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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
7:義兄救援
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本日一回目の投稿です。

二回目は20時台を予定してます

◇◇◇◇


 夜。

 儂、ヘルベス・チアゼムは残務を整理して帰ろうとする

 そうすると、ジャーヴィン侯爵が執務室に来やがった。


 なんだよぉ、帰る邪魔するなよぉ……。



「帰る所か?

 すまんが、少しだけ時間が欲しい」


「何かあったのか?」


「騎士団側の情報だが、共有しておいた方がいいと思ってな。

 商業ギルド側から怪しい奴らから監視されているようだと言う連絡が入った。

 様子見させたところ、今日の夜一斉にいなくなったようだ」



 それって……。



「普段は夜もいたけど、今日はいなくなったで合ってるか?」


「そうだ。

 ここからは儂の推測だが、明日か明後日には暴動が起こると思う」



 だろうな。

 儂も同じ考えだ。



「商業ギルド側に指示は?」


「明日と明後日は店を休め。

 それか、すぐに閉められるように準備しろとしか言えんかった」


「いや、十分だ。

 言うこと聞くかは当人たちに任せよう。

 ……マーニとニフェールの情報は無いか?」


「全く。

 送りたくても送れぬかもしれんがな」


「何っ?」



 ジャーヴィン、お前何言ってる?



「第八部隊の面々が半分いるんだぞ?

 どれだけ足引っ張るか不安でしょうがない。

 どころか、最悪やらかすかもしれんだろ?

 お前の方であった犯罪者脱獄の話だ」


「……そうか、そのレベルの事もあり得るのか……」


「あぁ、そうなると、こちらに早馬飛ばすなんて無理な可能性が高い。

 むしろ馬車の御者にも事欠く可能性だってある。

 スホルムの者たちはどこまで信じていいのか分からない。

 となると、第八部隊がやらかしたら早馬は出せないと思う」



 勘弁してくれよ、本当に。



「となると……ジルとフェーリオに情報を渡しておこう。

 最悪、あいつらに学園の鎮静化を頼むしかあるまい」


「……言っても無駄なのは分かっているんだが。

 ニフェールがいれば騎士科の意思統一が楽なんだろうがな」


「あいつ抜かした場合、使える奴いるのか?」


「二番手は格落ちと言った感じらしい。

 騎士科だけじゃなく他の科も似たようなものらしいがな」



 となると、難しいな。

 実力足りない奴に、それもまだ学園生なのに負担掛けるのは流石にまずかろう。



「文官科は?」


「フェーリオとジル嬢の側近がいるから大丈夫じゃないか?。

 それに、バキュラー家嫡男もいることだし、何とかなるだろう。

 だからこそ、騎士科の実力者がなぁ……」


「仕方ない、そこは学園教師と連携して暴走させないようにしとかないとな」



 となると、後は……犯罪者ギルド関係者か。



「娼館、生産から情報は無いのか?」


「生産は商会とほぼ同じ行動を取っている。

 娼館は自分たちの場所を堅固に守る方針のようだ」


「となると、後は騎士団に頑張ってもらう位か」


「そうだな。

 兵站担当達にも明日か明後日が重要となることは伝えた。

 後は……臨機応変にやるだけだ」



 臨機応変ってあんまり好きじゃないんだがなぁ。

 まぁ、仕方が無いか。



「なんか、神にでも祈りたくなってきたよ」

「【死神】にでも祈っとくか?」


「……もう一つの神に祈るよりかはマシか」

「……確かにな」



◇◇◇◇


 妾、ピロヘースはここ数日部下をこき使い情報を集めさせた。

 集まった情報から見いだせるのは一つ。



「シフォル、トレマ。

 明日、暴動が起こるよ」

「その情報はどこから?」


「商業ギルドからの情報だよ。

 監視を一気に無くしたようだねぇ。

 そんなことしたら相手に大声で教えるのと同じだというのに」



 笑顔で話したつもりだが、シフォルに驚かれてしまった。

 困ったねぇ……。



「トレマ。

 明日の護衛達について、情報収集等は全てキャンセル。

 全力でこの場所を守ることに注力するよう指示を。

 外出も可能な限り禁止としておくれ。

 下手にぶらついたところで暴動が始まると危険だ」


「はっ!」


「シフォル。

 娼婦・男娼たちに強盗ギルドが暴動を起こしそうだと伝えてやってくれ。

 正直に言って構わんよ」

「……言ってもよろしいのですか?」




「何も知らずに怯えられるより、理解した上で妾を信じて欲しいのさ」




「かしこまりました、必ずや」



 二人はすぐに仕事に取り掛かり、妾はしばし目を瞑る。



 ねぇ、ザイディ。

 お前が初めて強盗ギルドの長として妾に顔を見せに来たのをつい昨日のことのように思い出せるよ。


 あの頃はまだ長になってすぐの頃だった。

 強気な反応を見せつつも目は怯えの色に染まっていたねぇ。

 そんな鼻たれ坊主が妾達に反抗するとは……時の経つのは早いもんだ。



 ねぇ、ザイディ。

 お前さんは妾をただの婆として見ているねぇ。

 長く生きただけの干物とでも思っているんだろうねぇ。



 でも、忘れてはいないかい?

 妾につけられた【妖魔】のあだ名。

 あれは年齢が分からないからだけじゃないんだよ?



 何時殺されてもおかしくない立場に長年生き延びること。

「本物の化け物」となった者だけに受け継がれたあだ名だ。



 馬鹿ではダメだ。

 戦えなくてもダメだ。

 生き延びられない輩は話にならない。



 このあだ名を継いだ者として、お前ごときに殺られる訳にはいけないんだよ。




「久しぶりに昔を思い出すかねぇ」




 目を開き、自室へ向かう。




 若かりし頃に先代娼館ギルド長に頂いた物。


 もう二度と表に出す予定の無かった品物。


 大事に箱に入れしまい込んだ妾の過去。


 自分が最後に使ってから何年経ったのやら。


 品物のメンテナンスは欠かしていないし、身体もまだ動く。


 妾は箱から取り出し、久しぶりに自分の相棒を撫で、明日の為の準備を始める。




 今生きている者たちの誰も知らない……【妖魔】と成るために。



◇◇◇◇


「なんで娼館ギルドを襲わねぇんだよ!」



 ザイディ殿に噛み付く下っ端共。

 というか、下半身でしか物事を見れない馬鹿どもが騒いでいる。



「何のために暴動起こすんだよ、俺たちに従わせるためじゃねぇのかよ?!

 なら商業や生産だけじゃなくて娼館もイれなきゃダメだろぅ!」



 お前の”イれる”は、娼婦に”挿入する”方だろう?



「断る。

 下らん行動に出て本来の目的である金の確保ができなくなったら意味が無い。

 今回の目的は金だ。

 無関係なところに人手を回す余裕はない!」


「はっ、なら後は俺達だけでヤらせてもらうぜ!」



 お前の”ヤる”は、性的な方だろう?



 俺、ウィリアムは正直面倒になって一つ提案をする。



「ザイディ殿、一つ提案があります」

「……何だ?」


「こいつらの説得に時間かけても無駄です。

 なら、条件付きで娼館ギルドを襲うことを許可してみては?」



 驚くザイディ殿、同時にイヤラシイ笑顔を見せる下っ端ども。



「おぉ、分かってんじゃねえかアンタ」


「条件は強盗ギルドを辞めること。

 ギルドが暴動起こす前に行動取らないこと。

 ギルドはこいつらを助けないし、こいつらも助けを求めない」



 ザイディ殿は少し悩んでいたけれど――



「仕方ない、ウィリアムの条件を受け入れるのなら勝手にすればいい」



 ――俺の提案を受けいれた。



「え、いいのかよ?!

 ありがてぇ!」


「こちらの暴動は昼からだ。

 それまでは絶対に動くな。

 それを守れるのならば勝手に生きていけ」


「分かった分かった、んじゃ、あばよ!!」



 物凄くニコニコした顔で出て行ったが、この条件理解しているのか?

 まぁ、分かってないだろうから提案したんだが。



「ウィリアム、あれでいいんだろ?」


「ええ、ギルドとは無関係になるので、我々が文句言われる筋合いはありません。

 元々は娼館ギルドと敵対する事を危惧して適当に襲う予定でした。

 ですが、あいつらに任せましょう。

 そして、娼館ギルドの実力ならあいつら位あっさり消せるでしょう。

 あれの尻拭いせずに済むのですから、後は放っておきましょう」



 あのクズに時間を取られる方が問題だよ。



「さて、明日の方針だが、学園と各門の前の配置は完了しているんだな?」


「ええ、後は狙う商会へ向かう部隊はザイディ殿の方で」


「ああ、そちらは準備済みだ。

 詐欺師ギルドへはお前らが行くんだな?」


「ええ、ギルド長とそれを追い出そうとする輩が両方死ぬ。

 それでいいんですね?」



「その通りだ。

 今回の暴動の提案は詐欺師ギルドのギルド長を狙う輩。

 俺たちは騙されただけ。

 指示通り、金ももらって指定されたところで暴れた。

 娼館襲ったのはうちとは無関係な愚か者。

 商業も生産もギルド長が死んじまったのは問題だが……。

 詐欺師ギルドに騙されたことと。

 偶然による死亡であることを考慮して不問とするよう言う。

 これで、新しい秩序が生まれるって訳だ」



 頑張って考えたねぇ、エライエライ。

 まぁ、俺たちは状況によっては逃げ出すけどな。



「んじゃ、明日は一旦ここに集合する。

 周りが暴れ出したところで詐欺師ギルドで仕事して、戻ってきますんで」


「あぁ、明日よろしくな!」



 プロブと別れ、ジャン先輩と軽く散歩する。



「こちらの準備も終わっているし、逃走準備も完了。

 後は賽が振られるのを待つのみか」


「ええ、こんな偶然が重なるのを見逃すわけにはいきませんからね。

 ジャン先輩もそう思ったからここまで付き合ってくれたんでしょ?」


「そうだな、ザイディ殿の提案よりも現実的だし勝算は十分ある。

 一番危険なニフェールがいないという情報。

 これもプロブから貰えて失敗要素はほぼ消えた。

 これで乗らない理由が無いな」



 そうですねぇ。

 俺もジャン先輩も危険(ニフェール)に対する理解がギルド内で一番という自覚はある。

 だからこそ全力で自分たちを守るように動いたし逃走経路も準備した。


 学園教師の頃でもここまで苦労した記憶は無いな。

 久しぶりに頭を使うのもいいもんだ。


 明日の成功を確信しジャン先輩と別れる。

 輝く未来を夢に見ながら。



◇◇◇◇



 ウィリアム先生とジャン先生と別れて俺、プロブは隠れ住んでいる場所に帰る。

 正直あばら家としか言いようがない家に無断で住んでいる。

 だが、結構寒いし辛いものがある。



 とはいえ、今は雌伏の時。

 明日が終わればかなりの金が貰えるはずだ。


 ニフェールの居場所を教えるだけで貰えるとはねぇ。

 ツイているとしか言いようがないな。


 いやはやニフェール様々だぜ!



 金貰ったらどうしようかな。

 飲み食いでぱっと使いたいところだが……。

 次の収入確保のために何かできることは無いだろうか?


 王都で殺すのは不味いことは分かったが……なら盗む方に回るか?

 とはいえ、隠密行動は得意じゃないんだよなぁ。



 もしくは山賊じみた事するか?

 でも、俺一人だとどう考えても無理だよなぁ。

 ウィリアム先生やジャン先生もやるとは思えないしなぁ。



 ……とりあえず今のギルドに居座るか。

 やることある程度分かってるし、入って数日だけど



 あ、そういえばディーマス家がヤバいらしいな。

 もしかして家潰される?


 なら、潰れる前にあの家に強盗する事提案してみるか!


 どうせ今のギルドも金がねえから俺の情報に飛びついたんだしな。

 次の儲けの提案をしてやれば、役に立つ存在とみなすだろうよ。



 それと、うちの家に強盗するのも提案するか。

 どうせ、あの家は俺のモノにならないんだ。

 それなら、潰して報酬貰った方が俺の為だな。


 こちらは大して金無いだろうから儲けは少ないだろうが。

 ディーマス家狙う前の練習として襲うことにすれば……。


 色々考えていると俺の輝かしい未来がイメージされていく。



 布団も明かりも無く、屋根と壁があるだけの部屋。

 風通しが良すぎて、これから冬になるのにこんなところに住んでいられねぇ。


 全ては明日。

 明日を乗りきって、俺は大金を得る!!



 本話以降、頻繁な場面移動(「◇◇◇◇」のことです)は減少する予定です。

 この後はニフェールたちが王都に戻る所となります。

 

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