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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
10:東奔西走
327/359

6

 その後、午前中の授業は平穏無事に終わる。


 そして昼食。

 いつも通り三人で飯を食べ、情報交換開始。



「侯爵たちには伝えてくれたか?」


「あぁ、胃の辺り押さえてたけどな」



 それはいつも通りだし。



「今日、僕の方でも得た情報を教えに王宮に行ってくる。

 そこでまた苦しむんだろうけど」



 まぁ、犯罪者共の会議だけど今ではその情報も重要だからなぁ……。



「あまり胃にダメージ与えないでくれよ?」


「既に【ストマッククラッシャー】なんてあだ名を付けられてるけど?」


「遅かったか……」



 そんな呆れた顔しないでくれよ。

 僕が面倒事を持って来たわけじゃないんだから。



「それと今日ちょっと面倒なことが学園で起こってね。

 と言っても僕が少し動いたのがまずかったみたいなんだけど」


「……ナニシタ? イッテミ?」



 昨日の剣術授業の時にやったこと、そして隣のクラスにまで広まったこと。

 最後に実技は合同クラスでやりたいと希望されたことを説明した。



「……(ポッカ~ン)」



 フェーリオもジル嬢も口閉じな?

 馬鹿に見えるよ?



 ガ シ ッ !



 お、おぉ?!



「お前、何やらかすんだ?!」


「ほら、僕騎士にならないからさぁ。

 少しでも使える奴らを送り込んでやろうと言う僕の優しさ?」


「優しさって……」



 何、その呆れた顔。



「まぁまぁ、フェーリオ様。

 確かにニフェール様が指導した者たちが今の騎士より使えるのならとてもありがいたことでは無いですか?」


「いや、そうなんだけど、とてつもなく嫌な予感がしてなぁ。

 例えば教師側が反発するとかありそうだよな?

 特に役立たず扱いされた実技教師たち」


「そっちの授業もちゃんと出るよ?

 実技だからどうしても空き時間が結構出ちゃうんだよね。

 特に一対一の対戦時。

 その時に教えることはできるよね?

 ちなみに、昨日やってみたら教師まで学園生と同程度の事しかできなくて……」


「学園教師如きにお前と同レベルのことやれって言うのが無茶だろ」



 いや、そんなこと言ってもなぁ。



「フェーリオ、少し考えてみろ?

 このネタがうまくいけば侯爵に。

 ひいては次期侯爵であるシェルーニ様に生贄を捧げられるんだぞ?」



 忘れてるかもしれないけど、フェーリオの兄さんで侯爵家嫡男です。

 あ、八章のモツ煮込みうまかったっす!!(ベタ)



「だから生贄呼ばわりするなよなぁ。

 とはいえ、事実使える騎士はとても助かるし……」


「だろ?

 僕は卒業したら文官方面に進むからねぇ。

 少しでも使える部下を置き土産として用意しておこうという心遣いだよ」


「ムムム……」



 事実、今の騎士科では生徒の底上げなんてできないでしょ?


 実技系は今更だし。

 筆記系は学生たちのやる気が無さげ。



 これ、単純に何がどれだけ役に立つかイメージ出来てないんじゃないの?

 学園生側にそれ伝えないと、適当に流した挙句必要な知識無い騎士になりそう。


 学園がどれだけ努力しても伝わってないと思うなぁ。

 まぁ、実技系は入れ替えた方が良さげな気もするけどね。



 そんなことを考えていると、別の方から声を掛けられた。

 って、スロム?

 話し合い終わったの?



「ニフェール、スティーヴン先生がお呼びだ。

 今すぐ職員室に行け」


「行くのはいいけど、ちゃんと説明できた?」


「お前の提案通りにな。

 その結果、お前を呼び出すことになったそうだ。

 俺は飯を食うから参加できんがな」



 なんだよ、その邪悪な笑顔は!



「分かった、とりあえず職員室を阿鼻叫喚の地獄絵図にしてやればいいんだな?」


「手加減してやれ……」



 呆れながら言うなよ。



 そのままフェーリオたちを別れ、職員室へ移動。

 スティーヴン先生に逢おうとしたら、即刻移動を命ぜられた。

 行先は学園長室。



「あらあら、またここに来ることになるとは……」


「諦めなさい、それだけの内容なのですから」



 まぁ、内容とその理由を読み取れればそういう返答になりますよね。



 中に入り、学園長先生と対面。

 なお、参加者はスティーヴン先生・パァン先生・カパル先生。

 大体想像通りかな。



「さて、ニフェール君。

 どうもかなり無茶苦茶な提案をしているようだが?」


「あれ、スロムからどう聞いたんです?

 確か実技系教科を一緒にさせて欲しいという話だと思ったのですが?」


「ああ、聞いたのはその通りだ。

 でも、本音は別にあるだろう?」


「まぁ、スロムにはあるでしょうね。

 僕的にはどうでもいい事ですが」



 ……あれ?

 困惑しているけど、何で?



「えっと……何で皆さんそんな表情しているのです?

 僕の認識ととても乖離してそうな雰囲気があるのですけど?」


「……すまんが裏事情含めて説明できるか?」


「陛下に許可得てからじゃないと言えないことが多々ありますけど?」


「やっぱりあるのか……」



 無いはずないじゃないですか。

 今までの実績を忘れたの?



「言える範囲で今回の件について、昨日の時点からの説明をして欲しい。

 ちなみに予想ではあるが、スロム君は只の使いっ走りと思ってたんだが?」


「昨日の時点では僕の思い付きだけでしたよ?

 今日の時点でアイツの希望が混ざっただけです。

 そこらは説明聞いて判断してください。

 まずは――」



 そう言って一通りの説明を始める。

 説明が進むごとに教師陣の表情が固まっていくのが分かる。



「え、つまり、元々はクラスメートの実力の底上げ?

 で、スロム君たちはニフェール君の指導を受けたい?

 その為に一緒に実技系授業を受けられるようにしようとした?

 でもニフェール君が前に出ると拒否されるから人数減少を利用した?」


「ええ、そのイメージで合ってます。

 ちなみに僕的には自分のクラスの面々の一部に指導しとけばいいかと。

 とはいえ、スロムたちのやる気を削ぎたくないので今回の提案をしました。

 これならあいつらの希望を叶えられますしね。

 とはいえ、教師側の苦労も想像つきますので、呼ばれるとは思ってました。

 ただ、困惑されるのは予定外でしたが」


「いいや、普通に困惑するからね?

 マジか……」



 教師たち――パァン先生までも――が頭を抱え出す。



「ちなみに人数減少は教師側が言い訳として使えそうだったので提案しました。

 先生方も生徒側のやる気を潰したい訳じゃないでしょ?」


「まぁなぁ、彼らがそこまで学ぼうとする気持ちは叶えてやりたい。

 とはいえ、それ受け入れちゃうと実技系教師要らなくならないか?」



 まぁねぇ、実際そんな感じなんだけど。



「とはいえ、僕の指導に興味ない生徒もいます。

 うちのクラスでも三分の二は無関心でした。

 なので、授業は当然出ますし先生方の指示にも従ってます。

 で、待ち時間等に僕の指導をする形にしてます。

 それなら問題無いと思ったのですが?」


「教師の面目ってもんが無くなるんだけど?」


「僕に指導できない時点で面目も何も無いと思ったのですが?

 授業出てるのも哀れみとちゃんと出席しているという言い訳の為ですからね?」




 グ フ ッ




 あ、正直に言ったらダメージ受けちゃってる。



「まぁ、僕的にはどっちでもいいですよ?

 本来希望しているのがスロムたちなので。

 とはいえ、これで次席誰かに奪われたりしたらアイツ本気で泣きそう……」


「次席奪えると思うのかい?」


「筆記は難しいでしょうね。

 他の奴らがスロムを越えるのはかなり苦労するかと。

 実技は……筆記より可能性が出てきちゃうんじゃないかな?

 多分、スロムも授業に物足りなさを感じたから僕を頼ってきたんだし」



 今のままじゃ絶対に追いつけない。

 そう思ったから僕の指導を受ける気になったんじゃないのかなぁ?



「放課後に指導はできないかい?」


「僕、まだ王宮に行く必要ありますよ?

 今日も行く予定ですし。

 多分学園生活終わるまで行かざるを得ないんじゃないかなぁ」



 スティーヴン先生、頭抱えないでください。

 パァン先生、フォローお願い。



「まだって、そんなにあるのかい?

 最近三つ裁判終わらせたんでしょ?」


「その時に厄介事追加されてますし、まだ対応中の件が複数……。

 それに、確か学園長もご存じの案件あるはずですよ?

 兵站の件なんですけど?」



 え、何で固まるの?



「それって、チアゼム侯爵から言ってきた件かい?」


「多分それですね。

 発案僕ですけど」


「うぇっ!!!」



 何その反応?

 あれ、スティーヴン先生も目が飛び出そうですよ?



「あ~、あの件は確かに騎士側の問題を一気に解決してくれるだろう。

 加えて淑女科で独り立ちしたい、家に捕らわれたくない娘も賛成するだろうな。

 ただ、学力的に難しいのだよ」


「算術だけなら騎士科でもできるレベルですから全く問題ないのでは?

 残るは地理的素養や天候等の知識、そして必要な品を集める知識。

 そのあたりは一部経験を積ませる必要がありますね。

 でも、今の騎士科の面々が動くよりかはまともな行動取れそうですよ?

 アイツら算術苦手過ぎだし」



 あ、スティーヴン先生撃沈してる……。



「確かに淑女科の生徒ならニフェール君の言う通りですね。

 ちなみに残りの知識を与える人物は誰を想定してます?」



 おや、パァン先生参戦ですか?



「へ?

 騎士科で教えている先生方を揃えられるでしょ?

 それで淑女科兵站コースみたいなの用意すればいいんじゃないです?

 まぁ、個人的には他にも淑女科文官コースとかもいけると思うんだけどなぁ」


「……確かにいけますね。

 ちなみに私も知らない部分なのですが、戦闘能力は不要なんですよね?」


「要りません。

 というか、そんな戦闘力持ってるのうちの母上位しか思いつきません。

 そして王都から出ることもありません。

 期待しているのは書類仕事ですから」



 パァン先生がブツブツ言い始めてるけど、もしかしてかなりこの話進みそう?

 スティーヴン先生は指折り……仕事の割り振り考えてる?



「【才媛】とか呼ぶつもりは?」


「ありません。

 最悪の事態の時に依頼するかもしれませんがね。

 基本は淑女科を平均点程度で卒業できるのならできる仕事にしたいのです。

 特定の実力者しかできないのであれば意味はありません」


「それなら騎士でもできるのでは?」


「根本的に学力に違いがあり過ぎて無理です。

 皆が皆、僕並みに点数取れると思わないでください。

 その年の首席レベルの人物でも役に立たない場合もあるみたいですし」



 パァン先生にスティーヴン先生、その表情止めてもらえます?

 僕がやらかしたわけじゃないんだから。



「そんなわけで話が脇道にそれてしまいましたが、元に戻しましょうか。

 実技授業どうします?

 二クラス一緒にできます?」


「……すぐには出来んな。

 気づいていると思うが、スケジュールを調整するのにそれなりに時間かかる」




「なら第二案。

 クラス一つにしない?」




「はぁ?

 ……もしかして同じクラスなんだから授業も一緒だろって?」


「そうそう、それなら調整の苦労は一切ない。

 今週互いの授業進捗を調整して、来週から一緒にとかなら可能でしょ?

 で、実技は先生方の方針をベースに、希望者は僕が教えるって感じで」



 教師陣が集まってわちゃわちゃ話し合っている。

 一番苦労少ないパターンだから文句はないはずなんだけど……。



「教室に全員入り切るか?」


「現時点で元の六割から七割まで減ってます。

 少しきついけど可能ではあるかと」


「成程……これはいけるか?」



 いけて欲しいけどなぁ。



「……とりあえず、今日の放課後に緊急職員会議を行って方針決める。

 ニフェール君はスロム君と話してとりあえず週末近くまで待てと伝えて欲しい。

 ここからは教師の仕事だ」


「了解です。

 んじゃ、僕はこの辺で」



 学園長の部屋を辞し、クラスに戻る。

 そうすると、隣のクラスも含めて皆興奮した面持ちで聞いてくる。


 いや、一部別方向に興奮している奴がいるんだけど?

 そっちの方は勘弁してくれ!



「一応一通り話をして、解決策を提示してきた。

 今日の放課後にでも緊急の職員会議を行うそうだ。

 とはいえ、一日で決定するとは思えない。

 とりあえず週末位まで待て」


「……今週は今のままなんだな?」



 スロム、やる気があるのは素晴らしいとは思う。

 だが、下手するとホルターとの三角関係疑われるからな?

 あまり距離感バグらせないでくれよ?



「そうだろうなぁ、やるやらない以外にも環境整えないといけないからねぇ。

 話し合いは結構苦労するだろうね」


「……分かった、大人しく待っておこう」



 そう言って隣のクラスの面々は戻っていった。



「大丈夫なのか?」


「さぁなぁ、学園長先生は納得した上で行けそうと判断したみたい。

 でも、他の先生方が何か言い出さないか心配かな。

 とはいえ、今日の放課後は僕参加できないし教師たちで頭抱えて欲しいな」



 ついでに、成功した場合に備えてもう少し考えておくか。

 特に筆記側をやる気にさせないとなぁ……。


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