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第八章『後片付け』始まります。
七章100話の続きからとなります。
裁判での処刑以外の暴れるシーンは予定していないんですが……。
暴れないでよね、ニフェール?
暴動を力づくで抑え込み、強盗ギルドを制圧した後、僕たちは王宮に戻っていた。
「ニフェールさん、お疲れ様!」
「ただいま、ラーミルさん!」
ラーミルさんから笑顔で迎えられ頬が緩む僕。
あぁ、ささくれ立った心が落ち着く……。
「王都の暴動は終わりですか?」
「大体は落ち着きましたね。
細かいことは明日片付けていく方向で。
あ……」
一個忘れてた。
「侯爵方、学園の生徒たちはどうされました?」
「連絡して帰るのを許可した。
だが念の為騎士たちを派遣して、ある程度似たようなところに住んでいる生徒をまとめて送り届けている」
あぁ、よかった。
学園生たちも結構慣れない緊張でキツかったろうからなぁ。
「で、今日は本当に休め。
夕食も用意したからきっちり身体休めて、明日朝から本件の上位者会議に参加してほしい」
「上位者会議って?」
「陛下、王妃様、大公様、我々侯爵。
後は暴動の方は実務者として騎士団長と副団長、そして各部隊長かな。
スホルム側はそれに文官上位者が数名」
文官上位者?
クーロ殿とかかな?
「お前らが知っている人物だと、クーロは参加させる。
それと宰相だな。
他は……お前らが知らないメンバーだ。
お前らは一応全員参加。
ただし、カル達には発言させる必要は無い。
発言の可能性があるのはマーニ、サバラ、ニフェールくらいかな」
まぁ、カル達に話させるのは流石になぁ。
「各部隊長ってことは、そこで役立たず共についてぶちまけちゃっていいよね?」
僕的に少しだけ微笑んで聞くと、チアゼム侯爵がイイ笑顔で許可を出してくれた。
「遠慮なく言ってやれ。
それと、儂らで調べた話も全部ぶちまける。
ただ、暴動は暴動、遠征は遠征で報告してほしい」
「……一部情報が混ざる部分があるんだけど?
それと、言えなすぎる情報がたっぷり……」
「本筋じゃないのであれば気にしなくていいぞ?
それと、言えない部分は後で陛下たちと儂たちに教えてくれるなら構わんぞ。
それともそこまでまずい内容なのか?」
ランゲルの勘は色々な所に被るよなぁ……。
どころか、アゼル兄の結婚式にまでかかるし……。
ティッキィことも全ては言えないよなぁ……。
それも関わるのが前の暗殺者ギルドの壊滅話になっちゃうし。
そして、詐欺師ギルドの場所何で知っているとか?
強盗ギルドの場所何で知っているとか?
「ちょっと一旦整理しません?
下手にしゃべらない方が良さげなのが幾つかあって……」
ジャーヴィン侯爵、顔引きつってますよ?
「ニフェール、説明!」
「はいはい……」
検討した三つの不味いネタを説明すると、両侯爵が頭を抱える。
「嘘だろ、何だよ、その勘って……」
「冗談だろ、何で当時の暗殺者ギルド関係者が出てくるんだよ……」
「それに加えてニフェールと学園生、元教師、強盗ギルドの関係性もだな。
まぁ、こちらは儂らも暴動直後に気づいたが」
諦めて、僕の……というか、僕の実家の関わりって予想以上に広いの。
「いや第八の暴走も、スホルムがアンドリエ家の独裁状態に近かったのも正直驚いているが、その無茶苦茶っぷりは正直理解が追い付かんよ」
でも、これ皆さんに説明するんですよね?
多分、冗談抜きで理解追い付かないですよ?
一番理解度高そうなお二人でこれだと、何とか追いついてこれるのは王妃様くらい?
クーロ殿も正直厳しそうだし。
このメンバーでこれなら他の奴らは確実に付いてこれませんよ?
「……完全版を事前に陛下と王妃様、大公様に言えるか?」
「関わった以上、ラクナ殿とクーロ殿、ベル兄様にもご参加いただきたいかな」
流石に関係者に言わないという選択肢は無いしね。
「ギルドの件にサバラ達やノヴェール子爵も巻き込むか?」
「正直、サバラ殿は何となく感づいているんじゃないかと。
正式には伝えておりませんがね。
なら、クーロ殿やベル兄様も一緒に巻き込んでしまおうかと」
これで、文官系の味方に強制的に混ぜてしまえるし。
「……ヘルベス、仲間増やすか?」
「……まぁ、あの三人ならいいか」
文官側にも胃薬仲間が増えますね。
「……ガルブも入れていいか?」
ガルブ……ガルブ……あぁ!
「騎士団長さん?
ん~、まぁいいんじゃない?
どうせ知らせる必要はあると思うしね」
ラクナ殿の苦労が少し減るかもしれないしね。
「ヘルベス、陛下と王妃様、大公様を連れてきてくれ。
場所は……謁見の間近くの小会議室を。
儂はガルブとラクナ、マーニを連れて来る。
サバラとクーロと子爵は今どこにいるか分かるか?」
「二人とも本来の席で書類づくり中のはずだが……。
子爵は休んでいるんじゃないか?」
サバラ殿達のいるとこって、僕らが行ったことある所かな?
「僕が行ける所なら呼びに行きますよ?」
「あぁ、今までカル達に仕事してもらったところがあるな?
あの部屋だ」
あぁ、あそこね。
「なら連れて来ることはできるけど……。
ジャーヴィン侯爵、ここで待ち合わせとかできる?
小会議室の場所が分からない……」
「あぁ、なら儂らはここ集合としておくか」
なら……。
「ラーミルさん、ベル兄様とルーシー連れてきてもらえる?
カル、護衛役でラーミルさんと一緒に行って。
カリム、ナットは僕とサバラ殿達呼びに行く」
「かしこまりました」
移動していると、ナットから強烈な一撃が。
「ねぇ、ニフェール様。
ラーミル様とデートついでにルーシーを呼びにいくと思ってたんだけど」
ブフォッ!!
確かに、そうしたかったけどねぇ……。
というか、遠征出発前にミニデートしたしねぇ。
「一応ここは王宮だからなぁ。
お前たちだけを派遣してくだらないことする奴らに邪魔されるのを避けたかったと言うのがある」
「あぁ、平民と貴族ってこと?」
「そうそう、気にしない人も当然いるけど、やかましい人もいるから。
面倒起こしそうな人が口出せないようにしておこうと思ってね。
まぁ、皆なら大丈夫だと思うけど念の為ね」
「面倒だねぇ」
「いや、本当面倒なんだよねぇ」
そんな会話をしつつ、サバラ殿達の仕事場に到着。
「失礼します、サバラ殿とクーロ殿はおられますか?」
「おや、ニフェール様。
お二人は隣の部屋で話し合……話し合い(?)をしております」
なぜにそこで疑問符?
「……どんな感じで?」
「最初は特に何も聞こえなかったのですが、途中から白熱した議論……というか言い合いになってますね。
今は静かにになってます」
言い合い?
……まさか、今回の遠征の件を正直に伝えた?
「ちょっとチアゼム侯爵たちから呼び出されてます。
なんで、お二人連れて行きますね」
「ええ、どうぞどうぞ、侯爵方の前なら少しは落ち着いてくれるでしょうし」
甘いな、もっとろくでもなくなるぞ?
「では、連れて行きますね」
隣室にノックして入ると、机の上で倒れ伏している二人が!
って、どうせ、言い合いに疲れたんだろうけど。
「サバラ殿、クーロ殿、大丈夫?」
声を掛けると、二人とも死んだような目をしてこちらを向く。
僕だと分かるとものすごい目をして襲いかかってくる。
クーロ殿、ヤバい薬でも吸ったかのようだよ?
「ニフェール殿、白状しろ!」
「待ってよ、人を犯罪者みたいに言わないで!」
人を何だと思ってるんだよ!
「仕方ないだろ!
サバラの説明じゃ訳分かんないんだよ!!」
まぁ、クーロ殿の頭脳をもってすれば抜けている部分が多々あるのが分かっちゃいますよね。
「多分、サバラ殿は懇切丁寧に説明されたと思いますよ?」
「あれでかよ!」
そんな顔しないで。
「ちなみに、お二人を探しに来たのはチアゼム侯爵が呼んでました。
遠征対応と暴動対応の情報完全版を聞く権利があると判断されたようです」
二人ともキョトンとしているが、サバラ殿は何となく感づいたかな?
「情報……完全版?
サバラのは完全版では無いのか?」
「直接聞いてないから明言しづらいとこですが……。
サバラ殿、遠征の頃に全体・上位者の会議を含めて説明されました?」
「え、ええ。
……となると、ジーピン家版情報が追加されると?」
「その通りです」
クーロ殿、その呆れた顔しないで欲しいな。
「何だよ、そのジーピン家版ってのは!」
「裏情報いっぱいの怪しい話です。
なお、女装ニフィも裏情報ですからね?」
お二人とも、ギクッとした表情。
これはわかる。
だが、その後の頬を赤らめるのはなんなんだ?
まさか、あの時の着替えシーンを思い出したのか?
「この後完全版を聞くメンバーは……。
遠征側だとノヴェール子爵兄妹と僕の部下、お二人、マーニ兄。
王都側だと陛下、王妃様、大公様、両侯爵、騎士団長、第一部隊のラクナ殿」
そんな怯えないの。
「いや、このメンバーって絶対怯えるからな?」
まぁ、うちのナットも泣いちゃうくらいだけどねぇ。
「でも、完全版ですからねぇ。
ある程度メンバー制限しないとまずいんで」
「なら俺たちも外せよ!」
正直ですねぇ、そんなに逃げたいですか?
「いえいえ、お二人とベル兄様は貴重な方々ですから」
生贄って大事だよね。
騎士側はラクナ殿がいるけど、文官系はチアゼム侯爵の下がいなくて……。
「ぜってぇ貴重の後に別の単語はいるよな?
生贄とか奴隷とかオモチャとか」
「いえいえ、ちょっとしたお友達が出来るだけですよぉ?」
胃薬が手放せない人たち。
同病相憐れむ者たちですよ。
「まぁ、チアゼム侯爵からのお呼びですから、逃げられるなんて思わないでくださいね?」
「チクショウ!
サバラ、俺腹痛くなったから代わりに出ておいてくれ!」
「ざけんな!
お前だけ逃げるなんて許さねえからな!!」
あぁ、いい大人なのに何と醜いことをしているのでしょう。
「争いとは醜いものですねぇ」
「ニフェール様、あなたが原因なのにそれ言っちゃいます?」
「いうだけならタダだしねぇ。
どうせ僕の場合争いになったら力づくで解決しちゃうから、今更美醜に気を使うことも無いし」
「めっちゃ他人事ですね」
そりゃあ、こちらは怯える要素が無いから他人事にもなっちゃいますよ。
とはいえ、面倒ですね……。
「サバラ殿、クーロ殿。
これからいう三つのうち、好きな方法をお選びください
一、自分の脚で歩いて移動する。
二、僕に気絶させられて引きずられて移動する。
三、意識ある状態で僕の肩に担がれて移動する。
お好きな番号をお選びください」
「悪魔かてめえは!」
「失礼な、【狂犬】ではありますが悪魔ではありませんよ」
「どっちも似たようなもんだろ!」
ひどい!
こんなかわいいワンコなのに!
なお、大人しく一番を選んだ模様。
個人的には三番選んでもらって他文官からガン見されながら連れて行くのも捨てがたかった。
サバラ殿達を連れて集合場所へ向かうと他の面々も集合していた。
なぜか一言目にラクナ殿が僕に迫ってきた。
「ニフェール、何でいきなり集合になった?
それもこのメンバーって……」
「遠征と暴動の完全版を皆様にお伝えしようかと。
それと、『胃薬友の会』の新人四名のお披露目と初会合でしょうか?」
「変な会合開くな!」
「友の会の重鎮が何をおっしゃる?!」
否定できないでしょ?
ノヴェール家で女装した時に新しい胃薬がどうだとか言ってたもんね?
「どうやっても、完全版を知らなければいけない面々に皆さんは選ばれました。
つまり、ジーピン家と無関係ではいられないということです。
この後、何とか事態を理解した上で現実に目を背けないで欲しいなと思います」
「なあ、そちらの騎士団長が新人に入るのか?」
クーロ殿が聞いてくる。
……そっか、ジーピン家との繋がりないって知らないもんね。
「ええ、それと文官側からお二人、そしてベル兄様ですね。
まぁ、ベル兄様は他三名と比べると受け入れやすい立場にいるかもしれませんが」
「いや、そんなこと無いんだがねぇ……」
ベル兄様、そこでヘタレないで。
「まぁ、小会議室に他メンバーも向かっているはずですし、さっさと参りましょう。
ジャーヴィン侯爵、案内お願いします」




