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会議が終わって一旦割り当てられた区域に戻る。
「ニフェール様、本当にあれで終わりなの?」
ナットが納得いかないような表情で聞いてくる。
「いや、第一幕でエンディングを迎えてどうするよ?
処刑する予定の輩に逃げられたら大変でしょ?
マイトの件があるし」
「あぁ、あれね。
となると、とりあえず遊ばせておくってこと?」
「そう、逃げられるのはまずいので、今だけ自由にさせておく。
暴動の処刑が終わったら次に王宮側の処分になる」
納得してくれたようだ。
「まぁ、それまでに幾つかやっとかなきゃいけないのがあるんで、そちら優先かな?」
カルがキョトンとしてるけど、どうした?
「そこまで言うほどやることあるか?
今日ババアの所に行くのと、学園に復帰、アゼル様方と合流くらいじゃないのか?」
「大体そんな感じ?
後ジャーヴィン侯爵家にちょっとお邪魔する位かな」
「え、何かあったか?」
マーニ兄が感づいたようで話に割り込んでくる。
「まさか『砕拳女子』か?」
「正解。
今更だけど、念の為確認しとかないとね。
母上が大暴れするのは避けたいし」
「……だな。
それはその通りだ」
ジャーヴィン侯爵夫人にマジで聞いてこないと不味すぎる。
まぁ、流石に侯爵夫人が好き勝手に母上を使うとは思えないけど、念の為確認しないとこちらも不安だ。
王都で母上の大暴れなんて見たくない。
破壊後の賠償金なんて背負いたくないし。
「そんなわけで、割り込みなければ皆でノヴェール子爵家に向かい、ベル兄様を返す。
次にジャーヴィン侯爵家に行って侯爵夫人がいるのなら僕だけ降ろしてもらってちょっと話し合い。
そして、皆はそのままチアゼム侯爵家に向かってほしい。
侯爵夫人との話し合い終わったら次は娼館ギルドに向かおうと思う。
マーニ兄はこのまま仕事でしょ?
僕の方で確認しておいて、次会った時に説明するよ」
「あぁ、そこは頼む。
俺も王都が壊滅するのを想像したくはないからな」
なんだか【破壊神】とか名が付いちゃいそうなんですけど……。
皆と恐怖に怯えていると、両侯爵が入ってきた。
「お、帰るか?」
「ええ、帰ってからも幾つかやることがありますけどね」
「ああ、娼館ギルドとの話し合いだったか?」
「それと……お二人とも『サプル・J』ってご存じですか?」
ピシッ!
ほぅ、知っているわけですね。
「この後当人と思わしき人物とお話したいなと思うのですが?」
「ちょ、ちょっと待て!
どこでその名を知った?!」
「スホルムで仲良くした暗殺者が読んでいたとカルに聞きました」
あああぁぁぁ……。
ジャーヴィン侯爵、声から悲しみしか感じられなくなりましたが……?
「ニフェール、何を聞く気だ?」
あら?
チアゼム侯爵まで参加?
「単純に『うちの両親に許可取って書いてるんだよね?』って確認ですが?」
「……それだけ?」
「……他にもありそうな話なんですか?
こちらとしては、面倒なことになる前に情報一通り吸い上げたいんですけど?」
というか、チアゼム侯爵まで参戦してナニするの?
「念の為確認だが、この件はカルから聞いた情報以上のことは無く、ジーピン家の許可を取っているかだけだな?」
「一応今のところそれだけですが、回答とこちらの知らない情報が増えた場合、面倒な気が……」
チアゼム侯爵は少し考えて、一言。
「アラーニ、面倒事をさっさと回避するためにもサプルとアニスに説明させるべきだろ思うが?」
「……やっぱりそうだよなぁ。
なんでこんな面倒事を……」
「諦めろ、それを受け入れた上で結婚したんだろうが」
「それを言っちゃあおしまいだ。
とはいえ、なぁ……誰が想像つく?
暗殺者経由でバレるなんて」
そこで愚痴られてもねぇ。
「こちらも、遠征中にぶっ飛んだ情報入ってきて正直とても困惑したんですよ?
特に、カルと二人で事前潜入中の時、ティッキィの情報を聞き取りしている時にいきなり出て来たからとても困りました」
「あぁ、それはなぁ……そうだろうなぁ」
でしょ?
「とりあえず、うちの両親が暴れる要素とかは無いです?」
「恥ずかしがる以外なら無いはずだぞ。
アイツらにも許可貰って書いているし、売りさばいたときに少し金払っているはずだ」
あぁ、そこまで手を回しているんだ。
なら……。
「一つ提案なのですが、今日は問い詰めに行かないけど、うちの面々が王都に到着した時点で両侯爵夫人に説明頂くこと可能ですか?
アゼル兄は確実に来ますので、そこで説明頂くと手間が省けます」
「それならこちらも事前に伝えることは可能だが……いいのか?」
「気にはなりますが、最低限両親が王都に殴り込みとかはなさそうなので、後でいいかなと……」
正直、一番危険な要素は消えたしね。
「分かった、こちらは伝えておく。
後、次回はアゼルが来てから王宮で相談といこうか。
それまで学園生活を楽しんでくれ。
だが、授業終わったら王宮に来て情報共有だけはして欲しい」
「そりゃ構いませんが、暴動についてはこれ以上共有するほどの事が思いつかないんですが?」
「儂らも無いとは思っているが捕縛した四人が何を言い出すか分からない以上、可能な限り早く動けるようにしておきたい」
あぁ、訳の分からないこと言い出したらとかかな?
「あぁ、そういうことですね。
なら伺いましょうか。
ジャーヴィン侯爵の執務室で構いません?
チアゼム侯爵の執務室知らないので」
あれ、何できょとんとしているの?
「知らんかったっけか?」
「ジャーヴィン侯爵の執務室は禿対応で一度伺ったことがあります。
護衛のふりして侍女たちにコナかけようとした愚か者たちの件でですね。
チアゼム侯爵の執務室はまだ……」
「あ、そうか。
なら一旦儂の所へ来い。
その後にヘルベスの執務室を教えておこう」
いや、あんまり常時出入りすると面倒くさそうなんですけど……。
その後皆で王宮を出てベル兄様を送り届ける。
サンドラさんがベル兄様&ラーミルさんの無事な帰還を見て号泣したのが印象的だった。
そのままノヴェール家に連れ込まれて茶菓子を貰ったが……オバチャン化が進行してないか?
流石に当人に直接は言わないけど。
「これで、もうこんな面倒はないですよね?」
サンドラさん、聞くべき相手を間違ってますよ?
「いや、それを僕らに聞かれても……。
ノヴェール家としてはどうなんです?
知らないところで借金してたとか?」
「無いはずだな。
皆が調べてくれた結果から借金だけは無いことは確認取れたし……」
「なら、重要な点は後二つですね」
ベル兄様、なぜキョトンとするの?
「まず一つはチアゼム侯爵から借りている執事の後任を用意する事。
もう一つは複数人デートの準備ですね」
(ポッ♡)
……頬を赤らめる位好きなら一発で決めてくださいね?
カルみたいにならないように。
「前者は一年の期限がありますが、むしろさっさと済ませた方がよろしいでしょう。
その方がやる気があると捉えられそうですし、印象もいいでしょうし。
後者は……最低でも暴動のダメージから街が復興してからでしょうねぇ。
デートの一番の思い出が中央通りの血塗れの壁なんて嫌でしょ?」
(コクコク!)
黙ってうなずかなくても……喋っていいんですよ?
「となると、最低暴動で捕まえた四人の処刑が終わってから。
もしかすると、スホルムの処刑まで待ちかもしれませんが、そこはベル兄様とマーニ兄の予定を調整してからですね」
「ああ、その辺は俺の分は明日確認してみるよ」
これで後はほぼ準備は整ったかな?
その後ノヴェール家からチアゼム侯爵家に向かう。
ナット……なぜ、そんなにクッキー貰ってるんだ?
「あ、食べる?
おいひいよ?」
「いや、さっき十分食べたから。
……サンドラさんか?」
「うん!
とっても優しいんだよ!」
娘のように思ってくれているのかな?
まぁ、嫌われるよりかはいいか。
チアゼム侯爵家に到着後、ラーミルさんにお願いして左頬の傷を消してもらう。
お礼代わりにラーミルさんの頬にキスしてカル達と娼館ギルドに向かおうとすると、どこからか湧いて出たロッティ姉様から激しいハグを受ける。
ラーミルさんが【嫉妬神】化しかけたがそれはさておき、急ぎカル達と娼館ギルドに向かう。
侯爵家の方で【嫉妬神】化したラーミルさんと【狂戦士】化したロッティ姉様の争いの音が聞こえるが、些細なことだ。
「……なぁ、いいのか?」
「あの戦いに割り込むなんて自殺行為としか言えないよ。
それともカルは止められる?」
「絶対無理だ!」
「なら触れようとするな。
……僕だって命は惜しいんだ」
まぁ、最悪門番辺りが呼ばれるんじゃないかな?
知らんけど。
チアゼム侯爵家の面々に祈りを(おざなりに)捧げ、娼館街の門に到着。
「おや、カル様。
先日はお助けいただきありがとうございます。
今日は皆さん揃ってどうなされました?」
「あぁ、婆さんから落ち着いたら来てくれと言われててな。
昨日は流石に疲れたのですぐ寝ちまったがな。
で、婆さん起きてるか?」
「ええ、ピロヘース様は朝お早いですから……」
「……意味を翻訳するのは止めといてやるよ」
「……ありがとうございます」
ジジババは朝早いってか?
まぁ、流石に言えないよな。
後が怖いし。
サクッとピロヘースの居場所である娼館に向かい、黒服に来店理由を告げるとあっさり通してくれた。
事前に伝えていたのかな?
それとも……何か裏でもあるか?
「カル様と暗殺者ギルドの皆様です」
「お入り」
想定通り護衛のトレマ殿と秘書のシフォル嬢がピロヘースの後ろに立ち、こちらの側には席が……三つ?
あれ、前回来たとき二人座れる長ソファだったような気が……。
となるとわざわざ三人座れるように?
……まさか、バレたか?
チラッとピロヘース……いや、【妖魔】を見ると……コイツ、ニヤつきやがった。
後ろの二人は……無表情とはちょっと違うな、何となくワクワクしてそうだ。
となると、ほぼバレてるな。
「さてカル、座りな。
旅の情報をイロイロと知りたいもんだ」
「大したことはないぞ?
言うほどのことも――」
僕はカルの説明を止める。
「カル、そこまで」
他の面々が驚……【妖魔】だけは驚いてねえな。
というか、後ろのトレマ殿もシフォル嬢も驚いている?
「お、おい、ニフィ!」
「バレてるよ?」
「え゛?!」
カルが慌てて【妖魔】を見て、表情が固まる。
うん、あの顔見て落ち着いた表情出来る奴は想像つかないな。
どう考えても見てはいけないタイプの顔にしか見えない。
「さて、ピロヘース殿。
時間の無駄だ。
何が知りたい?」
「色々あるがまずは……答え合わせかねぇ。
ニフェール・ジーピン。
学園騎士科二年の首席で【狂犬】のあだ名持ち。
ジャーヴィン侯爵とチアゼム侯爵と繋がりがあって、今回の暴動もアンタとその兄でほぼ解決したようじゃないか」
……そこまで知っているのなら、答え合わせ要らなくない?
「まぁ、大体合ってるよ。
一応騎士たちも頑張ってはいたようだけどね」
「はっ!
中央通りを地獄に変えたのはアンタら兄弟だろ?」
「まぁ、面倒だったからねぇ。
後にいた馬車を安全に通すためには前の邪魔を除かないといけないし」
……なぜそんな表情するんだ?
このタイミングで呆れるのは想定してなかったんだが?
「呆れないはずが無いだろう?
うちの部下に見に行ってもらったけど、説明できるようになるまでかなりの時間を要しているんだ。
それなりに戦闘経験がある部下だが、戻ってきたときには顔真っ青。
体が震えて眼は虚ろ。
そんなぶっ飛んだ事態を起こせる輩がそんなのんきな発言したら呆れもするさ!」
……なんで?
「だって、相手が弱かったから……」
「はぁ?
大量の強盗ギルドが暴れている場所だよ?」
「でも弱いじゃん。
雑魚がいくら集まっても死ぬ人間が増えるだけだし、そんな騒ぐことじゃないでしょ?
一応犯罪者ギルドの一員なんだから、そんなヘタレなこと言って欲しくなかったな……」
何、その化け物見るような目は……。
「あぁ、二人とも少し待て」
ん、どうしたカル?
「ニフェール様、一般的な人間としてはピロヘースの言ってることに同意するだろうよ。
それだけ物凄い状態だったのはアンタだって想像つくだろ?」
「一般人ならね?
カルを含めた面々は犯罪者だろ?
この程度でビビってどうするんだよ?
……なんだよ、カル、「そこからか……」みたいな反応は?
「ニフェール様、中央通りの件は俺やカリムたちでもヒくぞ?
そして、生き死にに慣れていない他のギルドならよりひどい反応だろうよ」
「え゛?
なにそのヘタレな発言?
中央通り如きでそんな反応なの?」
「如きって……」
カルが唖然としていると、カリムが割り込んできた。
「カル様、土台が異なり過ぎます。
ニフェール様、あなたにとって教会の件はどう判断します?」
教会……結婚式のアレか。
「まぁ、それなりに多かったんじゃない?
でも面倒だったのは禿くらいだし……まあそこそこ?
ちなみに、中央通りの方は楽だったけど、無関係な人が混ざっている可能性があったから、そっちの不安要素はあったかな。
僕が怪我するとかは一切ないけどね」
「カル様、今の発言が全てです。
暗殺者ギルドを壊滅させたときの方が昨日の中央通りより死体量産してます。
でも、それでも『そこそこ』なんですよ。
なら中央通りはそれより楽としか判断されないのでは?」
カル、ピロヘース、何その腑に落ちたというか諦めたというか、微妙な表情は?
「ピロヘース、この件については流せ。
それと、この位のやり取りは随所に出て来る可能性があるぞ?
犯罪者という存在を妙に過大評価しているようだから」
「……分かった。
とりあえず中央通りについてはもういい……」
何と言えばいいんだ、これ?
解せぬ?
【妖魔】の見てはいけないタイプの顔
→ 豪○寺一族のO種orO梅の威○顔をイメージしてます。
かなり昔のネタだから分かる人いるのかな……。




