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本日一回目の投稿です。
二回目は20時台を予定してます。
とりあえず大人しくなった咎人共の管理を任せ、馬車は一路次の宿場町へ。
「ニフェール様、ご相談に乗ってはいただけませんでしょうか?」
「は、はい?!」
なんで、突然男爵夫人から相談が?
困惑していると、ベル兄様が視線を彷徨わせている。
ねぇ、マーニ兄たち三人で夫人に何言ったの?
「改めまして、わたくしはダイナ男爵夫人でしたセリナ・ダイナと申します。
旧姓はトリアルク。
今回夫であるグリス・ダイナが捕まりました。
わたくしは何も知らなかったということで無罪放免になるかと思っております」
うん、大体そうなると思います。
「ですが、このままトリアルク家に戻された場合に問題がありまして。
疎まれ追い出されることは確実なのです。
元々嫌われており前妻を亡くしたダイナ家に押し付けたという結婚でした」
あぁ、だからか。
どう考えてもマイトを生んだ女性には見えなかった。
後妻なら年齢差はどうとでもなるしね。
「なるほど、ダイナ家の没落に付き合うつもりは無い。
けど、生家であるトリアルク家に戻ったらロクな未来にならないと。
で、ご相談と言うのは?」
「マーニ様からお聞きしたのですが……リヴァ修道院の事をご存じのようで。
わたくしと似たような方々を逃そうとしてるとお聞きしました。
そこで、わたくしも避難いたしたく、ご相談させていただきました」
はぁ?
いや、マーニ兄が教えたのもちょっとなんか違うと思うけど……。
「え~っと、まず勘違いなさっているようですね。
僕が検討している方々は自分の力ではリヴァ修道院に行きづらい方々。
これをどうにかして送り届けることを検討してます。
セリナ様は裁判時に修道院に行くと明言すればいいのでは?
国として連れて行ってもらえそうですし、僕のフォローは不要では?」
「ええ、入るのはおっしゃる通りです。
わたくしが懸念しているのは出てからの話。
その方々が修道院から出られた後もお助けするのでしょ?」
「いえ?」
互いの無言の時間が過ぎて行った……。
「え、助けないのですか?」
「助ける助けないの以前の話になりますね。
リヴァ修道院に連れて行こうとしているのはジーピン家の婚約者たちのご友人。
そして、自分たちの友人については助けます。
ですが、無関係な方を助けるわけではありません。
つまり、僕が助けるのは婚約者であるラーミルさんのお友達のみです。
まぁ、兄の関係者も助ける可能性はありますけどね」
ラーミルさんが頬を赤らめてグネっているのを横目にセリナ様の方を見る。
なんで僕が助けると思ったのかよく分からなかったんだが……。
「ちょっと確認なのですが、なぜ僕がセリナ様を助けると思われたのでしょうか?
うちの兄の説明がおかしかったのか、ちょっと悩んでいるのです。
どう説明されたかお教えいただけますか?」
セリナ様の説明を聞いてみると……。
マーニ兄の方で微妙に勘違いしやすい言い回しをしてしまった様だ。
ただ、普通なら勘違いしないと思うんだが……。
受け取り側の必死さを考慮に入れてなかったのだろう。
兄の言っていること自体は間違ってはいないし。
その部分を懇切丁寧に説明すると、顔を赤らめ謝罪してきた。
「誠に申し訳ありません!
そういう意味だとは……」
「あ、いえ。
うちの兄も配慮が足りない言い回しでした。
これ、お互い様と言うことでお願いします」
互いに頭を下げ合い、誤解を解いてはおいた。
だが……実際何も変わらないんだよなぁ。
自分で仕事できるようでなければ平民として生活なんてできないし。
「ん~、セリナ様って何か得意なことあります?
例えば計算、刺繍、外国語、何でもいいです。
何か突出したものがあれば、どこかの商会で雇ってもらえると思うんだけど」
「そうですねぇ。
学園で学んだのでそれなりにはできますが、当時でも平均程度ですね」
平均程度か……売りが無さすぎるな。
「正直、セリナ様を雇うか判断する際に、売りが無いと難しいかと思います。
いくつかの問題点を無視してでも雇いたい何かがあればいいのですが」
「……問題点とはどのような?」
「雇う側からしてみれば、知らない人間は雇いたくありません。
どのような人物か分からない以上、何やらかすか不安なので。
例えば領主夫人の頃、不明な人物を侍従や侍女に雇うことはしないのでは?」
「……確かに」
ですよね?
「そして、セリナ様は修道院経由で平民となります。
その場合、貴族の繋がりという強みが消えますね。
同時に、平民生活の経験が皆無という弱みが目立つ形になります。
修道院が後ろについてくれるかも分かりません。
さて、平民として当たり前の生活ができない人物を何故雇うのです?
安心して雇えないじゃないですか」
「……」
想像通りではありますが、沈黙されましたね。
「それに、ダイナ家もしくはトリアルク家について確認です。
二つの家は王都、もしくはスホルムで何か目立つことやってますか?
例えば、色々と寄付して孤児院建てたとか?
スホルムの商会に金掛けて王都支店を用意させたとか?」
「無いですね。
ダイナ家も実家も文官が主な仕事です。
領主としては、アンドリエ家が平民になった後に領主となったのが初めて。
王都で何かやるほど余裕がありませんでしたし、スホルムでも何も……」
となると、王都で全く名を知られていない貴族が平民になるってことでしょ?
貴族としての売りもなく、能力的にもほどほど、信用はほぼゼロ。
誰が雇うんでしょう?
「平民として生きるのは難しいですか?」
「かなり……よほど生活を質素にすることを覚悟してもどうだか……。
それに、体力的にもどうだろうという疑問もあります。
領主夫人の頃って立ちっぱなしとか動きっぱなしって生活はしてないのでは?」
「全くしてませんね……」
雇う要素が無いからねぇ。
能力無いのに雇うって怖いからなぁ。
それに一つの能力だけでやっていける筈は無いしなぁ。
ウェイトレスならオーダー聞く、運ぶ、片付ける、それ以外にも裏方仕事等。
貴族の生活してた人物がいきなり働きまくるとはとても……。
「僕が言えるのはここまでですね。
リヴァ修道院でどのようなことを覚えるのか?
もしくは特定の技術を学ぶことを許されるのか?
その辺り全く分からないので、僕としてもなんとも……」
「確かに、情報がお互いに足りないのだけは分かりました。
……どうするかは少し検討してみます」
ん~、手口はあると言えばあるんですけどねぇ。
それ進めるためには侯爵方をこき使う必要もあるし……。
この場所ではどうしようもない。
とりあえず保留ですね。
その後、特に何もなく馬車での移動生活に戻っていった。
◇◇◇◇
「はぁ……」
「ウィリアム先生もジャン先生も疲れるの早すぎじゃないですか?」
「お前が役立たずだからこちらに負担がかかってるだけだろうが!!」
俺、ウィリアムが溜息を付く
プロブがふざけたことを抜かす。
ジャン先輩がブチギレる。
最近パターン化してきた気がする。
騎士科学年最下位経験者の実力ってここまでダメなのか。
噂では知識も剣技も平民レベルだとか聞いてたんだがなぁ。
噂の方がまだマシなくらい使えねぇ……。
平民の方が何倍もマシだぞ?
よくジジババとはいえ二人殺せたよな、こいつ。
何とか完成した襲撃場所の検討をギルド長と話し合う。
「ふむ、娼館街、学園、後は遊撃的に各門の前で暴れる。
それに加えて商業ギルド長の店と生産ギルド長の店。
そして金を結構持っていそうな店を数件……と」
「遊撃の者たちはまず門で暴れてもらいます。
その後に広場や屋台が並んでいる所とかで暴れてもらうことを考えてます。
混乱を起こすにはこのくらいは必要かと。
なお、門、学園、娼館街の奴らは無茶をしないように指示する予定です。
適当に暴れたら逃げて遊撃側に入る方向で」
意地になってそこに居続けても騎士が来てボコられて終わりだし。
いつどこで暴れるか分からないのが強みだから、一ヶ所に留まるのは不味い。
「なるほど、後はこちらの各ギルドとの調整次第という訳だな。
……一部隊ほど詐欺師ギルド壊滅のために動かせるか?」
「できますが……俺たちがやりますか?
金以外が理由なので、大半の奴らは嫌がりそうな気がします」
いい年した実力者たちが総出で嫌がられたらこの策は失敗だしな。
「あぁ……そうか、頭が固い奴ら程嫌がるだろうな。
なら、詐欺師ギルドはお前らが。
商業ギルド長の店と生産ギルド長の店は年寄り共は外しておいてくれ」
まぁ、そうするしかないだろうなぁ。
「外した奴らは遊撃として特に学園か各門の前に。
娼館街だと同じように避けるだろうから、そっちは考えられる奴を」
「かしこまりました。
で、何時頃実行します?」
「まだ明言できないが……一週間くらいで動けるはずだ。
決まったら周知するが、各部隊のトップを決めたらまた教えてくれ。
こちらも襲う店が決まったらすぐ教える」
「……店襲撃側の部隊トップには金ないこと説明しときますよ?」
「仕方ない、そこは教えて構わん。
むしろ知らせとかんと必死になれないかもしれんしな」
長と話を終え、三人で部屋を出る。
「なんとかニフェールが戻る前に動けそうだな」
「本当に……こんな大掛かりなの初めてじゃね?」
ジャン先輩と疲れた顔しつつ話していると――
「おいおい、こんな程度で疲れてどうすんだよ?
年だからか?」
――一番の役立たずが偉そうに茶化してきやがった!
「誰のせいで疲れていると思ってやがる!
資料集めもできないお前が言うんじゃねぇよ!」
「というか加減乗除くらい間違わずに答えだせよ!
騎士科一年レベルだろうが!」
「なんだよ、先生たち俺の成績知らねぇのか?」
「低いとは聞いていたが、ここまで低いなんて分かるわけないだろうが!
文字半分は読めない、数数えるのも怪しい。
貴族だったら五歳児レベルだろ!」
「というか、これでよくニフェールの実績を騙れたな!
即刻バレる嘘ついてどうすんだよ!」
「いや、結構バレないもんですよ?」
どこまで愚かな婚約者だよ!
少し調べればわかる程度の情報じゃねぇか!
「誰だよ、そのバカな婚約者」
「ディーマス家の長女だけど?」
「はぁ?」
いや、流石にそれは無くないか?
だって、侯爵家だぞ?
お前男爵家だろ?
余程能力が高いとか金持ちだとかじゃなければありえない組み合わせじゃん!
例外だと、【魔王】と【女帝】だけど、お前そこまで能力ないだろ?
「うちのお袋がディーマス侯爵の従妹なんですよ。
それで、親父と恋愛結婚して伝手ができたって感じで……」
「むしろ、それだけ幸運に恵まれていたくせに、その環境ぶん投げるって……」
プロブ、恐ろしい子……!
「あれ、お前って兄貴いなかったか?」
「ええ、いますよ?
ディーマス家長女と自分では釣り合わない。
長女側に失礼だ。
そんなこと言ってお袋が動こうとするのを止めてたけど、馬鹿だよなぁ……」
いや、お前の兄貴はかなりまともな部類だぞ?
立ち位置的に下手に婚約したら白い目で見られるだろう。
長女が愚か者だったら目も当てられない。
逆にまともな女性なら男爵子息なんて視界に入ることすら無いだろう。
だから、危険な母親を動かさないように説得した。
下手に恋愛脳のままに動き始めるのを止めたってことだしな。
「まぁ、元々あの女胸薄いから正直適当なところで浮気するつもりだったし。
今回の家では都合よかったんですよね」
……胸が薄いかどうかは置いておこう。
だが、お前にと言うよりあちらに都合がよかったんじゃないのか?
学年最下位レベルの奴が騎士なんてなれるはず無い。
お前を雇ってくれるとこがあると思っているのか?
衛兵もお前程度じゃ無理だからな?
女性からしてみれば、どう考えてもお前って婚約しちゃいけない存在だぞ?
収入無い夫って邪魔でしかないじゃん。
取り合えずその日は解散したが、ジャン先輩が妙に真面目に悩んでいる。
「どうされました?」
「あぁ、プロブをどうやって遠ざけようか悩んでいる」
気持ちは分かるけど、下手な行動は命取りだと思うんだがなぁ。
「最低でも今回の暴動が成功するまではやるべきではないのでは?」
「……あれを我慢できるか?」
「正直キツイです。
でも、一つだけあいつが使える要素があります」
「なんだ?」
「今回の件が失敗した場合。
俺たちが逃げるときにアイツの脚を傷つけて動けないところを置いて行く」
……いや、なぜそんなにヒくんです?
「お前、あいつ嫌いだろ?
あっさりそういう発言が出るところが怒りを感じるんだが?」
「いや、先輩だってあいつ消したいと言ってた癖して……」
「まぁ、そうなんだけどな。
話を戻すと、足手纏いなのは確実。
だから、動けないように傷つけて、その間に俺たちは逃げる。
理解はできるんだが、あいつが俺たちの事吹聴しないか?」
そりゃするでしょうねぇ。
その情報を提供する代わりに命だけは奪わないでくれとか言いそうですし。
「なので、変装して王都から逃げ去ります。
髪の毛剃る程度の覚悟はして置いてくださいね?」
「まぁ、髪の毛程度で生き延びれるならいくらでも切ったり剃ったりするけどよ。
変装用の準備もしとかないとな」
「ええ、名前、服装辺りでしょか。
別名で商人として登録しておけば街から出入りしやすくなりますね。
それに護衛として登録してもいい。
成功したら別名捨ててしまえばいい話だし、失敗したら別名で生きればいい」
ジャン先輩も納得されたようだ。
「ちなみに、成功したらどうする?」
「とりあえず強盗ギルドにはこのまま登録でしょうね。
プロブの事は……金貰ったらあいつの隠れ家で飲み会しましょうか。
そこで殺して金を二人で分ければいいのでは?」
いや、だからなぜそんなにヒくんです?
「……お前、怖い奴だったんだな」
「いえいえ、嫌いな奴は全力で叩き潰すだけですよ。
相手の実力次第ですけどね」
【死神】を潰そうとしたら潰されちゃったしね。
あれは関わらなければよかったと今でも思うし。
【ダイナ家:王家派文官貴族:男爵家】
セリナ・ダイナ:ダイナ家夫人 (後妻):旧姓はトリアルク
→ 名はグリセリンから。
旧姓は三価アルコールの英訳 (トリハイドリック アルコール)から




