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「後は……皆様のご実家の位置、皆様のお部屋の位置をお教えください。
そこ分からないと皆様を連れ出すことができませんので」
「あ……確かにそうですね」
……もしかしてお忘れでした?
それとも僕が皆様のお部屋を知っていると?
その後、各自の家と部屋の位置を確認する。
皆様二階か……まだ侵入は簡単そうだ。
一応、確認した方がいいかもなぁ。
下手に失敗したら誘拐だけじゃなく女性の寝所に忍び込もうとする変態?
そんな噂が流れるのは避けたい。
「それと皆様、一度お部屋に侵入することをお許しください。
数日中に今お教えいただいた部屋に向かいます。
それぞれ窓を叩かれたら顔見せてください」
「顔だけでいいですか?」
「その……女性の寝間着姿を見るのは流石に失礼に過ぎるかと……」
少し顔赤くしつつ答えると、生暖かい笑顔で返されてしまった。
恥ずかしいからそんな見ないで……。
「それと皆様自分で着換えられるような衣装ってございます?」
「えっ?」
あれ?
そんな驚くようなこと?
「一応皆様が逃亡するタイミングは夜なのですが、まさかネグリジェのみで逃亡しないでしょ?
夏ならまだしも、今の時期にそんなことしたら風邪ひくの確実ですよね?
なので、何か羽織る物がないときついかと」
「……その手の衣服は自分たちで管理することは無いので、自分たちで用意するのはまず無理ですね。
一人で着換える位なら私たちでもできますけど」
「ニフェールちゃん、言いたいことは何となくわかるのだけど、侍女体験したことある子か学園で寮に入っていた子じゃないと難しいわよ?
むしろ、この子たちは一人で着換え位はできると言っている時点で普通よりできる方よ?」
あぁ、やっぱり無理ですか。
となると……。
「ロッティ姉様。
こちらの四名が困らない程度に寝巻を隠せるような服をこちらで用意するしかないかと」
「そうねぇ……。
とりあえず次回集合までにこちらで準備しておくわ。
持ち帰るとバレちゃうだろうから、ニフェールちゃんが手助けする際に荷物として持っていくことできるかしら?」
「僕が寝室に持って行って、皆様が着替えたら逃亡開始ってこと?
ならできますよ」
その位なら特に問題無いよ。
荷物が増えるけど、持って行けない量じゃないだろうし、
「ならそれで行きましょ。
服は……明日買いに行ってくるわ。
文官側の方々のスケジュールって聞いてない?」
「特には言われてないので、こちらの都合を今日にでも伝えてきますよ」
「なら明後日あたりに打ち合わせかしら?」
明後日か……カツカツかもなぁ。
まぁ、並行して動くしかないかな。
「スケジュール通りだと、アゼル兄とカールラ姉様が到着する予定ですね。
ちょっと厳しいかなぁ」
どう考えてもその日は最初の裁判の流れの整理とその場で発言する内容を纏める必要があるからなぁ……。
「ん~、まず、明日までに服の準備をお願い。
明後日、文官面々呼んで、逃走の話し合い。
同時にアゼル兄たち到着するからジーピン家関係者話し合い。
これはどこで話すかは両侯爵に相談するよ。
王宮になるかもしれないしね」
ちょっと明後日が忙しいけど、仕方ないか。
「で、最速でその次の日――今日から四日目――に最初の裁判。
その後、二つ目の裁判始まる前にマイカ様を逃がす。
で、三つ目の裁判が始まる前にアッティ様を逃がす。
セレラル様とクロニク様はアッティ様以降ということで」
「逃走順番は、マイカとアッティの関係者が関わってくるのですね?」
セレラル様、大当たりです。
「はい、その通りです。
なので、そこまでにお二人を逃がす方向で。
セレラル様たちは緊急性は低いので、少しずらさせていただきます。
三つの裁判が押し寄せてきているので、正直手が回らず……」
「その、ずれるのは構わないのですが、手が回らないというのは?」
そこ気になりますか。
まぁ、ばらしても構わないでしょ。
「簡単に言うと、この後起こる三つの裁判全てに僕は関わってます。
罪を犯す方じゃなく、捕縛する方で。
なのでそれぞれの裁判で出席する予定ですし、その前に打ち合わせなどが必須なのです」
あぁ、そんなに呆れないで!
詰め込み過ぎとか言いたいのでしょうけど、時間が待ってくれないの!
「セレラル、言いたい気持ちは分かるわ。
でも、冗談抜きでこの件でニフェールちゃんは現在騎士団の隊長格であるマーニ並に仕事がたっぷりあるの」
「隊長格並って……」
「マーニとニフェールちゃんで王都の暴動の大半を制圧したと言ったら信じる?
ついでに、その裏事情も色々把握し対応していると言ったら信じる?」
ロッティ姉様の説明を聞いて唖然とされてしまいました……。
まぁ、事実だから致し方ないけど。
「……いきなり信じるのは難しいですが、ロッティ様が嘘つくとは思えません。
かなり物凄いことを成し遂げたのでしょうね」
「ええ、そんなことできる人たちだから、皆を逃がすという案も出せるのよ」
目の前で褒められて落ち着かない気分になっていると、ラーミルさんが妙に微笑んでいるけど……これって、後方彼女面ってやつ?
まぁ、事実彼女どころか婚約者だから遠慮なく鑑賞してくれて構いませんけど。
「えっと……話しを戻します。
今日の夜にまずマイカ様の屋敷に潜入いたします。
侵入経路と部屋の位置が間違っていないか確認する予定です。
窓を軽くノックしますので、そうしたら顔をお見せください」
マイカ様が頷く。
ちょっと肩に力が入り過ぎな気がするけど、大丈夫か?
「明日はアッティ様の屋敷へ。
その次はセレラル様。
そして最後クロニク様。
この流れで一日一名のお部屋確認に参ります」
皆様頷いてくださる。
「あまり夜中に起きていると睡眠不足になりそうなので、一日一名になってしまうのはご容赦ください」
いや、笑ってるけど本気で夜ふかしってきついんだよ?
冗談抜きで次の日が腑抜けになっちゃうし。
「ちなみに、皆様侍従侍女と離れて部屋で一人になれるのって大体何時くらいです?
あまり遅く行くとノックに気づいてもらえないかと思いまして」
……ふむふむ、皆様大体夜中の九時ころには自室で一人になるんですね。
「後、最後に確認なのですが……。
ロッティ姉様の結婚パーティに参加できないけど、その覚悟はできている?」
「「「「えっ?!」」」」
「はっ?
ニフェールちゃん、何言って……ああ!!」
え、もしかしてロッティ姉様忘れてたの?
来年の夏頃じゃなかったっけ?
「いっか~ん!!!
すっかり忘れてた~!」
「え、それって、皆様に話を通してないの?」
「結婚することは言ってあるわ。
でも、この件と重なるのは想定してなかったのよ。
そっか、セレラルたちは呼びようが無いのね……」
無理だねぇ。
呼んじゃうイコール平民になるのキャンセルになっちゃうからやり直しになっちゃうね。
特にマイカ様とアッティ様はまずい立場になっちゃうよ?
「後日、皆様の平民化記念と第二回結婚パーティを内輪で開くくらいしか思いつかないけど……」
「そうね、それが一番現実的かしら?」
というか、その位しか思いつかないってのもあるんだけどね。
「多分、僕の方の修道院に入る方も一緒に出てくると思うから、一緒にパーティするのはどう?
ついでに今回唯一自発的に修道院に入る方も呼んでまとめてやってしまうのは?」
ホルターに相談してからだけどね。
「あぁ、それもいいわね。
その案頂き!
そっちの調整お願いしてもいい?」
「次回の顔合わせで当人来るからそこで話したら?
彼氏の方には僕から話しておくよ」
ついでだから明日デートさせちゃおうかな?
ちょうど時間も空くし。
となると、ラーミルさんに許可貰わないとな。
「とりあえず話すべきことは終わりかな?
今日はマイカ様、明日はアッティ様の所に侵入いたしますので、忘れないでくださいね?」
「ええ、大丈夫ですわ」
「お待ちしておりますわ」
これで、とりあえず今日のイベントは侵入作業を除いて終わりかな?
皆様お帰りになったところでラーミルさんとちょっとお話。
「突然ではありますが、明日セリナ様たちのデート対応しようかと思うんですよ。
で、で――」
「はい、すぐに許可貰ってきます♡」
「――すね……あ、お願いします」
言う前に分かってもらえるとは……ラーミルさん、僕の心を読んで……いや、行動でバレバレか。
そんなことしていると、カル達が片付けにやってきたので予定の説明を行う。
「とりあえず今日から誘拐予定現場の確認を行うのね。
後は明日セリナ様のデートに付き合うと。
どこ回るか決めてるの?」
「ラーミルさんと最初にデートした時の喫茶店か、危険薬物製造してたところに近い喫茶店か……王城に近いから最初の所かな」
あまり遠いところだと移動時間かかってデート時間が消えてしまう。
それはホルターたちも望まないだろう。
「学園生で門限決まっているのにデート時間短くするのはあり得ないわね。
その判断でいいと思うわよ」
ルーシーの許可(?)も貰ったので大きく外すことは無いだろう。
後は……。
「それとカル。
そろそろ娼館ギルドに向かう頃じゃない?」
「あ、そうだなぁ……今日にでも行っとくか。
そろそろ他ギルドの情報も入ってきてるだろうしな」
「こちらから提示する情報は無いよな?
カルとルーシーが潜り込んで燃やすことは……説明不要か?」
「そこまでの報告はいらんだろ。
それ以外で情報は無いし、顔合わせだけだな」
任せて大丈夫かな?
なら僕はこのまま王宮に行ってくるか。
セリナ様に伝えなければいけないし、侯爵たちも情報欲しいだろうからな。
ということで、大急ぎで王宮へ。
まずはセリナ様に急ぎ報告をすると、大喜びしてくれた。
微妙に桃色な雰囲気が出ているのが少々不安だが、気にしても仕方がないか。
念の為、胸元隠すタイプの服装にすることを繰り返し言い聞かせておく。
これだけは守ってもらわないと、明日のデートが大失敗になってしまうからな。
セリナ様もそこは理解しているのか真面目に聞いてくれる。
冗談じゃないからね?
明日成功すれば僕の監視は不要と判断できるけど、失敗だと今後も監視付きだからね?
それと監視役は暇じゃないからね?
あなたたちのデートに時間を費やす時間、僕には無いからね?
次にジャーヴィン侯爵の所に向かうと、チアゼム侯爵もいたので二人に報告する。
「インクション家の令嬢は想定通りだったが、クロシス家の令嬢も関係してたか。
可能性としてはあるかとは思っていたが、結婚式とスホルム案件のどちらにも関わるのは想定してなかったなぁ」
「えぇ、僕も驚きましたよ。
一つはあり得ると思ってましたけどねぇ。
まさか二つとは」
どちらも関わるとなると、よっぽどクロシス家は危ないのかなぁ。
なんとなくだけど、父親や他の兄弟もやらかしてそうな気がするなぁ。
「そして今日から順番に各自の家を確認するって訳か」
「ええ、侵入場所間違ったら笑えないので、事前チェックはしておきたいですね」
「あんまり無茶するなよ?
今更かもしれんが」
ジャーヴィン侯爵、あなたがそれ言いますか?
「まぁ、そちらは何とか進めときます。
後はセリナ様たちは明日王都でデートさせます。
問題なければ放置。
問題あった場合は以降も監視付きで会わせるつもりです」
「……そこは何ともできんからなぁ。
面倒が減ることを祈るしかあるまい」
まぁ、そうなんですけどねぇ。
「で、残るはサバラ殿達ですね。
明後日チアゼム家でお二人とセリナ様を含めて修道院調査の協力をお願いする形となります。
一応、日付はこっちで勝手に決めたので相談したいんですけど……」
「ここで集まるほどでは無さそうだな。
仕事場に行って相談してきなさい。
多分、優先して対処すると思うぞ」
まぁ、あちらからの依頼ですから優先してくださるとは思いますけどね。
「そんなところですかねぇ。
ちなみにお二人から何かあります?」
「儂は無いな。
ヘルベス、お前は?」
「こちらも久しぶりに平穏な一日だったからなぁ。
さっさと帰ろうと思ってたくらいだよ」
最近大忙しだったろうから、その気持ちは分かります。
僕の場合はいつ平穏な日々が来るのか分かりませんがね。
「では、サバラ殿達と打ち合わせして帰ります」
「あぁ、お疲れだったな。
明日はデートだけだろうから、こっち来なくていいぞ?
ゆっくり楽しんで来い」
チアゼム侯爵、お言葉はありがたく。
侯爵の執務室を出てそのままサバラ殿達の仕事場に到着。
「おや、いらっしゃいニフェール殿。
確か今日は打ち合わせでしたよね、どうでした?」
「サバラ殿、四人とも修道院行きを承諾されました。
明後日にサバラ殿とセリナ様にチアゼム侯爵家にお越しいただきたい。
なお、クーロ殿を呼ぶかはお任せします」
というか、クーロ殿見えないな。
……逃げた?
「了解しました。
クーロのことはこちらで確認しときますよ。
多分、連れて行くとは思いますけど」
そうでしょうねぇ。
なんとなくだけど、チアゼム侯爵から命令飛びそうな気がするし。
「僕は授業終わり次第参加しますけど、基本はサバラ殿達で進めてください。
こちらが関わるとしたら連れ出すタイミング位なので」
「ええ、そちらはお任せください」
とりあえず一通り話を終えたのでチアゼム家に戻る。
夜の侵入までに準備しておかないとなぁ。




