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本日一回目の投稿です。
二回目は20時台を予定してます
「助か……!」
一息つく間もなく、先ほど僕が蹴り倒した男が騒ぎだろうとしやがった!
慌てて口を塞ぎ……そのまま顎を砕きかけるくらいに力を入れる。
「(モゴモゴ!)」
何か言いたいんだろうが、正直どうでもいい。
「……で、二階の人質を殺したいから騒ごうとしたのか?
なら貴様も殺すが?」
「(ブンブン!!)」
全く、自分の行動が人を殺すとは考えなかったのか?
それとも、もう一人の侵入者がどこ行ったか想像もしなかったのか?
「手をどけるが、口を開くな。
騎士たちが入ってくるまで黙ってろ。
いいな?」
「(コクコク)」
ふぅ……。
カリムとナットは特に問題なさそうだな。
後は上の方か。
「カル様、カリムとナットに裏口へのルート確保してもらいますか。
その間に我々で上を助けに行くのはどうでしょう?」
「そうだな、あまり時間もないからそれで進めるか」
「かしこまりました。
カリム、ナット。
すまんが逃走経路の確保を頼む」
「は~い」
「かしこまりました」
「では、カル様、参りましょうか」
「あぁ」
二人で二階に登って――
「ニフェール様、正直キモイ」
「酷っ!
手下っぽくやってみたのに!」
「妙に地位の高さが見え隠れしてるから多分下の奴らも困惑していると思うぞ?
むしろ侍従とか執事とかに見られる可能性がある」
あ~、それはなぁ。
「お前の手下をするときに侍従をベースにして動いてみたからそりゃあなぁ……」
「そういうことか……まぁ、今更変更するのも手間だし、このままいくか。
ちょっとキモイけど」
「あんまりキモイ連呼しないで……」
凹みつつ次の作戦行動について話す。
「カルが扉開ける、僕が突撃して侵入者を潰す。
そのまま長を侵入者と同じ体勢で押さえる。
カルの方で長に説明ってところかな?」
「そうだな、騎士たちに手づから引き渡すわけじゃないんだろ?」
「それやると面倒だしねぇ。
……この部屋の扉を閉めてから十数えてから騎士を呼ぶよう指示して。
それなら僕たちはいなくなれる時間は十分でしょ」
「だな、なら始めるか」
カルとの打ち合わせを終え、救助に入る。
扉を開けたと同時に僕が突撃。
突き付けていたナイフを持つ右手を握りしめ――
グ シ ャ ッ !
バ キ バ キ ッ ! !
――へたに動かせないように左右の肩を砕き――
ボ キ ッ !
ゴ キ ッ !
――邪魔なので放り投げる。
ブ ォ ン !
ガ コ ン !
……壁にヒビ入ったのは、後で謝罪しておこう。
カル、呆れた目で見るな!
長の口を塞いで耳元でこちらの意図を説明する。
「暗殺者ギルドの者です」
「……戻ってきたのか。
他のギルドは?」
「娼館と商会は大丈夫の様です。
他は未確認です。
それと、ここの一階も制圧済みです」
「多分強盗ギルドが引き起こしている。
そこで倒れている奴も見た記憶があるからな」
と言って放り投げられた方を見て固まる。
気持ちは分かる。
「あの……壁のヒビの方は申し訳ない」
「……いや、あれで命が助かるのなら安いもんだ。
この後どうするんだ?」
カルに視線を送り、説明をさせる。
「シロス、俺が誰だか分かるよな?」
「カ、カルか?
お前までここに来たのか?」
「暗殺者ギルドは人数少なくなっちまったからな。
長も働かなきゃいけねえんだよ。
んで、これから俺たちは詐欺師ギルドに向かう。
ダメンシャがこの暴動に協力したとは思えねぇ。
だが、部下が乗っちまった可能性がある」
……よほどダメンシャは信用されているんだなぁ。
詐欺師ギルドの長なのに。
まぁ、そこそこ仲良く無ければあんな恥ずかしいあだ名受け入れないか。
【アサシンズ・マスター】……ププッ!
「確かにありそうだな、こちらは気にせずにすぐにでも向かってくれ。
騎士たちもいることだし、これ以上の被害は起こらないだろうからな」
「あぁ、この後扉を閉める。
そこから十数えて騎士たちに大声で知らせてやれ。
その頃には俺たちは移動してる」
シロスが頷くのを見て急ぎ扉を閉めて裏口へ急ぐ。
「終わられましたか?」
「無事終了だよ」
「下の人たちには『アタシたちのこと言わないでね』って言っといたよ!」
「お、助かる。
んじゃ、急ぎ移動だ」
裏口から出てぐるっと回ってマーニ兄たちの所に移動する。
「お疲れ、ニフェール」
「なんとか終わらせたよ。
すぐにでも次の所に行きたいんだけど、二人とも行ける?」
「部下たちも含めて準備は万端だ。
いつでも行けるぞ」
ラクナ殿も頷き、カルの道案内に従って詐欺師ギルドの近くまで移動する。
◇◇◇◇
「ウィリアム先生、こんなところに何の用なんですか?」
「お前は何しに来たのかも分かんねえのかよ!
先程説明したぞ?!」
「はははっ!
俺がちゃんと理解できるなんて思ってないでしょ?」
こんのクソガキがっ!
いや、実際こいつに期待することなぞ何も無いのは事実なんだけどよぉ。
それでも腹立つなぁ……。
「今から詐欺師ギルドに向かうんだよ。
お前にもできる簡単な仕事があるから、ちゃんとやるんだぞ?」
「え、何をやるんです?」
「お前に今教えて覚えていられるか?」
「無理ですね!」
本当にこいつは……。
「なら黙ってついてこい。
直前で指示するから、その通り動けばいい」
そう言って、さっさと詐欺師ギルドに向かう。
アイツにかまって無駄な時間を掛けたくないしな。
各地域の暴動は上手く始められて後は勝手に広がっていくだろう。
本当はずっと後回しでよかった。
だが、なぜか嫌な予感がしたんで先行して詐欺師ギルドに向かうことにした。
いや、中央通りもかなり暴れているようだし、問題ないと思うんだがなぁ。
詐欺師ギルドの前に到着すると、こちらと手を組んだ奴が待っていた。
あ、名前?
知らねぇな。
「お、来ましたね。
ちょっと早いようですが、大丈夫です?」
「あぁ、問題無いよ。
むしろさっさと済ませようかと思ってね。
そちらも早く掌握したいんじゃないかと思ったんだが?」
「ははっ!
その通りですな。
では始めましょうか」
ギルドの中に入っていくと、何か外で大声で叫ぶ声が聞こえる。
正直、建物の中ではよく聞こえないのだが……気にしなくていいか。
「何でしょうな?
暴れている者たちの叫び声なんですかね?」
「さて?
まぁ暴走している奴らの考えなんて俺達にも分かりませんよ」
「そんなもんですかね。
おっと、到着しましたよ。
ここからの処分はお願いします」
「一応確認だが、長はお前が殺すんだな?
それとお前の味方は中にはいないんだな?
全員殺す予定だから敵味方の区別はしないぞ?」
「ええ、それで結構です」
依頼主に許可をもらい、プロブに俺たち以外を殺すように説明(ここ重要)。
中に入り込み殺し尽くす。
なお、ジャン先輩が六人、俺が四人、プロブは……一人。
それも最初に攻撃始めてから俺たちが戦闘終わらせるまで一人も倒せなかった。
実際倒したのはその後五分後。
ホント役に立たねえな!
というか、お前の剣の振り方でよく人殺せたな!
最初がジジババだったのは正しかったんだろうなぁ。
普通の成人だと、返り討ちにあいそうだ。
「あの、そちらの人物は……」
「ほぼ素人の新人ですので、いるだけと思っていただけるとありがたいです。
基本は我々二人ですので」
「ア、ハイ」
そりゃ信用下がるよなぁ……。
俺だって同じ立場なら契約解消したいもの。
そんなことも理解せず大喜びしているプロブ。
ジャン先輩が叱っているが、聞く耳持たない。
本当に邪魔だな。
まぁ、今回の件で金入ったら消すけどな。
「さて、長の所に向かいましょうか。
ジャン先輩、プロブ、行きますよ?」
詐欺師ギルドの奥に向かって進んでいく。
そうすると、他より厚めの扉がある。
ああ、この中にいるんだな。
現ギルド長のダメンシャが。
「プロブ、剣を抜いておけ。
ただし、指示あるまでは振ったり突いたりするな」
「はぁ、そりゃ分かりやすくていいけど」
お前の理解力だと、これでも不安なんだよ!
そのままこの面子でギルド長の部屋に入る。
「……来ちゃいましたか」
「おや、想像されてたのですか?」
「外の大騒ぎから考えて強盗ギルドが暴動でも起こしたんだろうね。
多分金の為かな?
そして、お前はこの機会にこのギルドの長になりたかったってとこでしょう?」
うっわぁ、バレバレじゃないか!
「ついでに後ろの面々は強盗ギルドから借りた兵隊かな?
君たちもこんなくだらないことに振り回されてねぇ。
さっさと逃げればいいのに」
はぁ?
なぜ逃げるんだよ!
これからたっぷり金を頂くってのに。
「……なるほど、こちらの言っているのを理解できないようだね。
あれだけ分かりやすく事態が変わったってのに」
事態が変わる?
何を言ってるんだ?
会話に割り込んで質問を投げかける。
「ほぅ、そこまで言うほどの変化ですかな?」
なぜ長はキョトンとするんだ?
「……もしかして、先ほどの叫び声が聞こえなかったのかい?
それならその自信も納得できるけど」
「確かに叫び声というか、五月蠅い雑音が聞こえたな。
だが、何言ってるのか分からなかったな。
そこまで重要とは思えんがね」
その回答に長はニヤリとして宣言した。
「君たちは今ここでこちらの命を奪うのだろう?
まぁ、足掻くだけは足掻くが、どうやってもこちらに勝ち目はない。
だが、殺した後どうするのかな?
推測ではあるが、貴様らの手に残る金はほぼ無いぞ。
そして使う機会も無くなる」
は?
金が無いってのは、この場所に無いってことだろうが……使う機会が無い?
訳分からんな。
謎解きにしてももう少し分かりやすい発言をしろよ……。
「長と言うのは、相手が理解できない言葉を伝えるのが仕事なのかい?
俺たちは金を得る。
そして、使う機会はいくらでもある。
アンタが気にする必要は無い」
「あぁ、君たちがそう思うのならそうなんだろうね。
ならさっさと殺したらどうだい?
そうじゃないと……殺されちゃうよ?」
……殺される?
俺たちが?
誰に?
……いや、そんなことは無いはずだ。
あれだけ大暴れしている奴らを簡単に鎮圧するなんてこの国の騎士では無理だ。
時間をかけて少しづつ制圧していければいい方だ。
それをひっくり返す可能性がある人物は今王都の外だ。
まだ二週間と数日。
最短でも後数日ある。
こいつの寝言は成立しないはずだ!
「おや、心当たりがある?
君たちを殺したがる人物に思い当たるのかな?
なら今からでも急いで逃げるのをお勧めするよ。
ちなみに、少し耳をすませてご覧?」
「は?
何を言っている?」
長が物凄い顔をしてきた。
自分が殺されることを分かった恐怖。
でも、俺たちだけでも死神に捧げてやるという覚悟。
そして、何かは分からないが自分が死んだ後に俺たちが殺される。
そう確信するほどの喜び。
それだけの表情がどうしてできる?
何をアンタは感づいた?
「聞こえないかい? 阿鼻叫喚の声が。
臭わないのかい? 死体が放つ腐臭と血の臭いが。
そして気づかないのかい? 君らを滅ぼそうとする暗殺者の刃が。
既に強盗ギルドは終わっているよ。
切り刻まれ喰らいつかれて終わるのさ」
切り刻まれ?
喰らいつかれ?
何を言っているのか分からない。
だが、こいつの言葉を聞いているとイヤな予感がする。
ジャン先輩は……俺と同じで理解はできていないようだ。
ただ、危険度が増したことは何となく感じているようだ。
さっさと殺して金貰って逃げた方がいいってことか?
「はっ!
くだらない事を言われますねぇ、ダメンシャ様。
声? 臭い? 刃?
あなたの寝言に付き合ってられないのですよ!
さあ、もうこのギルドにあなたは不要です。
さっさと死になさい!」
レイピアを抜き長を攻撃しようとする依頼主。
ナイフを抜き、防御態勢を取る長。
俺たちは少し下がり――
「プロブ、突きの構えを取れ。
位置調整は細かく指示するが、合図したら何も考えずに突き刺せ」
「突きね。
こんな感じかな」
――プロブに攻撃準備の指示をだすが……何だよその突きの構えは!
俺、そんなへっぴり腰の突きの構え教えた記憶はねえぞ?!
長と依頼主の方がまだまともな構え方してるぞ?!
「……ウィリアム、お前ちゃんと構え方教えたのか?」
「……俺もこんなふざけた突きの構え初めてみましたよ」
二人して溜息を付く。
騎士科最下位経験者は伊達じゃないってことか……。
そんなことを言っている間に向こうでは切り合いが始まっていた。
とはいえ、二人ともプロブよりマシとは言え大した実力のない者たちの争い。
見てて危なっかしくて仕方ない。
「プロブ、一歩左」
「この辺りかな?」
「あぁ、それでいい。
それと、もう少し脇を締めろ。
そんなんで突き繰り出せるはずないだろ」
ジャン先輩、頷くだけじゃなくて……まぁ、今更指導しても無駄か。
「こんな感じ?」
「まぁ……さっきよりはましだな。
そのまま待機してろ」
そう言って観戦していると依頼主が長の腹部をレイピアで突き刺す!
そのタイミングを見計らって――
「プロブ、突け!」
――俺の指示通りに依頼主と長を纏めて刺し貫く!
そのまま二人して倒れて……どちらも瀕死か?
いや、長は動いてないな……死んだか?
プロブが珍しくちゃんと仕事したな、偉いぞ。
ご褒美に後でお前の金を奪ってやるからな?
「え、えっ、なぜっ」
プロブ落ち着け。
お前は期待通りの仕事を(珍しく)成し遂げたんだから。
「えっ、成功してんの?」
「ああ、予定通りだ、よくやった!」
お、依頼主がまだ生きてる?
長を押し倒した形でこちらを向いて……ってそのまま倒れやがった。
「き、貴様……なぜ俺を……」
「予定通りさ。
長も依頼主も消えればこのギルドはガタガタだろ?
後は強盗ギルドで吸収してやるよ」
おぅおぅ、表情が絶望に染まって可哀想にねぇ。
安心しな?
お前の努力は俺達で有効利用してやるよ。
「さて、依頼主殿。
面倒なんでそろそろ死んでくれ」
「ふ、ふざけ……」
ザ ス ッ !
「あ゛っ!
ああぁぁ……」
胸突いたらあっさり死んだ。
分かるか、プロブ?
こんな風に相手を突くのなら一発で殺さないとだめだぞ!
「さて、やること終えたしギルドに戻りますか」
「そうだな。
おい、プロブ、戻るぞ!」
「あ、ああ」
時は夕刻。
そのまま詐欺師ギルドから出て行く。
そして中央通りを越えて強盗ギルドに戻ろうとしたが……。
「おいおい、何だよこれ?!」
ジャン先輩が驚いているが……魔物でも通ったかのような……。
血と死肉しかない中央通りなんて想像もしなかったよ。
詐欺師ギルドで時間かけ過ぎたか?
長の話を最後まで聞いたのは失敗だったか……。
「切り刻まれ喰らいつかれて終わるのさ」だったか?
長の妄想とは言え……妄想?
もしかして妄想ではない?
となると、「切り刻む存在」と「喰らいつく存在」が王都にいる。
……もしくは戻ってきた?
……いや、一番に思いつく奴は只今遠征中だ。
それだけは絶対に無い!
それに、多分アイツが該当するとしたら「喰らいつく存在」だ。
「切り刻む存在」が分からない。
となると、元々ギルドの上位者なら知っているレベルの情報なのかもしれん。
「ジャン先輩、急ぎ戻りましょう。
ザイディ殿に確認しなければいけない事態かも知れません!」
「……まさかこれの理由を知ってると言うのか?」
「分かりません、でも俺たちの頭じゃ判断できない。
なら、ザイディ殿の情報か経験に頼るしかないのでは?」
不安を覚えつつも納得してくれたようで、急ぎギルドに戻る。
頼むから、ザイディ殿の方で想定できていてくれよ?
五里夢中の状態は避けたいんだからな?




