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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
8:後片付け
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 その後、午後一時から参加メンバーが続々と閲兵場に入ってきた。

 パッと見た限り、実技の先生も入っていなくてホッとする。


 殺すこと自体は困らないけど、授業進める人いなくなるのは面倒だからなぁ。

 放置しておくと僕が指導者になりそうで怖いし。



「ニフェール様、俺たちそれぞれ角の辺りにいればいいか?」

「そうだね。

 ただ、いることが分かりづらいように騎士の方と一緒に後ろの方にいて欲しい。

 そして、素人暗殺者が攻撃をしたら取り押さえて欲しい」



 僕狙いならサクッと躱せるしね。



「アゼル様が取り押さえるかなぁ?」



 ナット、大体想像通りだと思うぞ?

 僕もぶった切る方に全部賭けるぞ。


 四人ともそれぞれ騎士たちと一緒になって移動。

 僕は暇なのでラーミルさん達とイチャつく。

 いや、暇じゃなくてもイチャつきたいけどね?

 そこは、まぁTPOを考慮に入れますよ。



 時間も押してきたのか見物する貴族もわらわらとやってきた。

 アンタら暇なのか?

 仕事した方がよくない?



「ニフェール様、それ言っちゃおしまいじゃないの?」


「まぁ、そうだけどさ。

 騎士たちが見たがるのは分かるんだ。

 上司がどうなるのか見たい人もいるだろうからね」



「アイツ消えちまえ」って思う人もいるだろうし。



「でも文官が見てどうするんだろ?

 いくら何でも全員で見なければいけないはず無いし。

 そんなに血に飢えているのかねぇ?

 話題のネタにはなるけど、血塗れのネタなんてどこで話すんだろうね」


「娼館で話して『きゃ~、こわ~い!』とか言わせたいんじゃないんの?

 まぁ、飲み屋で酌婦に話すのかもしれないけどね」



 ルーシー、もしかしてピロヘースの婆さんからそんな話聞いてるのか?



「え、娼婦や酌婦の人たちってこういうの喜ぶの?

 ちょっと意外……」


「ん、違うわよ?

 喜びはしないけど、客から振られた話を毛嫌いするわけにもいかない。

 だから驚いて見せてるだけよ。

 そこで怖がるふりして『怖かったのぉ♡』なんてしなだれかかるのよ。

 そうして、あわよくば指名取るって感じだと思うわ」



 ……僕には分からない世界の様だ。



「もう少し大人になったらその辺の機微も分かるのかねぇ?」


「知らなくていい話だと思うわよ?

 第一ラーミル様いるんだからそんな店行かないでしょ?」


「まぁねぇ、ラーミルさんに浮気したとか思われたら泣いちゃいそうだし」



 ラーミルさん、顔真っ赤ですよ。

 喜んでくださるのは嬉しいですけどね。



 そんな年相応(?)の会話をしているとそろそろ時間になったようだ。

 リノル副団長に呼ばれた。



「ニフェール君はここにいてくれ。

 陛下が君を呼び出すので、そしたら俺が君の身体検査をする。

 そして武器などを持ってない旨、アイツらに伝える。

 その後、君は閲兵場の中に入ってくれ。

 なお、戦闘開始は陛下が合図するから」


「かしこまりました」



 さて、暇なので相手側を見てみると、妙に余裕あり過ぎな面々が目立つな。

 もしかして、意図的に情報を伏せてるのか?

 王都の暴動を壊滅させた関係者だと知らなそうだな。


 あれ?

 でもディアル副隊長やラング伯辺りはその手の情報持ってるよね?


 文官たちは次の日に報告してるからそこ経由で届いているはずだし。

 武官は騎士団内の情報共有位してるだろ?

 どころか一昨日に一通り説明したしな。


 ん~、もしかして役職持ちとラング伯だけが理解している?

 第八部隊は嘘乙とか思ってる?

 で、雇われた者たちは何も理解してない?



 ちょっと隊長格だけ見てみると……やっぱり怯えてんじゃねえか!

 第八は皆イケイケだし……こいつら正しく情報共有しとけよ!!



 これ作戦通りにやったら即刻……あ。

 一つ伝えるの忘れてた!!


 急ぎアムルを見て手招きする。


 キョトンとした表情でやってくるアムルに一つ指示を出す。



「アムル、フィブリラ嬢って殺気に耐えられると思うか?」


「いや、無理じゃないかな?

 って、そんな強い殺気放つの?!」


「どこまで耐えられるか分からないからなんとも……。

 それなりの強さではあるし、できるだけ指向性を持たせるけどさ。

 念の為、あの娘が倒れないように見張っといて。

 ラーミルさんたちが耐えられそうだったからすっかり忘れてた、すまない」



 頷き、急ぎ席に戻るアムル。

 後は任せるしかないな。



 お、陛下とチアゼム侯爵が立ち上がったということは開始かな?



「関係者が全員揃ったので開催しようと思う。

 まずは陛下からお言葉を頂く。

 陛下、お願いいたします」


「うむ。

 本来降格、もしくは死罪となるべき所をやり直す機会を用意した。

 そなたらが騎士としての誇りを取り戻すことを期待する」



 隊長格の奴らは……うわ、なんか悲壮な表情。

 第八部隊は余裕をみせているのになぁ。

 ラング伯は……叱咤激励しているが、ヒステリーになってないか?

 何となくだけど、勝てないことに気付いているのかな?



 次に陛下は僕を呼び出し、武器を持っていないか副団長が確認を行う。


 ラーミルさんに触ってもら……はっ!

 いかんいかん、妄想に浸ってしまった。


 あ、副団長、気にしないでください。

 若者の思いがちょっと先走っただけですから!


 怪しい人物を見るような視線で見られてしまったが、武器は無かったことを確認し、副団長は周囲に向かって宣言する。



「ニフェール・ジーピンが武器を持っていないことを確認したことをリノル・マルピーギの名において宣言する!」



 その後、こちらをチラッと見て「しっしっ!」とばかりに手で払う仕草をする。

 サッサと行けってことですね。


 場内に飛び入り、罪人共に相対する。


 雇われた面々から色々と聞こえてくるな。



「あんなガキが相手なのか?」

「え、アレに怯えて俺たち雇ったの?」

「……なぁ、俺、罪悪感が湧いてきちまったんだけど」

「分かる、俺もだ」



 お前ら、罪悪感を感じる程度には善意があるのか?



「ねぇ、あなたたちはなんで雇われたの?

 仕事なかったの?」

「ぐっ……護衛の仕事はやってたけど、この仕事いい報酬なんだよ。

 なんで、元の依頼主に許可貰って受けに来たって訳だ」


「それって商業ギルド?」

「おや、知ってるのか?

 実は、ギルドのお偉いさんがやってる商会でな」



 え……まさか?



「まさか、そこの店主ってリシアシスとか言わないよね?」


「ほぅ、その名を知るのか。

 流石にギルド長の本店ではないが、三号店の護衛やってたんだ。

 嫌がられたんだが、最終的には許可くれてな」



「それ、多分諦めたんだと思うよ。

 アンタらが言うこと聞かなかったから」



 なんかムッとしたようだけど、事実なんだよなぁ。



「何偉そうなこと抜かしてんだ、このクソガキが!」



 そりゃ、アンタらを殺すことになるからなぁ。



「一応国からこの件について関わるなと商業ギルドに連絡が入ったはずだ。

 参加した奴は全員死ぬからやめておけってね。

 だけどアンタらは駄々こねて参加した。

 なら、死んだものとして扱うんだろうさ」


「……お前、後で泣いても許してやらんぞ?!」



 こめかみに血管浮き出てるんだけど?

 そんな怒ったの?



「生きてたら同じこと言ってみな?

 無理だろうけど」


「はっ!

 お前こそ、俺たちに命乞いをする準備しとけよ!!」



 というか、リシアシスもさっさと見捨てたか。

 判断が早いというか、こいつら普段からダメだったのか。

 後でカルにでも教えてやるか。



「双方、準備はいいな?

 では始め!!」



 陛下の合図と同時に向こうは襲い掛かろうと動き出す。

 それに合わせて僕は――



◇◇◇◇



「「ナニコレ?」」



 あ、騎士――ビーティ殿だったか?――とハモってしまった。


 俺、ティッキィは今見たものを言葉にすべく頭を使い始める。


 陛下の開始の合図がしたらニフェール様の前にいる者たちが一斉に倒れた。


 一言で纏めるのならそんな感じだが、何で倒れた?

 武器は持ってないのは確認済み。

 となると……殺気?


 いや、流石にそこまで……出来ちゃうのか?



「ビーティ殿、ニフェール様は殺気をばらまくことできるのか?」


「できることは確かだ。

 マーニ隊長よりも出力調整ができる位と聞いている。

 それに、ある程度範囲を狭めて放つことも可能らしい。

 大体ニフェール殿を中心として左右四十五……いや、六十度位か?

 その位の範囲で結構強力な殺気をバラまいたようだな」



 なるほど、確かにその範囲で観客である貴族の大半が倒れている。

 確かあちらはカルとカリムの担当だな。


 当人たちと騎士は倒れてないようだが、少々ふらついているようだ。

 確かにキッツイだろうな。

 とはいえ、これで終わりにするわけではあるまい?


 作戦名通りなら……あぁ、やり始めた。

 倒れた奴らの頭を踏み潰し、血と脳みそをぶちまけさせている。



「よくこんなの考え着くもんだな」

「ニフェール様曰く、作戦名は『葡萄踏み』だそうだが?」



 気持ちは分かるが、その表情は止めておけ。

 どうせ、最近飲んだワインを思い出したのだろうがな。



「あれで作ったワインは飲みたくないな……」

「確かに……」



 血と脳みそ混ぜて発酵させる?

 無理だ、見たくも嗅ぎたくもない!



「……おっと、仕事の様だぞ」



 お、クロスボウ持ってニフェール様を狙う奴が出て来たか。

 周りの観客は恐ろしい風景に恐慌の一歩手前位まで来ているようだ。

 となると、全く気付いてないよなぁ。



「撃ってからだったな?」

「あぁ、ニフェール様からそう聞いている」



 武器持ってただけなら捕まえられないけど、撃ったら言い訳出来ないからなぁ。

 狙いをつけようとしているが……震えてるぞ?

 落ち着いて狙え?



 バ シ ュ ッ !



 おっし、撃ったな。

 あちらは……ナットの方からも撃ったようだ。

 カルとカリムの方は気絶しているのか撃たれていないな。


 ニフェール様はあっさり三本の(・・・)矢を蹴り落とし、『葡萄踏み』を再開する。


 なら、こちらだけでもさっさと確保するか。



 グ シ ャ ッ ! !



 え?



 音のした方を見ると、アゼル様が大剣使って観客の一人を潰していた。

 確かに俺、ナットで二本。

 カルとカリムの方からは飛んでない。

 となると、アゼル殿がいた辺りから撃ったのか。


 大剣で斬るのではなく重みで頭を潰す?

 兄弟そろってワインづくりに精を出すのかよ!!



「……あちらは副隊長に任せましょう」

「……だな。

 自分らの担当分の仕事をしないとな」



 副隊長とやら、片付けは任せた!!



◇◇◇◇


 矢が飛んできたので適当に蹴り落として『葡萄踏み』を続ける。

 ……服装はちゃんと男性の姿だからね?


 そろそろ残りは……ラング伯、隊長&副隊長格、そして先ほど喧嘩売ってきた奴。

 叩き起こして現実を見させますか。


 閲兵場を踏み壊す位に強く地面を踏みしめる。



 ド ス ン ! !



 気絶していた者たちが一斉に飛び上がり、何が起こったのか把握しようと周囲を見渡し……混乱の渦に飲み込まれた。


 まぁ、そりゃそうだろうなぁ。

 気絶して起きたら血の海なんだから。



「やぁ、おはようございます。

 気持ちよく起きられましたか?」



 反応したのは雇われた護衛のあんちゃん。



「こんな地獄絵図見せられて気持ちよく起きられるはずねえじゃねえか!

 お前か?

 お前がやったのか?!」



 後誰がやると思ったんだ?

 僕以外いないだろうに。



「ええ、そうですよ。

 作戦名『葡萄踏み』。

 皆さんこちらの想定通りに気絶してくれてありがたいですよ。

 頭潰しやすくて助かりました」



 笑顔で答えてあげると、何故か皆ヒいてしまった。

 そんな怯えること無いのになぁ。

 あ、もしかして?



「大丈夫ですよ?

 そんな怯えなくても」


「どこがだよ!」


「既に潰した奴らから出た血をあなたたちに飲ませたり、脳みそ食べせたりとかは考えてません。

 あの処理したモノは別の方々に後で片付けて頂きます」



 後でスタッフが食べるとかもありませんので安心してくださいね?


 あれ?


 なぜ怯えから恐慌にランクアップしてるの?



「それで怯えるなと言い出すお前が怖えよ!

 こんなに殺して普通じゃねえよ!!」


「ん?

 誰が、僕が普通だと言いました?

 あなた、騙されてますよ?」


「はぁ?」



 多分雇い主であるラング家だろうなぁ。

 雇う相手に嘘つくなんて、ひどいことをするもんだ。



「王都の暴動で僕ともう一人で中央通りを地獄絵図に変えましたが?

 そんなことできる人物がこの程度のことできないと何故思ったのでしょうか?」


「はあぁぁ?!!

 待て!

 あの暴動の時の奴か!!

 大鎌持った奴!!!」


「あ、それは兄の方です」



 マーニ兄担当範囲だと……この人は正門から見て右側に店があったのかな?



「で、『俺たちに命乞いをする準備しとけよ!!』でしたか?

 どうされます?

 命乞いなさいます?」



 そう聞いた途端、恥も外聞もなく額を地面に擦りつけて言った。



「すまなかった!!

 助けてくぎゃ!」



 あ、ごめん、勢いで踵落とししちゃった。

 まぁ、お仲間見捨てて生きるより、一緒に死んだ方が文句言われなくて済むよ?



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― 新着の感想 ―
葡萄踏みという語感からこんな感じなのは予想していた。 思ったより参加者(という名の愚か者)がいるのは意外ではあるが。 騙された、というか事態を見る目がないか金に目がくらんだかなんだろうなあ。 余談だ…
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