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「ちなみにご結婚されてましたよね?
王太子妃殿下は来られるんですか?」
「いや、現在ご懐妊中でな。
それでも普通に仕事位は出来るのだが……。
今回どう考えても死体が大量生産される環境だからなぁ。
あまり驚くような事態には関わらせたくない」
あぁ、まぁ、そりゃそうですよね。
「これは陛下たちも同意見でな。
王太子妃は不参加とした」
「確かに妊娠中であれば、今回のようなショックの大きい件は避けた方がいいかも知れませんね。
あれ?
他に王族の方っておられませんでしたっけ?」
確か、もう一人おられたはず。
「あぁ、第二王子殿下か。
こちらは年齢的にまだ早いということになった。
というか、来年度学園に入るぞ?」
「あ、そうでしたっけ?」
面倒事に巻き込まれなければいいんだけどなぁ。
「ニフェール、面倒事起こすなよ?」
ちょ、アゼル兄!
「いや、学年違うし、科も違うだろうから、関わる気は無いよ?
どうせ、領主科でしょ?
フェーリオ辺りが関わるんじゃないかな?」
「そうだが、顔合わせること位あるだろうに」
「わざわざ【狂犬】に?
多分周りが全力で止めると思うよ?」
今の一年と三年の状況からすると、近寄ってこないと思うけどなぁ。
「まぁ、そこは後日考えてくれ。
それと、事前に武力もってそうなギルドには参加しないように通達済みだ。
『王都で暴動者を斬りまくった奴と殺し合いしたいか?』と言ったら全員受け入れたよ」
え、そうなんです、チアゼム侯爵?
あら、予想より大人しい事。
もっと勝気な奴らがオラついてくるかと思ったのに。
「だが、中堅とかがやらかす可能性は否定できないと言われたよ。
そいつらはこちらが殺しても文句言わないことは確認済みだ。
なので、遠慮なく殺ってかまわん」
よかった、手加減しろなんて言われたらどうしようかと。
「ちなみに……今回の処分が終わった後に騎士団の隊長とか決めるんだが、ニフェールの方で希望とかあるか?」
「それ、僕に聞いてどうするの?」
そりゃ、お願いしたい人はいるけどさ。
「現場見て使えそうな人物か否かを知りたい。
一応こちらでも誰を昇進させるかは検討済みだ。
だがそれは騎士団内の話だから、第三者的視線が欲しかった」
そんなこと言われてもなぁ。
「まず、僕が知っている騎士ってスホルム対応で一緒になった人たち位だよ?
他だと第五のアパームのあんちゃん位。
他は名前も知らないのに提案は難しいよ?」
「ふむ……アパームは使える人物だったか?」
「そうだね。
第五の隊長たちがやらかしたのをちゃんと尻拭いできてたし、悪くはないと思うよ?
副隊長なら確実にできると思う。
正直隊長もできるかもしれないけど、書類仕事の方は知らないから判断し辛い」
現場の判断だけだからねぇ。
立場上がると書類と戯れるのが基本となるからなぁ。
「十分だ。
こちらも大体同じ考えだ。
第五の隊長は第八のぺティックにやらせる。
第四、第六は第一、第二の副隊長を昇進させる予定。
アパームは第五の副隊長に、それと他副隊長格は各部隊の良さげな奴を昇進させる予定だ」
ほうほう、そうなるんですね。
……あれ?
「質問。
第二の副隊長に昇進するのって僕知ってる人?」
「おや、興味あるのか?
ペスメーを副隊長にするつもりだ。
知ってるだろ?」
「ええ、僕の料理と書類処理能力に惹かれて『俺といっしょに領主代行になってよ!』と言われてますから」
ジャーヴィン侯爵、呆れる気持ちは分かるけどさ。
多分、あの時に一緒に行った面々なら同じこと言いそうだよ?
「で、それ自体は予想通りなんですが、一つ疑問。
今の領主代行交代するの?
スホルムを下手に事態を理解してない人物に任せると厄介じゃない?」
「それは分かる。
なので、副隊長になるのは確定だが、並行してこちらも急ぎ新領主を派遣する。
多分だが第二部隊だけは当人復帰してから副隊長任命だな。
他の副隊長は数日中に任命式を終わらせる」
あ、そっか、そこはペスメー殿待ってらんないもんね。
一時的にマーニ兄は副隊長無し?
……まぁ、何とかなるか。
「ちなみにマーニ兄には伝えてるんです?」
「副隊長の件もペスメーの件も昨日言った。
あぁ、そういえばお前に何か頼もうかと考えているようだが?」
え、ちょっと待って。
ま・さ・か?
「副隊長の仕事ならやらないと伝えておいていただけます?
久しぶりに学園行きたいんで」
「……そういうことか。
いや、あいつの目的は知らんが、可能性は……無いとは言えんな」
そうなんですよね……実際手伝う位の事なら十分できますし。
マーニ兄も僕が書類仕事を苦にしないの十分分かっているだろうし。
「いや、完全に一日中仕事は無理としか言いようがないんです。
授業ありますし。
例えば授業終わってから学園の門限の間までなら可能かもしれません。
でも、その程度の仕事量ならマーニ兄でも十分できますしね」
大鎌振り回す危険人物でも、一応筆記三位だったはず。
書類位なら何とでもなるでしょ。
「それに、現在残っている厄介事の対応もありますから、良くて……二日に一回手伝う位?」
「それでも十分なのかもしれんがな。
まぁ、詳細は二人で話し合ってくれ。
儂からして見ればどちらでも構わん」
そりゃ、ジャーヴィン侯爵からすればまともな書類が届けば文句ないだろう。
こちらはそんな訳にはいかないけど。
「それと、新領主にスホルムの危険性を説明されます?
多分サバラ殿辺りにガッツリ指導してもらわないと理解してもらえないかも。
なんならマーニ兄の殺気ぶちかましてもいいくらいです」
「それやったら確実に新領主が倒れるだろうが!」
いや、まぁ、確かにマーニ兄だと殺気の調整が下手ですけど。
「怯えて家で縮こまるのが目に見えるようだよ。
とはいえ、軽く考えられても困ることは事実だな」
チアゼム侯爵が悩みつつ視線を飛ばしてきた。
ねぇ、それって「指導の時に来てくれない?」って視線?
やだよ?
「チアゼム侯爵。
説明はサバラ殿に任せるでいいと思います。
で、その場に騎士団長とチアゼム侯爵に座ってもらえば新領主も危険性を理解できない?」
「……言いたいことは分かる。
権力で押せってことだろ?
ただなぁ、危険性を正直に伝えると……貴族たちが受けてくれなそうでなぁ」
いや、そこをどうにかするのがあなたたちの仕事でしょうが!
「……まともな動ける貴族っていないの?」
「……ゼロでは無いとだけ言っておく」
ったく、手札無いのなら対処キツいんだけど?
「隣接している貴族で爵位追加と共にスホルムくれてやってもいいという人物は?」
「いない。
正直アイツらは自分の領地もまともに見れていないからなぁ」
ん~、スホルムの危険性を理解できて、この誰も関わりたくないような土地を面倒見れる人?
サバラ殿やクーロ殿を持っていくのはダメだよな?
ベル兄様もダメだしなぁ。
あ~、もう無理!
僕は貴族ではあっても伝手ないんだから!
大した手口思いつくわけないじゃん!!
「第一、スホルムの状況をちゃんと把握してて、民にちゃんと向き合えて、民も信頼して……く……れ……」
おやぁ?
あれ、何か無茶な条件がクリアできそうな気が?
いや、でも根幹に当たる人物がダメか?
ついでにフォローさせる人物も戦うこと以外期待できない。
「ニフェール、思いついたのなら教えろ。
どんなぶっ飛んだものでもいい。
とりあえず案が欲しい」
チアゼム侯爵、その言葉、言ったこと後悔しますよ?
「まぁ、とりあえず聞くだけ聞いてください。
ざっくり一年程度は何もできません。
城主代理を別の人に変える程度でお願いします。
で、再来年度初め位にとある人物を領主として派遣することを考えました」
「とある人物とは?」
「ホルター・バルサイン。
ペスメー殿の弟で、卒業後セリナ様とくっつく予定の人物」
ブ フ ォ ッ ! !
「ちょ、ちょっと待て!
それ、どんだけ無茶か分かってるか?」
「だから思いついても言わなかったんですよ。
ホルターが治安維持以外できないと思ってますし、セリナ様も平民になられる。
その後すぐ貴族にというのは正直無理と判断しました」
セリナ様がラーミルさん並とまではいわなくても政治方面に理解があればまた話は変わるけど、そこは確証ないからなぁ。
「ふむ……とりあえず保留としておくか。
儂の方で夫人と話してみよう。
ホルターには期待しておらんが、前当主夫人としてやり取りしていた頃にどこまで対応していたかによる。
結構口出ししていたのなら、その案使えるやもしれん」
「一応言っておきますが、自分でも捨てた案ですからね?
セリナ様がどれだけできるかにかかってますし、ホルターに一切期待できません。
まぁ、プロブと比べたら凄いマトモですけど」
騎士科でまともに領主できそうなのは僕を除けばスロムあたりくらいしかいない。
でも、流石にスホルムは行きたがらないだろう。
ダイナ家とアンドリエ家がやらかした事態を今は落ち着かせた。
だがどこまでこの平穏が続くかは不明だ。
なら、それなりに経験ある人に頼まないとあそこはアンドリエ家の影響を消せない気がする。
それと……ホルターがどこまで領主科の勉強についてけるのか。
正直厳しい気がして仕方がない。
そして、その場合に泣きつく相手は……僕だろう。
つまり、かなり僕の負担が増えることが確実になる。
勘弁してくれよ?
僕は面倒見切れないからね?
というか本気でこのパターンでやるつもりなら、ホルターを領主科で学ばせるくらいでないと無理だろ?
そんな話をして昼食を皆で食べ、騎士関係者たちも参加して方針整理。
「で、マーニ兄。
参加メンバーはどうなったの?」
「想像通り、全員参加だ。
第八部隊も一人を除いて皆やる気の様だ。
そして、ラング伯が集めた面々は……十数名。
出所は護衛や傭兵のような輩を集めた様だ」
あぁ、強盗ギルド潰しちゃったから、犯罪者一歩手前の人は集まらなかったんだね。
「念の為、学園生っぽい人物はいなかったよね?」
「あぁ、そこは大丈夫だ」
よかった、努力――と言ってもスロムがやったことだけど――が報われたようだ。
なら安心して『葡萄踏み』できるね。
「次に、うちの四人とアゼル兄に付くメンバーは?」
「あぁ、スホルム対応した面々四名と副隊長が対応する。
アゼル兄には副隊長が対応。
他四人は……ティッキィ、顔見た記憶のある奴いるか?」
「こちらのお二人は見た記憶がある。
確かあの日にカリムとナットと一緒に商会に行ってたはずだ」
あぁ、ビーティ殿とメリッス殿か。
ならどちらか……。
「マーニ兄、ティッキィにはビーティ殿を付けてあげて。
メリッス殿のノリについて行けるかちょっと不安なので」
「ちょ、ニフェール殿!
不安ってなんすか!!」
僕の言ったことを理解できたのか、ティッキィにはビーティ殿を付けることになった。
「ティッキィはノリや勢いで仕事するタイプじゃないからなぁ。
落ち着いた性格の方が噛み合うんじゃないか?」
「そうだね、僕もそう思った」
なんかメリッス殿が拗ねてるけど、流石にあなたに「物静かな」とかの形容詞は使わんでしょ?
「あと、アムル。
お前は女性陣の近くにいて欲しい。
ただし、フィブリラ嬢と見つめ合うの禁止」
「あ……う……」
いや、そこ大事だからね?
「お前なら分かると思うが、女性陣の護衛なんだからそちらに集中してもらわないといけない。
イチャつきたいのは分かるが、仕事に集中しなさい。
仕事できること見せておいた方がいいだろ?」
「……うん」
「仕事終えたら二人で見つめ合う位なら許すから」
「はい!♪」
何と言うか、現金だなぁ。
他の大人たちもホノボノしてるし。
「ニフェール、優しいねぇ。
お兄ちゃんにもその位優しくして欲しいなぁ」
マーニ兄、アンタが言うなや!
「アムルはまだ十歳だからねぇ。
本来護衛の仕事させるのも申し訳ないってのに。
ご褒美なしは流石にキツいでしょ?」
「あ、いや……」
おい、弟の年齢忘れてたんかい!
「ホント十五歳に国の面倒背負わすし、もっと未成年に優しくして欲しいなぁ?」
「……すまん」
いや、マーニ兄だけじゃないけどね?
チラッと周りを見ると僕を知る大人たちは皆しょぼくれていた。
まぁ、あなたたちは反省できるだけマシだと思ってますよ?
言わないけどね。
「さて、後は……騎士団長、副団長。
僕は武器を持たずに閲兵場に入る訳ですが、お二人のどちらかに事前チェックをお願いしたいです。
それと、チェックしたことを相手に伝えて欲しい」
「リノル、頼む」
なんかあっさりと副団長にパスしたな?
まさか、部下たちからも頭脳は期待されてない?
「かしこまりました。
ニフェール殿、では後程私が対応しますので」
「よろしくお願いします。
これで大体事前準備は終わりかな?
「あと、マーニ兄。
これ、ペスメー殿に送って欲しい。
スホルムで頼まれた件の報告」
「対応って?」
「ホルターに彼女宛がってほしいっていう依頼があってね。
セリナ様とくっつけたから、実家にフォローしておいてって書いといた」
ねぇビーティ殿とメリッス殿……なにその物欲しそうな表情?
もしかして彼女欲しいの?
頑張ってご自分でお探しください!




