24
そして次の日。
朝、学園でホルターにデートの事を伝えると、予想通り壊れた。
「ニ、ニ、ニフェール!
いいのか?
デートしていいのか?」
その言い回し止めろよ。
僕とデートしたいように聞こえるから。
誤解されるのは勘弁してくれ。
「ダメだったら言わねえだろうが!
セリナ様待たせるつもりか?」
「い、いや、そんなつもりは……」
全く……。
「とりあえず頭冷やして落ち着け。
暴走したまま会わせるわけにはいかん」
そう言った直後、バタバタとトイレに走って行った。
ラーミルさんのような縮地からは程遠い。
やはり、あの動きは淑女科のみに受け継がれているのか?
「ニフェール、どうしたんだアイツ?」
「以前話したホルターの兄さんから頼まれた件で今日ちょっと街中に行く必要があるんだ。
まぁ、アイツが暴走している理由は知らんがね」
「最近アイツの暴走が多いんだよなぁ、なんでだろ?」
確実にセリナ様のせい(?)ですが、それは言えないからなぁ。
「そこらはアイツに聞いてくれ。
まぁ、大した理由ではなさそうだがな」
「流石に彼女ができたとか言わんだろうしな」
いや、できてます。
今日デートです。
監視役が僕です。
「まぁ、そこらは放っておけ。
ホルターも兄さんからの頼みに対応するので頭が回ってないんだろう。
とはいえ、相談受けた感じ冬休みまでには落ち着くんじゃないのかなぁ」
「そうであって欲しいがなぁ。
最近だと剣術授業でもぼんやりしていて、普段負けないような奴にも負けているからなぁ」
あ゛?
あんのアホ、そこまで腑抜けてんのか?
「おやおや、少々喝を入れてやらんとダメかな?」
「……殺すなよ?」
「多分大丈夫だ。
うちの家族との訓練の時くらいの強度でやるだけだから」
「それ殺人予告にしか聞こえんぞ?」
失礼な、ただの訓練なのに。
そんな会話をして昼休み。
とある人物とちょっと重要な会話をしなくてはならない。
「あら、ニフェール様、怖い顔してどうしたのですか?」
「ええ、ちょっとお願いがありまして」
会話のお相手はジル嬢。
フェーリオはなぜかビクついているが、そこまでビクつく話じゃないはずだぞ?
「ホルターの邪魔しないで下さいね?」
「邪魔なんてしませんよぉ♪」
「アイツが二人でクリアできないと、この後もアイツに付き合わないといけなくなります。
この後のやることを考えると、そこまで余裕ないんですよ。
本当に邪魔しないで下さいね?(ギロッ)」
睨みつけると、この件で僕と喧嘩になるのは嫌だったのか一応頷く。
<一応>という単語がつくだけあって、渋々と言った感じだが。
「フェーリオ、冗談抜きで今日はジル嬢を全力で押さえつけてくれ。
今回失敗したらアイツらを一年以上会わせることができなくなる可能性がある。
今日成功したら数日は勝手に会ってもらっても何とかなるんだ」
「あぁ、何とかやってみるが……ジルだぞ?
簡単にどうにかできると思うか?」
お前、そこまでへたれたこと言うなよ……。
「ホルターが役立たずになるのを望むか?
今でも授業に集中できないようだけど?
普段なら負けないような相手にに剣術授業で負けたとか聞いたが?」
「……そこまでなのか?」
「ああ。
今回失敗したらアイツ立ち直れないかもしれない。
だからこそ邪魔すんなと言っているんだ」
「……分かった、全力で止める」
悲壮な顔して言ってるが、そこまでの話じゃ……無いよな?
そこフェーリオの方でちゃんとコントロールしてくれよ?
「……今日うまく言ったら、それ以降は?」
「僕の手から離れますのでお好きに。
今回のデートと親御さんへの報告の二つがクリアできればそれでいいです。
安心してペスメー殿に完了報告出せますし、他は僕の担当範囲外ですよ」
ジル嬢、何悩んでいるの?
苦悩というより……悪だくみ?
あんまりあの二人をイヂメないでくださいね?
「分かりました、今日だけは諦めます」
「以降も諦めていいのですよ?」
「いえいえ、期待にお答えするのが貴族の務めですわ」
「いや、期待してませんから!」
「そんな遠慮なさらずに!」
そんな面倒事誰が期待するか!!
本当に勘弁してくれよ。
そんなこんなで放課後。
事前に説明しておいた通り、ジル嬢は大人しく引き下がってくれた。
つまり、今日のデートが成功したら後でたっぷりと茶化すつもりなのだろう。
そこは僕も関わる気はないからお二人で立ち向かって欲しい。
無理だろうけど。
「ニフェール、行くぞ!」
「一応言っておくが、チアゼム家に最初に向かうからな?」
「……あぁ!
そうか、そうだったな」
「最初に顔合わせたときと同じだから、普通にお喋りすればいい。
こちらとしてもそちらのデートはおまけのつもりだし」
「おまけって……」
お前らが暴走しなければ今日はデートして済ませるつもりだからなぁ。
ちゃんと落ち着いた対応してくれよ?
チアゼム家からラーミルさんを連れ出し、王宮のセリナ様の所へ。
ちゃんと前回説明した通りにケープで胸元を隠してくださっていた。
化粧も結構ガッツリやってるな。
戦闘準備はカンペキってとこか?
「ホルター様♡、皆様、お待ちしておりました♡」
合間合間にハートマークつけて……暴走しないでくださいよ?
「……♡」
ホルターはホルターで声も出せない位のようだし。
ちょっとばかしツッコむか。
ゲシッ!
後頭部を軽く殴ると、頭を抱えて座り込む。
いや、そこまで強く殴ってないぞ?
「ニフェール、お前の軽く殴るは他の奴らの全力攻撃並なんだからもう少し加減しろ!」
「かなり加減したんだがなぁ。
それはともかく、セリナ様から声かけて頂いたのに何黙ってんだよ?
目を奪われてるのは想像つくが、返答無しはアウトだろ?」
「あ……」
ほれ、さっさと服でも褒めてあげなさい。
「あ、あの、セリナ様、今日の服素敵ですね♡」
「まぁ♡」
……二人ともそこで止まるなよ!
「ねぇ、お二人さん。
外出しないの?」
「「……あっ!」」
……なんというか、前途多難としか言いようがないんだけど。
大丈夫かこの二人?
「まぁ、少し歩いてお茶でも飲めば落ち着いてくるのではないでしょうか?」
「そうだったらいいんですけどねぇ。
今回はともかく、次回以降王宮から出るのに苦労するとかありそうで」
「あぁ、ありそうですねぇ……」
ラーミルさんもあまりうれしくない未来を幻視してしまったようで、二人で肩を落としてしまう。
とりあえず、今日だけでいいからまともにデートしてくれよ?
王宮を出て王都の街並みを四人で歩いてみる。
中央通りも綺麗になって血塗れの地獄絵図は消えていた。
たまに怯える店員がいるけど、もしかして暴動止めたときの僕を覚えているのかな?
みかじめ料とか取らないから怖がらなくていいんだよ?
「ニフェール、たまにお前に怯える人がいるんだが……?」
「暴動の日の対応を覚えている人がいた様だね。
気にしても仕方が無いよ。
そんなことよりデートに集中しろよ、僕よりセリナ様だろ?」
「おっと、その通りだな」
いや、指摘されなくてもその位動いてくれよ。
そんなんだから僕とホルターの掛け算がクラスで話題になってんじゃねえのか?
どいつもこいつも算術苦手な癖して、こっちの算術は色々考えだすんだから頭の使いどころ間違ってんだろ?
「ニフェールさん、今日はどこで?」
「僕たちが最初にデートした喫茶店にしようかと。
あそこなら王城に近いし、場所的にも迷うようなところじゃないですしね」
ポッと頬を赤らめるラーミルさん。
あぁ、あの時は花をプレゼントしたなぁ。
ラナンキュラスだったかな?
あれからまだ半年も経ってないんだなぁ。
それなのに……今では押し付けたり胸でパフったり。
僕ってホルターの事叱る権利ないんじゃね?
「どうされました、ニフェールさん?」
「いや、そういやあれからまだ半年も経ってないんだなと思いまして」
「確かに……私たち、やたら濃い時間を過ごしてましたね」
本当に濃すぎですねぇ。
頬刺されて裁判とか、実家戻ったら犯罪に巻き込まれるわ、危険薬物対応に関わるわ、暗殺者ギルド潰すわ、遠征してまで犯罪者潰すわ、最後に暴動壊滅させる。
並べるだけで何だよこれって感じだ。
味付け間違ったスープのようなものか?
塩味きつ過ぎて飲めたもんじゃねぇってやつだな。
皆で喫茶店に到着、それぞれ紅茶と菓子を頼む。
……フェーリオとジル嬢、来て無いよな?
ざっと見回してみるが、知った顔は見当たらないようだ。
「どうした、ニフェール?」
「あぁ、こちらを監視しそうな面々がいるんでな。
いないことを念の為チェックしてたところだ」
「おいおい、そんな暇な奴らいるのかよ(笑)」
ホルターは笑っているが、ラーミルさんは僕の言うことに安堵の溜息を吐いた。
そしてセリナ様は僕たちの反応を見て何か感づいたようだ。
セリナ様、その勘を大事になさってください。
大体答えは合っていると思いますよ。
「まぁ、色々いるんだよ。
ちなみにホルター、ご家族に報告する手紙の進捗は?」
「え゛?
え~っと、三割くらいかな」
おいおい、そんなペースかよ。
「一応言っておくけど、僕の方からもペスメー殿に依頼完了の手紙送るからな?
お前の報告よりペスメー殿の手紙が先にご両親に届いたら、呆れられるぞ?」
「い、いや、そりゃそうなんだけど!
何書けばいいか難しくて」
「だから添削してやると言ったんだが、その為にも一旦最後まで書いて貰わないとなぁ」
気持ちは分かるんだがなぁ……。
でも、いつまでも先延ばしさせるわけにもいかんしなぁ。
「ふむ、二つ提案だ。
まず一つ目。
セリナ様と一緒になって考えてみたらどうだ?」
「ゑ゛?」
なんでそこまで驚く?
「まず、お前のペースではいつまでたっても完成しない気がしている」
「確かに……」
いや、「確かに……」じゃねえよ!!
「そこで納得するなよ……。
二人で考えたら少しは早くできるかもしれんぞ?
お前だってセリナ様にいい所見せたいだろうし」
「確かに!(フンス!)」
……むしろ、おバカなとこ見せることになるかもしれんが。
まぁ、そこは自分でどうにかしてくれ。
「次に、セリナ様の方で未来の義父母方にご挨拶の手紙を書いてみる気はありませんか?」
「是非ッ!!」
この位のやる気を持てよ、ホルター。
「この二つが終わったら一つ目の手紙のチェックを僕がやって、ホルターのご家族へ送ればよろしい。
今みたいにのんびり書くよりかは早く終わるんじゃないか?
第一、期限があるしな」
「期限?」
おい!
お前はなぜ、こう……。
「セリナ様は修道院に行くんだぞ?
行く前に終わらせないといけないんだぞ?
それ以上にお前はデート一回だけでいいのか?
さっさと終わらせて今日以降も二人でデートしたくないのか?」
「したい……です……」
「なら明日から二人でご両親への報告文章考えてくれ。
あぁ、当たり前だがイチャつきたい気持ちは分かるが、面倒事さっさと終わらせてからにしろよ?」
「……なぁ、ニフェール。
お前、おかんって呼ばれたこと無いか?」
「うちの部下に呼ばれたよ。
正確に言うと、うちの四男への僕の対応が母親のようだって言われたよ」
ラーミルさん、そこで苦笑しないで欲しいな。
気づいているんでしょ、ナットの事だって。
「あぁ、その部下の人の気持ちが分かった。
うちのおかんにそっくりだ。
似すぎてて怖い位だ」
そこまで言う?
「言われたくなければこちらがチェックしなくてもいいような状態になってくれよ。
こちらもチェックすることが手間なんだから」
「うっわぁ、本当にそっくりだ。
女装したらおかんになっちまうんじゃね?」
いや、【傾国】になるぞ?
ラーミルさん、そこ勘づいたんだろうけど笑わない!
ホルター堕としてセリナ様悲しませる気ないから!
「というか、ホルター?
僕が言ったから笑ってるんだろうけど、セリナ様に同じこと言わせんなよ?」
「うっ!
それは確かにそうなんだが……」
そこで、ちゃんと「まかせろ!」と言えない所がホルターらしいというか。
そこでヘタレ続けると後々お相手から冷たい視線を貰うことになるぞ?
カルとルーシーがそのパターンだな。
その後も色々四人でおしゃべりしてセリン様を部屋に送り解散。
次回のデートは明後日行う様だ。
さて、僕はラーミルさんと侯爵の所にいこうかな。




