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本日二話目です。
次話は明日16時台投稿です。
◇◇◇◇
スホルムを出て数日、順調に進んでいる。
一部、初日の昼以降、騎士にマーニ兄が愚痴られているのを除けばだが。
理由が昼食を作らないこと宣言したからだと言うのが何ともはや……。
いいオトナだろ、あんたら?
というか「ご褒美」は毎日貰えるもんじゃないだろうに。
王都まであと三日という所。
宿に居合わせた商人たちがマーニ兄に声を掛けて来た。
「すみません、そこの騎士様。
少しばかしお話が……」
王都に向かう訳が無いよな?
それなら今までも同じ宿屋で顔合わせているはずだし。
今一緒に王都に向かう馬車はいなかったよなぁ?
マーニ兄が代表として商人たちに対応する。
「どうした?」
「ええ、私どもはディーマス領の商人でございます。
王都に商売しに行った帰りなのですが……。
最近王都の雰囲気がおかしく、もし何かご存じだったらと思いまして……」
「おかしいというのは具体的に言うと?」
「ちょっと前に薬物製造で大掛かりな戦闘があったことご存じですか?」
「あぁ、知っているが?」
知っているというか、大暴れしたんでしょうに……。
「あの近くに住んでいる人が二人程殺されましてね。
まとめてとかじゃなく一人死に、次の日もう一人が死ぬと言った感じです。
剣で殺されたとか言う話が王都の騎士の皆様から聞こえてきておりました」
……あれ?
暗殺者以外殺し禁止じゃなかったっけ?
カルと見ると軽く頷く。
となると、ルールを知らない輩がやらかした?
「その件が発生した辺りから王都の商人たちが妙にギスギスしてまして……。
商業ギルドの権力争いのような雰囲気が漂っております。
私どもであってもピリピリと感じるくらいに。
それに加え、小汚い姿をした輩が特定の商会の様子を見ておりまして……」
特定の商会?
「その特定の商会とは?」
「王都の商業ギルドの長を中心とした商会の方々の事ですね。
観察というよりは、襲撃前の情報収集に見えました」
「それはその商会に教えてやったりはしたのかい?」
「ええ、ギルド長に話をしました。
あちらも気になっていて調べているそうでした」
どう聞いても強盗ギルドの暴走が始まりかけている?
もしくは商業ギルドの権力争い?
強盗ギルドを抱き込んだ勢力がいて、ギルド長勢が襲われかけている?
まさか、出発前に想像した一番不味いパターンが発生しかけてる?
「ふむ、理解した。
正直何も起こっていないのを祈るのみだが、こちらには貴族の方々もおられる。
この情報を元に王都への帰還スケジュールを検討せねばな。
情報助かった。
些少ではあるが、受け取って欲しい」
そう言って、いくばくかの金貨を商人に渡した。
マーニ兄、そういうこともできるんだね。
気が回らないかと正直ドキドキしたよ。
商人は何度も頭を下げ、自分たちの馬車に戻っていった。
「ニフェール、これ想像つくか?」
「……裏事情を知っている人間としては、最悪のパターンに近いと思う。
カル、他ギルドは殺しは出来ないはずだよな?」
「あぁ、だからやったのはギルドに属していない跳ねっ返りだと思う。
ただ、その後の商業ギルド内の勢力争いは流石に想定してないな。
それと、小汚い奴らの監視だったか?
多分それ、強盗ギルドだと思う。
ギルド長側を潰したい勢力と強盗ギルドが手を組んだってとこだろう」
だよなぁ。
カルも大体僕と同じ考えってことはほぼ確定だよなぁ、これ。
この人たちが王都を出たのは三日前。
となると、もっと悪化しているよな?
「マーニ兄、明日は普通に移動して宿に泊まる。
明後日は少しでも王都に近いとこで野営する。
そして最終日は……昼過ぎ――午後二時くらい?――王都到着かな。
そんな感じで動きたい。
意味が無いかも知れないけど、少しでも対処できた方がいい」
「もう少し早くは出来ないか?」
気持ちは分かるんだけどねぇ……。
騎士以外の人たちもいるからなぁ。
「まず、最速で考えると二日野営して三日目の昼前位に到着かな。
もっと無茶して明後日の夜とかに到着しても正門開けてもらえないと思うし」
「そうだな、後者は無理だろう」
だよね。
「でも、セリナ様の身体が持たなくない?
ラーミルさんやベル兄様もそこまで経験あると思えないし」
「あ~、確かに。
それに犯罪者共が騒ぎ出すか?」
「うん、それもある。
それと、最終日昼飯をスホルムの手前で作ったパン挟みで済まそうかと思った。
馬の飼い葉と水飲みで休むのは必要。
だけど、竈作らなくていいから短時間の休憩で済むと思う。
なので、明日は普通に。
明後日は野営の方向で進めたいな」
「確かに最速で慌てても到着日は変わらないか。
……俺達だけ先行して帰る……無理か」
無理と言うか、立場的にマーニ兄が消えちゃダメでしょ?
「マーニ兄一人で戻ってどうするの?
もしくは僕一人で戻っても限界はあるんだよ?
具体的に言うと、犯罪者ギルドに詳しいカル達従えて行かないと僕でも無理!」
「それは問題ある奴らを捕らえるという意味だよな?」
いや、殺すという意味でもいいけどさ。
「そうだね。
暴動起こしたのを力ずくで止めるのは何とかできると思う。
けど、表面的な対応だけしかできないと思う。
それなら半日から一日遅れたとしても確実に到着した方がいい。
それに、ラクナ殿以外にも兵站部門に閉じ込めていた実力者がいるでしょ?」
「まぁそうなんだが……」
「ロッティ姉様ならチアゼム侯爵家が守るし……。
今のお家も護衛的な人物はいるんでしょ?
正直、強盗ギルドは欲しているのは金だから、ジドロ家に用は無いよ?」
マーニ兄、顔真っ赤……(笑)。
「ニフェール、兄を揶揄うのは――」
「――事実でしょ?
マーニ兄が心配するのなんて今の王都ではロッティ姉様位でしょ。
おまけでジドロ家。
なら、むしろ安心だよ」
僕の説明に加えてカルが追加で説明し始める。
「マーニ様、ニフェール様の発言通りだと思います。
強盗ギルドは金のある所しか襲わないでしょう。
そして、狙うとしたら商業ギルドであるのはほぼ確定。
貴族には手を出そうとはしないと思われます」
「何故だ?」
マーニ兄の疑問はカルが答えた。
「貴族を狙った場合、騎士そして国が本気で強盗ギルドを潰しに来るでしょう。
ですが、商人を襲う程度ならその場にいた者たちを捕まえる程度で済ますはず。
襲撃側の安全を考えると貴族を狙うのは悪手なんですよ」
カルの説明にマーニ兄も落ち着きを取り戻した。
ルーシー、カルにラブラブな視線送るのは止めないが、カルが気づいてないぞ?
「カル、そっち見てみろ」
「そっちって、あ……」
分かったか?
「あれだけの熱視線浴びて気づかないんだから、お前も相当だよ、ホント」
「……(赤っ)」
「あの視線に答えられるようになってくれよ?」
「……(コクッ)」
一切言葉にできないのかい!
その後、騎士たちにも情報を伝え、明後日野営すること周知する。
愚痴るかと思ったが、希望を一つ言ってきただけで済んだ。
……野営の飯を僕に作って欲しいそうだ。
マーニ兄が頭を抱えていたが、やらざるを得ないのだろうな。
仕方ないので野営の夕食と朝食。
そして最終日の昼飯――おかずをパンで挟んだもの――を作ることで合意した。
なお、罪人の飯は今まで通り騎士たちで作るらしい。
なので、僕はノータッチとなった。
「あんな奴らに喰わせたくない」という意見で皆一致したようだ。
◇◇◇◇
「ピロヘース様、急な面会を受け入れてくれて感謝する」
「およしよ、リシアシス。
シロスもまぁお座り」
妾の前に商業・生産ギルドの長が……妾も含めて三人とも苦い顔をしている。
強盗ギルドが活発化している。
加えて、各々のギルドで怪しい動きが見えて来た。
十中八九組んでいるのだろうよ。
「どんな感じだい?」
「商業ギルドはほぼ二分化している。
こちらが六~七、あちらが三~四かな。
かなりの新興商会が向こうに着いているようだね。
ただ、中心が誰なのか全く分からんので、頭潰して終わりという訳にはいかん」
「生産ギルドも同じだ。
できて数年以内の店がかなりあちらについているようだ。
そして、こちらも発起人がだれか分からん。
いくつかの中堅商会が怪しいとは思うのだが、尻尾を出さん」
カルとニフィが言っていた最悪の事態。
厄介だけど、これが現実となり始めているような気がするねぇ。
一応うちの嬢たちにも王宮関係者に情報を流すように指示している。
だが、どこまで中枢に届いているのやら。
「さて、強盗ギルドが中心となって商業・生産各ギルドの乗っ取り……いや違う。
今の犯罪者ギルドのシステムをぶち壊そうとしているのは分かると思う。
そして、理由が金一択なのも」
リシアシスもシロスも頷く。
「で、だ。
正直対応策が騎士や衛兵に守ってもらう位しかないのじゃよ。
一応娼館側は守れるが、そちらはどうなんじゃ?」
「うちは急ぎ騎士団に話を通しているが、あまり芳しくないな」
シロスはお手上げかい。
リシアシスは?
「こちらも同じだ。
ただ……少しは動いているような雰囲気はあった。
兵站部門って知ってるか?」
「確か……糧食とか武器とかの準備とかの部門かえ?」
その位しか知らないねぇ。
トレマに聞けば教えてくれるかもしれないけどねぇ。
「まぁ、おおざっぱに言えばそんなところだ。
そこは算術などの技量が高い奴。
そして学園時に兵站の科目が出来る奴を優先して配置しているそうだ。
戦闘力が有ろうと無かろうとだ」
「……それで?」
「つまり、戦闘力あるのに兵站部門に回された実力者がそれなりにいるそうだ。
その面々に一時的に戦わせる話が出ているそうだ」
はぁ?
冗談だろ?
いや、そんな手口が思いつくのならさっさと……、いや、違うねぇ。
まさか今の可能性を誰かが想定して準備していたのかい?
カルじゃ無理だね。
あれはそこまで頭が回ると思わない。
まぁ、ましな方ではあるけどね。
騎士の上の方……たしかジャーヴィン侯爵だったね。
あれも悪くは無いが……ここまで大きな変化を思いつくかねぇ?
今までの仕事っぷりからしてもデキる人物ではある。
その辺りは信用できるんだけどねぇ……。
普段の感じからするともう少し現状維持寄りの進歩派って感じだね。
となると、ニフィ……ニフェール・ジーピン。
たかだか男爵子息、今は子爵子弟だったか?
カルたちと一緒に王都から出て行っているはずだろ?!
なのに、どれだけ手が長いんだい!
「仮に、その騎士たちの動きが本格化してるなら期待できるかもしれないねぇ。
だが、今の騎士たちの中で数の暴力をひっくり返せるか……」
「難しいでしょうなぁ。
ですが、被害を減らすことには繋がります」
「そうだねぇ、そして時間が稼げれば……」
「おや、ピロヘース様、何か思い付きでも?」
シロスが反応するが、これは教えるわけないはいかないねぇ。
下手な教え方したら……妾の首が落ちる、物理的に。
「ここでは言えない。
でも、あいつらの暴れられる時間はそう長くない。
国からしてみれば最悪、全ての貴族から戦闘要員かき集める。
そして陛下の御名において暴動の殲滅という手口もある。
とはいえ、その為には妾達が確実に時間を稼ぐ必要がある。
……二人の側についている商会は把握しているんだね?」
「ええ、大きな商会は旗幟を鮮明にしているところがほとんどです。
むしろ、鮮明にしてないところは敵とみなしてます」
「うちも同じだな」
ふむ……。
「なら、いつでも店を一時閉鎖できるようにしときな。
護衛を雇うのも忘れないように。
大きな商会はそれでいいんだが……。
中小の商会は正直どこまで裏切り者が混ざっているかわからない。
なので、強盗ギルド側の者が監視している店に限って声掛けしときな。
自分たちと繋がりの深い商会だからって裏切ることは十分あり得るんだから」
「……シフォルが老けたらこうなるんですかねぇ?」
「もう少しキツイ感じになるかもしれませんよ?
個人的にはそれもアリなんですが」
「くだらないこと言ってないで黙りな!
殺されたくなければ、ちゃんと動くんだよ!!」
「「ハイッ!!」」
全く。
これでも六十年程前は絶世の美女として娼婦のトップだったってのに……。
今じゃこんな若造共に揶揄われるとはねぇ。
「それと、監視が消えたら数日中。
もしかすると一時間もしないうちに暴動が起きると思っときな」
「……監視役つけたまま暴動起こすのは無いと?」
「人数の問題と、暴動に参加できなかった奴らが不満分子となるだろう?
なら全員参加をさせるんじゃないかい?
もしかすると、監視役のいるところで合流して襲ってくるかもしれないがねぇ。
どちらにしても確認すべきは監視役さ」
二人とも納得したようで、各商会へ情報共有に向かった。
「お疲れ様です、ピロヘース様」
シフォルがお茶を入れてくれる。
微妙に苦笑しているのは、あの二人の下らぬ言葉かい?
あんたはもっと優しい婆になりそうだけどねぇ。
……好ましい奴にはより優しく、嫌いな奴にはより厳しくって感じかねぇ。
「トレマ、兵站担当の騎士はそんなに強いのかい?」
「人によるとしか言えません。
学力と実技の両方が高レベルで維持できている輩は学年内でもそういません。
ですが、毎年一人二人はそういう人物がおります。
そいつらを一時的にでも前線に送れるなら、下手な騎士数名より強いですね」
ほぅ、そこまで言うのかい?
「ですが、そういった者たちは騎士になるのを止める者もおります。
兵站に回されたくないので」
あぁ……なるほどねぇ。
「お前もそうなのかい?」
そう聞くと、トレマに苦笑で返されてしまった。
まぁ、身体動かす方が仕事している気になるって人にはやれない仕事だねぇ。
「それと、部下から聞いた、今日入ってきたばかりの情報です。
最近一人とんでもなく強い騎士が入り、即部隊長になったそうです。
本来の流れなら確実に兵站に回されるはずの人材だったようですが……」
「……名は分かるのかい?」
まさかね……。
「最近男爵になった者で、マーニ・ジドロと言うらしいです」
流石に違ったか。
「ちなみに、男爵になる前はジーピン姓だったとか」
「おいぃ!」
待て、それって……。
「お気持ちは分かりますが、落ちついてください。
こちらも情報入った時には同じように驚きました。
気持ちは分かりますが……」
「いや、それってニフィ関連じゃないのかえ?」
「確証はないですが、大体合ってそうに私も感じました。
ですが、現在王都にいないそうのですよ」
「はぁ?」
え、何故?
「どうも、王国の南東部に遠征に行ったと聞いております。
領地貴族とそこにある商会が王都の貴族に詐欺じみたことを働いたとか……。
で、騎士・文官合同でその貴族と商会を制圧しに行ったと。
そして、そこに学園生も連れて行ったと。
その学園生は先程の新しい騎士の弟らしいです」
南東……確かカルが東と言ってたから可能性は高いね。
アイツが正直に伝えるとは思えないし。
「その弟って、ニフェールかい?」
「多分そうかと……。
ちなみに、まだニフィの裏事情を話すべきではないと判断いたしました。
それ故、先ほどの話し合いで黙ってました」
まぁ、そうだね。
今他の者たちにそれを言うのは少し早いからねぇ。
教えても混乱しか起きないし。
「その判断で問題ない。
それと、彼らがいつ戻るかとかは言っていたかい?」
「いえ、全く情報はなかったと聞いております。
推測では三週間から一月程度だろうとは言ってました。
ですが、騎士の側も確証無いのでしょう」
まぁ、一通り捕獲後裁判、一部は王都に連れ帰るとなると……。
現地で一・二週間は優にかかるだろうしねぇ。
そりゃ確証なんて無いだろうて。
「ふむ、とりあえずは分かった。
すまんが、今の情報をくれた騎士との繋がりを使って情報を流しておくれ。
王都で暴動が起こる可能性があるってね。
どこまで情報が届くか分からんが、何もしないよりかは意味がある」
「かしこまりました」
これでうまく動いてくれればいいんだが……。
妾も王城への伝手は流石に無いからねぇ。
先代陛下なら童貞貰ってやったから知ってるけど……。
今の陛下は知らないんだよねぇ。
苦労を掛けるがうまく連絡とっておくれ。




