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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
8:後片付け
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72

 大急ぎで王宮に向かい、チアゼム侯爵に突撃。



「どうした、ニフェール」


「ラーミルさんのお友達が見つかりました。

 修道院行きに参加したいとのことですので、セリナ様の裁判位には逃がします」


「はぁ?!

 ちょっと待て、確かディーマス家の娘だったよな?」



 あ、覚えて頂けてましたか?



「ええ、その方です。

 一昨日発見し、今日ラーミルさんと顔合わせさせます。

 ちなみに、どうも子供のころから別宅住まいだったようです。

 ディーマス家の侍従侍女から罵声を浴びせかけられてました」


「おいおい……」


「そんなわけで、今回の提案は渡りに船と言った感じですね。

 それと……ティッキィに一目ぼれしたみたいです」




 ブ フ ォ ッ !




「おい、嘘だろ?

 流石に年齢的にも……」


「ティッキィも同じく一目ぼれしたみたいです。

 分かりやすく言えば、アムル・フィブリラパターンです」


「またか……最近の若者はこんなのが多いのか?

 いや、ティッキィが若いとは言わんが」



 言いたいことは分かるのですが、僕も分かりませんよ。



「ジーピン家だけで見ても、アゼル兄・マーニ兄・僕の三名はこんなこと起こってませんしね。

 カル達だって、似たようなものです。

 個々の問題なので若さを理由にしても仕方ないのでは?」


「そっかぁ、そうだよなぁ。

 いや、アムルといいホルターといい若者だけだったからそう思ってしまったが、ここまでくると、儂らの時代にも似たようなことがあったのかもしれんな」



 そうかもしれませんね。

 まぁ、この症状の面倒臭さを味わうことが無かったのを喜ぶべきじゃない?

 関係者三名に関わっちゃうと、もうお腹いっぱいとしか……。



「それと、あと二点。

 複数人デート成功しました。

 婚約はまだですが、スケジュール調整するよう動きそうです」


「あぁ、これでノヴェール家は安泰か?」


「ティアーニ先生に性的に喰らいつかれるのを安泰というのかは疑問がありますが、二人にとっては幸せでしょうね」



 どう考えてもティアーニ先生の尻に敷かれるのが目に見えてますからねぇ。



「最後に、フェーリオとジル嬢が複数人デート中に『砕拳女子』の本を発見。

 昨日夕方にアニス様に直撃して死にかけた獣のような呻き声を発してました。

 本日、サプル様の所にも向かうそうです」




「うっそだろ?!

 そっちも?

 儂、アニスに聞いてない!!」




 あら……言わない方がよかったかな?

 まさか夫婦関係に亀裂とか入らないですよね?



「えっと……教えない方がよかったです?」


「(ハッ!)

 いや、そんなことは無い。

 ただ、妻が教えてくれなかったことにショックを受けただけだ。

 ちなみにアラーニには伝えたのか?」


「いえ、この後サバラ殿たちやベル兄様の所に用があるので、ちょっと手が回らないです。

 もしよければお伝え頂けますか?」


「分かった、今までの話はまとめてアラーニに伝えておく。

 他には?」



 ん~、多分大丈夫だよな?



「思い出せる限りではこんなところですね。

 何かあったらまた報告しに来ます」


「すまんが頼む」



 部屋を辞去すると、扉の向こうから「何でアニスより先にニフェールから聞くことになるんだよ……」とチアゼム侯爵の嗚咽混じりの声が廊下にまで聞こえて来た。

 滅茶苦茶ショックだったようだ。




 そのままサバラ殿の所に向かい、修道院の状況を報告する。

 ヴィーナ様が見つかったことに驚きつつも順調に話が進んでいることに喜んでいた。



「ちなみに、アンドリエの裁判とラング伯処刑後の状況ってどんな感じです?」



 ……ねぇ、ちょっと。

 サバラ殿、笑顔というには危険すぎる表情なんだけど?

 姉様たちが女装ニフィを見ている目だよ、それ?



「裁判の方は順調に準備できていますよ。

 以前提案された香水も準備済み。

 予定通り開始できますね」



 おぉ、そっちは問題なしか。

 なら、僕は気遣わなくてもよさそうだな。



「ラング派の件は……既に二家程捕えており、言い分を聞いている所です。

 まぁ、『俺たちは悪いことしてない!』の一点張りですが。

 この後も少しづつ捕まえていく予定です。

 できることなら、今年中に半数位は取り押さえたいところです」


「であれば、後僕が関わるのは裁判位ですね。

 終わりが見えてきてホッとしますよ」



 これで、後は時を待つの……あっ!!


 僕の反応が止まったのに気づいたのか、サバラ殿が面白そうな表情を見せて来た。



「ニフェール殿、何を思いつきました?」

「いや、実は昨日ベル兄様がデート成功したんですよ。

 それで……」



 思いついたネタをサバラ殿に説明すると、笑いから嘲笑に変わっていった。

 よっぽどあの兄妹嫌だったんだろうなぁ。



「なら、ニフェール殿も参戦してみては?」


「ラーミルさんと?

 でも、あちらはラーミルさんにそういうモーションかけてないんですよね。

 なので、ネタにし辛いですね」


「あぁ、確かに騒いでいたのは妹の方だけですね」



 ええ、なのでネタとするには弱くて。

 まぁ、兄の方が言い寄って来てたら殲滅してただろうけどさ。



「ちょっとこの案検討してみます。

 次の裁判までに間に合うようならネタ組み込むということで」

「ええ、また面白くなってきますね♪」



 というか、サバラ殿も僕の行動に慣れてきましたね。



 そのままサバラ殿と別れ、ベル兄様の仕事場へ向かう。



「あ、スイマセン、ベルハルト・ノヴェールの家族の者ですが、お呼びいただけませんでしょうか?」


「あ、この前の子だね。

 サッサと持ち帰って欲しいんだけどさ?」




 はぁ?




「え、どういうことです?」

「あれ、もしかして知らない?」



 知らないも何も、今来たばかりなんだけど?



 部下の方に色々話を聞いてみると、今日一日惚けてばかりらしい。

 仕事が全く進んでいないとか。


 ティアーニ先生といい、ベル兄様といい、似た者同士ですねぇ。

 それでそれで他者に迷惑かけては話にならないけどさ?


 ベル兄様の席に近づくと、本当に心ここにあらずって感じになっていた。

 視線が宙を彷徨っている。



「ベル兄様?」



 ……こちらを見向きもしねぇ。

 全く、そんな反応するのなら、こうだ♡




 ゴ リ ュ ッ !




「ギャッ!!」



 目を覚ませたかな?



「ちょ、ちょっとニフェール君!

 指捻るの無し!

 マジで痛いから!!」


「なら惚けてないで、現実に戻って来なさい!」



 僕の叱責にハッとしたのか、周囲をキョロキョロと見回している。



「えっと、今何時くらい?」

「夕方ですね。

 そろそろ僕も寮に戻るくらいの時間ですけど?」


「え゛っ?!」



 やっと現状を見れたようだね。

 とはいえ、これは叱責ものかな?



「ベル兄様。

 兄様にとって嬉しいことが昨日あったのは僕も理解してます。

 でも、それと今日の仕事放棄するのとは別問題だよね?

 まぁ、自発的に放棄じゃなく、時間経過も分からなかったってんだろうけどさ」


「はい……」



 反省はしているようですね。



「とりあえず、今日は帰るか、仕事やるとしても定時で上がんな?

 そして明日から本来のベル兄様らしくしたらいいと思うよ?」


「あぁ、とりあえず今日は頭が回らないから大人しく帰るよ」



 その方がいいでしょうね。

 周りの邪魔にしかならないし。



「ちゃんと切り替えしておいてくださいね?

 それと、明日顔出しますんで、その時にちょっと相談したい。

 最後に、今日の事は全てラーミルさんに報告します」


「ちょ、それは勘弁してくれ!」



 ゴメン、無理!

 それやるとラーミルさんに拗ねられる!




 ベル兄様の縋る眼を振り切って王宮から抜け出して寮に戻る。

 いつもの夕食(塩パスタ)を食べ、縄を持って学園を抜け出しチアゼム家へ。



「お、皆準備完了かな?」

「ええ、大丈夫よ。

 というか、ラーミル様普段の服装でいいの?」


「寒く無ければ移動は僕が担当するから問題無いよ。

 では行こうか。

 途中までは普通に歩いて行くからね?」



 特にラーミルさん、その間はお姫様抱っこしませんからね?

 拗ねてもダメッ!




 そうしてディーマス家の前に到着。




「こ、こんなこと毎回してたの?」

「あぁ、まぁなぁ。

 とはいえ慣れだよ、慣れ」



 ルーシーが半分怯えながら聞いてくる。

 一応暗殺者ギルド所属だったんだろ?

 そこまでビビらんでもいいだろうに。



「さ、次はこの壁を登るんだ。

 カリム、縄梯子」

「かしこまりました。

 さ、ルーシーさん、もう少しですから頑張って」



 介護されている婆さ……いや、これ以上考えるのはよそう。

 気づかれたら殴られかねない。



 こういう壁登りに慣れてないルーシーをのんびり待ちつつ


 ん、ラーミルさん?

 ルーシー登り終えた後に僕がお姫様抱っこで壁登ったよ?


 この位軽い軽い♡



「なんか、納得いかないんだけど?」

「カルに頼んでみたら?

 無理だろ思うけど」



 というかカルにできるとは思えんよ。

 カリムやティッキィでも無理だろうけどね。



「だから納得いかないんじゃない!

 カル、あたしを連れて登って!」

「無茶言うな、ジーピン家の血が流れててないと無理だろ」



 血の問題じゃないと思うんだがなぁ。

 鍛え方だけじゃないの?



「さ、拗ねてないで……というか、ティッキィに試してもらえばよかったか?」

「試すって何を?」



 あれ、ナットピンとこないかな?



「次回、逃亡当日にヴィーナ様を運ぶ役目をティッキィにしようと思ってた。

 ただ、壁の登り降りができないのなら僕がやることを想定している。

 ティッキィ、できそう?」



 いい返事を期待していたのだが、ティッキィからはつれない返事しか返ってこなかった。



「先ほどのカルの発言じゃないが、人をだっこしながら壁の登り降りは無理だ。

 俺でもできんし、おんぶに変えても変わらん。

 すまんが、当日の移動は壁の部分だけでもニフェール様に頼みたい」



 お、おぅ。

 そこまで無理だったか?



「分かった、そこだけは僕が担当しよう。

 さぁ、ヴィーナ様のいる別宅に向かうよ?」



 皆で別宅に向かい、お姫様抱っこを解除。

 傍で聞き耳を立てると、予想通り侍従侍女の騒ぎ声が聞こえてくる。



「全く、無駄飯ぐらいの癖にいつまでここにいるんでしょうかねぇ?」

「さっさと逃げてくだされば、我々も仕事が減るんですけどねぇ?」



 また寝言抜かし続けてたか。


 って、ラーミルさん、殺気放っちゃダメ!

 というかルーシーもナットもブチギレちゃダメだって!


 ああ、もう!!


 大急ぎでラーミルさんの口を後ろから右手で塞ぎ、左手で抱きしめる。

 カルとカリムにも視線を送り、二人も感づいたようで同じように止めに入る。


 僕の左手が胸に触れそうだったのは……ラーミルさんに感づかれたか?

 睨まれては無いから大丈夫かな?


 周囲を見ると、ティッキィ以外は自分の彼女を同様に黙らせているようだ。

 ルーシーもナットも暴れないでいるから口を塞ぐ意図は理解できているのだろう。


 静かに隠れていると、向こうも飽きたのか別宅を出て屋敷の方に戻っていった。



 少し待って口を塞いでいた手を離す。



「ラーミルさん、いきなり口塞いですいません。

 あそこで下手に身動(みじろ)ぎされるとまずいので」


「いえ、構いませんわ。

 私もあの状況で大人しくしておく自信が無かったので……」



 まぁ、そうでしょうね。

 僕が同じ立場なら即刻暗殺しに行くでしょうし。



「他の面々も大丈夫か?」

「ええ、少し危うかったけど今は落ち着いたわ。

 この後、侵入するのよね?」


「あぁ、ちなみに今回鍵開けはカリムやってくれ。

 前回訓練した成果の初お目見えだ」



 お、ちょっと鼻息荒くなってきたな?

 よっぽど自信があるのか?



 ズカズカと扉の前に向かい、ササっと鍵穴に道具をつっこみ――




 カチャ




 ――あっさり鍵を外す。



 すっげ、ちゃんと学んだ成果って奴か?

 これはナットにも引き継がせないとな。



「開きました!」

「おっし、ならヴィーナ様の所に参りますか。

 あ、その鍵持ってきてね。

 後でちょっと使うから」



 困惑しているようだが指示通りに持ってきてもらった。

 どうせカリム暇だろ?

 いい暇つぶしを考えたから、そちらに注力してもらおうか。



 二階に行き、ノックするとウキウキした感じで返事が返ってきた。

 多分、普段こんな感情無かったんだろうなぁ。



「失礼します、ニフェールです」

「はい♡

 お待ちしておりましたわ♡」



 あ……これ、暴走中?



「えっと、挨拶等後回しにしましょうか。

 ティッキィ!

 キスまでは許すから落ち着かせて!」

「胸揉むのも許可欲しい……」



 おま、変なところで交渉吹っかけて来るか!



「脱がさなきゃいいや。

 そこらはティッキィの常識に期待する」

「そこで常識を持ちだすなよ、非常識の塊の癖に」



 グ フ ッ !



 なぜだか心にダメージを負ってしまったようだ。


 いや、カル達。

 憐れまないでくれよ、悲しくなるから。



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― 新着の感想 ―
「またか……最近の若者はこんなのが多いのか? いや、ティッキィが若いとは言わんが」 一字一句まったく同じ事を思ってた。 私の中の人も侯爵の年に近いしな。 まあほぼ唯一自制が効くニフェール以外は大なり…
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