えてくれ」
ふむふむ、結構いい宿だな。
テュモラー家から金出てるんだろうなぁ。
「あぁ、ニフィ。
俺の方で逃走ルート確認しておくか?
ついでに裏で待機して逃がすの手伝ってやろう」
おや、ティッキィ。
いいのかい?
「先輩、助かります!
ならコカ、ティッキィさんが裏にいるから突っ走れ。
後は宿まで逃がしてくださるから」
「……こいつ凄い人なのか?」
「うちの実動部隊のトップ」
「え゛?」
何唖然としてんだよ。
「ニフィ、後は話し合うことは無いな?」
カル、締めに入るのか?
「ええ、これで一通り対応可能でしょう」
「なら、コカとその仲間たち。
面倒起こしたくなければ今の話に協力しろ。
本来殺して終わるはずの所をここまで面倒見てやるんだ。
裏切るようなことはするなよ?」
「あぁ。
ここまで対応してもらったし、こちらが迷惑かけまくった。
これで裏切りまでやったら暗殺者も強盗も名乗れねえよ。
俺たちは詐欺師じゃねえんでな、恩を仇で返す気はねえ」
「それでいい。
じゃあ明日よろしくな」
そう言って、僕たちとあいつらは別れた。
……なんとかなった~!
ガックリと地面に座り込むと、ナットが頭撫でてきた。
「ニフェール様、今のかなり即興なんでしょ?
頑張ったねぇ」
ナット、カリムが羨ましそうにしてるからあまりやり過ぎるなよ?
「さて、この後だけどまずそこらに薬あるはずだからいくつか拾おう」
「これって、毒薬だよな?」
「そうそう、幾つか集めて王宮の薬師に確認してもらう。
それ以外にもやることあるからサッサと見つけるよ」
そう言って、周辺を探すとほぼ全員分の毒が見つかった。
次は……。
「カリム、ナット。
二人は先行して侯爵家に戻って。
ラーミルさんとルーシーに概要でいいから説明しておいて。
それと手紙書くからペンと紙用意してもらって。
カルとティッキィは僕と一緒に娼館へ。
婆さんに状況報告する」
「ババアは明日でいいんじゃね?」
「婆さんを驚かす気は無いよ。
事前に伝えて認識合わせた方がいい」
各自指示を終え、僕らは娼館へ。
すぐに会う段取りがついてしまったのは驚きだが。
「明日会うのにこんな時間に顔出してくるとは……。
そんなにこの婆に逢いたかったのかい?」
「うん、胃にダメージ与えたかったから♪」
即刻嫌そうな顔に変わっていく。
気持ちは分かるけどね。
【テュモラー領暗殺者ギルド】
・コカ
→ コカインから




