13
次の日、夕食後辺りにニフェールさんがやって来られました♡
おっと、表情緩めすぎないようにしないと。
「いらっしゃいませ、ニフェールさん♡」
「お待たせしました、ラーミルさん♡
早速ですが、初めましょうか」
皆で事前に借りた部屋に向かう。
なお、この「皆」はなぜかカル達全員にロッティ、そしてジル様が入っていた。
いや、カル達は分かるのよ。
何でロッティとジル様が参加してるの?
「いやぁ、なんか面白そうなことするらしいのでちょっと見学を……」
「使えそうならフェーリオ様に同じことやって頂こうかと……」
な・に・が・使えそうか判断するのです?
筋力トレーニングですよ?
あなたたちの表情見ればわかります!
いやらしい事期待してるでしょ!!
昨日ニフェールさんからマッサージしてもらえると聞いたときの私。
あれくらい顔が緩んでますもの!!
フェーリオ様やマーニ様にあんなことやこんなことするつもりね!!!
「なぁカル、この女性陣の暴走はなんなんだ?」
「性欲塗れになってるだけですよ。
ある意味いつも通りです」
「成程、このあとルーシーがお前を襲いに行くってことだな?
ちゃんと受け止めろよ?」
「ティッキィさん、なんでもそっちに繋げんなよ!」
「認識間違っていたか?」
「大体合ってるよ!
だから腹立たしいんだっての!!」
えっと、カル?
そろそろ諦めるということを覚えたら如何かしら?
さっさと食べられた方が楽になれますわよ?
「え~、何でこんなにいるのか追及はしませんが、一応真面目な集まりです。
欲望を一時的にでも忘れ、ちゃんと覚えてください。
ではまずは――」
ノヴェール家でやった柔軟から行っていくと、一部から呻き声が。
ルーシー、身体固くなったわね?
カル、ティッキィに柔軟性で負けているわよ?
「くっ、カリムたちはともかくティッキィさんに負けたっ!」
「いや、カルって普段そんな動かないでしょ?
ティッキィさん今まで最前線で動いていたんだもの。
違いがあって当然じゃない。
むしろ勝ったらそっちの方が驚きでしょ?」
ルーシー、追い打ち掛けてどうするの?
「はいはい、今後継続しておけば徐々に柔らかくなるから。
では次にトレーニングの方始めるよ?」
そう言って淡々とトレーニングの説明を進める。
こちらは皆それなりに痛みを訴えていた。
ですよねぇ、結構大変ですものねぇ。
あら、ロッティもジル様も肩で息してますわね?
「ラ、ラーミル、これキツくないかしら?」
「ええジル様、結構キツいですわよ?
私も前回、皆と同じように苦労しましたし」
「その割には少し余裕があるようですけど?
ラーミルにとって今回は少し楽だったのかしら?」
「多分、身体が動くのに慣れてきたのかもしれませんね。
動きが分からない時より、分かってて動かす方が気が楽でしたわね」
不安とか緊張とかで動きが硬くなってるのかもしれませんわね?
なので、次回はもっと気楽に動けると思うと説明すると半信半疑の様だった。
まぁ、それは明日実体験して頂きましょうか。
「というか、ロッティはこれ覚えてどうするの?」
「マーニを抱く時に使えないかなって♡」
抱かれる時じゃないの?
「使うも何も、マーニ様があっさりあなたを押さえつけそうですけど?」
「いや、そこはむしろあっちがノッてきてくれるのよ♡
女性に制圧されて身動き取れないまま襲われるシチュとかね?」
あぁ、そういう……。
「その辺りはそちらのお好みで楽しんでらっしゃい」
「ええ、ニフェールちゃんの女装を夢見ながらね」
……え?
「ちょ、ちょっと!」
「気づかないとでも思いましたか、先輩?
流石の私でも分かりますよ?
ニフェールちゃんがジル様のお願いに付き合ったんでしょ?」
かなり把握しちゃってませんこと?
でもなぜ?
チラッとカル達を見ても一斉に首を横に振ってくる。
デスヨネ~、あなた方が裏切るとはとても思えないし。
ジル様を見ても、唖然として固まってしまっている。
ニフェールさんも同じ。
一番予想してなかった相手からの指摘に皆が困惑していた。
とはいえ、一番先に事態を把握し始めたのはやはりニフェールさんだった。
「ロッティ姉様、もしかして侍女仲間から聞いた?」
「あっさりバレちゃったわね。
その通りよ、アニス様とジル様の侍女、それもあまり重要な位置にいない面々。
そんな娘たちにいくつか情報を貰ったの。
でも、女装の話は出てこなかったわよ?」
でしょうね。
流石にそこベラベラ喋るような人物を侍女として使わないわね。
「でも、幾つかの情報を教えてもらったの。
ジル様が学園に入ってからライバルいなくて嘆いていたこと。
これはニフェールちゃんと会う前からの情報ね」
会う前では流石に対処できませんわねぇ。
「でも今年の夏辺りからそのあたりの愚痴が無くなったこと。
この時点でライバル役を見つけたんだと思ったわ。
誰かは分からなかったけどね?」
「あっちゃ~。
あれ? でもその時点では僕という可能性は無かったんだよね?」
「ええ、でも最後に一つ、大きなイベントが起こったわ。
最近先輩がパァン先生と話し合いをしたわよね?」
え、あれでバレたの?
嘘っ、私バレるようなことして無いわよ?!
「先輩、勘違いしないでくださいね?
誰も情報は漏らしてませんよ?
単純にパァン先生がわざわざ先輩に会おうとした。
その理由として一番ありそうなのがニフェールちゃんに関わると思ったの。
そして、その情報が一切私に流れてこない。
となると、理由は一つしかないんじゃないかしら?」
「……それがニフェールさんの女装関連ってこと?」
「ええ、多分カールラ姉様にも伝えてないんじゃない?
私たちが暴走すると判断して黙ってたんでしょ?
実際私も普通に教えられたら暴走していたと思うし」
ほぼ読まれてるわね……。
というか、パァン女史と会ったのが最後の一押しでしたか。
ん?
「普通に教えられたら」?
はっ、もしかして!
「ねぇ、ロッティ?
最近女装の件知ったとして、まだ暴走してないの?」
ニフェールさんも「あっ!」とか言い出している。
ありえないわよね?
今までのロッティならこの件知った時点で何も考えずに突撃するでしょうし。
「そうね、正直私も驚いているのよ。
普段なら気づいた時点で先輩に問いただしに行くでしょうし」
問いただすと言うか、襲い掛かるじゃないの?
とはいえ、以前ほど暴走が起きてないのね?
カールラ様の暴走の時みたいよね?
アゼル様と一緒にいるようになったら落ち着き始めたって言ってたし。
もしかして、マーニさんとよく会うようになったら暴走が落ち着いた?
ニフェールさんも同じ考えにたどり着いたのか、同様の質問をしていた。
その答えは、当人曰く「何とも言えないわ」。
ま、そりゃそうですね。
たかだか一度暴走回避したからって解決とは言わないでしょうし。
ちょっと前にもマーニさんと会えなくて暴走してたし。
それに、現物見てないからねぇ……。
話だけでは暴走しなくなったと受け取るべきなのかもしれないけど。
「……ニフェールさん、ジル様。
とりあえず、バレてしまった以上は関係者に認識合わせは必要かと」
「そうですね、まず夫人方とパァン先生には伝える必要がありますね。
ジル嬢、お願いします。
それと……カールラ姉様はまだやめときましょう」
「あら、何故かしら?」
ジル様、想像つきませんか?
「暴走しなければいいのですが、されてしまった場合が恐ろしい。
アゼル兄に止めきれず、母上から鉄拳制裁なんてされてもねぇ」
「【岩砕】の鉄拳制裁?
何という恐ろしいことを……」
「なので、年末に王都に来ますので、その時に白状しましょう。
そうじゃないとアゼル兄への負担が大きすぎます」
ですねぇ。
「で、その他の人物ですが、両侯爵はジル嬢の方でお伝えください。
確か、以前僕から聞いて『聞いてない……』と嘆いておられましたよ?」
「あまりこの辺の話は教えたくなかったのですよねぇ。
父上に悩まれてもむしろ困りますし」
まぁ、チアゼム侯爵も言われて対処できるとは限りませんしねぇ。
特に淑女科方面で相談するのならアニス様一択でしょう。
「それと、マーニ兄にはとりあえず言わないでおきます。
隠すというより、この件何の関わりも無いので、わざわざ知らせるのもねぇ。
伝えるとしたらカールラ姉様と同じタイミングかな?」
あぁ、そうですね。
でも、ロッティからバレそうな気がするのですけど?
チラッとロッティを見ると、心外だと言わんばかりに文句を言ってきました。
「プンプン!」とか擬音が付きそうですね。
「流石にマーニにも言いませんよ。
先輩、私はそんなに信用無いですか?」
「マーニさんならあなたの反応で感づく可能性があるのでは?
言わずともテンション上がったのを見て推測するとかは?
あなたがこの件に気づいたみたいに」
「あっ!」
自分がやったことを同じことをマーニさんがやらないとは限らないのよ?
「ちなみに感づかれたらサッサと教えるでいいんですよね?」
「ええ、無駄に苦労を背負わせる気が無いと言うだけですから。
気づかれたら教えるつもりです」
一通り説明対象も決まったことですし、トレーニング終了となった。
とはいえ、これで全行程終了というわけでは無い。
この後身体をマッサージしてもらう予定♡
むしろトレーニングよりウキウキなのが周りにもバレバレなのでしょう。
呆れた視線が私に集中されている気がします。
「マッサージですけど、ラーミルさんが期待するほどでは無いと思いますよ?
僕も暴走するわけにはいかないので。
では――」
そう言って腕、肩、背中、首に頭。
下半身は足首、膝下。
微妙に侯爵家で教わった方法と違うのは目的の違い?
綺麗に見せるか筋肉を休ませるかの違いかしら?
って、あれ?
太腿とか腰とかは?
胸とか尻とかもバッチコイですよ?
「いや、ラーミルさん……。
それやったら性的に【狂犬】になっちゃいそうだからダメ!
自制効かなくなるのはマズいんで」
「うぅん♡♪
ダメですかぁ♡?」
「そんなに甘えた声出されてもダメです。
学園卒業後ならたっぷりこの続きをしますけど、今はダメ!!
本気で僕の理性を崩しにかかられると【岩砕】の拳が飛んでくるので……」
滅茶苦茶我慢している表情を見せて耐えるニフェールさん。
理性を崩しきれなかったようですね。
「そんなわけで、太腿と腰はルーシーとナット頼む。
どの辺り押せばいいかとかは教えるから」
「は~い♪」
そう言って一通り指示していくニフェールさん。
確かにこれは気持ちいい……のですが、微妙にやらしい要素が入ってきますね。
お尻と太腿の付け根辺りとか?
腰と尻の境目辺りとか?
たまにオホ声出てしまうのもやむ無しですわね。
確かにルーシーたちにやってもらわないとニフェールさんが暴走しますね。
いや、私も暴走しそうですけど。
「はい、こんな感じですね。
後は水分を確実に取っておいてくださいね。
さて、ルーシー、ナット。
すまんがジル嬢とロッティ姉様をお願い。
カル、カリム、ティッキィ。
三人は僕の方で教えよう」
「え゛?
いや、俺たちは構わんよ」
「この後ルーシーとナットにやってやれば?
ティッキィの場合は今習得しといてヴィーナが戻ってきたらしてやればいい」
カル、逃げようとしても無駄ですよ?
他の男性陣は教わる気マンマンですし、既に両脇を固められてますね。
そうやって皆マッサージを済ませました。
顔が緩んでいるのはやむ無しでしょうか。
「こんなところですね。
今後毎日同じことしていきます。
後はどのくらいで必要な筋肉が付くかは何とも言えませんが……。
一週間後位に軽く踊ってみましょうか?
そこでどれだけ動きを制御できるか確認しましょう」
「ならその時にノヴェール家で踊ります?」
「元々向こうに行く理由ってバレない為だったんですよね?
今日バレたから意味無くなっちゃいました。
まぁ、指導は向こうでやっていいと思います。
けど、この確認はこっちでやりましょう」
……あれ?
「あの、ニフェールさん?
確認ってどうされるんです?
確か昨日は私とパァン女史で踊るのをニフェールさんが見ていた形でしたが?」
「……パァン先生の代わりにロッティ姉様かルーシーにお願いしようかと」
やはり横から見る必要があるから誰かに踊ってもらうしかないんですね?
「あの、あたしは無理よ?
ダンスのステップ全く知らないもの」
あぁ、それは無理ですね。
このためだけにステップ覚えろとは言えませんし。
「ならロッティ姉様、お願いしていい?」
「いいわよ、任せなさい♪」
助かるわ、ロッティ。




