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本日二話目です。
次話は明日16時台投稿です
◇◇◇◇
「ここが詐欺師ギルドの場所だが……妙だな」
「……血の臭いがするが、普段からこんな感じなのかい?」
「いや、そんなことは無い。
急ぐぞ!」
マーニ兄の部下は外で待たせて、カルが先頭切って中に入っていく。
その後を僕、カリム、マーニ兄、そしてラクナ殿が入ると……。
予想通り死体の山と血の海が溢れんばかりとなっていた。
「カル、カリム、ぱっと見で構わないからダメンシャがいないか確認!」
「……いないな、となると奥か」
奥に入っていくとぶ厚い扉にぶつかる。
さっさと開けるとそこには二人の男性の倒れた姿が。
「奥がダメンシャだよな?
手前は?」
「見たことある程度の奴で名は知らん。
ギルドとしては中堅の上位って感じの奴だ」
こいつが暴動に合わせて反乱を起こしたってところかな?
調べていると、かすかな声が聞こえた。
「……カル……かい?」
皆の視線が一斉にダメンシャの方を向くと、何とか目を開き語りかけて来る。
「あ、やっぱり……カルだぁ……。
お帰りぃ……」
笑顔で、にこやかに、でも冥界に引きづりこまれる直前の顔。
「ダメンシャ、反乱か?」
「うん……そそのかされた……奴が……やらかし……ちゃった……。
多分……生き延びて……いる奴らは……そこの奴の味方だ。
仮に……見つけたら……殺して……」
「お前を殺そうとしたのはザイディの部下か?」
「多分ね……。
三人……一人は槍……名は知らない。
次……剣……ウィリアム……。
最後……若い奴……剣……プロブ……」
それを聞いて僕は大きな衝撃を受ける。
嘘だろ……あの馬鹿そこまで堕ちたのか?
それにウィリアム元先生がいた?
で、槍の人となると……ジャン元先生の可能性が高いな。
「……ニフィ、もしかして知っているのか?」
「(コクン)最悪のパターンが確定しちゃった……」
「マジか……」
カルと頭を抱えていると、ダメンシャが驚きの発言をしてきた。
「あぁ……ニフェール……だね」
ビ ク ン !
「お、おい、ダメンシャ。
こいつはニフィだ、ニフェールとかじゃ――」
「――僕の……調査能力を……侮るな……。
ジーピン家の……【狂犬】……学園……すぐ分かった。
君……大声で……叫んだろ?
もう一人……【死神】……いるんだろ?」
マーニ兄が一歩踏み出し、答えてくれる。
「俺の事か?」
「ああ……あんたか。
うちのバカが……苦労かけるな」
「気にすんな、バカはどこにでもいる」
ダメンシャは苦笑しつつ、次にカルに声を掛ける。
「カル……頼みがある」
「……なんだ?」
「暗殺者……ギルドへ……ザイディ……殺害を……求める。
詐欺師……ギルドの……長からの……依頼だ」
「受けよう。
処分方法は問わないな?」
「ああ……これで……あん……し……ん……だ……」
その言葉と共に安らかに眠っていった。
カルは声も出さず、肩を震わせ頭を下げる。
僕たちも、何も言わずに同様に頭を下げる。
少し経ってカルが――目が赤いが――昏い目をして宣言する。
「いくぞ」
「カル、ちょっと待って。
マーニ兄、ラクナ殿、騎士たちにここの調査をお願い」
「分かった、知らせてくる」
急ぎ二人は連絡しに行った。
「それと、カル、一つ提案だ」
「……なんだ?」
「ザイディとここに来た三名について気絶させるだけとする」
「おい!」
「代わりに、ザイディに対しては陛下と相談して火炙りにできないか提案する」
「は?」
あぁ、まだピンとこないか。
「そして、火をつけるのをカルとルーシーにできないか相談してみる。
あ、ルーシーは男装してもらうね」
「はぁ?」
「ダメンシャの依頼を受けたカル。
ザイディからコナかけられて迷惑していたルーシー。
どちらもまとめてケリつけられるよ?」
カル、何だその唖然とした顔?
「……ニフェール様、あんた性格悪いって言われないか?」
「カルって奴にたまに言われるね」
「そいつ、真実言ってるだけじゃね?」
「ひどいな、こんなに心が清らかな男の子に向かって……」
カル、少しづつ嗤い始めてるよ?
「その手で行くか。
んじゃ気絶させる方向で!」
「だね!」
そんなこと言ってると、マーニ兄が戻ってきた。
「ここの片づけは任せて来たからすぐ行けるぞ……カル、何かあったか?
昏い目が元の目に戻っているが?」
「ニフェール様に面白い提案されたんだよ」
マーニ兄、何その視線!
「お前何した?」
「ザイディの処分について、陛下にお願いして火炙りにできないか提案。
その火をつけるのにカルとルーシーを出そうかと。
あ、ルーシーは男装させるけどね」
「……何となくわかった。
お前、また色々と……」
「あんな昏い目させてもねぇ。
ちょっとの提案で戻せるんだし」
「性格悪っ!」
「兄さんが言うな!」
兄弟のちょっとした戯れに呆れる他三名。
「あ~、ラクナ殿待たせてるんじゃねぇのか?
さっさと行くぞ?」
「んだな、後は歩きながら話すか。
あ、マーニ兄、誰かメッセンジャー役で一人連れて行きたい」
「一応メリッスを連れて行く。
ビーティはここに残して後片付けさせる」
ならさっさと行きますか。
急ぎ移動し、強盗ギルドの傍に到着。
「カル、ここって裏口とかあるか?」
「一つあるが……広さは無いな。
一人で守り切れる程度だ」
……うん、この手でいくか。
「ラクナ殿、カリム。
裏口封鎖して。
マーニ兄とナットはギルド入ってすぐの辺りを制圧。
僕とカルでザイディと他三名の確保。
どの担当も基本皆殺しでいいよ。
捕獲はザイディと他三名のみ」
「捕獲対象知ってるのお前だけじゃないのか?」
「うん、なので急ぎ確保しないといけないんだけどね。
そこは運任せかな。
最悪、ザイディだけども確保できればいいよ」
それぞれからOK貰い、戦闘準備に入る。
あ、メリッスはマーニ兄の近くで隠れてもらうことになりました。
流石に怖いそうで……って、それでいいのか?
こんなのそうそう経験できないんだけどなぁ……。
「では、僕とカルが最初に入って捕獲対象いないか確認します。
その後、マーニ兄たちに任せます。
で、僕らはカルの案内でザイディのいる部屋に突撃。
ラクナ殿達は裏口から逃げ出そうとした奴らを切り捨ててください。
では、各自移動して五分後に突撃します」
◇◇◇◇
「……」
「……」
儂、ラクナはニフェールの部下であるカリムと一緒に裏口で待機。
敵が逃げ出してくるのを待っている。
なのだが……互いに会話が無く、何と言うか……気まずい。
色々情報は聞いている。
なので、彼らが暗殺者であることも知っているし受け入れているつもりだ。
とはいえ、互いに遠慮してしまう気持ちはある。
本来捕らえ、逃走する関係。
こういう時にはどうしても考えてしまう。
「ラクナ様、質問よろしいでしょうか?」
うぇ?
カリムから声かけてきた?
「どうした?」
「ラクナ様やマーニ様は除いての質問です。
なぜ騎士はここまでまともに仕事をしないのでしょう?」
グ フ ッ ! !
ちょ、ちょっと待て、本気でそれキッツイ質問なんだけど!
「本日だけでも第五部隊の隊長・副隊長がまともに仕事してない。
第四・第六の隊長は南西地区制圧がマトモにできない。
それどころか、学園の様子を見ることもしない。
第三の副隊長は今回の遠征で第八部隊を連れて行かざるを得無くした張本人。
騎士団長は手が回っていないのか、ニフェール様から作戦指示を受ける始末」
あ゛あ゛あ゛あ゛……。
マジでそりゃカリムも言いたくなるわ……。
「あ~、まず騎士……というか貴族で派閥とかあるの分かるか?」
「ええ、大体は」
「それの関係で貴族派――ディーマス家は知ってるな?――と言うのがいる。
だが、そいつらがふざけた行動を気にしないタイプだったんだ」
「……暗殺上等、裏金万歳ってとこですか?」
理解度高いな……。
「大体合っている。
そして、それ見て『俺たちもやりゃいいじゃん!』と考える奴らがで始めた。
遠征に行ったダイナ家とかだな。
そんな奴らがどんどん増えて行った結果、現状になったという認識だ。
まぁ、他にもあるとは思うが、大きな理由としてはこんなところだな」
「……単純に貴族減らすのはダメなんですかね?」
「罪があれば潰せる。
というか、罪あるのに貴族でいさせるなんてありえない。
だが、色々うまく誤魔化してくるんだ。
法にギリギリ抵触しないとかバレないような手口とかな?
そのため、潰したくても潰せない」
出来るならもっと貴族減ってるぞ?
「もしかして、ニフェール様の行動は膿を出すような感じなのですか?」
「望んでやっているわけでは無かろうが、結果的にはそうだな。
なので、儂としても協力できるところは協力するつもりだ。
正直、今年だけでここ数年分の膿を出しているしな」
一通り聞き出したつもりなのか、黙り始めるカリム。
こいつもニフェールと同じくらいの子供なのに。
多分王宮で働く奴らより国の為に働いているんだよなぁ……。
「とりあえず現時点でニフェール様を休ませることは難しい事は理解しました。
とはいえ、無茶させてあの方が倒れたらこの国危険なのでは?
少し負担を減らせるようご検討いただきたいです」
いや、マジですいません!!
「理解できる、そして本来我らがしなくてはならないことだ。
断言できぬことが恥ずかしくある。
だが、可能な限りそちらの負担を減らすよう努力しよう。
ただ、儂だけでは負担減少はかなり限定的だがな」
「?」
あぁ、分かりづらかったか?
「この国はヒビや穴が無数に開いた壺と思ってくれ。
儂が動くことでいくつかのヒビや穴を塞いだとする。
それでも水はそこかしこから漏れる。
多分、関係者――両侯爵や陛下たち――を含めても完全にふさぐことは出来ん。
とはいえ、少しづつ減らしているとは思うんだがね」
バ タ ン !
ん?
「お、なんだ、こいつら?」
あぁ、裏側から逃げようとしている奴らか。
「貴様ら、強盗ギルドの者だな?
ここを通ることはまかりならん」
「はぁ?
二人でここを封鎖でもするのか?
辞めとけオッサン、無茶だ。
大人しく通してくれや、怪我しないで済むぜ?」
こいつら、余程舐めてやがるな?
「そう思うのなら突破したらどうだ?
まぁ、無理だろうがな」
「……死んだぞ、テメェ」
こんな程度でキレるのか?
最近の若者は……耐えるという考えが無いんだろうなぁ。
だから――
ズバッ!
――簡単に斬られるんだ。
「お、おい、なんだアイツ」
「バカッ、のんびりしてないで、アイツ迂回して進めばいいだけだろうが!」
左右に分かれて逃げようとするので、左側を盾で、右側を剣で威嚇する。
すると、第三の男が儂の頭を越えて逃げようとした。
中々考えた行動だが――
サ ク ッ !
「ガハッ!」
――カリムがちゃんと仕事しているようだな。
「はぁ?
なんで……」
「暗殺者ギルドのカリムだ。
貴様らがここを通れぬよう塞げと依頼を受けた。
襲ってくるかの判断はそちらに任せる」
「はあぁ?!
なんでこんなところにカリムがいるんだよ?!」
「馬鹿っ!
これで、ここ通れないの確定じゃねえか!
退けっ!
正面突破の方がまだ可能性があるぞ!」
……カリムって実はかなり有名?
「ラクナ殿」
「なんだ?」
「この調子で壁役頼みます。
回り込んだ奴はこちらで」
「承った!」
その後もこの場所を守り切る。
だが、昨年一年間で殺した人数を今日一日で越えた気がする。
ニフェールだけじゃなく、儂も仕事し過ぎな気がするんだが?
それとカリム、本気で騎士団でバイトしないか?
一日おきとかでもいいから!
給料は副隊長並みまでなら出すから!!




