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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
9:婚約者の憂鬱
312/359

10

 ニフェール君はサッサと剣を返して初期位置に戻る。

 カーフ殿は……気絶からは復帰したが混乱しているようだ。


 武器をもぎ取られて敗北ってかなり恥ずかしいんじゃないのかな?

 これで元騎士科実技講師とか言っても誰も信じないんじゃない?



「さて、最終回やれますか?」


「あ、あぁ……」



 この時点で既に怯えてますね。

 もうやめてもいいんじゃない?

 多分、まともな戦いにならないと思うよ?


 それに、ニータ家入口側が少し騒がしくなってきた。

 多分ラーミルが皆を連れてやって来たんじゃない?



「では、ヘリンク殿」


「あぁ、最終戦、始め!」



 ニフェール君はまた武器を持たず素手のまま。

 カーフ殿は既に足がガクガクと震えている。


 これで、よく戦う気になったよな?



「さて、戦いながらでいい。

 少し質問だ」


「……なんだよ?」


「あんた、トリス使ってたでしょ?

 裏路地の所であの地域を制圧する直前に僕はあんたを見ているんだよ。

『最後に一気に薬やって壊しておさらばかな?』

 こんなこと言ってたよね?」




「なっ!!」




 うっわぁ、そんな発言しているとこ見ちゃったんだ。

 そりゃあ両侯爵に連絡入れようとするわなぁ。



「さっきデート中に見かけたというのは嘘だよ。

 あそこの違法薬物の工場を調査した時にあんたを見かけたんだ。

 学園生に怪しい薬与えてたんでしょ?

 で、次の日、制圧された日にトリスに極端な筋肉強化の薬処方したでしょ?」



「お、お前、どこまで知っている?!」



「あんたらの働いていた場所を制圧するのに協力したんだよ。

 前日に偵察、当日に制圧。

 そっちは暗殺者も雇ったらしいけど、騎士団を混乱させる為かな?

 でも暗殺者はさっさと逃げちゃったよね?

 多分負けを確信したからってところかな?」



 ……カル達から聞いたのかな?

 推測にしては細かいところまで指摘してるし。


 ヘリンク殿とフィミー様は恐慌一歩手前って感じかな?

 まぁ、友人と思っていた相手が犯罪にどっぷり()かってたらねぇ。

 驚きと恐怖で頭の中グチャグチャなんだろうなぁ。



 でも、推測だけどもっと面倒なことになるんじゃない?

 なんせ、カーフ殿の情報源とかになっていたら……二人とも捕まらないか?



 そんなことを考えていると、カーフ殿は武器をニフェール君に投げつけた!

 同時に背を向けて急ぎ走っていく。


 多分、このまま逃走しようと思ったのだろう。

 判断としては間違っていないんじゃないかな?




 追う側がニフェール君(【狂犬】)じゃなければ。




 ニフェール君は投げられた武器を避け、即刻追いかける。

 すぐに追い越し、振り向きざまに――



 ボ グ ッ !



 右手でボディーブロー。

 何と言うか、殴る音じゃないよね?

 破城鎚が身体に当たったような感じ?


 悲鳴や呻き声を出すことも無くカーフ殿は崩れ落ちる。


 ああニフェール君、その気分爽快としか言いようがない表情は止めようね?

 ヘリンク殿やフィミー様がマジ泣きしているよ?



「あ、あの、ニフェール()……」



 おやヘリンク殿、様付けにしたのかい?

 怯えているのがバレバレだけど。



「カーフ殿は生きて――」


「――おう、ニフェール待たせたな!」



 おや、割り込みですかジャーヴィン侯爵。

 チアゼム侯爵にマーニ殿まで。



「いえいえ、突然仕事振ってすいません」


「いや、あの件の一人なら捕まえて情報を引き出さねばな。

 で、そいつか?……って、生きてるのか?」


「多分……一応手加減して殴ったんで死んではいないと思います」



 微妙に自信なさそうな表情で言わないで欲しいなぁ。

 ヘリンク殿達も滅茶苦茶不安そうなんだけど?



「んじゃ、こいつは持ち帰るのと……この二人か?」


「ええ、まだ犯罪確定では無いので、確認願います」



 ヘリンク夫婦はその会話を聞いて顔を青くしている。

 ……まさか、想像してなかった?



「ちょ、ちょっとお待ちを!

 どういうことですか?!」



 侯爵方やニフェール君が「何を今さら?」という感じで見つめている。

 代表としてニフェール君が説明を始めた。



「ヘリンク夫妻。

 あなた方はカーフ殿――違法薬物に関係のある犯罪者――と接点がありました。

 それ故、彼にどのような情報を流したのか調査の必要があります」


「そんな!

 大したこと話して無いのに!!」


「それを判断するのは王宮側であって、あなたではありません。

 知らないうちに王宮の重要な情報を漏らしていた可能性もありますしね」



 ショック受けてるなぁ……まぁそれが普通か。



「ちなみに、現時点であなた方はまだ犯罪者と決まってません。

 ですが、協力頂けないのなら……」


「ないのなら?」


「犯罪者カーフのやらかしを隠そうとしているとみなされるでしょうね。

 その場合、任意同行では無くなるでしょう。

 犯罪者扱いされるでしょうね。

 それでもいいです?」


「よくないです!!」


「であれば、ご協力お願いします。

 ちなみにジャーヴィン侯爵。

 協力の時点では仕事場に情報漏らさないようにできる?

 例えば、体調不良で数日休むことにするとか?」


「そのくらいなら可能だ。

 当然、犯罪行為が見つかったらその時点で対応変わるがな」


「ええ。

 ヘリンク夫妻に罪が無いなら、仕事場に情報流出しなければそれで結構です」



 あぁ、流出したら昇進に響くからだよな?

 罪なき場合は普通の昇進ルートに戻れるようにってことか。


 ニフェール君、とても優しいねぇ。


 でも、ヘリンク夫妻は理解しているのかい?

 ウェスケ殿は理解できているようだけど?



 フィミー様が猫なで声でニフェール君を丸めようとしているが……無理でしょ?



「そ、その、ニフェール君。

 君の権限で僕たちを解放とかできないかしら?」


「僕に何の権限を期待しているんですか?

 ただの学園生ですよ?」




「「嘘だっ!!」」




 デスヨネ~、皆そういうでしょうねぇ。



「ただの学園生が侯爵呼べるはずないでしょ!」


「この件、過去にジーピン家も協力して犯罪者を捕縛しております。

 それ故、カーフがその仲間であることが分かったんです。

 それと、この件の調査で両侯爵と色々とやり取りしたんで。

 ラーミルさんにも協力した時の件と伝えてますから、動いてくださいました」



 嘘ですね。

 絶対そんなこと関係なく動くでしょ?


 まぁ、ヘリンク夫妻がニフェール君のこと知らないみたいだし。

 これで誤魔化せるんでしょうけど。



「僕としては、罪を犯してないのなら正直に王宮側に話せばよろしい。

 下手に抗う方が不利になりますよ?」



 あぁ、誤魔化そうとしていると判断されちゃうからだね。


 そんなことを思っていると、ウェスケ殿が怒りが混じった発言をぶつけた。



「ヘリンク、フィミー。

 お前たちはニフェール殿がどれだけ気を使ってくださってるか分からんのか?!

 お前らの立場が悪くならないように提案してくださってるのに……」


「どこがだよ親父ぃ!

 カーフ殿は捕えられるし、俺たちは捕まるし!

 気を使うのなら捕まらないように調整するのが筋だろ!!」




 は ぁ ?




「ばっかもんがっ!!!

 カーフは過去に罪を犯して逃げていたのだ!

 話の流れも分からんかったのか?

 先ほど、ニフェール殿が戦闘中に説明したろが!!」



「えっ?」



 えっ? はこっちの話だよ……。

 わざわざ説明して追い詰めてただろうに。




「え、まさかそこのガキはカーフ殿を捕まえるために?

 その為に、今日ここに来るのを受け入れたのか?!」




 は ぁ ?




 いや、そうじゃないだろ?

 全く理解できていないのか?

 というか、ガキって……。


 侯爵方も呆れまくっている。

 あ、アイコンタクトで……ニフェール君が説明することになったようだ。

 他の皆さん、面倒だったんだな。



「なぜ、そんな勘違いをなさっているのか分かりませんが……。

 僕がこの家に来たのはあなたに呼ばれたからですよ、ヘリンク殿。

 そして、僕の実力を測る人物については一切情報を得ておりません。

 お忘れですか?」



 おい、なぜそこで「あっ!」とか言い出すんだ?



「じゃ、じゃあ、なぜ?」


「まずカーフ殿が犯罪者の仲間であることは声で分かりました。

 僕が過去に違法薬物関係の調査を手伝ってた時に聞いたことあったんです。

 ですがこちらとしてもニータ家が関わっているとは考えたくなかった。

 なので、会話から情報を得るように動きました」


「会話?

 それって、あの室内の会話でか?」



 結構分かりやすかったですよ?

 ウィスケ殿はあの時点で感づいたし。



「ええ、学園時代のやらかしの確認と教師止めた後の話をしましたよね?

 特に後者。

 あの会話で犯罪者と判断しました」


「そ、そんなので分かるものなのか?!」


「加えて、模擬戦の最終戦で色々と言いましたよ?

 現場を見ていなければ分からないようなこと。

 それに対してカーフ殿は面白い位に反応してましたよね?

 知らなきゃあんな反応しませんよ?」


「……」



 いや、そこで黙られても……。



「という訳でカーフ殿が犯罪者であると見つけたのはあなたが連れて来たとき。

 確証がほぼ取れたのが室内での会話。

 最終確認は模擬戦の最終戦。

 それだけですよ?」



 偶然犯罪者を連れてきた。

 それに気づいて裏取り。

 ラーミルを侯爵家に行くよう指示し、ニータ家に連れて来る。

 それまでにニフェール君が犯罪者を制圧。


 文章にまとめるとそれだけなんだけど……。

 見ていた側としては「よくもまぁここまで」としか言いようがない。



 偶然って恐ろしいね。



 その後、両侯爵とマーニ殿が三名を連れて出ていく。

 それと前後してラーミルがカル殿達を連れてニフェール君の所に近づき――



 ギ ュ ッ !


 チ ュ ッ !



 ――抱きしめてキスし始めた。



 いや、一応ニータ家だからね?

 うちの家じゃないからね?

 ウェスケ殿が奥方と一緒に「あらあらまあまあ」とか言ってるけどさ。


 ティアーニさん、今ここで俺を襲ったらウェスケ殿に確実に怒られますからね?

 ラーミル達がシているからってどさくさに紛れてってのはダメですよ?


◇◇◇◇


 その後、残った皆で室内に戻り、カル達の紹介。

 そして今後のことについて話し合いました。



「とりあえずベルハルト殿とティアーニの婚約は決定。

 来年の夏にでも結婚。

 こんなところかな?」


「そうですね、詳細な日程はもう少ししてからになりますが基本はその方向で。

 あっ、ニフェール君。

 マーニ殿の結婚式っていつの予定だい?」


「来年の夏としか決まってないはずです。

 個人的にはマーニ兄とベル兄様の間で日付ずらし合ってもらえると……」



 そうですね、同じ日って大変ですからねぇ。

 特に私とニフェールさん。

 どちらも主役の弟妹とその婚約者ですからねぇ。



「あぁ、そこは後日話し合っておこう」



 大体終わりかしら?

 ニータ家の皆さんに挨拶をして……って、ティアーニ!

 ベル兄さんに襲い掛からない!

 ウィスケ殿が呆れてるでしょ!



「ニフェール君、この後どうするんだい?

 王宮に顔出すのかな?」


「今日は特にありませんよ?

 多分、明日フェーリオかジル嬢経由で連絡貰う可能性がある位かな?」



 そうですね、現時点では口出しする情報もありませんしね。



「なら、カル達と一緒にうちで夕食は如何かな?

 今回無理言っちゃったのと、予想以上にやること多かったからね。

 今日の報酬ということで」


「ではご相伴に。

 あ、でも僕は一旦寮に戻りますね。

 多分帰る頃は門限越えることになっちゃうから」



 あ~、そうでしたね。

 面倒ですけど、仕方ないですね。



「あぁ、それは構わないよ。

 カル達は僕らと一緒にうちに来なさい。

 帰る時にラーミルを侯爵家に送ってくれればちょうどよかろう?」


「かしこまりました」



 そのまま皆でノヴェール家に移動。

 皆でお疲れ様会となりました。


 なお、サンドラにケープの件をバラされてルーシーたちに呆れられた。

 いや、これは確かに呆れられても仕方ないわね。


 ナット?

「ニフェール様、煽らなくても堕ちてるよ?」なんて言わないで!


 分かってるから!

 私の凡ミスだから!!


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