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謁見の間から退出して最初の控室で話し合い。
「とりあえずはどうにかなったな。
後は明日の処刑と……修道院への引き渡しか」
「ですね。
ここにセリナ様も居られることですし、処刑の方から話しましょうか」
チアゼム侯爵と僕メインで話し合いを始める。
「まずは、明日の処刑。
最初にマーニ兄の方でダイナ家の二人をお願い。
その時、セリナ様は……って、いつもの侍女さんっている?」
「えぇ、こちらに」
「喪服、もしくはその雰囲気を感じられるようなドレスってあります?」
ベース黒、黒のベールで顔隠すって感じの奴なんだけど?
「……大丈夫だと思います。
セリナ様、この話の後用意しますので、サイズ調整にご協力ください」
「ええ、分かりましたわ。
それを着てあの二人の処刑を見ればよいのですね?」
覚悟決まってますねぇ。
いや、ありがたいですよ?
「ええ、その通りです。
加えて、二人が死んだところでふらついてください。
死体を見て倒れそうになるとかそんな感じで。
で、侍女さん。
あなたにもお願いしたいことがあります」
「……セリナ様が倒れそうになるのを支えて、陛下に申し出て下がる?」
おっ、分かってるね。
「その通りです。
そして、そのまま急ぎ部屋に戻りデート用衣装に着替えさせてください。
ホルターは学園休んで王宮に来るよう指示してます。
合流させてデートに出してください」
「かしこまりました」
これで、セリナ様対応分は終わりっと。
「次にアンドリエ家二名とオルスですね。
こちらはまず二名の方を先行して処刑します。
で、その時にオルスは処刑をよく見れるような所にいてもらいます」
「ん、何故だ?」
「二人が壊れてなかったらという前提はありますけど、煽ってやろうかと。
そして、無様な行動をさせようかと思ってます。
そして処刑後、オルスに一言言ってやろうかと」
「一言?」
「そうですね……。
『お前、あんなふうな愚か者になりたくないだろ?
ならどうすればいい?』
って感じでしょうか」
「はっ?」
いや、何でそこまで驚くの?
「……ちょっとお前の言いたいことが分からん」
「簡単に言うと、オルスの暴走に付き合いたくない。
侯爵だって、さっきの暴走関わりたくなかったでしょ?
だから僕に振ったんだと思ったんだけど?」
「まぁ、そうだな」
正直だね。
まぁ、気持ちは分かるけど。
「だから、事前に無様なところを兄妹の方でみせつける。
そして『ああはなりたくないよな?』と思わせる。
最後にどうすればいいか考えさせて自分の意志で鎮まらせる」
そうなったら楽だよね?
静かに処刑されてくれるんだから。
「……それ、できるのか?」
「僕一人では無理かな。
兄妹を煽るのにベル兄様達に少し協力してもらうけど」
「……どんな?」
「へ?
目の前でイチャついてもらうだけだよ?
ついでに、兄妹に近づく前にラーミルさんとイチャついてもいいかな?」
あ、大喜びしてますねラーミルさん。
「……それだけでは弱い気がするが?」
「そうでしょうね。
なので、秘密兵器。
ティッキィ、出番だよ」
とても驚いているようだが、どしたんだ?
「え、俺出番あるのか?
スホルム組にバレたら何言われるか分からんだろ?」
「そうだね、でも処刑に関わるのはダイナ家とアンドリエ家。
先行してダイナ家は処刑されるから、後はあの兄妹しかお前のことは知らない。
オルスは王都にしかいなかったからね」
「……バレない、そして、バレても困らないってことか」
よくできました。
「そういうこと。
お前の顔を見せて、あいつらが愕然として騒ぎ立てたところで処刑する。
オルスはそれを見ても死の直前の暴走にしか見えないだろうさ。
ちなみに、声は出さず、煽りたいのなら行動で。
周囲には目立たず、アイツらがブチギレそうな奴お願い」
こんな感じなんだけど……って、皆何ビクついてんのさ!
特に侯爵たち!
アンタら王宮内でこの程度の政治やってるんでしょ?
「いや、そりゃ政治的な敵と丁々発止のやり取りはあるぞ?
でもなぁ……何と言うか、流石【狂犬】というしか無いなぁ」
「絶対褒めてませんよね、それ?」
都合のよい人物を都合よく使うだけなのに……。
「まぁ、話を戻します。
で、それが終わったら処刑終わりですよね?
鉱山行きの面々っていつ行くの?」
「明日、処刑後にでも出発させるぞ。
なので、後は今日と明後日の修道院引き渡し位か?」
「ですね、今日は夜に救助。
明後日は学園終わったところでホルター連れて……」
あれ、もしかしてうちの面々連れていくべきではない?
「ん、ニフェールどうした?」
「あ、いや、セリナ様連れ出すのうちらでいいの?
騎士とか連れて行かないとまずいとか無い?」
こちらの言いたいことが伝わったのか、説明をしてくれる。
「基本、馬車は国で用意する。
護衛も騎士たちだな。
乗るのはセリナ嬢、ニフェール、ホルター。
もし何ならラーミルを入れてもいいぞ?」
「うん、いてもらえると助かる。
多分、ホルターもセリナ嬢も暴走しそうだから、一人で対応きつそうで……」
二人の暴走を知っている者たちからは納得の声が聞こえた。
キッツいんですよ、あれ。
「確かにそうだな、ならうちの家によって、ラーミル連れて王宮に来い。
それと……念の為、周囲の騎士はマーニの部隊を担当させよう」
いや、そりゃありがたいですけど……。
「……親御さん、何かやってきますかね?」
「無いとは言い切れん。
修道院の中に入ってしまえば手を出せない。
だが、それまでは手出しできるからなぁ」
「陛下の御前で行われた裁判をひっくり返すって貴族として不味くないんです?」
「普通はかなり不味い。
だが、普通じゃない奴らだからなぁ」
あぁ、そっか。
サバラ殿が捕まえたがっている貴族の一人だし、確かにやらかすか。
「ならありがたく、マーニ兄をこき使わせていただきます」
「いや、手加減しろや!!」
兄弟のたわいもないやり取りが終わり、一部を除いて解散となる。
残るは両侯爵、サバラ殿&クーロ殿、ラクナ殿&マーニ兄。
当然僕の部下たちも標準装備。
「今日の修道院でスピルと話すんだろ?
どうする?」
「一応、スピル殿が何処までマーニ兄を理解しているのかが分かりません。
マーニ兄、【死神】のあだ名って何年の時に付いた?」
「一年だな。
だからその時学園にいた奴らはそのあだ名だけは知っていると思う」
となると、スピル殿も知っているはずか。
「なら、まず第二部隊隊長が【死神】であること。
ここを理解させます。
そして、それでも軽く見るのなら暴動の話をしてみます。
最悪僕が軽く剣を合わせて理解させることも考えてます。
やりたくありませんがね」
「そこまでやる必要があるか?」
「相手がマーニ兄の実力を過小評価するのならやらざるを得ないかと。
それと、個人的にはこれで止まるのなら止まってって欲しい」
キョトンとされたが、忘れちゃったかな?
「元々、スピル殿の行動が怪しいと言うのが修道院を調べる原因の一つです。
それがただの実力の見誤りならこちらはその方がありがたい。
でも実力を把握した上で別の道を選ぶとか言い出したら……」
「……犯罪に手を染めようとしている可能性あり?」
それだけで答えが出るとは思ってないけどさ。
調べる意味が出てきそうな気がする。
「ニフェール、、取りあえずマーニの実力だけ確実に理解させろ。
どれだけ足掻いても届かない。
そんな実力差があることが分かれば下手な行動の抑止も可能かもしれん。
そこまでやった上で次を考えるとしよう」
「かしこまりました。
報告は明日、処刑後ということで」
とりあえず軽くボコって心へし折ればいいかな?
もう二番手三人組より上であることばらしてもいいだろ。
その後、チアゼム侯爵家に戻り夕食時まで休憩。
と言っても休めるのは僕ぐらいで他の面々は本来の侍従侍女の仕事がある。
なんか申し訳なくなってくるが、ここで手を貸すのも違うしな。
大人しくしておこう。
そうしているうちに夜になり、ティッキィとカルと一緒に馬車で向かう。
ラーミルさんも行きたそうだったが、デート後の時にお願いすることにした。
防寒具だけ貰い、ディーマス家に到着。
「ニフェール様、俺はここで待ってればいいんだな?」
「そう、カルはここで待機。
僕とティッキィがヴィーナ様を連れて来る。
そしたらまっすぐお店に連れて行く」
そしたら二人を降ろしていったん侯爵家に戻る予定。
「早めにしてくれよ、寒くてかなわねぇ」
「ルーシー連れてきた方が良かったか?」
「そう言う意味じゃねえよ!!」
顔真っ赤にして……もう、照れちゃって♡
カルを置いて、ディーマス家に侵入。
何でだかわからんが、妙に明かりが多いな。
それに音が漏れてきているが……これ、音楽か?
「ニフェール様、これって何かあるのか?」
「何となくだけど、ディーマス家主催のパーティでも開いているのかな?
妙に明るいし、音楽演奏する音が漏れてるからなぁ。
となると、ヴィーナ様の所にいつもの侍従侍女が来るのは遅くなりそうだな。
なら、今のうちにお持ち帰りするか」
急ぎ別宅に向かい気配を探るが一人分の気配しかしない。
ティッキィに合図して急ぎ鍵を開けて侵入する。
「……!」
「……!!」
あ~、二人とも、会えてうれしいのは分かる。
だが、のんびりできないんだが?
特にティッキィ、事態理解しているはずだろ?
「二人とも、いちゃつくのは後。
脱出するから急いで!」
一言であっさり現実に戻ってきてくれたようだ。
ホルターたちだと声掛けでは戻ってこない場合があるからなぁ。
アイツよりはまだマシってこと?
防寒着を急ぎ着てもらい、別宅を出て鍵を掛け外に待たせてある馬車に向かう。
途中、僕がお姫様抱っこしたことに少々不満があったようだ。
まぁ、後でティッキィにやってもらえ。
壁を乗り越え馬車に乗り込み、急ぎ発車させる。
「まずは二人ともお疲れ様。
ヴィーナ様、多分いつもの侍従たち来てなかったんでしょ?」
「ええ、音楽が聞こえるからパーティでも開いたんでしょうね。
そうなると私の食事は後回しになるから」
やっぱり……。
「なら、ちょうどいい。
これからカルがとある所に移動します。
そこで夕食でもいかが?
なお、対象はヴィーナ様とティッキィだけ」
おぉ!
目がキラキラしてやがる!!
「え、いいんです?」
「一時間だけですが、修道院に入る前にデートらしきことしてもいいのでは?」
「ありがとうございます!!」
そこまで喜んでいただけるとこちらも嬉しいですよ。
「大体一時間したら馬車で迎えに来ます。
それまでは二人で食事なり談笑なりしていてください。
あ、ヴィーナ様はお酒は止めてね?
修道院に酒の匂い漂わせて入るなんて流石に失礼でしょ?」
「あ……。
なら、ティッキィ様だけ飲むのは?」
「それは構いません。
まぁ、ぐでんぐでんになるまで飲まない方がいいと思うけどね。
二人で飲むのは一年後でお願い」
会話が終わったところでビスティーの飲み屋の前に到着。
後はティッキィに任せ、僕らは侯爵家に戻る。
「ニフェールさん、どうでした?」
「ディーマス家ではパーティを開いていたようです。
おかげで、あの侍従たちは寄り付かなかったので、あっさり。
あの二人は予定通りに夕食デートさせてます。
一時間後に迎えに行きますので、その時にラーミルさん参加願います。
ちなみに……ルーシー、どうする?」
悩んでいるなぁ……。
「行くわ。
ビスティーさんにも挨拶したいしね」
あ、そういう言い訳するんだ。
まぁ、いいけどね。
「なら、出発の準備しといてね?
今日、結構寒いよ?」
そう言いつつ、僕はもう一つの準備、双剣を装備して時を待つ。
スピル殿を説得だけで落ち着かせられるのか?
面倒だけど、あっさり実力差を見せつけるしかないかな?
それからだいたい一時間。
改めて侯爵家からビスティーの飲み屋に向かう。
到着し、僕とラーミルさん、そしてルーシーが入る。
すると……。
「おぅ、ニフィ、いやさニフェール様!
不肖ビスティー、お二人を楽しませておりますよ♪」
……ナニコレ?
ラーミルさんも唖然としている。
ルーシーは……ヒッ!
ル、ルーシー?
落ち着いてね?
ここでオーガになっちゃダメよ?
簡単に説明すると……。
ビスティーがワインラッパ飲みして飲んだくれてる。
ティッキィはヴィーナ様とイチャつきつつもビスティーに酒飲ましてる。
ヴィーナ様はティッキィしか見ていない。
何このカオス?
それに加えて、何で僕の本名が?
「ティッキィ、状況説明を求める」
「まぁ、状況については見た通りなんだが。
どうも、俺がヴィーナ様とイチャついているのにキレた?
んで、ワインラッパ飲みして憂さ晴らしているようだ」
もしかして、ビスティー殿もお一人?
「そっちは理解した。
だが、ビスティー殿が僕の名を知っているのは何故?
名を教えてないんだが……」
「え、そうだったのか?
知らんかったから普通に名を教えちゃったよ……」
あ、そういうこと?
そりゃそうか、複数人デートにティッキィは参加してない。
なら知らなくて当然だな。
「あぁ、そういうことなら仕方ない。
以前あった複数人デートでビスティー殿に会ってな。
そこで偽名で済ませたから、何で知ったんだと驚いたんだ」
「成程な。
だが、一つよくわからんのだが……。
何でアイツはニフェール様にすり寄る気マンマンなんだ?」
ん~、多分あれだよなぁ。
「この店、客来ない……いや、来れない(?)んだよ。
ここの店の客って暴動ギルドか詐欺師ギルドの奴らだったみたい。
で、暴動で僕たちが殺し尽くした。
冥界から来る手段がない以上、この店に金落とす人はいなくなった」
「あぁ、そういうことね」
「追加で、今回のデートで金払いが良かったとかかな?
それと、屋台で儲けるネタを教えたのが効いているのかもしれない」
「あぁ、金ヅルか。
……手を貸すのか?」
う~ん、そこまではなぁ。
むしろ商売には期待できないしなぁ……。
「別方面で頼むかもしれないけど、すぐどうこうはしないな」
「その方がいい。
アイツの話す内容を聞いていたが、どうも金儲け向いてないって思う」
「ルーシーの師匠って聞いてたけど?」
「計算とかの方だな。
他店との交渉は上手いんだが、客が欲しがるものを思いつくのはダメそうだな」
正しすぎてビスティー殿泣いたりしてない?
チラッと見てみると、ルーシーがビスティー殿を説教していた。
ありゃ、別の意味で泣いてそうだな。
「あの、ニフェール様。
ルーシー様をお止めしないのですか?」
ヴィーナ様が提案してくるが……。
そんな自殺行為はチョットねぇ。
まぁ、知らないからその提案が出てくるのは分かるけど。
「あれを止められる程、僕は強くありません。
また、ティッキィに指示したいとも思いません」
「そうしてもらえると助かる。
俺でも無理だ」
とはいえ、あまりのんびりできないんだよなぁ。
「お二人さん、デート終わりだけど出発できる?」
「あぁ、後は一年後だな」
「異性との食事って初めてなので、凄く楽しかったです♪」
こっちは大丈夫か。
なら……覚悟決めるか。
「ルーシー、そろそろ終わりだ。
まだ言いたいことあるのかもしれない。
だが、それはカルとここにデートした時にでも続きをしたらどうだ?」
「デッ……それができれば……」
いや、そこはどうにか連れてけよ。
「どちらにしても、次の仕事が待っている。
そろそろ解放してやれ」
「……仕方ないわね。
ビスティーさん、この話は後日しますからね!」
「は、はいぃ……」
うっわぁ、萎れてるし。
「あ、ビスティー殿。
僕の名はニフィの方でお願い。
ニフェールの方は言わないでね?」
「あ、あぁ、分かった。
もう行くのか?」
「仕事が待ってる。
サボる訳にはいかないんでね。
ティッキィたちが楽しめた様だし、また何かあったら頼むよ。
まぁ、その頃にはこの店が残ってないかもしれないけど」
何となく、屋台メインにするんだろうなぁ。




