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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
10:東奔西走
324/358

3

 そう言って、貴族派主従はさっさと消える。

 いや、机直す位やってくれよ。


 まぁ、僕もすぐ出ていくんだけど。



「ニフェール、お前は何を――」



 口を手で塞ぎ(●●●●)、小声で指示を出す。

 ……唇では塞がないからね?



「フェーリオ、このまま僕を叱る感じの演技を続けろ。

 ちょっと偵察してくる」



 回答を待たず、低い体勢で急ぎストマたちの後を追う。

 ちょうど角を曲がり階段を降りようとしたところのようだ。



「ストマ様、よろしいのですか?

 ちょうどよい題材だとおっしゃってたでは無いですか」


「確かにその通りなのだがな。

 ニフェールが言っていた件が気になってな……」


「あの女の事なら情報が無い以上無駄だと思いますが?」



 まぁ、そうなんだよなぁ。

 だからこそストマがヒットしたのに驚いたんだが。



「女以外の事を考えてみろ。

 王宮での話になるが、現時点で貴族派ははっきり言って崩壊寸前だ。

 だからこそ現時点では王家派や中立派と喧嘩できない。

 本来、この件は学園内の張り合いの範疇で動いていた。

 だが……想定以上に広がり過ぎた。

 このままでは冗談抜きで別のパターンが起こり得る」


「別のパターンですか?」


「一つ目が王家派、もしくは中立派から俺たちに対しての拒絶。

 親父たちが拒絶されるのは当然だ。

 だが、俺たちまで一纏めにされるのはマズい。

 以前、チアゼム侯爵に情報提供した意味が無くなる」


「……そちらは理解できます。

 他は?」


「貴族派壊滅、もしくはディーマス家グループのみの壊滅だな。

 貴族派がテュモラー派に変わるだろうな」



 ほぅ、そこは感づいていたのか。

 まぁ、ほぼ確定路線だけどね。


 とはいえ……ルドルフ。

 一応側近なんだろ?

 お前もその位気づけよ。



「……それは、お父上の?」


「それは当然ある。

 それ以外に今までテュモラー家は王都に関心を向けていなかった。

 だから、ラング家が代理で動いていたが、あの家は壊滅した。

 なら、新しい操り人形が出てこない限りアイツらが動くだろうよ。

 もしかすると東部の切り崩しも狙ってくるかもしれん」


「東部はディーマス家側の勢力地域では無いですか!」


「弱体化する家なぞ知ったことじゃないのだろうな。

 推測だが東部は荒れるぞ?

 一年以内に醜悪な戦いが起きてもおかしくないな」



 ほぅ、そういう読みをするか……。

 いや、戦いの時期は分からないけど他は大体同じ認識だな。



「そういう理由から適当な所で退く必要があった。

 実際、題材としてはちょうどよかった。

 噂を無差別に広げるやり方としては正解を出せたと思っている。

 だが我々の現状からすると、広げ過ぎたのだろうな」


「……では、噂を広めるのを止めておきます。

 後はあちらが適宜否定して鎮静化する事でしょう」


「あぁ、そっちは頼む」



 これなら後は大丈夫かな。

 とはいえ、外れて欲しかった内容が形作ってきたなぁ……。

 勘弁してほしいんだけど。


 会議室に戻ろうとすると、階下のストマが少し大きめの声で宣言する。





「という訳だ、ニフェールよ。

 お前の飼い主に伝えておけ」





 ……はぁ?

 え、ちょっと待って、僕気配消したままだよ?

 お前如きに気づかれたの?

 かなりショックなんだけど?




「え、ちょっと、ストマ様!

 何を仰るのです?!

 白昼夢でも見てらっしゃるのですか?!

 今日の昼に何食べたか覚えてます?」


「何気にお前もひどいな……。

 俺には人が隠れていても分からん。

 推測ではあるが、そこらの影で俺たちの話し合いを聞いているのではないか?

 別に盗み聞きしたらダメとは言わんがな」



 ……ルーシーやヴィーナのように実力ある側ってことか?

 ふむ……答え合わせ位は付き合ってやろうか。




 ついでにこいつの親にされた嫌がらせ、僅かながら仕返ししてやるか。




 隠れていた所から出て、階段を一足飛びにストマがいる場所に到着。

 ルドルフが驚きの顔を見せてくるがお前はオマケだ、黙ってろ。



「ほぅ、出て来るとは思わなかったぞ?」


「正解を出したのだから、ご褒美位は欲しかろう?」


「……そっちが素か?」


「最低限の礼儀位は知ってるよ。

 今までだってやってきたろ?

 でも、今はフェーリオの側近としてこの場にいるわけじゃないからね」


「ほぅ、ならどの立場で出て来た?」


「ただのニフェール・ジーピン個人だよ。

 で、まずは、立場以前の話になるんだが……。

 側近にボケ老人扱いされたあんたが可哀想に思えてな。

 流石にあの発言は無いだろうと思って顔を出した」



 ……気持ちは分かるが、嫌そうな顔するなよ。



「……これは礼を言うべきなのか?」


「いや、側近に『少しは俺を信じろ』って軽い叱責しとけばいいんじゃね?

 僕としては礼は不要だ。

 それと、これは本気で個人的な疑問なのだが……。

 東部が一年以内に荒れると言ったな?

 あれはテュモラー家がどのレベルで動くと思っている?」


「どのレベルとは?」


「東部の一部確保、東部全確保、国の乗っ取りあたりかな?」



 なぜか唖然とされてしまった……。

 その位考えるだろ?



「流石にそこまで想像つかんぞ?

 ちなみに俺は東部の北半分は取りに来ると思っていた。

 南半分はディーマス家譜代の家が統治しているから裏切りは無いな」


「そうかな?

 テュモラー家の手は結構長いぞ?

 王家派、中立派でもあいつらの味方になっている可能性がある貴族がいる。

 譜代だと安心していると足元救われて終わりだ」


「そんなこと無い!

 むしろ、なぜそこまで自信持って言い出すのだ!」


「大丈夫と思っていた輩が裏切るなんてよくあることだろ?

 むしろ無いと思う方がおかしい。

 それとも、その譜代は親父では無くお前の方針に従っているのか?

 ルドルフ並みに信を預けられる人物が多数いるなら確かに安心だろうがね」



 ルドルフという条件を付けると、流石に不安になったようだ。



「ちなみに、調査中だが中立派に裏切り者がいそうな雰囲気だ。

 誰かは言わんがそれなりに重要そうな立場だな。

 ついでに子供たちはまだまともなのはあんたと同じだな」


「……そいつらに手を貸すのか?」


「何もしなければあいつらも一緒に滅びる。

 親兄弟が愚か者だが自分たちは違うとお偉いさんに助けを求めるよう提案した。

 その協力を少しするくらいかな。

 あんたらと同じだよ。

 薬物関連でジャーヴィン侯爵に報告してなかったか?」


「知ってるのか……」


「まぁね。

 こちらで調べたことの後追いだったけど、裏取りにはなったよ」



 ルドルフは困惑しているようだ。

 僕がここまで深く王宮に関わっているとは思わなかったのだろう。

 ストマは色々考えているようだけど……。



「ふむ、お前の力で俺たちを死刑から逃すことは可能か?」


「僕の力というより、自分がどれだけ役に立つのかジャーヴィン侯爵に伝えたら?

 今のままだと皆殺しかな?

 でも以前の薬物の件で情報をよこしたから奪爵後、平民として生きる位?

 男爵でも貴族でいたいのなら手を考えるべきだね。

 例えば、テュモラー家の情報を侯爵に伝えるとか?

 でも、今僕が話した程度ならおまけ程度でしかないからね?」



 そう言うと、ストマの目がキラッと光った。



「成程な……いいこと聞いた。

 その話にのってみよう」


「まぁ、あまり期待はしていないが頑張んな」


「ついでにこちらからも聞こう。

 ニフェール・ジーピン。

 俺の部下とならんか?」





 は ぁ ?





 え、これ本気で言ってるの?





 それなりに強い殺気を放ち睨みつけると、軽く笑いながら説明を始める。



「貴様ほど戦闘能力がある者を見たことがない」



 兄たちがいますけどね。

 というか、弟にも負けてるんだけど……。



「把握している限りでも騎士科首席、他の科の試験もわざわざ受けているとか。

 もしかすると俺たちを越える位の知識を得られるかもしれん」



 既に超えてるかもしれないよ?

 お前らの順位知らないけど……。



「俺が貴族である限りお前を雇ってやろう。

 子爵三男ならよほどのことが無い限り爵位を得ることはできないだろう?」



 既に男爵賜る予定だし、むしろ侯爵やってって泣きついてくるんだよなぁ。

 そこまで爵位あってもなぁ……。



 それに……。



「どうだ?」


「断る」


「……即決だな。

 理由くらい聞いてもいいか?」



 そこまで気になるのか?



「まず、お前じゃ僕を御しきれない。

 現在のジャーヴィン・チアゼム両侯爵並の力が無ければ無理だ。

 僕という危険物をうまく操る猛獣使いとしての適性がな」



 うちの両親をギリギリ御していたんだからある意味安心感あるんだよなぁ。

 フェーリオとジル嬢はもう少し頑張ろうね。




「それに、ジーピン家としてディーマス家の下に入る気はない。

 なんせ、お前の親父がうちの家に喧嘩売ってきたからな」




 アゼル兄とカールラ姉様の結婚式邪魔しやがって!

 睨みつけると、ビビりつつも理由を聞いてくる。



「……アイツが何をやらかしたか聞いていいか?」


「うちの兄の結婚式に自分の指示に従う騎士たちと暗殺者達を送って来たぞ?

 数百人ほどいたな、皆殺しにしたけど」


「……は?」


「ついでに、暗殺者ギルドを壊滅させたな。

 そして、そこに残っていた暗殺依頼を纏めて騎士団にプレゼントしたよ。

 そこに書かれている依頼者と死んだ騎士たち。

 これらから誰が指示したのかとかバレバレだな」



 分かってるんだろ?

 ディーマス家のやらかしが白日に晒されるんだよ。



「ついでに、お前の親父は禁忌と言ってもいい位の事をしでかした。

 ディーマス家奪爵、親族皆殺しの可能性はこのためだ。

 そして、これは僕でも止められない。

 唯一どうにかするとしたら、国に必要な存在だということを見せるのみ。

 さっきの情報伝えろってのはそういうことだよ」



「……嘘だろ?」



「事実だ。

 お前らの証拠なら十分王宮が持っているから誤魔化しは無駄だ。

 だからこそ、お前の親父は王宮から戻ってこないんじゃないのか?

 面会謝絶状態なんだろ?

 そりゃ、捕まえた犯罪者を解放するはず無いよなぁ?」


「……どこまで知っている?」


「全てとは言わん。

 とはいえ、ジーピン家に喧嘩売った内容は一通り理解している」


「成程な。

 だが、今の話なら努力次第で俺の命は助かりそうだな」



 保証はないがね。

 よっぽど価値のある情報集めろよ?




「まぁ、お前の親父は最悪の人物たちに喧嘩売ったんだ」




 一呼吸入れて、宣言する。




「【魔王】と【女帝】の怒りをたっぷりと喰らうだろうよ」




 二人とも、そのあだ名を聞いたことがあるようで、愕然とする。

 もしかして、ジーピン家と【魔王】の繋がりって気づかなかったのか?

 あだ名が有名過ぎたのかな?



 まだショックから立ち直れない二人を放置して会議室に戻る。


 フェーリオが抱きつかんばかりに近寄ってくるので、軽く手で制する。

 ジル嬢のいる前でなに考えてるんだ、こいつ。



「ニフェール、さっさと報告!」


「その前にいきなり抱きつきに来るの止めろよ、フェーリオ。

 ジル嬢がヨダレ垂らしだしたらどうするんだ?」


「あら、私は別に気にしませんわよ?」


「ロッティ姉様化は淑女として不味いと思いますけど?」


「カールラ様化は許されます?」


「止めた方がいいと個人的には思います」



 軽い会話で場を和ませつつ先ほどの会話を報告する。

 一番驚かれたのは盗み聞きがバレたことだった。



「嘘だろ、どうやったら気づけるんだ?」


「多分只の勘だと思う。

 僕の気配を読めるとは思えないし、フェーリオだって無理だろ?

 あてずっぽうかもしれないけど、盗み聞きって十分あり得る行動じゃない?

 だからこそ言ってみたんじゃないかな?」


「で、当たりだよと答えてあげたと」


「まぁ、ついでにアゼル兄の結婚式邪魔しやがった件。

 あれぶちまけてやりたかったからね。

 ちょっとスッとした」



 おや!? プレクス殿とレルカとクレイのようすが……!

 まさか進化?



「ニフェール、どんだけ無茶苦茶なことしてるんだ?」


「喧嘩売られたから買っただけなんだけどな?」


「普通買わねえよ!」


「それ言ったら普通ジーピン家に喧嘩売ること自体が無いだろ?

 学園でのあだ名の大半はうちの家族だぞ?

 危険極まりないこと位分かるはずだが?」


「いや、そうなんだけどな……」



 というかレルカ、ツッコミ役疲れないか?



「まぁまぁ、とりあえず噂の原因はストマたちだった。

 そして噂を流すのを止めること言ってたんだろ?

 なら今日の話し合いは意味があったってことだ。

 まずはそこだけでも喜ぶべきでは?」



 プレクス殿、いつもこんな風に軌道修正するんです?

 物凄いご苦労なさっているんですね?

 多分、あの二番手三人組ですね?



「そうですね、とりあえず今日はこれで解散でしょうか」


「クレイ、淡々と進めるなぁ」


「……今日はレルカ君のボケにニフェール君が対応してくれるので。

 ぶっちゃけ楽なんですよ。

 労力減った分周囲を見れますしね」


「ザケンな!

 ニフェールがボケで俺がツッコミだ!」


「そんなところ気にしてどうするんです?」



 いや、ホント、ボケかツッコミかなんてどうでもいいじゃん。

 まぁ、レルカには言わないけど。


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