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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
8:後片付け
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50

 ピロヘースの婆さんたちを退出させ、次の面々を呼び出す。



「さて、次の議題だが……第四部隊隊長トム・アジソン、第六部隊隊長ダイ・レディック。

 そなたら二人は王都南西部の制圧を指示されていた。

 だがなぜか途中で動きを止め、暴動者たちと見合う形になっていたと聞いている。

 その理由を説明しなさい」



 二人で顔を見合わせ、第四の方が説明担当となった様だ。



「まず、我らは中央通りが戦闘中でしたので、迂回して北西部経由で南西部に向かいました。

 到着後、敵を探索し一団を発見、対応するため陣地構築を行っております。

 その後作戦会議をしていた所に騎士団長が我らの陣地に到着。

 三名で会議の続きをしておりましたところニフェール殿が到着。

 新たな情報を頂き、南西部の制圧に乗り出しております」



 いやいや、遅すぎね?

 というか、南東部と比較しても無駄に陣地を作っていたけど、王都でそんなの作る位ならサッサと制圧しろよ。



「多分、ニフェール殿の方で『我々が暴動起こした者たちとお見合いしていた!』と言い出したとだろうと想定してます。

 どうも、彼は騎士の戦い方をまだご存じないようですな」



 ほぅ……つまり僕が悪いと?

 僕に文句言える位に口が回ると?


 チラッと宰相殿を見ると、頭を抱え呆れつつ手を振っている。

 それ、「やれ、やってしまえ」ってことかな?

 両侯爵も同じように手を振っているから多分そうなのだろう。



「失礼、アジソン隊長。

 まず確認なのですが、なぜ陣地構築を行ったのでしょう?

 他部隊を見た限り、第五が天幕を用意していたくらいで、第一・第二はそんなの用意してないのですが?」


「ふむ、君はとても強いようだが、守るのは苦手かな?」



 は?

 何言ってんの?



「あなたの『守る』は民を守ることでしょうか?

 であれば十分守っているかと思いますよ?

 最低でも、あなた方がのんきに陣地構築している時間に中央通りと娼館街、そして学園前の犯罪者たちを潰してますが?」



 これで僕が守ってないなんて抜かすのなら、お前ら何守ったんだと聞くが?



「あ……いや、そういう意味ではなくてだな。

 我らは自分たちの守りを固めてから動くようにしているのだよ」



 そんなの戦い方の好みの問題だろうに。



「なら、当然周辺の状況を確認したうえで、あの場所が最善と判断したんですね?」



 あんな戦略的に価値のない場所が最善なんだ?



「と、当然じゃないか」

「ほぅ、あの場所を学園より重要な地点と判断した理由をお教えいただきたいですね」

「え……」



 いや、自分で言ったんですよ?



「当然ですよね?

 あの当時、学園が襲撃されているのにのんきにお見合いしてましたね。

 それも相手の正面にわざわざ陣取って。

 学園の方は放置して」

「あ……」



「個人的にはまず学園に向かいさっさと救出、そして学園自体を本部として周辺地域の確認を行えばよかったのでは?

 陣地構築の時間が無駄だと思いますよ?」


 というか、その位考え付かないの?

 隊長レベルが二人もいて?



「あなた方がいた辺りって別に戦略的に重要な地点じゃないですよね?

 相手が見つかったので、その正面に陣地を作ったってだけなんじゃない?」

「う、うむ……」


「そして、その間相手は何してたの?」

「いや、特に動こうとはしなかったが……」



 おい、あの時も言ったよな?

 それってどう考えても時間稼ぎだって。



「確かあの日にも申し上げましたが、なぜ相手の時間稼ぎに付き合うのでしょう?

 あの辺りで犯罪者共がいてもどこを襲うのですか?

 今回商会が多数狙われていたようですが、あの辺りに目立つ商会なんて無いでしょ?

 その時点で別の狙いがあるとは思わなかったんですか?」



 ……ねぇ、二人して無言でモジモジしても困るんだけど?



「お二人にお聞きしますが、南西部で国にとっての重要地点ってどこです?」

「……学園だ」



 なんでそれ言えるのに……。



「それ分かってるのならなぜ最優先で確保しないんです?

 あなた方の戦い方が陣地に作り戦うのは、趣味の問題ですので口出しません。

 ですが、あなた方が南西部に向かった目的は何です?

 民を守ることが目的であって、陣地構築する事では無いのですよ?」



 目的と手段をはき違えているって奴ですね。



「目的を達するために、別手段を検討することもあるでしょう?

 手段を正当化するために目的を変更してどうするんですか!」

「いや、その……」


「それに、まずやることって情報収集じゃないんです?

 学園の辺りに斥候放ったんですか?」



 これ、答え次第ではかなりまずい内容だからな?

 注意して答えろよ?



「いや、君が来た時点でまだ何もしていない」


「それでどうやって南西部の鎮圧を行うつもりだったんですか?

 敵の場所もちゃんと把握してないのに?

 それも最重要施設無視して?」



 こんなんで隊長になれるの?

 カルとかカリムとかティッキィとかすぐに隊長になりそう。



「それと、南西部に移動したルートってどこです?」

「は?

 中央通りは通れぬから北西部を通り、西部の貴族街を通って(・・・・・・・・・・)南西部に入ったが?」



「え?」



 嘘だろ?

 貴族街通ったの?



「貴族街の大きな通り?」

「そうだ、小路を通るより部隊移動しやすいからな」


「南西部に入るまで?」

「その通りだが、何を言いたい?」



 え、本気で気づいてないの?

 それとも誤魔化していたの忘れちゃったの?



「西部の貴族街の大通りをまっすぐ行くと学園の正門に到着しますが?

 というか、大通りから学園正門前は十分見えますよ?」

「あっ……」



 ……おい。



「学園で聞いた感じだと暴動開始当初から襲われていた。

 つまり、あなた方は学園が襲撃されていたのを見ている。

 そしてその上で別の所に逃げたんだな?!」



 この場にいる全員が一斉に騒ぎ出した。

 そりゃそうだろ、騎士が逃亡して学園生を危険に晒す。


 騎士の存在価値が地の底に落ちてしまった。

 どころか、こんなんで騎士になりたがる奴が出てくると思えないんだけど?



 そんなこと思っていたら、ガルブ団長が硬い表情をして問いかけて来た。



「トム、ダイ。

 わしが現地に行って話を聞いたときに聞いた話と違うな?

 確か、あの時は目の前の敵を対応してから周囲を調べると言っていたが?」


「え、ガルブ団長への虚偽報告もしてるの?

 第五の隊長と同じタイプ?」


「そう言うことなんだろうな……。

 どこまで国を、騎士団を侮辱するのやら」



 呆れる団長に言い訳をしようと口を開け閉めするが、言葉にならないようだ。

 まぁ、すぐにこの事態を誤魔化す言葉が思いつかないのだろう。



「両隊長殿、あなた方は学園の生徒たちの存在はどうでもよかったと?」


「い、いや、そんなつもりではない!

 信じてくれ!!」


「ではなぜ、学園前に犯罪者がいたのにそちらに向かわなかったのですか?」

「……敵が多かったから、そのまま戦うのは無謀と判断した」



 は?

 敵が多い?



「あなたが多いと思った敵の人数は何名くらいでした?」

「五十名くらい……」


「第四・第六合わせた騎士の数はそれより多いですよね?」

「……」


「ついでに騎士の方に視線が向く状態にして学園騎士科の者たちに後ろから襲ってもらえば簡単に倒せませんか?」

「……あっ!」



 その位気づけよ!!



「え~、なにこれ、ないわ~。

 こんなので学園の生徒を危険に晒していたの?」

「危険って、そんな危険じゃないだろ!!」



 え?

 えっと、ダイ殿でしたか?

 第六の隊長ですね。



「あなたの言う『危険じゃない』とはどういうことでしょうか?」

「壁や門が学園を守っているじゃないか!

 門から槍で突くだけで追い払えるだろ?!」



 ……本気かよ、こいつら。



「まず、本当にそれだけでどうにかなる程度ならあなた方が突撃すればあっさり勝てるでしょうに」

「……」



 だからなぜそこで視線を逸らす?!



「それと、僕の言った危険は命の危険だけではありませんよ?」

「は?

 命以外に危険?

 何を言ってるんだ?」



 本気で気づいてないの?

 もしかしてカバル先生並?


 そんな程度の低い人物が騎士隊長?

 ダメじゃん!!



「学園の壁は登ろうと思えば登れます。

 つまり、一部は門のところで騒ぎ、別部隊が肩車などで壁を越えたら?

 後は犯罪者のやりたい放題でしょ?」


「え、あ、いや、そんなこと……」


「普通に起こるでしょうね。

 で、この場合別の危険が出てきます。

 何か分かりますか?」



 全く分からないのか、首を横に振る二人。

 ったく、なんでこういう所理解できないかな……。




「淑女科女性陣とか女性教師が強姦される可能性って考えました?」




 再び、一斉に騒ぎ出す貴族たち。



 そりゃあなぁ、自分の娘が非処女となって泣いて帰ってきたらブチギレるだろう。

 世を儚む可能性だってあるのに。



「き、貴様、何てこと言い出すんだ!!」


「むしろ、犯罪者が侵入してそういうことされないとなぜ思ったのです?

 相手は紳士じゃないんですよ?

 欲望に(まみ)れた獣ですよ?

 この位やらかすという想定をして動かない方がおかしいのでは?

 ついでに言うと、婦女子だけじゃないですよ?

 男子学生も事によっては……」



 あちらこちらから「そうだ!」「その通り!!」とヤジを飛ばす者も出てきた。

 多分、娘(一部は息子)が学園生なんだろうな。



 学園卒業時に非処女とか後方拡張済みとか親としては絶対嫌だろう。

 まぁ、当人たちもほぼ全員嫌がるだろうが。

 一部は知らんぞ?

 具体的に言うと騎士科で僕を狙っている輩。



 ああ、でもこれどうしよう。

 学園生徒を子に持つ親がこの場にいる。

 当然、家でこの話が出るだろう。


 となると、どう判断するか。

 騎士に対しての不安は確実だろうな。



 それと、騎士科生徒は進路に悩みだす可能性があるな。

 このクズとしか言いようのない騎士共と同じ立場になることに嫌悪感を持たれたら……騎士になろうと思わないだろうな。

 もしくは、実力が低すぎる生徒が騎士になろうとするかもしれない。

「こんな奴でも騎士隊長になれるんだから俺でも入れるだろ」って感じかな。



 これ両侯爵気づいて……いるようだな。

 騎士団長は……あ、ごめん、難しかったか。

 ジャーヴィン侯爵、そっちは後お願いね。



「で、お二方、今言った場合の対応はどうするおつもりでしたか?

 まさか、何が起こっても知らぬ存ぜぬで済ますおつもりで?」


「い、いや、そんなことは無い!

 無いが……」



 そんなことは無いけど考えてもいなかったってことね。



「そういうことも考えなければいけないんでしょ?

 隊長職にいる位だし。

 それなのに趣味の陣地構築に耽溺し、助けるつもり皆無?

 となれば国から罰せられて当然でしょうに」



 落ち込むお二人。

 というか、自業自得でしょうに。


 ただ、こいつらの副隊長は止めなかったのか?

 まさか賛同したとか?



「宰相殿、この二人の副隊長って今日来てます?

 その人たちにも聞きたいんですが?」

「ああ、しばし待て」



 そう言って、副隊長を呼んだ。



「突然すみません。

 お二人に質問です。

 隊長の指示内容について、お二人は特に反対しなかったのですか?」


「反対しましたよ?

 ですが、隊長の立場を使われては幾ら意見を述べても聞いてもらえませんし」


「そうですね、最低でもこちらの意見を聞いていただければ先に学園の制圧してたのですが……」



 ……何だろう、こいつら嘘ついている感じしかしない。

 微妙なニヤつきとか、



「嘘を付け!!

 貴様らも我らと同じように学園を後回しにすることに賛成しただろうが!」


「そうだ!

 今更その事を誤魔化せると思うなよ!!」



 そう言って四名で言い合いになってしまった。

 本当にお話にならんぞ、これ?


 事態の収拾がつかないので、どうにかできないか考えるが、現場を見ていない以上何も言えないな。

 ん~、こいつらが何て言ったのか確認取れればいいんだよな?



「マーニ兄、第四・第六部隊の人ってどの人?

 あそこの四人以外で」

「あぁ、こいつらだ。

 すまんが、手を貸してやってくれ」



 ざっと見てみると……いたぁ!



 あの時、門番していた声が低くて渋い人!

 なぜか揉み手状態だとキャピった高音ボイスになる人!!



「ニフェール、顔がヤバいから落ち着け。

 多分、都合の良い人物見つけたんだろうけど、その顔はマズい!」



 マーニ兄、そのツッコミもちょっとマズいのでは?



「……どのくらいヤバい?」

「アムルを見つけた時の、とある女性陣位」



 カールラ姉様とロッティ姉様か!

 確かに、それはマズいな!


 少し心を落ち着かせてから改めて門番していた方に声をかける。



「すいません、そこのあなた。

 あちらの隊長・副隊長たちの言い分は聞きましたね?

 彼らのどの発言が正しいかお教えください」


「……四人とも学園後回しを選んでいた。

 なので、隊長たちの言い分が正しい」



 おお、やっぱり渋い声……って内容の方が重要だ。

 やっぱり全員学園を捨ててたか。



「き、貴様!!」


「何を騒ぐのです?

 俺たちは国から報酬を貰ってるんですよ?

 金払う側に正しいこと伝えて何が悪いんです?」


「っ……」



 まぁ、金払っている国の代表である陛下の前で「なぜ嘘つかなかった!」とは言えないわな。


 ほぼ答えも出たし、後は僕いらないよね?



「宰相殿、後任せていいです?」


「あぁ、十分精神的にボコったようだし、後はこちらの領分だ。

 四人とも、ロイドやドルと同じく後で纏めて処分を言い渡す。

 とりあえずは下がれ」


 ふぅ、これで二つ目終わり。

 となると次はメインディッシュか?



 

【アジソン家:王家派武官貴族:男爵家】

  トム・アジソン:騎士団第四部隊隊長、男爵家次男

  → 慢性原発性副腎皮質機能低下症の報告者トーマス・アジソンから

  

【レディック家:王家派武官貴族:男爵家】

  ダイ・レディック:騎士団第六部隊隊長、男爵家当主

  → 利尿薬から


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