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あの後、王宮に向かい婚約用の書類を貰いラーミルさんと書類に記入する。
ラーミルさんのフォローはかなり助かった。
元セリン伯との時に書いたのかな?
追及はしなかったけど。
そしてアゼル兄が王都に到着して双方の当主の顔合わせ。
事前にアゼル兄にはカールラ姉様から学園生時代の話を聞いたと伝えた。
羞恥と知られたことの不安気な感じだったが、母上の真似して頭撫でたら……。
なぜか、ハンカチ代わりに使われた。
涙噴くなら人型ハンカチじゃなくて自分のハンカチ使え?
自分のハンカチの方が、僕自身より軽いだろ?
扱いやすいだろ?
アゼル兄、スンスン鼻かんでいるけど、そこ僕の腋だからね?
それとカールラ姉様、そのシーン見てヨダレ垂らさない!
「全くこの夫婦は……」と呆れて声に出したら二人とも口の締まりが悪化した。
嬉しいのは分かるがヨダレふけ?
事前で助かったよ。
当日だったらどんな誤解を生んだことやら。
それと、相手が怖がっていること一応伝えた。
予想通り、「どうしろっていうんだ!!」と叫ばれた。
気持ちは分かるが、一応ベル兄様が言ってたんで……。
さて、当主同士ご対面……。
って、婚約の話なんで、対面のメインは僕とラーミルさんなんだからね?
メイン無視して暴走しないでね?
そんなことを思っていたら、ベル兄様が……ガッチガチでした。
緊張してですよ?
体中がですよ?
特定の一部分だけじゃないから誤解しないでね?
ラーミルさんが肘鉄入れて再起動させてました。
ですが、ベル兄様の右手と右足が一緒に出てますね。
大丈夫かなぁ。
応接室に全員集まったところで双方関係者が挨拶するのだが……。
「ジーピン家当主、アゼル・ジーピンと申します。
こちらはあと数ヶ月で妻となる方でカールラ・ジャーヴィン。
今後両家が親族となるなら事前に顔合わせした方がよいと思い連れて来ました」
「ジャーヴィン家長女、カールラと申します。
数ヶ月後はカールラ・ジーピンとなります。
よろしくお願いしますね」
こっち、ジーピン家側は何も問題なかった。
二人とも順調に挨拶できていた。
だが。
「ノ、ノヴェール家と、当す、当主。
ベルふぁ、ベルハルト・ノべ、ノヴェールと申しましゅ。
よ、よろしく」
ベル兄様、ガッチガチですね。
噛みまくってますけど、舌千切れてない?
アゼル兄とカールラ姉様から僕に悲痛な視線が飛んでくる。
それって(どうにかしてやれ!)ってことだよね?
けど、これってやっぱり【魔王】と【女帝】の揃い踏みが原因だよなぁ。
うわ、キッツいんですけど。
ラーミルさんからも半泣きで救いを求める視線が飛んでくるし。
そんな視線飛ばされたら、頑張るしかないじゃないですか!
「ベル兄様」
「な、なん゛(ガリッ)」
ウ ヴ ォ ォ ォ !
あ、噛んだ。
口抑えてマジ泣きしてるし。
ラーミルさん、呆れないであげて!
緊張し過ぎなだけなの!
「ベル兄様、言葉での返事は今は不要です。
舌大丈夫?
痛いのは分かるけど、血とか出てない?」
コ ク ン
涙目だけどちゃんと返事はくれましたね。
では、ラーミルさんの期待に応えるためにオハナシしましょうか。
「ベル兄様。
前回こちらにご挨拶した際、【魔王】と【女帝】の話をお聞きしました。
そのことを覚えてますか?
声は出さないで結構です」
… … コ ク ン
「多分ですが、今緊張されているのは【魔王】【女帝】の揃い踏みを見てるから。
そう僕は推測しております。
その件について、カールラ姉様に話を聞きました」
ビ ク ッ
「ベル兄様から聞いた話とカールラ姉様から聞いた話、結構違いがありました。
当然、互いの立場などの違いがあります。
なのである程度の誤差は想定しておりました。
ですが、許容範囲を超えた誤差が出てます。
それについてベル兄様に聞きたいことがあります。
可能な限り正直にお答えいただけますか?」
… … コ ク ン
先ほどよりも時間かけてではあるが、ちゃんと頷いてくれた。
前回の時に言っていた「当人を見て判断する」。
あの言葉をちゃんと実行しようとしてくれるようだ。
「まず、簡単なところから、ベル兄様は領主科で合ってます?」
コ ク ン
「アゼル兄と同じクラス?」
コ ク ン
「アゼル兄、ベル兄様のこと覚えてる?」
「クラスメイトであることは覚えている。
会話は挨拶くらいでほぼ無いな。
ただ、学園時代に良く会話した人はほぼいない。
挨拶を返してくれただけかなりマシな対応だった。
ひどい奴だと一切返事をよこさないからなぁ」
ベル兄様、驚愕してますがこれがアゼル兄側の認識ですよ?
まぁ、返事返さないのかビビって近寄れないのかは判断難しいけど。
「アゼル兄、ベル兄様の学園での振る舞いについて教えて」
「細かくは知らんが、静かなタイプだった。
他の人とも最低限の会話しかしていないように見受けられたな。
嫌われてるとかじゃなくて大人しいタイプと思っていた」
「えっ? ベル兄さんが静かだなんて噓でしょ?!」
ラーミルさん……追いダメージかけないであげて。
仕上げのひと手間いらないから!
「え~、次の質問です。
ベル兄様はアゼル兄が怒って、その巻き添えで気絶したとかあります?
もしくはなぜか気づいたら気絶、もしくは救護室に運ばれていたとか?」
「……気絶ならある。
ただ、原因は分かっていない」
ん、あれ、滑舌治ってますね。
「場所とか覚えてます?
時期も分かるとありがたいです」
記憶を呼び覚まそうとウンウン悩んだ挙句、答えてくれた。
が――
「一年の時、パンを買おうと食堂のそばに行ったんだ。
そしたらいきなり気絶したのか意識を取り戻したら救護室だった」
――足りなくない?
「カールラ姉様、先日教えて頂いた食堂で【魔王】化した日。
あれと剣術授業って別の日? それとも同じ日?」
「あれ、どっちだったかしら?」
「あのことも教えてたのか……同じ日だ。
昼食後最初の授業が剣術だったのでな、そこで――」
「あ~、そこまで言わなくていいよ!
ベル兄様、もしかして先程の最初の気絶した時、次の授業に出れなかった?」
「あ、ああ、その日は起きたときには授業全部終わっていたから……」
ベル兄様がアゼル兄を変な形で把握している理由は分かった気がする。
それに加え、ラーミルさんの驚きの理由も。
「え~、まずベル兄様がアゼル兄を極端に怖がっていた件について。
何となくですがピンポイントでベル兄様が大事な場面を知らない。
そんな風に感じられます」
「大事な場面?」
ベル兄様が「なんだそりゃ?」と言わんばかりの発言をする。
気持ちは分かるが落ち着いて。
「ベル兄様が最初に気絶した時、食堂でアゼル兄がブチ切れてます。
えーっと……」
「確か……。
『お前らがそこまで望むのなら、本当に魔王となってやろう。
手加減もせず、貴様らの命を気にせず対峙したものを平等に墓に埋めてやる』
そう言ったな」
あぁ、アゼル兄に言わせてしまった。
「ごめん……」
「気にするな。
お前が努力しているのに指咥えてみてるだけと言うのもな」
そこでその笑顔は反則でしょ?
カールラ姉様が……って、姉様は既に堕ちてるか。
「アゼル兄が今言った言葉を食堂で宣言しました。
そのまま次の剣術の授業の時に加減なしにまとめてボコってます。
対象は領主科の剣術受けた皆さんと剣術教師ですね」
「はぁ?」
「領主科のほとんどの方は食堂のやり取り。
それと剣術授業の実体験。
この二点から【魔王】の名を出さない。
最低でもアゼル兄当人の前では言わないようになったようです」
ベル兄様は自分の知らない学園の出来事に戸惑っているようだ。
「多分、食堂でのアゼル兄の発言から自発的に黙ることにしたんだと思います。
ですがベル兄様は気絶して救護室におられたので情報が廻ってこなかった。
そう僕は考えます」
それ以外にもありそうだけどね。
「それとカールラ姉様の【女帝】についてです。
上位貴族がカールラ姉様しかいないこと。
国王、貴族、中立の各派閥の淑女たちと仲良くなったこと。
その結果、なぜか【女帝】と呼ばれたらしいです。
まぁ、こちらは女性陣の情報を収集するのが難しいと思います。
なので当時の男性陣も知らない人が多いのではないかと推測してますけど」
あ、ベル兄様頭抱えちゃった。
学園卒業して結構経ってから真実知るってキツそう。
自分の知っていた情報がかなり歯抜けだった。
その情報を元にガクブル震えていたとなると、ねぇ。
「さてベル兄様の【魔王】【女帝】についての話はこんな感じです。
知りたいこと他にあります?」
「……いや、もう十分だ。
俺の認識が間違っていた」
「ん~、間違っていたというよりアゼル兄を陥れたい側の噂が混ざったから?
そう僕は思います」
ベル兄様、顔、顔!
もう少ししゃきっとしてください、顔崩れてますよ?
「先ほどのアゼル兄が食堂でブチ切れた件。
これって騎士科の者が侮辱した結果なんですよ。
で、そいつら騎士科VSアゼル兄の構図用意して来たんです。
まぁ、アゼル兄の完勝なんですが」
ベル兄様、顎が外れてません?
「で、ここからは想像なのですが……。
ぼろ負けした騎士科の者たちが腹いせにくだらない噂話を流したんでしょう。
その正誤を判断する情報がない人には信じてしまうのかなと思ったんです」
「……俺が該当するな」
「ええ、とはいえベル兄様の場合気絶のタイミングの悪さ。
加えてクラス内の情報を集め切れなかった。
この二点の不利がありましたけどね?」
少し思考に入った後、ベル兄様はアゼル兄たちに向かって頭を下げる。
「アゼル殿、そしてカールラ嬢。
今更ながらではあるが謝罪させていただく。
正しい情報を集めようとせず、くだらぬ情報に右往左往。
恥ずかしくて穴があったら入りたいくらいだ。
申し訳なかった」
……ラーミルさん、「ベル兄さんが謝罪を?」なんて言わないの。
小さな声で言ったつもりなんでしょうけど、丸聞こえみたいだよ?
顔真っ赤だもの。
「ベルハルト殿、誤解が解けたならそれでよい。
謝罪を受け入れよう」
「私も謝罪を受け入れます」
二人の言葉を聞いて、ベル兄様は前回この家に来た時――挨拶の時、アゼル兄の話が出る直前――以来の笑顔を見せてくれた。




