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「女の子っぽい姿になるよう化粧してください!」
その言葉を発したと同時に二人の女性から腐女子の波動が!……と思ったらすぐに大人しくなった。
嘘やろ、と疑問に思いチラッと周りを見ると、母上が女性陣を一睨みしてから僕を睨みつけてくる。
「ニフェール、どういう意味だい?」
ガチギレ一歩手前の表情だが、ここで負けてはいけない。
「僕とアムルの二人で誘拐予定の二人の役を演じます。
当然兄さんたちも先程の説明通り動いてもらいます」
母上は目を瞑りながら話を聞く。
作戦イメージを頭に叩き込むつもりのようだ。
「僕たちに視線が向いている状態で不意打ちの形で兄さんたちが動き出す。
その瞬間僕たちを気にする者たちはいないでしょう。
そこで追加参戦し、叩きのめします。
イメージとしては、内側→外側→僕たちの順で暴れ始める予定です」
マーニ兄が呆れた顔でこちらを見ている。
いや、確実に殲滅するのに必要なんですって!
「ですが、あちらが想定外の行動を取った――例えばいきなり僕たちのパジャマを脱がし始めたとか――の場合、暴れる順番を変更します。
僕たち→内側→外側に変わるイメージです」
アムルが目をキラキラさせてこちらを見てくる。
いや、尊敬してくれることは嬉しいが、女装しろと言ってるんだぞ?
まさか、女装したかったのか?
「ちなみに三ヶ所で連鎖して暴れるのはそのくらいしないと犯罪者の商人たちが正気に戻って逃走のチャンスを与えてしまうから。
下手に逃して恨んで後日暴れ出すのを防ぐためです」
アゼル兄が溜息を付く。
そんな顔しないで欲しい。
数年後はこんなこともできなくなるのだから、今だけでも助けたいんだ。
母上は溜息を付き「仕方ない、か」と呟き、女性陣に命ずる。
「カールラ、ラーミル。
ニフェールの方を頼む。
特に左頬の傷を隠すのを優先してくれ。
ロッティ、アタシとアムルの方をやるよ!」
母上の指示に従い女性陣は軍隊に所属しているかのように整然と仕事をし始めた。
周りにいた男ども(僕含む)はその変わり具合に驚き口をはさむこともできない。
まぁ、僕とアムルは化粧されているので、口きくのはNGだったが。
それから少し経って女性陣が離れて行った。
「ニフェール、お前の希望を叶えたつもりだ。
確認しろ」
母上が鏡を持ってこちらに向けてくれる。
アムルと一緒になってみていると……なるほど、ナルシストと言う存在の気持ちが分かった気がする。
これはカワイイ。
アムルの方も金貨握らせてお持ち帰りしたいくらいカワイイ。
それも左頬の傷をここまで目立たなくするとは、正直化粧技術を舐めていた。
昼間にそばでで見られたら分かるが、松明等の揺れる明かりの中でならバレないだろう。
「母上、素晴らしい出来です。
これで作戦成功間違いなしです!」
そう言うと、母上は溜息を付き僕とアムルの肩に手を置く。
「ニフェール、アムル。
本当はお前たちが戦闘に参加するのはまだ早いと言いたい」
じっと僕の眼を見て、それでも淡々と説明する。
「弱いという意味では無いぞ。
ただ単純に母親として学園卒業するまでは戦闘に関わって欲しくなかっただけだ。
アルクだったか?
あんなガキではなく殺人経験者の可能性もある。
覚悟が決まっている相手と戦わせるのは母として怖かったんだ」
何かを振り切るようにかぶりを振り、また話し始める。
「でも、今のジーピン領に多大な影響を与える犯罪が行われかけているのもまた事実。
親として、領主家としては情けない限りだが、戦闘に送らなければならない。
だからこそ無事に帰ってきておくれ」
「「はい!」」
母上、お言葉胸に響きました。
でもね……。
それ、父上が発言するのが正しい気がするのですが?
父上が拗ねてますよ?
事前準備(僕とアムルをパジャマ姿にする)も済み、出発。
衛兵詰め所に向かい作戦の詳細を説明するのだが……。
なぜかちゃんと話を聞かず僕とアムルを凝視する奴らが大量に出てくる。
「彼女にしたい」「妻にバレないようにお近づきに……」等、性癖バレバレな発言が聞こえてきた。
アンタら、後でアゼル兄からお仕置き受けやがれ!
魔王からは逃げられんぞ!
ちなみに、事前に説明した鎧着ない兵二名は戦闘予定の場所で僕とアムルをお姫様だっこする役と説明したら喧嘩になりかけたことをここに記す。
お前ら仕事しろよ!
マーニ兄のお仕置きも追加するぞ?
行先は冥土しかないがな!
なお、僕とアムルが目立ちすぎたせいか父上がいることは気にされなかった。
それと、アルクから告白されたが即断った。
僕と分かっているのに告白しやがったのがとても怖かった。
さて、街を出発して順調に商隊に近づく。
(途中の僕とアムルを巡る恋のさや当ては除く)
商隊の松明が放つ光が見えたところでマーニ兄が衛兵たちを周囲に配置するために移動。
配置完了の連絡待ちの所でアルクが今更愚痴って来た。
「領主様、本当に罪を軽くしてくれるんだよな?」
「あぁ、お前だけじゃなく今牢屋にいる者たちも含めて罪一等を減ずる。
約束しよう。
ただし、それはこの襲撃を成功させること、それが条件だ」
「……分かった、協力する」
「我が父が一緒にいるから逃げようとはするな。
逃げようとしたら罪一等減ずるのは無しだ」
「ああ」
さて、ちゃんと分かっているのかねぇ。
罪一等減じても苦しむ死刑から痛みの少ない死刑に変わるだけかもしれないのに。
「父上、事前に伝えた通りお願いします。
アゼル兄、攻撃直前までは顔見せずに。
衛兵たち、僕とアムルをお姫様抱っこ。
あ、僕は顔の傷見られるわけにはいかないので、頭を右側にして。
アムル、寝たふりして。
相手の行動に我慢できなくなったら……」
各自に細かい説明をしていると、外側対応の衛兵から配置完了の連絡が入った。
さて……僕とアムルの女装芝居、舞台開演といこうか。
「プロスさん、お待たせしました。
お話しした女二人です」
「ふむ、なかなかではないか」
アルクの猫なで声にプロスとかいう商人は偉そうに答える。
いや、なかなかって、僕たち男なんですけど。
父上、アゼル兄、肩震えてるから。
「これならかなりの額で売れるな。
素晴らしい!!」
男と女の区別もつかない愚か者が!
なにが「素晴らしい!!」だ!
「では、その二人を引き取ろう。
それとアルクだったか、そなたたちも王都に来るか?
この街にはいられないだろう」
「え~っと、よろしいのですか?」
「ああ、ついでに君たちに仕事を紹介しようか?」
「あ、お願いします!!」
いやアルク、お前ノリいいな。
多分お前、売られるか、よりヤバい仕事の構成員になるぞ?
「さて、その娘たちを受け取って馬車に連れていけ!」
「ほら、よこせ!」
困惑する衛兵にこっそりウィンクして渡すように指示する。
妙に顔を赤くして商人の護衛っぽい奴らに僕とアムルを引き渡す。
僕は引き渡した動きで起きたかのように演技する。
「う……ん、え、あれ、ここどこ?(裏声)」
できるだけ女性っぽく声を出す。
だから衛兵、なぜ顔を赤らめる?
「え、あ、ここどこ?(裏声)」
「おやおやお嬢さん、起きちゃったんですね(ニチャァ)」
プロスがいやらしい顔で僕を見る。
いや、本当にキモいんですけど。
「いやぁ!(裏声)
なぜ私はここにいるの?!(裏声)
家に帰してよ!!(裏声)」
「ハハッ、お前はそこのアルクに攫われてここにいるんだ。
もう家に戻ることはできないぞ~。
大丈夫だ、お前はこれからいいご主人様に売ってやろう。
優しくお前を使ってくれるだろうさ」
笑いながら抜かしているが……どこ使うんだ?
後の穴か?
さて、兄弟がお待ちかねだろう。
カ リ ノ ジ カ ン ダ !
「いやぁ!(裏声)」
バ キ ッ !
お姫様抱っこされた体勢なので力は入らなかったが、イイ感じで抱いていた相手の鼻にクリーンヒット!
鼻血噴いてぶっ倒れた。
あ~あ、汚れちまったじゃねぇか。
「アムル!」
「はい、兄様!」
兄様の単語はいらなかったな。
まぁバレても今更困らないけど。
ガ シ ッ !
グ シ ャ ッ !
うわぁ……
アムルの奴、お姫様抱っこしていた奴の顔の下半分握り潰しやがった。
あいつのパジャマも血とヨダレにまみれちゃったな。
後で二人して母上に謝るか。
ブ ワ ァ ! ! !
「ジーピン家の勇士たちよ、今こそ戦え!
この領地を守るのだ!!」
「「「おぅ!!!」」」
お、アゼル兄、頑張ってますね。
覇気出まくってますね。
さすが【魔王】。
「テメェら、やっと出番だ!
アイツらを冥土に送りこめ!!
そしたら俺が裁いてやる!!!」
「「「はっ!!!」」」
マーニ兄、鎌ブンブン振り回して【死神】本領発揮のようですね。
個人的に【死神】呼称の理由聞いてないのでいつか聞いてみたいものです。
むしろ、マーニ兄よりロッティ姉様に聞いた方が面白そうかも。
「な、何だこの兵たちは!
それと、あの気配はなんだ?!
あれではまるで【魔王】ではないか!!」
……え?
プロスがなんで【魔王】の呼び名を知ってるの?
まさか、アゼル兄と近い年齢の貴族?
確か【魔王】覚醒は一年の時だったはずだから、二つ上までは知っている可能性がある。
それに気配で分かるということは、アゼル兄が覚醒、もしくは領主科か騎士科をボコったのを知っている?
ってことはこいつ貴族の可能性あり?
考え事をしていると、アムルがプロスに接近しようとしている。
急ぎ、殺すのを止めないと!
「アムル、そこの商人っぽい奴は殺すな!」
「え、ダメですか?」
「確認したいことがあるから少し手加減して殴れ!」
「むぅ、仕方ないですね」
ごめんな、気持ち悪くて殴り倒したいかもしれないけどちょっと待ってくれ。
僕の指示にちょっと不愉快になりつつもプロスに近づき――
「ふざけるな、こんな娘如きに負けるはず無かろうが!」
――イキっているプロスの懐に入り込み――
グ ニ ョ ッ !
――股間に膝蹴りをぶちかます!
そして股間を抑え倒れたプロスの――
グ シ ャ ッ !
――股間にストンピングで踏みつぶす!
一瞬周囲の戦闘が止まり、敵味方全員内股になった。
その一瞬の間に僕とアムルはやりたい放題に敵を殴りまくり蹴りまくった。
たまに「こんな小娘にやられてんじゃねぇ!」「捕まえて襲っちまえ!!」などと聞こえてきたが、僕たちが倒す前になぜか衛兵たちが頑張って倒していた。
一応言っておくが、君らがいくら頑張っても僕たちが惚れることは無いからね?
そんなことを考えているとすべての敵を倒し終わった様だ。
アゼル兄とマーニ兄が衛兵たちを取りまとめ勝鬨を上げていた。
そういや、アルクたちはどうしたか見てみると、予想通り逃げ出そうとして父上の捕縛術で取り押さえられていた。
……父上、暇だったから遊んだでしょ。
また妙に面倒そうな縛り方を……
そんなこんなで商人に扮した犯罪者共を全員捕らえ、街に戻ってきたときには夜明け前だった。
流石に皆徹夜しているため、午前中仮眠を取って午後から仕事をすることになった。
というか、アムルは戦いが終わったところでコテッと眠ってしまった。
流石に衛兵たちに任せるのは何となく危険な気がしたので僕の方で背負って帰って来た。
後ろから僕たちを見ている衛兵がハアハアしていたのは気のせいと思いたい。
詰め所で衛兵たちと別れ、家に戻る。
血だらけのパジャマを見せたらラーミルさんに怖がられるかな……。
見せないようにしないとな。
【貴族派】
・プロス(スティット家三男、現商人兼犯罪者)
→ 前立腺がん(プロステイト・キャンサー)から