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「で、これをどうやって解決するんだ?」
フェーリオから問われるが、大した手段が思いつくわけでは無いしなぁ。
「そうだなぁ……セリナ様の胸に目がいかなきゃいいんだろ?
ホルターの目を潰すか?」
「おい!!」
「いや、流石に冗談だが……」
「お前ならやらかしかねないんだよ!」
そんな期待しないで欲しいな (照)。
「それは冗談として一つ思いついたのがありますので実験してみましょうか」
「……そんな簡単に思いつくものなのか?」
いや、回答が分かったわけじゃないんだからね?
答えを見出すための実験なんだから。
実験失敗したからって文句言わないでよ?
「では、先ほどと同じ席配置で。
ホルター、目をつぶっておいて。
合図したら目を開けて実験開始にするから」
「おう」
ん、ちゃんと目をつぶったね?
ではセリナ様の方に対応しましょうか。
おもむろに学園の制服を脱ぎだす僕。
目を大きく見開いて僕を見る女性陣。
いや、ラーミルさんはそういう目で見てくれて個人的には嬉しいですよ?
でも他の女性陣!
獲物見るような視線止めて!
第一裸見せたわけじゃないんだよ?!
何期待しているの?!
とりあえず色々と言いたいことはあるけど、制服の上着をセリナ様の胸元当たりに掛けておく。
これで、胸に視線が集中することを避けられるはず。
……別にセリナ様が胸元露わの服着ているわけじゃないからあまり意味無いかも知れないけどね。
「さて、ではセリナ様、ホルター。
十数えたらジル嬢とフェーリオの方を向いてください。
ではホルター、目を開けて、始め!」
合図と共にホルターを見つめるセリナ様。
目を開け、セリナ嬢を見つめるホルター……と思ったら早くも困惑の表情が。
そんなに胸元が見えないのが気になるのか?
というか、セリナ様のドレスってそこまで胸元強調して無いぞ?
むしろ、僕と最初に会った時のラーミルさんの方が胸元目立ってたくらいだし。
……サイズの問題?
……答えを知るのが怖いので黙っておくか。
十数えたところで二人とも視線を指定された人物に向ける。
ホルターまでこんなにあっさりと成功させるとは思わなかった。
やっぱり胸元か……。
「お二人とも視線をちゃんと逸らせましたね。
これなら、王都でのデートを試してみることも可能かと思います」
「本当ですかっ?!」
セリナ様、そんなに喜んでいただけるとこちらもしても嬉しいですね。
「条件がいくつかあります。
まず、胸元はかなりきっちり隠した服装でお願いします。
理由はつい先ほどの実験。
胸元隠したらホルターがちゃんと指示を守れたことを考えると、この条件は必須かと」
ホルターは拗ねているが、セリナ様はとても納得していた。
なお、周囲の女性陣は当たり前といった反応だった。
「次に、最初のデートの時点では僕とラーミルさんがついて行きます。
これは、どんな想定外な出来事が起こるか僕も想像つかないので」
今日までの実験だって、とてつもなく想定外だしね。
「それと侍女さん、胸元辺りを隠せるの無いですか?
制服を貸し続けるわけにもいかないので」
「少々お待ちください」
急ぎ探しに行ってる間に二人には暴走しない状態で会話をさせてみた。
ホルターがガチガチに緊張していたが、それ以外は順調に会話できていた。
「ちなみになんですけど、今回の暴走の原因ってちゃんと把握できてます?」
ジル嬢、そんなの分かるわけないじゃないですか。
「正直分かりません。
ですが、ホルターの場合はセリナ様の胸元見せなければ普通に恋した学園生で済むことが分かってます」
なぜかホルターがダメージ喰らってますね。
女性陣からの絶対零度の視線が刺さりまくってます。
……ホルター、なぜ顔を赤らめている?
まさか、お前……?
「セリナ様の場合はちょっと難しいですが、今まで恋愛経験がわずかだったとか?
ダイナ家は後妻として入ってますし、もしかすると初めて恋をされたのかもしれません。
となると、最初の暴走はまぁ分からないでもないかなと」
セリナ様、顔真っ赤ですよ?
女性陣が舌なめずりをして色々聞き出そうと考えているようですけど。
……助けませんからね?
「失礼します、こちらは如何でしょうか?」
侍女さんが胸元どころか胸全体を隠すケープを持ってきてくれた。
着て頂き、再度実験してもホルターは暴走しない。
外でのデートの時にも着て行くつもりのようだ。
制服を返していただき着ようとすると、ラーミルさんから無言のお強請りが。
……なんだろ?
……もしかして制服に触れたい?
……どころか、クンカクンカしたい?
「あ~、ラーミルさん。
制服触ってみます?」
「是非ッ!」
僕から制服を受け取り、頬ずりし始めた。
まだ、頬ずりで済んだか。
カールラ姉様やロッティ姉様だと頬ずり→首回りや腋の臭いを嗅ぐ位まではやるだろう。
もしかするとボタン部分辺りを舐るとかやりかねないし。
ナット、呆れるな。
ルーシー、羨ましそうな表情するよりカルをちゃんと調教しろ。
セリナ様、顔真っ赤ですよ?
ジル嬢、フェーリオに強請るの止めておけ。
「さて、とりあえず次回時間が取れたら王都の案内という名のデートの方向で。
なお、スケジュール的にかなりきつい状況ですので、何時になるか現時点で分かりません。
僕自体は王宮に日参の予定ですので、スケジュール決まったら連絡します。
多分、前日には伝えられると思いますんで」
「はい!
楽しみに待ってます!!」
本当に楽しそうですね、今までのダイナ家や学園生活がどうだったのか怖いけど聞きたくなってきますよ。
「ホルター、何時になるか分からんが、何時でも放課後開けられるようにしておいてくれ。
多分、かなり突発的になると思う」
「お前のスケジュールに余裕を持たせられないのか?」
「出来ることなら既にやっている。
かなり色々イベントが詰まってるし、こちらの望まぬ厄介事がこちらのスケジュールを無視して遊びに来るんだよ」
カル達、苦笑しないでくれ。
お前らが深く理解しているのはこちらでも分かっているから。
「そんな訳で本日はここまで。
ホルター、別れがたいのは分かるんだが、学園の門限が間に合わなくなるぞ?」
「あ……やべっ!」
各自急ぎ部屋を出る準備をし、僕も制服を返してもらう。
流石に制服脱いで王宮闊歩したら変質者扱いされそうだし。
「ではセリナ様、次回お会いするときにはデートスケジュールの報告になります」
「ええ、お待ちしておりますわ。
それと、ホルター様……」
ホルターを前に押し出し、少し下がると二人でモジモジしつつも――
「その……ホルター様、今度会うときのデートを楽しみに待っております♡」
「はい……俺も楽しみに待ってます」
――二人は近づき、唇を重ねる。
「ニフェールさん、よろしいのですか?」
「暴走したら無理にでも剥がしますけど、暴走しないのなら放置ですね。
元々、暴走してこの場でサカリそうなので止めていただけなので」
ジル嬢は「あらあらまあまあ♡」と笑顔になって見ているし、侍女さんは「ケッ、サカってんじゃねえよ!」という雰囲気を醸し出している。
まぁ、どちらの気持ちも分かるけどね。
唇を自発的に離し、いい雰囲気のまま別れる。
「ちゃんと別れられてホッとしたよ。
あのままサカってたらぶん殴る予定だったからなぁ」
「だろうと思ったから理性を総動員させたんだよ!」
「それ言うのなら、もっと前から総動員させてたら今ごろ僕の監視なしにデートできたのにねぇ……」
「それを言うなよ……」
ジャーヴィン侯爵の執務室に向かう間、他愛無いおしゃべりをする。
凹むのは分かるが、やっと自制しながら会話できるようになったんだから。
ここでちゃんとできてなかったら縛りありでの会話が確定だったんだぞ?
かなりギリギリだったが回避したんだ、少しは胸張っていいぞ?
そんなことを話ししていると、向こうから見慣れた人物たちが。
「おや、サバラ殿にクーロ殿。
文官側の説明会は終わったんですか?」
「……ニフェール殿っ!!」
サバラ殿が駆け寄って僕にハグしてくる?!
って、ちょっと待って!
そっちの趣味は無いの!
ラーミルさん一筋なの!!
僕の胸に顔をグリグリと押し付けて来るのを見て、クーロ殿が謝罪とサバラ殿を剥がすために動き出す。
「サバラ、気持ちは分かるが落ち着け!
ニフェール殿、すまんな。
ちょっと説明会で馬鹿が暴走しててな」
だろうと思ったけど、呼ばれるの確定ですか……。
仕方ないのだけど、面倒だなぁ。
「分かりました。
ジャーヴィン侯爵の執務室でちょっと話し合いましょう。
それと、フェーリオ、ジル嬢、ホルター。
すまんがここで別れよう。
ホルターのことを頼む」
「あぁ、それはこちらでどうにかしておく。
……あまり無茶するなよ?」
「フェーリオ、今更だが、僕の方で調整できることは何もないんだよ……。
とはいえ、心配してくれてありがとな」
フェーリオたちは帰宅の途に着き、残った僕らはジャーヴィン侯爵の執務室に集合する。
ついでにチアゼム侯爵とマーニ兄も呼び出し、事態の整理に取り掛かった。
「ではまず僕から。
ホルターの暴走ある程度解決しました。
次回、時間が空いたら改めて王都の散歩……という名のデートを予定してます」
「え゛、どうにかできたのか?
あの暴走っぷりじゃ無理だとばかり思ってたのだが?」
ジャーヴィン侯爵、実際僕もそう思っていたのですが、運良くどうにかなりましたよ。
「詳細はホルターたちが恥ずかしがるので言いませんが、少し実験したところ順調に会話もできるようになりましたし、次の段階に進んでも構わないかと」
「そうだな、さっさとあの二人が自由に行動できるようになれば、お前にも余裕ができるだろうしな」
本当にそれなんですよね。
予定の狂いが大きすぎてキツかったです。
「あ、ちなみにホルターたちの問題解決にフェーリオとジル嬢にも協力頂きました。
先ほど帰られましたけどね」
「あ゛?」
「え゛?」
両侯爵、間抜けな顔になってますよ?
「一応、危ない事とかはやってませんのでご心配なく」
「いや、その辺りはニフェールが止めるだろうが……まぁ、いいか」
ジャーヴィン侯爵、諦めるのに慣れてきましたね?
子供は大人の知らないうちに色々と覚えていくものですよ。
いい事も悪いこともね。
まぁ、僕も子供側なんですが。
「さて、次にカルとルーシーの変装ですが、これは上手くいったとラーミルさんから聞いております。
なので、暴動の裁判の時にザイディの火炙り対応をしてもらいましょう」
「そうだな、では次に――」
「――ちょっと待って、その話に続きで一つ情報あります。
うちの面々がラング伯から嫌がらせを受けました」
ガタッ!
「話によると、平民が王宮にいるんじゃないとの発言をされております。
ラーミルさんが対応してくださいましたが、聞く耳持たず文句を言いまくってたようです」
両侯爵がラーミルさんをチラッと見てる。
頷くのを見た後、何か小さな声でぼそぼそと会話している。
何考えてる?
もしかして僕が裁判でもないのに暴れるとか考えているのか?
ちゃんと裁判でぶちのめすまでは我慢するぞ?
「両侯爵、何か?」
「……ニフェール、お前闇討ちは止めろよ?」
「馬鹿な!
そんなことしませんよ。
二つ目の裁判でちょっと憂さ晴らしの提案するので、陛下たちにも協力頂きたいとは考えてますけど」
「その危険なネタをさっさと教えろ!!」
「忙しいから一つ目の裁判終わったらにしましょ?
どうせ協力求めるつもりだったし。
ついでだから完全版の報告した時の面々とか呼んで二つ目の裁判の意識合わせすればいいんですよ」
両侯爵は二人して見つめ合って……違うな、アイコンタクトか。
諦めたのか、僕の発言を受け入れることにしたようだ。
「分かった、暴動裁判後に教えろ。
で、サバラの方だな。
説明頼む」
指名されたサバラ殿は予想通り、文官側がほぼ理解できなかったことを説明してきた。
「やっぱりだめでしたか……」
「はい。
向こうの言い分が『嘘つくな!』『盛るのもいい加減にしろ!』等、こちらの報告を聞く気がないかのような発言が多々……。
正直、あれは報告書の全否定と言ってもいいくらいですね」
そこまでですか。
まともな会話が成立しそうに無……あれ?
「確認ですが、今回の報告会に参加したのはどの派閥です?」
「派閥ですか?
三つの派閥全てからですね。
あ、王家派武官貴族はいませんけど」
まぁ、そこは文官にはいないでしょうねぇ。
「なら、次の質問です。
ラング伯は参加してましたか?」
「ええ、というか、一応あれも文官ですので、参加してますよ」
いるんだ……。
「なら、どんな奴らがクレームつけてきてます?
例えば、王家派は何もないけど貴族派は喧嘩売ってきてるとか?
派閥はバラバラだけど、似たような地域の方とか?
特定の部署の面々だけが騒いでたとか?
もしかして本当にランダム?」
この質問にサバラ殿とクーロ殿は動きを止める。
どうしたんでしょ?
「ちょっと待っていただけますか?
クーロと確認します」
もにょもにょと二人で話し合っているが、かなり難航しているようだ。
もしかして、かなり面倒な話?
予想以上に時間がかかった結果サバラ殿の答えは、予想以上に面倒な回答だった。
「派閥では無く、地域でも無く、部署でもありません。
あえて言うのなら仮にラング派、もしくはその上位のテュモラー派ができたかのような感じでした」




