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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
2:デート
19/326

8

「昨日はお楽しみでしたね!」



 ふざけんな、フェーリオ!

 こっちはギリギリだったんだ!!

 お前のボケに付き合ってらんねえんだよ!!!



「まぁ揶揄うのは置いておいて、これからは?」


「学園に移動、寮に戻り授業の準備と庶務課に言って手紙を出す。

 ちょっかい出してきそうな奴っている?」


「トリスとカルディアくらいかな。

 でも、もしかすると既に捕まっているかも」



 ああ、衛兵を調査した結果ですね。



「となると……また昼食時におしゃべりしますか」


「昨日の件の周知な。

 事前に側近たちには伝えておく。

 ジルの方も同じように動くだろう」


「了解。

 んじゃ、先に行くわ。

 また後で」



 急ぎジャーヴィン侯爵家を出て学園に向かう。


 ……流石にパン咥えて移動はしていない。

 曲がり角でぶつかることも無く到着。


 朝早めに来たのでほぼ学園生はいなかったが、門番の方に驚かれてしまった。

 簡単に説明して寮に移動、その次に庶務課、最後に教室。


 どの場所でも「何やらかした」の大合唱だった。

 昼飯時に食堂で情報流すと言ってさっさと避難したが。



 そして昼休み。


 先にボロネーゼを注文しフェーリオたちを待つ。

 皆左の頬が気になるのかチラチラ見てくるが、まだ黙っておく。

 注文が届くタイミングでフェーリオたちがやって来た。



「昨日はお楽しみでしたね!」


「お前、一日で二度もやるネタじゃねぇだろ!」


「いや、一応笑いを取ろうかと……」



 お前なぁ。

 侯爵家の人間が芸人化してどうする?

 それも別の侯爵家に婿入りする予定ってこと忘れてないか?



「お前は芸人じゃないんだからそこまで気にしなくていい!」


「まぁお前のここ数日の話の方が面白いのは分かっているがな。

 さて、聞かせてもらってもいいかな?」



 周囲の学園生たちも聞きたくてうずうずしているようだ。

 わざわざ静まるように言い出す輩まで出てきた。



 まずは任意同行についてだな。

 同行を求められ次の日の朝まで質疑応答という名の尋問の話を説明する。

 ついでに尋問したのがレストの父親であることも伝える。



「男同士、密室、深夜の取り調べ、何も起きないはずがなく……」


「起こって欲しかったのか、オイ!

 お前の言ってるタイプの事はなにも起きてねぇよ!」



 一部の方々(女性八割男性二割)から生唾飲んだ音が聞こえた。

 いや、確認はしたくないぞ?


 って、ジル嬢、あなたは事前に話を聞いているだろう?

 なぜ一緒になって生唾飲み込むんだよ!



 次に任意同行を求められてから食事も水も与えられなかったこと。



「それって、下手な拷問よりきつくないか?」


「きついというより、殺そうとしていたんだろ?

 水飲まずにどれだけ命を保てるって思っているんだ?

 一日持たない恐れもあるのに?」



「え゛?」



「僕はあの時死ぬ可能性が高いと思ってたよ」



 食堂にいる者たちも死に直結する拷問をされていたとは思わなかったようだ。

 悲鳴を上げるものもいた。


 そしてレストの父親が狂ったように部屋に入り暴行を行ったこと。

 左の頬にナイフを突き立てられたこと。


 ちなみに、同性強姦未遂のことも伝えた。



「なんだ、やっぱり『何も起きないはずがなく』じゃないか?」


「同意じゃねぇんだよ!

 強姦と同意を間違えんな!」



 あと周囲の面々、ヨダレ垂らすな!

 性癖バレバレだぞ!

 特にジル嬢!


 同行ネタの最後としてジャーヴィン侯爵が助けに来て、説明終了。



「捕らわれのお姫様?」


「そんなわけねぇだろうがよ!

 なんだ、お姫様役にでもなりたいのか?」


「むしろ助ける騎士様役がいいな~」


「……なぁ、その場合僕がお姫様役を期待されちゃっているんだけど?

 ソッチの趣味あったの?」


「いや、ないけど?」




 チ ラ ッ




 あ~、ジル嬢、無いから落ち着け?

 期待するな?

 絶対やらないから。



「んで、一旦衛兵たちの居場所から避難している。

 次の日王宮で被害者――僕の事だよ?――の取り調べに入るはずだった。

 だが……」


「だが?」



「お前の親父さんが頑張っちゃってなぁ。

 避難したその日に取り調べして次の日に陛下を交えて裁判に……」


「早っ!」



 食堂内の学園生も「ヤバッ!」「めっちゃ大事じゃねぇか!」と大騒ぎ。



「そこでレストの親父のやらかしを全部暴露する形になって大混乱。

 それに加えてこの親父適当なこと言い出してな。

 元セリン家夫人から僕を捕まえてくれと言われたとか抜かしてた。

 ちなみに、その発言の直後に実際に元セリン家夫人が裁判に呼ばれたよ。

 そこでこの親父が嘘ついてたのが発覚。

 そして姑息な作戦が失敗したのにブチギレてお前の親父さんを襲おうとしてた」



「……一応確認するが――」


「――お前らが喜びそうなシーンは無いぞ。

 暴力行為の方だからな。

 ちなみに僕の方で投げ飛ばしといたが」



 周囲から「え?」という反応が。

 僕、それなりに戦えるんだけどなぁ。



「んで、次にレストとお袋さんが入ってきて親父さんに罪を擦り付け始めた。

 それにブチ切れた親父さんは今回の件レストからの依頼であることを白状した。

 そんで、色々あってレストん家の三人全員とっ捕まって鉱山行き確定。

 アンジーナ家は奪爵。

 説明からすると、別々の鉱山に送るから二度と会うことは無いだろうって」




「ちょっと待て!」




 え?

 誰だ突然後ろから?




「嘘だろ?

 レストが捕まった?」




 あれ、トリス?

 まだ学園生でいられたの?



「あ、ああ、捕まったよ。

 陛下の裁決だから多分さっさと運ばれると思うけど。

 それと、レストが衛兵に法に違反する指示を出していたのが明らかになった。

 なので、その本格調査も始まるはずだよ。

 既に始まっているのかもしれないけど」



 顔真っ青になったトリス。

 次はお前だと言われたに等しいからなあ。

 あれ、もう一人は?



「あれ、カルディアは?」


「知らねえ……レストに呼ばれたかと思ってたんだが」


「レストに近かったから早速お呼ばれしてるかもね、衛兵に」



 いきなりダッシュで食堂を出るトリス。

 実家に戻って今後について話し合うのだろうか?



「ちなみに親御さんには連絡したのか?」


「今日朝に手紙を送ったよ。

 一応一通り記載したけど、どれだけ信じてくれることやら……」



「え、お前そこまで信用されてないの?」


「いや、そうじゃなく誰が信じるんだというぐらいドタバタし過ぎじゃない?

 僕がこの話聞いたら『こいつ、文才ないな』って思うもの」




 ブ フ ォ !




 そんな皆笑うなよ。

 同じこと思っているんだろう?



「まぁ確かになぁ。

 大丈夫か?

 お前の母親、ブチ切れちゃうんじゃないか?

 そして兄弟を抑えきれるか?

【魔王】と【死神】がキレるなんて見たくないぞ?」


「一応陛下の裁定と言うことは書いといたよ?

 それと、やらかした輩は皆鉱山行きだからそこまでキレることは無いと思う。

 キレても鉱山に遊び位に行くくらいじゃないかな?」


「鉱山に?」


「家族総出で犯罪者意識改善ツアーかな。

 兄さんたち……【魔王】と【死神】が全力で精神を改善してくれると思うよ。

 まぁその前段階で精神を壊すけど」


「怖っ!」



 あの二人を甘く見過ぎじゃない?

 このくらいならかわいいものだと思うけどな。



◇◇◇◇


「ルドルフ、今回は前よりかは楽しめたぞ」



 俺が喜んでいるのを、何故か疲れた顔で迎えるルドルフ。

 主たる俺が喜んでいるのだからそんな顔で出迎えるな!



「確かに今回は楽しまれたかと思います。

 ですが、衛兵にもぐりこんでいる派閥の者の親族から泣きが入っております。

『もう勘弁してくれ、愚か者に振り回されるのはコリゴリだ!』だそうで」



 ……そこまで泣き付くほどなのか?

 俺が驚いているのを見て、ルドルフは気持ちは分かると言わんばかりに頷く。

 そのまま説明を続ける。



「驚かれるかもしれませんが、事実です。

 これ以上負担をかけるのも憚られると判断しました。

 対象者には最緊急事態を除き最低数ヶ月指示を出さないこと。

 精神を休ませておけと伝えてあります」



「今の説明を聞いていると、戦場帰りの者にしか聞こえん。

 それも激戦地帰りの者たちへの褒章なのか?」



「実際担当した者からすれば、指示は明瞭でない。

 気分によって方針を簡単に変える。

 まともな裏取りもせず勢いで進めようとする。

 当人は精神的に追い詰められているそうですね。

 最近は何もしていないのに涙がこぼれてくるとか……。

 私も正直代わってくれと言われたら逃げますね」



 そこまでか?

 どれだけ国王派は無能を集めているのだ?



「ふむ、どこまでも国王派は害悪でしかなさそうだ。

 分かった、その者を使うのは一時止めておこう。

 それと……」



 懐から幾ばくかの金貨の入った袋を放り投げる。



「ルドルフからも出しているだろうが、担当した者に渡しておけ。

 こんな無能の為に我らが派閥の者の精神が壊されるのは業腹だ。

 旨い飯でも食っておけと伝えよ」


「かしこまりました。

 必ずや」


「うむ、それと確か他に二人、今回の無能と一緒に居た者がいたな?

 そいつらが今どんな状態なのか確認しておけ。

 次の玩具としよう」


「かしこまりました」



◇◇◇◇



「やぁ、ジル嬢。

 少し話したいことがあるのだが構わないだろうか?」


「あらプレクス様、どうなさいました?」



 私ジルに声を掛けてきたのはプレクス・バキュラー様。

 中立派侯爵バキュラー家、かつ現宰相であるセレバス様のご子息。

 どころか、嫡男ですね。


 一応別派閥なので国王派内と比較してそこまで接点無いんですが?

 どうされたのでしょう?




「最近のチアゼム家、ジャーヴィン家の人員整理についてお聞きしたくてね」




 ああ、確かに仕事できなそうな家を重要なポストから外しまくってますわね。

 おかげで風通しが良くなりましたが。



「構いませんが、どのような点を?」


「どうやって良し悪しの判断をされているのかと思ってね。

 ジーピン家の三男が核になっているのはなんとなく分かるのだけど」



 あぁ、そういうことですか。



「簡単に言いますと……元セリン伯令嬢の勘違いを利用して情報を集められるか。

 正しい判断をできるか。

 判断できない場合に噂に振り回されるのか。

 もしくは発言しないで周りの動きを見極めようとするか。

 それらの判断材料としてニフェール様が囮になってくださいました」


「いや、囮になってって……」



 プレクス様、そのような呆れたお顔をされても……事実なのですけどねぇ。



「あの時の婚約破棄騒動が始まった時点でニフェール様から提案がありました。

『囮役やるから派閥の整理してみたら?』と。

 私どもも止めてはみたのですよ?

 ですが、当人もやる気のようでとりあえず乗っかってみましたわ。

 正直ここまで整理出来るとは思ってもみませんでしたが」


「あ、あぁ」



「もし、似たような手口を行うのなら……。

 事前に準備するのは止めた方がよろしいかと」


「ふむ、何故だい?」



「単純に出来レースにしか見えないのですよ。

 想定外の事態に対して動けるかが問題なのに、事態をでっち上げてもねぇ。

 それに準備する際に手伝わせた者には判断できないではないですか」



 おや、驚かれてますね。



「ジル嬢、まさかとは思うが、側近・取り巻き全て確認対象としたのか?」


「当然ですわね。

 本件で対象になっていない者はおりませんわ。

 被害者であるニフェール様も対象ですわよ?」




「え?」




「ニフェール様については、今回の騒動を鎮静化できるか?

 他の者達には流言飛語に騙されないか?

 ニフェール様はクリアなされましたが、他がかなりボロボロでしたわね」




「……」




 そこまで驚かなくても良いのでは?



「プレクス様だって侯爵家を背負う身。

 その位できないと乗っ取られますわよ?

 特にディーマス様は既存の貴族派とは違う考えを持っているようですしね。

 脇の甘さを見せたら……。

 現在のディーマス家当主と一緒に喰らいつくそうとするでしょうね」



「彼はその位しそうだね。

 ジル嬢やフェーリオ君も彼にちょっかい出されているのでは?」


「ええ、先ほどのアンジーナ家の暴走はあの方の遊びでしょうね。

 多分練習中なのでは?」



「練習中?」



 あら、お気づきでない?



「自分の家、そして既存貴族派の再構成の為の練習と思ってましたわ。

 ここでの練習を元に貴族派解体・再構成を行うものだとばかり……。

 まぁ、何割かは個人的楽しみかとは思いますよ?

 使えない者たちを地に堕とすという感じでしょうね」



 ……そんな引きつったお顔をされなくても。



◇◇◇◇



「ふぅ……」



 メイドの仕事をしていても溜息しか出てきません。

 私、ラーミルは告白してきたニフェールさんの事を考えてしまいます。



 先日その……は、初デート♡を楽しんでいたのですが……。

 衛兵の方々がニフェールさんを連れ去りました。


 その後両侯爵家が手を尽くしても情報が入らなかったようです。

 フェーリオ様、ジル様とも困惑と焦燥の表情をしていたのを思い出します。



 皆様睡眠不足のまま次の日の昼になり事態が動きます。

 学園のフェーリオ様からアンジーナ子息が情報を吐いたと連絡がありました。


 それを元にジャーヴィン侯爵様が衛兵の待機所に突撃。

 そこには食事どころか水も与えられなかったニフェールさんが……。

 最終的には左の頬に深い傷をつけて戻ってきました。



 正直、この時点で抱きついて泣き出しそうでした。

 ですが、まずは休ませようとベッドに連れて行きます。


 いや、そのままという妄想をしなかったとは言いませんよ?


 ですが、ジャーヴィン侯爵家でチアゼム侯爵家のメイドがサカるって……。

 流石に不味すぎる。



 とはいえ……キ、キスまで行きそうでしたが邪魔が入って未遂でしたね。



 正直相手が悪すぎます!


 ジャーヴィン侯爵夫人。

 ニフェールさんの義理の姉(予定)。

 フェーリオ様。

 ジル様。


 こんなメンバーで来られて、文句言えるわけないじゃないですか!!



 そして次の日本件のケリを付けにニフェールさんは王宮に向かわれました。

 が、なぜかこっそり私も向かうことになりました。


 それもニフェールさんから告白されたときのドレスを着て。

 あ、流石に全く同じではなく少しケープとか変えてますけどね。


 どうも元セリン家夫人として発言を求められる予定のようで。



「それでニフェールさんが助かるんですね?

 なら、そして敵を潰せるのならいくらでも協力します!」



 そう伝えるとニヤニヤしてくるんですよね、チアゼム侯爵。


 エロ親父って呼んであげたい。



 法廷では久しぶりにセリン家夫人――元ですけど――と呼ばれました。

 ですが、どうもうまくかみ合わないんですよね。

 もう過去のものになっちゃったんでしょうね。



 そこでなぜか私が勝手にニフェールさんを訴えたなんて話が!

 ふざけたこと抜かした下種親父、貴様なんぞ知らんわ!!



 そいつの発言を全否定しホッとしていましたら、暴走し始めまして。

 ジャーヴィン侯爵に襲い掛かって来たんですよね。


 狂ったとしか言いようが無いのですが。



 が、ニフェールさんが下種親父を投げ飛ばして守ってまして。


 あの時は何と言うか心に来ちゃいましたね♡。


 擬音で言うと、「ズッキューン!!」といった感じ?

 乙女心全開で見てましたよ、ええ。



 さて、ここまでの私視点での今回の件からお気づきかと思います。



 私、ニフェールさんに堕ちちゃってますよね?



 いや、私も初デートの時に「もしかして堕ちてる?」とも思ったのです。

 ですが、その時点ではちょっと確証なかったんですよね。


 でも裁判の時、ニフェールさんがカッコよく投げ飛ばした時を見ちゃいまして。

「ああ、私堕ちちゃったんだ♡」ってはっきりと理解しちゃったんですよ。



 で、そうなれば「後は突撃あるのみ!」と思ったのですが……。

 なんかヘタレてしまいまして。


 私、ここまで来て何してるんでしょうね。

 はぁ……。




「せ・ん・ぱ・い!」




「うっひょう!

 な、何ですか、ロッティ!」


「いや、何か悩んでいるのかサボっているのか判断付かなかったので……」



 あ、メイドの仕事止まってましたね。



「ごめんなさい、仕事続けないとね」


「……先輩、一旦作業止めて。

 今の先輩だと仕事にならなそうなので、相談なら乗りますから座りましょ?」



 ロッティは真面目な顔で心配してくれる。

 うん、気持ちは嬉しいのだけど。



「相談と言うか、覚悟の問題だけだからそこまで気にすること無いわよ」




 ピ ッ キ ー ン !




 ……なんか、ロッティのスイッチを押しちゃったかも。

 目が怖いんですけど。




「ニフェールちゃんの求婚受けるんですか?!」




 直球ですね。

 目が血走ってますけど?

 もう少し手加減とかしてもらえると嬉しいのですけど。



「(コクン)」



「ならさっさと伝えてください!

 皆待ってるんですから!」




 ……皆?




「ねぇ、皆って誰?」


「え?

 ジャーヴィン侯爵家の面々、チアゼム侯爵家の面々ですよ。

 当然メイドや侍従、色々な面々が既に感づいてますし。

 むしろ、先輩が堕ちているのはバレバレですし。

 後は先輩がいつ返事するかだけと皆認識してますよ」




 え?




「そこまでバレてるの?」


「え?

 隠しているつもりだったんですか?」



 ええ、隠しているつもりでしたよ?

 バレバレだったってことですね?



「ちなみに侯爵家の侍従・執事・門番どもは賭けの対象にもしているようです。

 女性陣は金より返事の言葉が知りたいそうです。

 あ、それとそのシチュエーションを詳細に教えて欲しいとのことですよ」



 ……ねぇ、ロッティ。


 真実で殴るのやめて。

 立ち直れなくなりそうよ。


 あと、賭けの胴元には二割ほどよこすように伝えようかしら。



「とりあえず私の気持ちが駄々洩れなのは分かったわ。

 正直賭け事にするのは業腹だけど。

 後は勇気だけなんだけどね」




「ハァ?

 勇気が必要な要素が何処にあります?

 ニフェールちゃんからは告白受けているんですから、返事だけでしょ!」




 いや、そりゃそうなんですけど!

 そう簡単には返事しづらいわよ!



「男性側の気持ちが分からないというのならともかくですけど?

 ニフェールちゃんは先輩が欲しいと明言したじゃないですか!

 先輩が断らない限り確実に受け入れてくれるんですよ?

 告白成功率十割の滅茶苦茶安全な案件ですよ?

 これで失敗したら女としてより人として終わっているってレベルでしょ?

 なのにどんな勇気がいるんです?」



 ちょ、ちょっと待って、ダメージ大きすぎてキツイのよ。

 もうちょっと手加減して!



「ちなみに賭け事の方ですけど……。

 ニフェールちゃんが振られるに賭けた者はいませんでしたよ?

 先輩が受け入れる日付がいつになるか。

 それだけが賭けの要素として残っているだけですからね?」




 そこまで?!



「そんな訳なんで、さっさとニフェールちゃんに返事しましょ?

 第一、自分の職場でいつ返事するのかって監視されながら生活するんです?

 かなりキッツいと思うんですけど?」




 あ!




「それに、返事したらお仲間が増えますよ」




 へ?




「カールラ姉様とあ・た・し、ですよ!

 これでもニフェールちゃんの兄上の婚約者ですからね。

 あ、ちなみにあたしは先輩の事を妹呼びしたほうがいいですか?」



「……保留とさせて。

 ちょっと頭がいっぱいいっぱいなの。

 でも……ありがと」



 これは、冗談抜きで今日中に伝えないと。

 まぁ、覚悟が決まる前に知るよりかはマシですかね。


 ……でも、物凄く緊張してます。

 ニフェールさんの前でちゃんとできるかしら?



◇◇◇◇


 面倒なイベントが終わろうと、変わらず今日もフェーリオのそばに。

 という言い訳をしてラーミルさんに会いに行く。


 いや、バレているのは分かっていますよ。

 フェーリオたちも楽しんでいることも。


 そして推測だが、両侯爵家の者たちが賭けているんだろうな。

 それもなんとなく気づいている。



 止めろと言ってどうにかなる面々でもないので放置しているけどねぇ。

 変にラーミルさんにプレッシャー掛けるのは止めて欲しい。



 ロッティ姉様にお願いしようかとも思ったのだけど、無理かな?

 カールラ姉様と同じタイプな気がするので、下手な触れ方をすると暴走しそう。


 そんなことを考えつつチアゼム家にフェーリオと向かう。

 すると、なぜか玄関ホールにロッティ姉様とラーミルさん。



 とてもイイ笑顔を見せるロッティ姉様。


 そして僕と目を合わせようとしないラーミルさん。



 ねぇ、ロッティ姉様?




 ナ ニ シ タ ?


 ナ ニ イ ッ タ ?




 ラーミルさんが視線逸らすたびに悲しくなるんですけど!



 ロッティ姉様も僕が悲しそうな顔をしたのを見て混乱しているようだ。

 多分、想定と違う反応をしていたのだろう。


 そして、慌ててラーミルさんを見て……顔を青ざめている。



 ……もしかして、ラーミルさんの反応が想定外?



 ラーミルさんの表情を見ると……耳も首も真っ赤ですね。

 これ、怒っているとかじゃなくて、照れている?


 でも、目が……物凄い勢いでギュルンギュルンと動いてますね。

 それも動きがランダム。



 もしかして、照れてると同時にパニック起こしてません?

 本当に何言ったの、ロッティ姉様?



 ロッティ姉様を見て少しムッとした表情を作ってラーミルさんを軽く指さす。

 こちらの言いたいことが分かったのか、姉様は慌てて僕の所に移動してくる。

 二人でヒソヒソと話し合うが……本気で何した?



「姉様、本当に何したの?」


「告白に対する回答の後押し。」



「どう見てもパニック起こしているように見えるんだけど?」


「ゴメン、それはあたしも想定外。

 ここまで先輩がヘタレとは……。

 あたしの眼をもってしても読めなかったわ」



 想定外って……。



「後押しって、『さっさと答えろ』みたいなこと言った?」


「うん、一言言うだけで婚約者確定できるしね。

 あたしとカールラ姉様も妹ができるし万々歳だよって」



 それがプレッシャーになったとか無いの?

 このパニック具合って余程プレッシャーになったんじゃない?


 どうしよう。

 といっても何も思いつかないし、当たって砕けてくるか。



 いまだにパニック起こしているラーミルさんに近づき、そっと抱きしめる。



 ビクッと反応するラーミルさん。



 ギュインギュインと高速移動していた目の動きもだんだんと落ち着いてきた。

 少し頭を撫で始めると目を閉じしなだれてくる。




「落ち着きました?」


「……はい(恥)」




 さて……どうしよう。


 ロッティ姉様が「イケイケ!」とエール(?)を送ってきてる。

 ラーミルさんの目を見てみると……もう大丈夫そうだな。



 とはいえ、初動をラーミルさんにさせるのもなぁ。

 先程のパニックからすると厳しそうだ。


 なら、僕からまた伝えるか。




「ラーミルさん」


「は、はい!」




 周りに一気に緊張感が走る。

 と、同時に女性陣からの視線が痛いほど感じてくる。


 あなたたち、そこまで期待しないでください!

 僕にプレッシャー与えてどうすんの?



 跪き、ラーミルさんの目を見て想いを伝える。




「以前の会談でお伝えしましたが……僕の妻になっていただけませ――」


「はい、是非!!」


「――んか?」




 被り気味な許諾の返答を受けた直後、チアゼム家のあちこちから声が聞こえた。

 喜びと恨みの声が。



「うぉっしゃ~!

 当たった!!」


「なぜ、なぜもう一日待たなかったんだ!」



「え~、皆さん払い戻しは昼休み、もしくは夕食後に五日以内でお願いします!

 間に合わなかった方には払い戻しできません!

 必ず守ってください!」



 なんか、胴元まで騒いでるけど?


 この後ジャーヴィン家でも同じこと起こるんだろうなぁ。

 フェーリオがボソッと「連絡しなきゃ」とか言ってるし。



 立ち上がり、しみじみとそんなことを考えていると……。

 顔真っ赤にしたラーミルさんがしがみつき、顔を伏せ呻きだす。



 なんというか言葉にすると「あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛」って感じ?

 もしかして被ったの気にしてる?


 恥ずかしいのはお互い様だから気にしなくてもいいのに。





「ラーミルさん、受け入れてくれてありがとうございます」



 こちらをキョトンとした顔で見た後、ステキな笑顔で答えてくれる。



「こちらこそ、私を選んでくれてありがとうございます」


「それでですね、その……また、都合よければデートしていた――」



 ギ ュ ッ ! !



「――はい、是非!!」



 光速のハグ、そしてとってもイイ笑顔でお答えいただいた。

 が、外野も含めて動きが見えなかった。


 本当にラーミルさん縮地とか使えたりしない?



 なお、ラーミルさんの顔真っ赤だったのは指摘しないでおきましょう。

 僕も真っ赤だろうし。


 そんな僕たちはまだまだデートしたり厄介事に巻き込まれたりします。

 ですが、今日はこれまで。



 あれ、そういや、これだけかかってもまだ正式な婚約してない?

読んでいただきありがとうございます。

本話をもって短編「狂犬のデート」分、これにて終了です。


次の章からは(やっと)連載オリジナルの部分となります。


次章は「婚約」、やっとニフェール&ラーミルが婚約する予定です。

明日から更新開始となります。


なお、本章は本日の時点でまだ完成しておりません。

なので、区切りの良いところまで更新とさせてください。


【バキュラー家:中立派貴族:侯爵家】

 ・プレクス・バキュラー:侯爵令息:嫡男

  → 名は脳卒中:アパプレクシーから

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