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「ちなみに、アルクの親御さんはどうしてるの?」
「生きてはいるよ。
でも、商家からはアルクのせいで嫌われてる。
と言っても親御さんはアルクを制御できない以外は普通の人だからなぁ。
なので毛嫌いするほどではないがね」
アルクを止められない、か。
「まず、親御さんの所に文句言いに行った方がいいね」
親御さんではアルクを直接止められないだろう。
でも周囲の勘違いされた人たちにアルクの嘘だと親御さんから言った方がいい。
おっちゃんもこの後すぐ行ってくるそうだ。
「それと、この後家に帰ってアゼル兄に報告と相談はしておくよ。
けど、あいつらを捕らえる程の罪では無いんだよね」
そのレベルの罪ならこちらとしてもさっさと捕えているし。
「なんで、サーラを別の土地に逃がすということも考えた方がいいかも。
もしくは、既に好きな人がいるのならさっさと一緒になってもらうとか」
この言葉の直後、おっちゃんがギロッと僕を見る。
「ニフェールぼっちゃん、うちの――」
「――婚約者いるんでダメです」
即刻断ったが、信じてくれないようだ。
「嘘つかんでください。
以前話した時はいなかったはずだ!」
「その後王都で見つけた。
今回戻って来たのは挨拶の為だよ。
ちなみに、既に両親とは仲良くしている。
特に母」
最後の一言で諦めてくれたようだ。
母に楯突くほどの度胸は無いだろうしね。
「今思いつく手口は説明したけど、おっちゃんすぐに動けそう?」
「ああ!
店に戻って家族に説明した後すぐにアルクの親御さんに文句言ってくる!」
「じゃ、ソッチはよろしく。
アムル、家に帰るよ。
アゼル兄に伝えて相談しないと」
「ハイ!」
おっちゃんと別れ急いで家に帰る。
幸いアゼル兄はカールラ姉様とイチャイチャしていなかった。
ホッとしつつアルクの件を説明すると……頭を抱え始めた。
「ニフェール、よくぞ教えてくれた。
アムルもご苦労だったな」
労ってくれるアゼル兄。
とはいえ、面倒なことには変わりない。
「ニフェールもアムルも知らないだろうが……。
このアルクとやらのグループは街の者たちからもよく嘆願を受ける。
ぶっちゃけ言うと『こいつら捕らえてくれ』ってな」
そこまでやらかしてるんですか?
でもアゼル兄が困っているということは……。
「推測はついていると思うが……。
処刑や鉱山行きになるような罪は一切犯していないんだ。
軽犯罪のみ。
それも迷惑だけど叱って終わりにせざるを得ない。
そんなくだらないことしかしていない」
あぁ、やっぱり。
「過去にこれだけ軽犯罪を犯したので罪一等増やすとかは無い?」
「累犯か?
いや、違うな、常習犯か。
あることはあるが、あれって回数条件なかったか?」
「あったよ。
確か四回目には法廷開けるはず。
最近学園で学んだんで覚えてたんだ。
他者への迷惑行為を繰り返し行ったということで常習犯となるんじゃない?」
ちょっとアゼル兄が驚いている。
ちゃんと僕も勉強しているんだよ?
「あいつらの今の状況は……ああ、ダメだ。
俺が引き継いでから今回の訴えを入れても三回目だ。
未成年の頃はカウントに入れないことになっているからなぁ。
まだ叱る以上のことはできない」
「え、あれだけ迷惑かけてもですか?!」
ああ、アムル。
気持ちは分かるんだ。
でもそれはできないんだ。
アゼル兄もアムルの気持ちを理解できてるから、優しく指摘している。
「アムル、気持ちは分かる。
でも、私たちが法を守らなかったら?
法に従って罰を与えなければ誰も法を守らなくなってしまうよ」
「むぅ~!」
アムル、可愛いとは思うし頭撫でたいとは思うがそれ以上はダメだよ。
カールラ姉様やロッティ姉様が何処からか湧いてくるからね。
「とりあえず、三つ目の軽犯罪として軽く叱っておくしかない?
そして次にやらかした時点で確実に厳罰を与えるように準備しとくべきでは?」
「……あいつらがまたやらかすはずってことか。
確かにそうだな。
衛兵を急いで動かして確実に三つ目の軽犯罪を犯したという事実。
これを積み上げておこう」
そうそう、今までのあいつらなら数日中にやらかすと思うしね。
アゼル兄は衛兵に雑貨屋のおっちゃんと合流を命ずる。
そしてそのままアルクを叱責するよう指示する。
「そろそろ昼飯だろう。
今日はラーミル嬢が作るんだったな。
期待して大丈夫か?」
「わかんない、僕も手料理食べたこと無いし。
でも、ダメそうなら母上が止めると思うけど。
カールラ姉様の時みたいに」
「あぁ、そうだな……」
カールラ姉様の時は全く料理ができない。
その為、レシピの説明と雑談で終わらせたようだ。
下手に無茶して姉様の血塗れ料理は避けたいしね。
「ちなみにロッティ姉様は?」
「なかなかうまかったぞ。
あの子はそれなりに料理を手伝うとかしてたんじゃないか?」
おや、それは食べてみたいもんだ。
まぁ、今日はラーミルさん(の料理)を食べるのでそちらはまたいつか。
さて、昼食だが……。
僕の大好きなポルチーニソースのパスタとクルミパイ。
流石母上、子どもの好きな料理をちゃんと把握してますね。
……父上とは大違いだ。
……未だに川魚好きだろなんて言い出しそう。
……嫌いとは言わないが、塩気薄くてあんまり好きじゃないのに。
……特に焼く前に内臓取らないのはギルティ。
「さあ、今日の昼はラーミルに作ってもらったよ。
さあ食べよう!」
母の合図で皆一斉に食べ始める欠食児童ども(僕含む)。
一口食べて……お、これは旨い!
学園の食堂並みにうまいんだけど!
……いや、待って、呆れないで。
王都で比較対象できるのが少なくて。
パスタ食べれるのって普通食堂だけど、そんなとこに行く金ないし。
僕の予算で安心して食べれるのは学園の食堂だけなんだ。
なので、学園の食堂が僕の誉め言葉にになってしまう。
なお、ジャーヴィン家やチアゼム家で食事したことはある。
でもパスタ食べたこと無いのであそこはノーカン。
バクバク食べていると、ラーミルさんがチラチラこちらの様子を見ている。
目が合った時に笑顔を向けると安心してくれたようだ。
アゼル兄とマーニ兄が甘すぎてキツそうだ。
……追撃しとくか。
「おいしいよ、ラーミルさん♡」
「あ、ありがとうございます(恥)」
戦績――
・砂糖吐く:父上、兄二人
・生暖かい視線:母上、義姉二人
・純粋な喜び:弟
――まぁ、悪くない結果かな。
デザートのクルミパイも食べ満足したところで母上から一言。
「ニフェール、ラーミルの用事は済んだから午後は一緒にいてもいいぞ」
おっし!
……と言いたいところだが、どうしよう。
アゼル兄を見ると、悩んでいるようだ。
そりゃ悩みますよね。
僕も正直どうしようか悩んでますし。
アゼル兄と僕のやり取りから母上は面倒事に感づいたようだ。
説明を求められ、一通り報告する。
「アダラー、今までそのガキどもどうしていたんだ?」
「未成年だから叱って帰すだけだぞ?」
ん?
「父上、そいつら僕とほぼ同い年なので、既に成年ですよ?」
「え?」
「昨年の時点で七割、今年で全員成年だったはず。
アゼル兄に当主変更する前の対処は?」
「……」
お~い!
父上、対処サボってたんかい!!
アゼル兄、マーニ兄、気持ちは分かるけど頭抱えてもどうしようもないから!
「アゼル兄、まず現時点で成年してからの犯罪履歴調べよう?
当主変更前の時点で既に軽犯罪の常習犯とみなされる可能性が高い。
うまくいけば、まとめて捕まえて処分できるよ!」
「ああ、そうだな。
凹んでても仕方ない。
さっさと終わらせよう。
それと母上」
「……なんだい?」
「カールラやロッティ嬢、ラーミル嬢にも協力してもらいたいが用事ある?」
「ない。
お嬢ちゃんたち、領主婦人の体験授業、犯罪者共の対処方針、実践編だ。
良く学べよ!」
「「「はい、お義母さま!!!」」」
母上、なんか騎士団じみてません?
急ぎアルクたちの履歴を調べると出るわ出るわ。
下手なGよりも大量に湧いて出てくるんですけど?
「こんなに出てくるとはなぁ」
アゼル兄、気持ちは分かる。
「というか、領民の皆はよく耐えてくれてたな。
下手すれば王都に領主変更を求められてもおかしくないぞ」
ホントギリギリだったんじゃないかな、マーニ兄。
雑貨屋のおっちゃんがかなりキレてたしねぇ。
今回で終わらせるつもりでいかないと本当に反乱とか起こりそう。
「う~ん……」
「どうした、アムル。
分からないところがあったか?」
僕が問うと、言うことを整理しながら思ったことを伝えてくる。
「いえ、これだけ一杯やらかしているんですよね?
なら衛兵たちも父上に報告とかしないの?」
……え?
「衛兵だって法は分かっているんでしょ?
というか分かっていないと捕まえられないし」
「まぁそうだな」
「年齢も分かっているのに何で父上に捕縛しようと言い出さないんでしょう?」
それは……いくつか可能性があるんだよなぁ。
「可能性としてはいくつかあるね。
まず、父上が捕縛提案を蹴っていた。
これは父上がアルクたちを未成年と思い続けていたから」
これが多分可能性高いかな。
「二つ目として衛兵たちが理由あって提案しなかった。
この場合、領主が動かないのなら問題ないのだろうという判断の丸投げ。
それと、父上の勘違いを分かってて仕事したくないから指摘しなかった。
最後に……アルクたちと手を組んで隠蔽工作」
ザ ワ ッ !
「ちょ、ちょっと待て、そんな馬鹿なことあるか!」
父上が騒ぐが、大半の原因あなたなんですが?
「真実がどれかまでは分かりませんよ。
でもちゃんと調べないと同じ事が発生しても困るでしょ?」
そこは分かっているのか、口を噤む父上。
「で、衛兵たちからの捕縛提案はあったの、父上?」
「……あった」
「衛兵たちには何と?」
「未成年だからと……」
「衛兵からの反論は?」
「……あった、けどそこまで急ぐ話でもなかったから特に何もしなかった」
「ちなみに未成年と判断した理由は?」
「当人たちがそう言ってた」
「住民票とか確認しなかった?」
「……」
はい、しゅ~りょ~!
「アゼル兄、急ぎ衛兵たちと話し合ってください!
この調子だと領主一家まとめて無能扱いされているかもしれません。
ここでキッチリまともな人間が領主となったこと。
これを理解されないと衛兵から見捨てられるかも!」
「分かった!
すまんが、今日は自由行動禁止!
話し合いの後突撃するかもしれないから念の為準備しておいてくれ!」
アゼル兄は大急ぎで衛兵たちの仕事場へ向かった。
これで進展すればいいんだけど。
あ、そうだ。
「母上」
「なんだい、ニフェール」
「父上への説教をお願いします」
「ああ、任せておくれ。
ただ、アゼルが戻ってきて捕縛に行くんだよな?
ならアダラーを連れて行った方がいいだろう。
なんで、一通り今日の対応が終わった後にきっちりと説教しておく」
「ありがとうございます、母上」
父上、なにビビってるんですか?
それだけのことをしたってのに。
「カールラ姉様、ちょっと質問」
「……何かしら?」
「侯爵令嬢に対しての質問です。
一つ、今回の父がやらかしたことはジーピン家売爵しなくてはいけないレベル?
二つ、父のやらかしをアゼル兄が尻拭いしてるよね?
これってアゼル兄の失点になっちゃう?」
カールラ姉様は「はぁ……」とため息をつき、真顔で僕を見る。
普段のショタ趣味全開の表情じゃなく侯爵令嬢の立場を理解した上での表情。
確かにこれなら【女帝】の名が付くのは納得できる。
「一つ目はアダラー様が現在も男爵なら売爵まで行くかもしれないレベルね。
引き継いだアゼルが対処し始めているのでセーフだと思うわ」
よかった……。
ホッとした僕に、ちょっと申し訳ないような表情をして二つ目の回答をくれる。
「二つ目は対外的にはアダラー様の失点でありアゼルが悪いわけではないわ。
でも口さがない者たちがジーピン家をあげつらうネタになるわね」
「ああ、やっぱり……」
僕は頭を抱えてしまう。
父上はここまで話が大きくなるのかと驚く。
マーニ兄はお先真っ暗になりかけの状態に天を仰いでいた。
パ ン パ ン !
手を打ち鳴らし母上が注目を集める。
「ほら、凹んでんじゃないよ!
アダラーがやらかしたからってやり直しがきかないわけじゃない!
死ななければやり直せばいいのさ!」
母上の発言にキョトンとしてしまう僕。
全く……母上にはかなわないな。
マーニ兄を見ると似たような考えに至ったようだ。
僕を見てニヤッと笑顔を見せてきた。
ちなみに女性陣は……母上に堕ちているようだ。
これヤバくね?
婚約した相手が堕ちるって……一歩間違えればネトラレ?




