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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
8:後片付け
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「あんな感じでいいんだろ?」

「十分です。

 後は当日潰すのみですね」



 謁見の間を出て休憩室にスホルム関係者と両侯爵が集まる。

 ジャーヴィン侯爵と笑顔で成果を話し合い、予定通りに終えたことを喜ぶ。



「ぜってぇ、この会話おかしいと思うんだけど、俺おかしいのかな?」

「諦めなさい、カル。

 普段通りにおかしいだけなんだから気にしても無駄よ?」



 カル、ルーシー、正論で殴ってくるなよ。



「とりあえず、マーニ兄は他の騎士と一緒に陛下たちを守るんでいいんだよね?」

「あぁ、多分だがラクナ殿と俺で陛下の傍にいることになる」



 やっぱりそうか。

 なら……。



「カル、カリム、ナット。

 これにティッキィを加えて、当日四人で閲兵場の四方に散って欲しい。

 多分、ラング伯がやらかすとしたら見物客に暗殺者を紛れ込ませる位だと思う」



 なんか、ムッとしてるな……。

 自分たちこそプロだって言いたのかな?



「ただ、暗殺者は全員僕の側についているからラング伯が使うのは素人でしかない。

 なら、取り押さえるのはできるだろ?」



 全く、この程度で笑顔になって……滅茶苦茶表情に出てるぞ?



「なので、殺すのは可能な限りしないでおいて。

 それと、マーニ兄。

 第二部隊、かつスホルム対応した人を借りたい。

 具体的に言うと、うちの四人と組ませて欲しい」


「戦うだけなら四人で十分だろ?」



 いや、そりゃあねえ。

 当然、そこは自信ありますよ?



「そりゃそうだけど、ラング伯のような奴が『なんでここに平民がいるんだ?』とか言い出したら面倒でしょ?

 それと、捕まえた奴らの運び出すのはそっちでお願い」


「あぁ、そっちか。

 ……それぞれ一人ずつか?」


「他にもう一人お願いしたい。

 具体的に言うと、アゼル兄と一緒にいてもらおうかと」


「はぁ、俺ぇ?」



 アゼル兄、関係ないつもりだった?

 こき使わせていただきますよ?



「アゼル兄には陛下の向こう正面の辺りにいて欲しい。

 カールラ姉様と一緒にいていいから。

 そして、暗殺しようとしたら斬り捨てて。

 捕えてもいいけど、好みでお願い」


「そりゃ構わんが……マーニの部下はなんでだ?」


「死体運び、もしくは犯罪者受け取り担当」


「あぁ……」



 そんなことはアゼル兄がやることじゃないからねぇ。



「ロッティ姉様とラーミルさんとルーシー、そしてアムルは多分フィブリラ嬢と一緒にいるだろうから、陛下や大公様の傍に席を用意して頂けません?」


「大丈夫だろ。

 そこはこちらで割り振っておく」



 チアゼム侯爵、よろしく。

 大体、やることは決まったかな?



「そういや、ニフェールはどうやってケリ付けるつもりなんだ?」



 そう言われても、大したことはしないんだけどね。



「とりあえず作戦名は……『葡萄踏み』?」



 あ、ジーピン家の面々は何となくわかったみたい。

 両侯爵もかな?


 ねぇ、なぜそこで怯えたふりをするの?

 今更兄さんたちがそんな程度で反応するはずないじゃん。

 むしろ率先して一緒に踏みに行くでしょ?


 ねぇ、なぜそこでニヤニヤ笑うの?

 両侯爵たち、まさか女装して素足で踏んで来いとか言わないよね?

 変装しての侵入が主目的なんだから、わざわざあの姿を見せるのは無しですよ?


 分かってない面々、そのままでいてくれると嬉しいな。

 あまり知り過ぎると、そこにいる侯爵たちみたいに子供から呆れられちゃうよ?



「後は……事前にギルド側には連絡するという話だったけど、そっちは終わり?」

「あぁ、一応周知はしてもらった。

 それでも参加することを望むものは殺されても構わんという言質は取った」



 なら、後ヤバそうなのは学園位か?



「念の為、明日学園で声掛けはしておきます。

 とはいえ、教師側に連絡入れて同年代の騎士科に念の為声かける位かな?」


「先輩とか後輩の知り合いいないのか?」


「……(ジトッ)」

「あ……すまん」



 マーニ兄、そこで謝られると辛いんだけど。



 だって【狂犬】のあだ名がついた頃に「危険だから関わるな」って上級生たちには噂が流れているし。


 下級生には今の二年と三年で僕の事嫌いな奴らが真実をばらしてるからめっちゃビビられてるし。


 そこ、「真実なんだから諦めろ」なんて言わない!



「と、とりあえず、明後日戦闘を行うが、多分かなり貴族共が見物に来ると思う。

 今後ニフェールがマーニ並の危険人物とみなされるが、大丈夫だな?」


「そこはもう覚悟できてます。

 まぁ、弱いフリとかの似たような手口は使えませんけどね」


「それは仕方ない。

 情報を出した以上、警戒されるのはどうしようもないからなぁ。

 とはいえ、後は明後日、三つ目の裁判、そしてディーマス家対応位だろ?

 それ終われば王宮と関わることは無いだろうしな」



 それって、フラグじゃないの?


 僕の予想だと、今やっているリヴァ修道院対応に意味が出てきそうな気がしてるけど?


 ついでに、パァン先生が何仕込んでいるのか分からないからなぁ。


 ま、それでも少しは学園に行けそうだから深く悩んでも仕方ないか。



 その後解散となり、元々王宮組は仕事に戻り、アゼル兄と僕たちは王宮を出る。



「アゼル兄、確かカールラ姉様はお友達の調査だっけ?」

「ああ、昨日手紙送ってたから、早ければ今日にでも回答が来るはずだ。

 なんで、最速で明日顔合わせするつもりのようだ」



 ふむ……。



「一応僕も参加した方がいい?

 学園終了後って条件は付くけど」

「あぁ、頼めるか?

 というか、これからジャーヴィン侯爵家に来れるか?

 現時点での情報共有しとけばいい」



 お言葉に甘えて、皆で侯爵家に顔を出す。



「いらっしゃい。

 予定通りになったの?」

「ええ、期待通り明後日に僕対犯罪者共の形で戦うことになりました」


「あら、よかったじゃない。

 これでかなりの面倒事が消えるんじゃない?」



 カールラ姉様。

 言い方は軽いんだけど、言ってることって「やらかす奴ら処刑するから平和になるわね」ってことでしょ?

 いや、侯爵家令嬢としてはおかしくないのかもしれないけどさ。



「そうですね、文官の人たちも大喜びでしょうね。

 邪魔する奴らの親玉っぽい人物を消せるんですから。

 ちなみに、お友達の件どうです?」


「七割ほど返信届いているわ。

 このペースだと夕方までには全部返ってきそうね。

 なお、現時点で全員参加よ」



 すげぇ、人望ありまくりですね。

 僕じゃ絶対できない。



「一応、明日の放課後にここに顔出すよ。

 念の為確認だけど、お友達の実家の事を確認する?」


「え、そうじゃないの?

 ロッティの方はそうやったって聞いたけど?」



 もう一つあるんだよなぁ。



「ご結婚された方、もしくは婚約中の方はそのお相手の方もチェック対象だよ?

 どちらか一方がまともならいいんだけど、両方ダメな家ならば逃亡検討すべきかな。

 ロッティ姉様のお友達は実家だけが対象だったけどね」


「あ……」



 忘れてたね?



「あれ、そうなると……。

 婚約者無しの面々は実家だけをチェック。

 婚約者有りの面々は実家と婚約者の家。

 結婚済みの面々は実家と嫁ぎ先の家。

 こんなとこかしら?」



 大体合ってるかな……でも念の為指摘しておこうか。



「一応親戚もチェックした方がいいかも。

 直接の影響は無いと思いたいけど……今後苦労しないように事前に教えてあげたら?」

「……そうね、そこはやっとくべきね」



 そういう面倒なフォローを苦にせずやるから人望があるのかなぁ。

 僕も同じように……あ、まず怖がらせないことが難しいのか。

 難易度違い過ぎねぇか?



「んで、簡単なのは婚約者有り、かつ婚約者の家がアウト。

 それと結婚済みで実家がアウト。

 この二つのパターンは婚約者、もしくは実家を切ればいい」

「そうね、そっちは悩む必要はなさそうね」


「うん、で、結婚済みかつ嫁ぎ先がアウトの場合。

 これは離婚して実家に逃げる形になる。

 厄介なのが婚約者有りで実家アウト。

 この場合、婚約破棄されそう」



 婚約者側だって自分の家守りたいだろうしね。



「確かにそうね。

 あれ、他にもパターンあるわよね?」


「残りのパターンは婚約者無しの実家アウト。

 これはロッティ姉様のお友達のパターン。

 そして実家と婚約者、もしくは実家と嫁ぎ先の両方アウト。

 これはもう逃走する位しか言えないから……」


「あぁ、最悪のパターンって訳ね。

 これはキッツいかなぁ……」



 そんなに?



「声かけた面々で実家がアウトな所って多いの?」


「いえ、三つの家だけよ。

 ただ、学園卒業後の動向を知らない子なのよね。

 運よく良い家に嫁いでいればいいのだけれど……」



 あぁ、そこはもう祈るしかないもんね。



「取り合えず明日はそのあたり事前に話しておくわ。

 そして、ニフェールちゃんが帰ってきたらそこで方針決めましょうか」

「そうね。

 とはいえ、明後日処分される人物の関係者だと間に合うか……」



 不安に思う気持ちは分かります。

 でも、出来ることとできないことがあるから……。



「そこは何もできません。

 全て思い通りに行くなんて神しか無理でしょ?

 いくら【魔王】や【死神】が味方でもできないこともあります。

 僕らにできることなんて、少しでもこちらに都合よい状態になる確率を上昇させるよう努力することしかできませんよ」



 むしろ、全て思い通りに行くのならスホルム遠征しないで……って、あれ?

 あ、いや、パフパフ体験できたから遠征自体はプラス?


 ……この件で悩むのはやめておこう。

 個人の欲望駄々洩れになっちゃう。



「それに近いことできる人なんて、サプル様くらいじゃないです?」

「へ、なんで?」


「うちの両親ネタにして作家やってるじゃないですか。

 あの作品内なら神紛いの事できるでしょ?」




 ブ フ ォ ッ !




 カールラ姉様の笑いは取れた様だ。

 ちょっとアゼル兄に見せられない顔になっているのは……アゼル兄、気づいてないな、よし!



「あぁ、母上がこんなネタになるとはねぇ。

 まぁ、確かに物語じゃない限り無理ってものよね。

 ありがと、ニフェールちゃん♪」



 思いつめないでくれてよかったですよ。



「ちなみに明日ってアムルたちどうするの?」

「特に予定は決まってないわよ?」


「ならフィブリラ嬢連れてきて、様子見させたら?

 明日来るお姉さま方がアムルに手を出さないのが条件だけど」



 ものすごい表情でウンウン悩み始めた。

 そこまで?!

 まぁ、結婚式の状況を見たら悩むのも分からなくもないけれどさ。



「様子見の理由は私たちのやり取りを見せるってことかしら?」

「そうですね。

 あの子はどうあがいても同年代で一番立場的に上になるでしょう」



 大公家より上って王家しかないからねぇ。

 確かフィブリラ嬢やアムルの年の子はいないはずだし。



「なら、少しばかり経験させてみては?

 と言ってもカールラ姉様の対応を見る位しかできないでしょうけど」


「……学園で私が苦労した各派の調整、その一端を見てもらうってこと?」



 姉様なら分かると思ってましたよ。



「そうそう、言葉で言っても分からない部分もあるでしょうしね。

 大公家でも教えづらい部分だと思うけど、体験済みの姉様なら下手な説明よりも有効だと思うけどな」

「確かに……」



「それに……ほぼ確定でアムルの婚約者になるだろうから、姉様の義妹になるでしょ?

 デキるお姉さんとして色々教えてあげたら?

 まぁ、既に手を打ってそうな気がするけど」




 ビ ク ッ !




 おや、当たりですか?



「……どうしてわかったの?」


「分かったというより、僕なら味方につける為に色々フィブリラ嬢に教えるでしょうね。

 多分ラーミルさんも似たようなことしそう。

 そして、カールラ姉様がそこに気づかないはずがないし。

 なら僕がやりそうなことを言えば、姉様の方針に重なるかなって」



 ロッティ姉様は策を巡らすタイプじゃないから除外。



「ふぅん……なら私が打っている策って何かしら?」



 お?

 試そうとしてますね?

 何と言うか、お父上に似ているイヤラシイ笑顔ですよ?



「領地でのアムルの情報を手紙に書き、アムル自身の手紙に合わせて送るようにしたとか?

 フィブリラ嬢からすれば、アムルにかなり近い女性の協力だから大喜びでしょうし、あちらも義理の姉になる人物と仲良くなるのを(いと)う理由はないかな」



 あの……答えた結果が呆れ顔って勘弁してほしいんですけど?

 結構凹むんで。



「いや、大体合ってるわ。

 むしろよくわかったと驚いているのよ?

 ちなみに補足で、フィブリラちゃんはかなり頭が良いわ。

 未来はラーミル並みになるかもしれない。

 でも、過剰な人見知りが邪魔をしているの」



 あぁ、父親である大公様もあまり会話できないとか言ってたな。

 僕がまともに意思疎通できるのにとても驚いていたっけ。



「なので、直接会うのは難しいけど手紙ならお話しやすいかと思ってね」

「確かに……人見知りは忘れてたなぁ」


「そりゃ、ニフェールちゃんは数少ない普通に話せる人物だもの。

 ピンとこなかったのは分かるわ。

 私だって思いつくのに少し時間かかったもの」



 いや、少しで済む時点で凄いと思うんですけどね。



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