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コンコンッ
「失礼します。
そろそろお時間ですので、簡易法廷の方へどうぞ」
あれ?
ビーティ殿?
「おや、ニフェール殿。
そっか、ジーピン家大集合だからこの件にも参加するんだっけ?」
「ええ。
というか、皆集めてやらかそうという提案が僕なんで」
「……変わらないねぇ、その作戦立案能力」
そんなこと無いですよ、ただの嫌がらせを形にしただけですし。
「ちなみに、火炙りの時は俺が対応しますんで。
話だとカル殿とルーシー殿が……ルーシー殿ってこれ?」
これって言うなよ……。
当人めっちゃ恥ずかしがってるんだから。
「変装したルーシーですよ?
ザイディのセッティングはお任せしますんで、カルとルーシーに火のついた松明を渡してください。
そしたらこの二人の方で焼きますんで。
あ、それと焼く前にこいつらが少しザイディと喋りますが、気にしないで頂けると助かります」
「かしこまりました。
ではこちらにどうぞ」
ビーティ殿に連れられて王宮の外に出て、柵に囲まれた簡易法廷に向かう。
「この辺りで皆さんお待ちください」
騎士たちが集まってますね。
あれ、メリッス殿もいますね?
ちゃんと仕事してるようですし、邪魔はしないでおきましょうか。
「ビーティ殿、あなたは火炙りまでやること無し?」
「え、ええ、まぁそうですが」
あ、別に暇だとか言いたい訳じゃないですよ?
「であれば、カル、ルーシー。
二人は以降ビーティ殿と一緒に行動して。
でも火をつけること以外は何もしなくていい。
下手に行動してぎこちなさでバレるのは避けたい」
「あぁ、そちらは誤魔化しておく。
んじゃ、仕事終わったらさっきの部屋に行けばいいか?」
「そうだね。
各自終わったらあそこで落ち合うということで」
カルとルーシーはそのままビーティ殿について行った。
「ラーミルさん、アムル、フィブリラ嬢はここで大人しく見学願います。
カリム、ナットは表向き三人の護衛をお願い」
「表向き?」
「アムル一人で十分護衛できるんだが?」
「あ……」
ジーピン家の強さを忘れたか?
それともうちに慣れ過ぎたか?
「とはいえ、周辺の監視とか手が回らないだろうから、その辺りを二人にお願いしたい」
「りょうか~い」
「かしこまりました」
これで、後は僕たちですね。
「俺たちはこのまま待ちか?」
「だね。
まぁ出番はもう少し先だし、のんびりしてよう?」
「そうだな、慌てても仕方ない」
五人で軽くお喋りしていると、王都民が結構集まってきた。
ぱっと見、知っている顔も見えるな。
娼館ギルドの【妖魔】ピロヘース婆さんとトレマ殿とシフィル嬢。
商業ギルドのリシアシス。
生産ギルドのシロス。
商業と生産はザイディの処刑見物だろうけど、ピロヘース婆さん、いいのかい?
以前言ってたよね?
眠れなくなっちゃうよ?
ついでに学園生たちもやってきた。
フェーリオ、ジル嬢連れてくるのはダメとは言わんけど、デートするにはちょっと血なまぐさすぎやしねえか?
なぜに最前列なんだよ?!
まさか、カールラ姉様を見に来たのか?
後で殴られるの想像できないのか?
ホルター、お前もなぜセリナ様連れて来る?
最近の若者は血を見たがってるのか?
それに、他のクラスメートにバレていいのか?
明日質問攻めにあっても知らんぞ?
いや、僕も最近の若者だけどさぁ?
もう少しデートの場所考えた方がいいんじゃね?
……もしかしてジル嬢もセリナ様も積極的に希望したの?
「ニフェール、もしかしてクラスメートでも見つけたか?」
「セリナ様たちに加えて、フェーリオとジル嬢まで見つけちゃった……」
あぁカールラ姉様、そんな怒りの表情しないで欲しいな。
その怒りは後で当人にぶつけてください。
ぼそっと「あんのクソガキが……」なんて呟かないで!
「色々思う所はあるかと思いますが、フェーリオの処刑は実家でお願いします」
「仕方ないわねぇ、今日終わった後にジルもまとめて調教しておくかしら」
……ジル嬢ゴメン。
僕には止められません。
「あれ、うちの四人は来なかったのかしら?
見えないわね?」
ロッティ姉様も探してたのか?
あの人たちは事前に止めといたよ。
「昨日クロニク様の所に侵入した時に安全を考えて止めときました。
多分、今日の朝に互いに連絡しあったんだと……」
「いい判断ね。
うちもこういうの見てみたいって娘がそれなりにいるからなぁ。
ほぼ十割が見て後悔するんだけどね」
後悔する位なら見るなよと思うんだけどなぁ。
怖いもの見たさって奴か?
「お、ここで待ってたか。
もうそろそろ始まるぞ?」
「マーニ兄、そんなウキウキしないで落ち着いてよ」
「え?
だって、久しぶりに大鎌使えるんだし、そりゃウキウキもするわな」
それ、ただの危険人物にしか聞こえないからね?
それと、中央通りでたっぷり使ったでしょ!
「あぁ、マーニ。
ニフェールが面白いこと考えてたぞ?」
アゼル兄、まさかあれ教えるの?
「なんだよ?」
「女性陣が使うあの動き、解析し始めた」
ブ フ ォ ッ !
「え、あれ解析始めたの?
……ちなみにどこまで?」
「いや、昨夜聞いて少し考え始めただけだからね?
何もできてない状態だから期待しないでよ!」
「……本当にか?
この処刑で実験するとか無いのか?」
ギ ク ッ !
「サ、サア、ナンノコトヤラ」
「やっぱり実験すんじゃねえか。
これでもお前の兄だぞ?
バレバレだよ」
はぁ……流石というべきか?
「ええ、大体合ってます。
とはいえ、ちゃんと解析できてないので多分数回実験で殴りつけて、本来の予定通りに切り捨てることになるかと」
「実験で殴る?」
「身体の動かし方とか足の運び方がメインなんで、まずは素手で試してみようと思って。
単純に少し離れたところから踏み込んで殴るつもり」
三歩程離れたところから始めてみようかな。
「いいんじゃね?
数回程度の実験なら文句も出ないだろ。
ちなみに成功したら教えろよ?」
「ん~、どうだろう?
淑女科秘伝っぽいし、ラーミルさんもさわりの部分しか言えなさそうだった。
姉様たち、多分説明制限されてるんじゃない?」
二人の姉を見ると、真面目な顔して頷いている。
「ええ、あの動きについては淑女科でも特定の実技の成績がよかったものしか教えてもらえないの。
そして、その時に秘密にしておくように言われてるわ。
下手に教えて悪用する輩が出ることを懸念されてたわね」
確かに、それはあるかな。
ほぼ無音で高速移動ができるとしたら不法侵入がやりやすくなるねぇ。
暗殺もやり放題かな?
「とはいえ、見たのを真似るのは文句言えないでしょ?」
「まぁ、それはねぇ」
でしょうね。
なら、僕が解析しても文句は言えないはずだよ?
ある程度話が落ち着きそうなタイミング。
ここで誰も予想してなかった発言をぶちかましやがった奴がいる。
「まぁ、ニフェールが最近女装したネタの動きを参考にしたらどうだ?
侍女姿で馬鹿ども釣る時に結構演じ切れてただろ?」
マーニ兄の発言が終わる刹那に三人が同時に動く!
ボ グ ッ !
僕が踏み込んでマーニ兄の腹を殴りつける!
ダメージはほぼ無さそうだが。
ガ シ ガ シ ッ !
両姉様が僕の肩を掴み、問いただす!
お二人さん、鼻息荒いんですけど?!
「ニフェールちゃん♡
お姉ちゃんたちに微に入り細に至るまで教えてくれないかしらぁ?」
「そうよぉ♡
隠さないで全て白状してほしいわぁ♡」
マーニ兄を睨みつけると、やっとこうなることに気づいたのか顔を青ざめている。
「マーニ、これは完全にお前が悪いぞ?」
「アイテテテ……あぁ、すっかり忘れてた。
そういやカールラ姉さんだけじゃなくロッティにも教えてなかったな、この件」
忘れんなよ、こんな大事なこと!
アゼル兄、もっとちゃんと叱って!
そのまま隅っこに引きずられてあの時の状況を一通り説明するという羞恥プレイを強制させられた。
それから十数分後、ツヤツヤした二人の姉様たちに手を引かれつつ僕は元の場所に戻ってきた。
「マーニ兄の馬鹿……」
「悪かったって、最近そこまで暴走するの無かったからスカッと忘れてたぜ」
なんか、軽い発言してるけど、暴走自体は最近もあったでしょうに。
「まぁ、女装ネタはそうだろうけど、暴走自体はあったでしょ?
遠征後、すぐに帰ってこなかったマーニ兄の代わりに僕が熱烈に抱きつかれてロッティ姉様とラーミルさんがキャットファイトしたの忘れた?」
「あ……」
こ、こんのバカ兄!
本気で忘れてやがったな?!
「ちょっと、ちゃんと反省してよね?
アニス様にも落ち着かせなさいと言われたの忘れたの?」
「い、いや、流石にそれは覚えてるけどよぉ……」
「裁判直前で暴走させてる時点で本当に覚えてるのか不安になるんだけど?」
「あうぅ……」
そんなドタバタをしていると合図の太鼓を鳴らす音が聞こえる。
裁判が始まるようだ。
犯罪者の四名が連れられてくる。
縄で縛られているのは想定通りなんだけど、妙に汚れが少ない。
薄汚い姿を陛下に見せるのはダメだと判断されたのか、それなりに汚れを落としたようだ。
まぁ、軽く体を拭いただけだろうけど、それでも違うからなぁ……。
ザイディは……特に変わってないな。
少し髭が伸びたくらいか?
会議の頃と同様に見かけは強そうだが、小物にしか見えない。
周りをチラチラ見ているが、まさか他のギルドが助けるとでも思っているのか?
ダメンシャ殺したお前らを助ける馬鹿はいないだろ?
そんなことも想像つかないのか?
ジャン元先生とウィリアム元先生は……結構変わったな。
髭は事前に剃らせてもらったのか、ちゃんとしているが、目つきが悪すぎる。
……ちがうな、昏い感じがするってところか?
余程暴動成功を確信していたのか?
それでも死んだ目をしていないということは一発逆転のネタがある?
まだ足掻く気なのか?
でも、契約については言い訳しようも無いしどうするんだろ?
プロブは……特に変化なし。
もしかして今日死ぬこと理解してない?
それとも、誤魔化しきれると思っているのか?
夢見がちというか、妄想癖があるのか知らんが現時点でどうやって陛下を納得させるつもりなのか?
事前に聞いた話だと、貴族は罪に問われないかのような発言をしたと聞いている。
同じこと言ったら王都民から一斉に石投げられそうだ。
その後、陛下・王妃様・大公様・宰相殿・ジャーヴィン侯爵・チアゼム侯爵と並んで入ってくる。
騎士団長と副団長が前後を固め、物々しさが目立っている。
陛下は険しい顔で四人を睨みつけている。
同時に王妃様は……アルカイックスマイル?
いや、違うな、目が笑ってない……嘲りだ。
……ザイディ、王妃様見てその惚けた顔はなんだ?
まさか、踏まれたいのか?
時間になり、宰相様が一歩前に出て宣誓を行う。
「静粛に!
ただいまより、先日の王都での暴動について裁判を行う!!」




