45
「ではこれらを踏まえて……明後日裁判でどうだ?
そしてその二日後くらいに処刑の方向で」
それなら余裕あるし大丈夫かな?
「ついでに、ジーピン家の面々、明日チアゼム家に集合。
そこでお前らの懸念点について話す」
……『砕拳女子』のことかな?
「了解。
アゼル兄、大丈夫?」
「あぁ、そちらは問題なしだ。
フィブリラ嬢、ちゃんと話を聞けるのなら参加するか?」
「是非ッ!」
フィブリラ嬢、勢い付きすぎ。
「では明日午前中にチアゼム家に集合ということで」
あぁ、学園の方に明後日まで休むこと伝えとかないとなぁ。
会議も終わり、ジーピン家でお喋りしていると――
「ニフェール、今日はこれからどうするんだ?」
――アゼル兄から声かけられるが……現時点で夕方か。
学園行って明日以降の休みの調整は無理だな。
「特に予定無いけど?」
「久しぶりに兄弟&妻達含めて一緒に食事しないか?
カル達も参加して構わん。
こちらもマギーを参加させるつもりだがな」
……アリかな。
「カル、先に娼館ギルドに連絡してきてくれ。
それ終わり次第皆で飯としようか。
それとカリム、チアゼム侯爵家に行ってジーピン家一同と夕食取ってから帰るって伝えて欲しい。
二人とも、王宮前のカフェテラスって分かるか?」
「……入ったことはないが、中央通り沿いの高そうなとこか?」
「ナットに誘われたけど金銭面的に無理だったとこですね」
そうそう。
いつか行ってみようかと思ったけど……僕も予算の都合上無理だったとこ。
「そこなら大体分かる。
そこで待ち合わせして飯に行くってことだな?」
そのまま二人とも駆け足で連絡しに行った。
「さて、移動してカル達を待つか」
「だね、ちなみに夕食ってどこで食べるの?」
「カールラが見つけてくれたとこだ。
予約取ったわけでは無いけど、多分入れるだろう。
内臓を煮込んだ料理がうまいらしいぞ」
え、カールラ姉様が見つけるタイプの店じゃないんじゃない?
「ちなみに教えてくれたのはシェルーニ様らしい」
ジャーヴィン侯爵家嫡男様じゃないですか!!
「なんでも、仕事場の同僚に連れて行ってもらって感動したとか」
いいのか嫡男様?!
そんな庶民の食事に惹かれて大丈夫か?
いや、庶民からしたら下手に貴族しか見ない奴よりかは信用できるとは思うけど。
「ニフェールちゃん、シェルーニって穴場の食事処を探求するのが趣味なのよ。
なので、知っている人たちからすればおかしなことでは無いわ」
「はぁ……そんなご趣味があるとは知りませんでした」
いや、いい趣味だとは思うんですけどね。
次期侯爵がやるんだという驚きもありますが。
カフェテラスに到着。
皆でお茶をして楽しんでいると、カリムが戻ってきた。
「あの……ニフェール様、ピロヘース様からカル宛に手紙が届いてました」
「え?
いつ頃届いたって言ってた?」
「夕方、話の感じからすると会議の終わり際位のようですね」
あぁ、それはどうしようもないなぁ。
「呼び出しかなぁ?
とりあえず見てみるか」
手紙を見てみると……え?
もう来たの?
「皆、回し読みして。
アゼル兄、もしかすると一人追加になるかも」
「……それは構わんが、誰だ?」
「スホルム対応で会った人物、ティッキィって呼んでる」
「え゛?
本当なの?
ディーマス領に戻って、向こうの住居片付けてこっちに来るって言っても早くない?」
ルーシー、落ち着け。
「スホルムで別れてから二十日は経ってるから、馬車を使わなければ十分あり得る。
馬車を使ったとしてもギリギリ到着する位じゃないか?」
つまり、スホルムからディーマス領に馬を駆って三日程度。
その後仮に二週間程度で王都に到着するとして荷を纏めるのに三日あれば可能だろう。
ただ、確かアイツって読書家だったよな?
どれだけ本を持って来たんだ?
流石に馬車一台全て本とか言わないだろうが、かなり無茶なことしてないか?
「となると、カルがピロヘースに会ったときに来てるぞと言われるんだな。
で、困惑しつつ連れてくると」
「確実にそうでしょうね。
嬉しい気持ちとこのタイミングという驚きで混乱しているわ……」
だろうねルーシー、僕も混乱しているよ。
「そういや、マギーのおっちゃんはここに来るの?」
「あぁ、もう少ししたらここで合流するように伝えてある」
あ、事前に調整しておいたのね。
「おっちゃん、本気で驚くだろうなぁ……」
「驚かないはずがないもんなぁ……」
マーニ兄と一緒に憐れむ僕。
まぁ、おっちゃんには何とか受け入れてもらおう。
そんな話をしていると、ロッティ姉様が誰かを見つけた様だ。
「あら、あれ、マギーじゃない?
何人か一緒にいるわね、なんというか名状しがたい顔してるけど」
指差した方角には……うっわぁ、三人揃い踏みじゃねえか。
カル、なんだその萎れっぷりは?!
おっちゃん、困惑とか呆れとか色々混ざってるね。
ティッキィ、反応に困っているのは分かるけどどうしようもないよ、これ。
「お帰り、カル。
おっちゃん、ご苦労さん。
そして、ティッキィ、王都にようこそ」
「ニフェールぼっちゃん、これ何なんですか?!」
「簡単に言うと、偶然が悪戯してきた」
「はぁ?!」
いや、そういうしかないんだよ、本当に。
「まず、カル。
僕たちが会議終わった頃位に侯爵家に手紙が届いたそうだ。
ティッキィの到着の連絡だった」
「成程なぁ、だからあのババアが『早いねぇ』とか言ったのか」
あぁ、あちらからすれば連絡後すぐに来たと思ったんだね。
「多分、そうだね。
で、おっちゃん。
ティッキィが来たのはスホルムってとこで出会ったときにウチに来ないか交渉したからだよ。
いつ来るのかは知らなかったら僕も驚いているんだ」
「あんまり驚かさないでくだせぇ。
こっちゃあ気が小さいんですから」
前暗殺者ギルドの長がそんなこと言わないの。
「それとティッキィ。
うちに来てくれるってことでいいんだよね?」
「あぁ、これからよろしく頼む」
来てくれてありがたいですよ。
特にカルの尻叩き、期待してます。
「んで、話の前に自己紹介からかな。
アゼル兄からお願い」
ということでジーピン家四兄弟&その妻と婚約者たち。
そしてカル達の紹介となったが……。
「何と言うか、無茶苦茶だな……。
侯爵家のご令嬢を妻としたのが長男で、騎士団の部隊長やっているのが次男。
三男がカル達率いていて、末っ子が大公家ご息女と仲良し。
色々な書物を見たものとしてもここまでのは無かったな」
「『事実は小説よりも奇なり』だっけ?
実際言われるとその通りとしか言えないけど」
そんな話をしていると、カールラ姉様が移動を提案してきたので皆でお勧めの食事処に向かう。
食事の内容は……予想以上に美味しかった。
内臓の煮込みなんて大したことないと思っていたあの頃の僕を殴りたいくらいに。
うちの欠食児童どもがモンスター化したほどだった。
いや、僕やラーミルさんもその中に入るんだけどね。
「本当によくこの店見つけましたね。
ここまで美味しいのは初めてです」
「兄の趣味は知らない人からは呆れられるけど、恩恵を受ける側としては凄まじい位にありがたいのよね。
学園生時代に友人たちと食べ歩きするときに有効活用したわぁ」
あぁ、甘味方面も押さえているのですね。
何と素晴らしい!
「さて、ちょっとティッキィに確認だ。
王都に来たときは馬かな、それとも馬車借りた?」
「ん、馬だぞ?
……あぁ、本は繰り返し読みたい本を選別して、残りはディーマス領の古本屋に売ってきた」
「成程、なら引越しも早く終わらせられる訳だ」
ちゃんと断捨離できるのって大事だよね。
本好きだといつまでも残した挙句生活する場所が無くなるし。
「で、今日はすまないが宿に泊まって欲しい。
というのも、ティッキィが今日来るとは思っていなかったので正直この後チアゼム侯爵におねだりするつもりなんだ。
それと、スホルムから帰ってから王都でも色々とあって、事情が変化している」
「宿泊の件は了解した。
だが……変化とは?」
「まず、噂を聞いたかもしれないけど、僕らが王都に戻った日に暴動が起きた。
その時の主犯たちを今日公開処刑したんだ」
ティッキィ、あまり口をポカンと開けないで。
「で、現状詐欺師と強盗の各ギルドが壊滅している。
そして、娼館ギルドに僕の事がバレた」
「おいおい、本当かよ」
事実なんだよなぁ。
「そんなわけで、無理に急いで暗殺者ギルドの窓口を作る必要が無くなった。
なので、カル達と一緒に侍従の訓練をして欲しいんだ」
「ふむ、それは構わんが、むしろそれだけでいいのか?」
「いや、ちゃんとやることはあるよ?
というか、厄介事が幾つも僕を待っているんだ。
一つづつ潰すけど、その時はティッキィの戦闘能力も必要になる可能性はある」
沈思黙考し始めるティッキィ。
「この後どんなことが待っているのかは後日一通り話すけど、今はここまで。
で、明日朝食後にカルを宿に向かわせるから、一緒にチアゼム侯爵家に来て欲しい。
そして、明日のジーピン家が関係する打ち合わせの際に顔出しして欲しい。
相手はジャーヴィン、チアゼム両侯爵夫妻」
「ちょ、ちょっと待て!
それは……」
「勘違いしているようだけど、ティッキィに求めるのは挨拶位だぞ?
どちらの侯爵も僕と接点多いから顔見せておいて損はない。
第一、メッセンジャーを頼む可能性もあるからね」
少し悩んでいたようだが、頷いてくれた。
やっぱり不安なのかなぁ。
「ティッキィさん、一応先人として言っておきます。
早めに諦めること、早めに受け入れること。
ニフェール様と接点を持つ場合、この二つは結構大事です」
「……お前がそこまで言うとはなぁ。
でも、事実なのだろう。
まぁ、覚悟はしておこう」
カル、お前言い過ぎ。
人を何だと思っているんだ。
「カル、そんなひどいこと言わないでくれよ。
ティッキィにはとても期待しているんだからさ」
「おいおい、あまり負担を掛けるのは止めてくれよ?!
どんな期待掛けてんだよ!」
「お前とルーシーをくっつけるための尻叩き」
「「「あ……」」」
その場にいた全員が納得してしまった。
「やっぱり苦労しているのか?」
「実は、ルーシーからの報告で、今日の公開処刑後にカルからキスしたと報告があったんだ。
それで喜ぶくらいには一歩一歩が遅すぎて……」
ティッキィの冷たい視線がカルに突き刺さる。
カル、何ビビってんだ?
スホルムでもボコボコに言われてただろうに。
「あぁ、最悪の事態になっちまった……」
「さっさとルーシーとくっつけば、ティッキィを巻き込む必要無かったんだが?」
「いや、そりゃそうだろうけどさ……」
カル、そこまでへタレっぷり全開しなくていいぞ?
「ニフェール殿、とりあえず事態は理解した。
全面的に協力しよう」
「ありがとう、かなり助かるよ……」
互いに目と目で通じ合ってしまう僕とティッキィ。
これからもこの件で二人で頭抱えるんだろうな……。
食事を終え、カルはティッキィの宿を確認するために一緒に向かう。
僕らは大公家、ジャーヴィン侯爵家、チアゼム侯爵家の流れで帰宅の途に着く。
予想通りではあるが、大公家前でアムルとフィブリラ嬢が別れがたく……。
「はいはい、二人とも。
まだ明日も会うでしょ?」
「いや、そうなんですけど……」
「離れずらいというか……」
「今日、裁判時にあれだけ見つめ合っていたくせに何言ってんだか」
そこで二人で恥ずかしがるな!
「というか、あの時なんで暴走したんだ?」
「チアゼム侯爵が王都民に事情を説明している間、暇になっちゃって……。
気づいたら二人で見つめ合ってました」
つまり、僕たちの戦闘を全く見てないってことだね。
というか、早すぎねえか?
「アムル、別に俺たちの戦いを見ておけなんていう気はない。
どうせ、アイツらに負けるはずがないんだからな。
だが、王都を戦いの場とした犯罪者共の裁判だ。
貴族としてちゃんと見ておくべきだったぞ?」
アゼル兄の淡々とした指摘にシュンとするアムル。
言ってることは正しいんだけど、やる気を引き出すにはちょっとなぁ。
仕方ない、説得するか。
「フィブリラ嬢と一緒になりたいのなら、そういう政治的なことも理解しないとなぁ。
大公様がおバカな脳筋を娘の婿にしたがるとは思えないんだがなぁ」
「(ハッ!)」
気づいたかな?
大公様に認められないとフィブリラ嬢と一緒になれないんだぞ?
「別に大公様に媚びろなんて言わない。
でも、戦闘以外の方でも一人の貴族としてやっていけるだけの実力があること見せないとな」
「(コクッ)」
「武も知もどちらも実力あると見せつけると相手のご家族は反論し辛くなる。
加えて、他の女性に手を出さない、自分の彼女を全力で守る。
この二つがご家族に分かってもらえると、むしろ味方になってくれるぞ。
いい例が僕」
アムルの目がキラキラしている。
僕の場合、ベル兄様も堕ちている感じだし、彼女予定のティアーニ先生もどう考えてもこちら側。
確実に有利な状況を作ったからなぁ。
アゼル兄、マーニ兄、呆れないで。
いいじゃない、ちょっと成功例教えただけだし。
あなたたちだって騎士科のバカ共ぶちのめすという近い行動とったでしょ?
アムルは大丈夫そうかな?
フィブリラ嬢は……カールラ姉様が指導しているな。
なら、アッチは大丈夫だろう。




