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◇◇◇◇
その後、ラーミルさんと一緒に朝食を食べつつカル達から問い詰められる。
昨日の強姦未遂事件から自室に戻るまでを一通り話すと……どうしたの?
オーガって分裂するの?
みんな同じ表情してんだけど?
「そうか、そうか、そこまでアイツらはやらかしているのか……」
カル、怖いよ?
「どうしたんだカル、ルーシーを寝取られたかのような表情して……まさかっ!」
「違うぞ、今日はツッコむ気は無い。
ルーシーを寝取られても無いし、ニフィに堕ちたわけでもない」
うっわぁ、本気でボケ殺しに来てるし。
「なぁ、俺達だってあのクズ騎士殺す権利はあるよな?」
「ダメ、あれはマーニ兄のもの。
いくらお前らであってもやる訳にはいかない。
正直、あれでもマーニ兄には足りないけどね。
でも、だからと言ってこれ以上減らすのはダメ!」
……なに、その想定外っぽい表情は?
「足りない?」
「お前ら、マーニ兄の強さを本気で理解してないわけじゃないよな?
最低限、カリムとナットは遠目ではあるけど暴れっぷり見てるだろ?」
チラッと見ると、「あぁ、あれね」と言った表情を見せる。
「ええ、アゼル様の結婚式の時ですよね?」
「そう、アレを基準にして考えて。
取り押さえらえれて首切るだけでしかない程度でストレス発散できると思う?
殺すだけならマーニ兄にとってはお遊び同然なんだよ?
そして、最近少しでも戦ったのって、領主館の制圧位しかないんだよ?」
オーガ顔から微妙に呆れた表情に変わりはじめたが僕は説明を続ける。
「僕を心配してくれるのは嬉しいけど、マーニ兄も十分ストレス溜まっているの!
そして、年齢的にも立場的にも僕以上にヘタレたらダメなの!
少しでも気分よく仕事させないと、この部隊全体に影響出ちゃうの!」
「気分をよくさせないとって……」
「……なぜ、移動中の昼飯を僕が作ったと思ってるの?
互いの得意分野を任せて、フォローを互いにしているのは何故だろ思ってる?」
「あっ!!」
飯だって、テンション上げるために必要なんだよ?
塩っ気たっぷり過ぎてやる気無くす飯なんてテンション駄々下がりでしょうに。
「え、まさか、兄弟そろって互いのテンション維持に努めてたってこと?」
「大体そんな感じかなぁ。
互いに頼りになることは理解してる。
だからこそ、気持ちよく動いてもらった方がいいしね」
なんか裏で「何この兄弟、ラブか、ラブなのか?」とか?
「え、ちょっと、ラーミル様vsマーニ様?!」とか?
そんな怪しい単語が聞こえるけど、そっちの方じゃないからね?
というか、兄弟愛とガチの恋愛を一緒にすんなよ!
「さて、色々言い分はあるだろうが、各自の分担といこうか。
ラーミルさんはノヴェール家としてベル兄様と一緒に。
最後の領主たちの所で参戦してもらいます。
カルは僕と一緒にノヴェール家とサバラ殿護衛対応。
カリムとナットは遊撃として残しておく。
ルーシーは他の文官さんと一緒に仕事してくれ」
「ニフェール様、遊撃って何?」
「顔知らない暗殺者を僕が殺せなかった場合、襲いに行ってもらう可能性がある。
まぁ、殺せたとしても死体を取りに行ってもらうけどね」
なんか嫌な顔しているが、必要なことだからね?
「死体から何か出てこないか調べるのは基本だよ?
依頼主の情報、所属しているギルドの情報。
わずかにでも情報があれば掴みたい。
とはいえ、可能性としては領主からの指示位しか思いつかないけど」
「ん?
じゃあ、あまり意味無い?」
「いや、死体を領主の目の前に持ってきてもらいたい。
それを見て、自分らの策が潰れたことをちゃんと理解してもらう。
あちらの残りの手が一つづつ消えていくのをじっくり見てもらう。
僕たちが逃がさない、許さない、生かしておかないことを理解してもらう」
人の婚約者の実家に迷惑かけまくりやがって……。
本気で【狂犬】化すっぞコラ。
こらお前たち、そこでドン引きするんじゃない!
「ま、そんな感じで配置してもらう。
分かった?」
「あぁ、任せろ。
それと……あまり無茶するなよ」
「……ありがとな」
朝食を終え、裁判の準備……というかほぼ戦闘準備(?)を始める。
まず、双剣はマスト。
次に、来る可能性のあるもう一人の暗殺者対応の為にクロスボウを準備。
追加用の矢も準備しておく。
そして、父上から教えてもらった捕縛術用の縄を二本、左右の腕に巻いておく。
最後に念の為、投擲用ナイフを腰辺りと胸元に二本ずつ。
ん~、ここまで武装したのはもしかしてかなり昔か?
結婚式は双剣とクロスボウ位だし、薬物対応の時も双剣だけだった気が。
女装した時なんて武装無しだしな。
部屋を出て裁判を行う広間に向かい、始まる前に周囲を確認する。
ティッキィが言ってた鐘楼を見てみるが、確かにあの位置なら狙いをつけやすい。
ただなぁ……あそこまで分かりやすい場所から狙撃するか?
むしろ警戒されると判断するんじゃね?
となると、サバラ殿が座る場所から見えて、姿を隠しやすい所……。
ざっくり三ヶ所か?
「ニフェール、どんな感じだ?」
「一応鐘楼の位置は把握した。
でも、あれはむしろ分かりやすすぎて……。
それより位置取りが悪いけどバレにくい場所が三ヶ所。
マーニ兄が立つ側が二ヵ所と僕の方が一ヶ所なんだけど分かる?」
「鐘楼の手前、少し右の二階建ての家の屋根。
それともっと領主館に近い二階建ての家が乱立している所。
あの青いズボン干している家の辺りだな。
最後、お前の方だと昨日行った商会の屋根の上だろ?」
お、流石!
「正解。
なので、念の為に鐘楼加えて三ヶ所はマーニ兄で監視お願い。
昨日の商会の屋根は僕が担当するから」
「基本、相手が攻撃して来たら俺が守ってお前が反撃だな?
第八部隊の処分時はどうする?」
「……その時点で場所が把握できていれば見つけた側に僕がいるよ。
見つからなければ……壁役を一人用意できるかな」
「あぁ、誰か盾持ち騎士を一人付ける」
このタイミングが一番ヤバいんだよねぇ……。
「できるだけ早く見つけたいもんだね」
「あぁ、そこは全力を尽くしたいもんだ。
それと第八部隊の大半を殺処分する際の話なんだが……。
アイツらを住民側に顔見せた状態にしたい」
ん?
住民側に顔見せる?
……あ、そういうこと?
「犯罪者とはいえ、この街の住民に対してやらかしたこと。
だから、住民に見えるように元騎士共を殺すってことかな?」
「あぁ、国として反省していること見せるのが目的なんでな。
そのためにも罪を犯した者の顔をキッチリ見せておきたい」
「いいんじゃない?
インパクトあるし。
その後にマーニ兄の泣かせる宣言を聞けば僕たちの行動を受け入れるだろうね。
王都から来た奴らはクズな奴だけじゃないって信じてくれるさ♪」
「……それについてはプレッシャー掛けないでくれると嬉しい」
なんだ、まだ文章考えてなかったの?
まぁ、そんな時は勢いで納得させるというのも手だよ?
そんなことを言っていると、準備が整ったようでペスメー殿が声かけて来る。
「準備終わったぞ、すぐにでも始められる。
そっちはどうだ?」
「狙撃場所のチェックは終わった。
念の為大楯を持っている騎士を用意してほしい。
最悪、片方ニフェールが担当してもう片方を大楯持ちに任せたい」
「どうやって任せる?」
「ニフェールが立っている側から狙撃できる箇所は一ヶ所。
その邪魔になるように大盾を持っていればいい。
より多い狙撃箇所がある俺の立っている側はニフェールと交代する」
「反撃は?」
「全てニフェールに任せる」
……そこ、呆れないで。
いつもの事だから。
「……どうにかなるのか?」
「今日の朝の件が心配なら、もう立ち直ったよ。
婚約者の胸の柔らかさはこいつの精神を癒してくれるようだな」
(テレテレ)
「……あまり見せつけないでくれよ?
独身もそれなりにいるんだから」
「見せつけては無いはずだよ?
見られないところでイチャイチャするように気を付けてるし」
何、その名状しがたい表情は?
一応気を使ってるんですよ?
「いや、何と言うか、聞かなきゃよかったって……」
マーニ兄とアイコンタクトして状況確認。
(もしかして、ペスメー殿独身?)
(いや、嫁がいたはず)
あれ?
ということは……。
「もしかして、ホルターのこと?」
「……わかるか?」
「僕が言うのもなんだけど、家で婚約者用意しないの?」
「実家も弱小男爵家だからなぁ、都合のいい婚約者が捕まらないんだ。
ついでに程々の騎士にしかならなそうだから、あまり売れ筋でも無くて……。
というか、俺の嫁見つけるのにも無茶苦茶苦労したし」
あぁ……顔悪いわけじゃ無いし、性格もいいと思うんだけど、家が問題か。
「正直、簡単には解決しないタイプの問題だなぁ。
ちょっと学園戻ったらアイツの相談に乗ってやるか」
「……本気で頼めるか?」
「と言っても、同期の淑女科に伝手は一人しかおりませんしねぇ。
そんなに期待できませんよ?」
ジル嬢しかいないんだよなぁ。
あの人の伝手となると、婚約者居ない方が珍しいし。
カールラ姉様やロッティ姉様、ラーミルさんの伝手だと全員年上なんだよなぁ。
アイツがもし年下趣味だったら即刻アウト判定されるんだよなぁ。
「僕的には知り合いの女性はほぼ全て年上です。
なので、ホルターが嫌がればそこで終わりですしね。
まぁ、それ以前にお二人が会ってない間に彼女出来たとかあるかもしれません。
ちょっと話を聞いてみますよ」
「すまん、よろしく頼む」
本気でヤバいんだなぁ……。
もしかして僕ってかなり運がいい?
だって、【才媛】一本釣りしてるし。
そうこうしているうちに時間となり裁判が始まる。
まずはサバラ殿、マーニ兄、僕の自己紹介。
その後、まずは農家の方々の中で軽微な罪と判断された人たちを裁く。
既に賠償額等決めてある。
なので、後はそれをサバラ殿が伝え、農家の方々が承諾するのみ。
とはいえ、一番人数の多い箇所でもある。
延々と名前・賠償額・賠償方法等を読み上げるサバラ殿。
はたから見て正直気の毒になっていた。
確かにオンステージというか、ワンマンライブになっているねぇ。
けど、読み上げ専用の文官用意した方がよかったんじゃね?
喉にダメージあり過ぎだと思うんだけど?
二度ほどサバラ殿の喉を潤すための休憩を挟みつつ一通り読み上げていく。
結構な時間が経って、最後の農家の方の承諾が終わる。
……これって、学園の卒業式でも同じことすんのかなぁ?
あ、でもあっちは名前だけか。
こっちは他にも色々読み上げているからなぁ。
「さて各位、最後に先ほど言った賠償額・方法について意見等あるか?
なければこれを持って結審とするが?」
「……こちらにいる全員を代表して、一つ発言をお許しいただきたい。
よろしいでしょうか?」
なぜか妙に硬い表情で農家の方が挙手をして発言を求めて来る。
何だろ?
「ふむ、構わん、申してみなさい」
……何かあったっけ?
一通り合意したはずだったけど?
「昨日深夜、騎士の一部がアンドリエ商会のカタリナ様に襲い掛かってました」
ザ ワ ザ ワ ッ !
おいおい、これは暴動起こしたがっているということ?
あれ?
僕ちゃんと処分するって説明したよね?
「その襲いかかろうとした者たち。
彼らを、そちらにいらっしゃるニフェール様が止めてくださりました。
そして、その場でこうおっしゃられました。
『我々は罪を犯した者はだれであれ処分を行います。
騎士だから処分されないということはありません』
ニフェール様、この言葉に嘘はありませんね?」
「えぇ、真実です。
本日の裁判は皆様の後も続きますが……。
三つ目の裁判が今おっしゃられた襲撃の裁判となります。
……というか、強姦未遂の裁判ですね」
「その処分は?
殺処分とおっしゃられていたと記憶しておりますが?」
「こちらにおられるマーニ・ジドロ男爵が責任を持って首を落とす予定です。
……まさかご自分たちで誅することを望んでらっしゃいますか?
であれば拒絶せざるを得ませんが?」
こう言うと慌てて否定してくる。
まぁ、そうだろうなとは思ったけどさ。
「いえ、あの時に宣言された通りに処罰して頂けるのであれば結構。
我々は納得して引き下がります。
宣言を確実に履行して頂けるかの確認でした」
「それは良かった。
誅することを望まれたらこちらも叱責せざるを得なかった。
正直ホッとしておりますよ」
互いに冷汗を拭いつつ笑顔で応対した……けど、その確認だけだったの?
そんなことを考えていると、農家の皆さんが起立し僕に礼をし始めた。
何と言えばいいのか……腰九十度に曲げて、最敬礼とでもいうのか?
僕だけでなく、サバラ殿やマーニ兄も混乱する。
先ほどから代表として説明していた人が説明し始めた。
「私どもはニフェール様がこの街の住人をお守りいただいたのを見聞きしてます。
いや、カロリナ嬢は犯罪者と扱われてはいますがね。
それなのに怯え、恐怖し、礼の一言も言えなかった。
大人として恥ずかしい行動を取っておりました」
あ……。
「驚きと恐怖で口もきけない状態だった。
立場が違う。
それでも、お礼も言えないというのは恥でしかない。
それも自分たちの息子位の年の方に、ですよ?
恥、常識、礼儀、事の善悪。
これらの大事なことを今後子供たちに大事なことを教えることができない。
そう考えました」
あ……あ……。
「それ故、今更と思われるかもしれませんが、一言。
ニフェール様の発言で私どもは法に反したことを知りました。
また私どもを守るために色々と返済方法をご検討されてましたね。
できるだけ負担を少なく、でも罪を償えるように準備して頂きましたね。
おかげで、私どもは自分たちの努力で償えるようになりました」
……ずるい。
「最悪、息子や娘を売って返済に充てるとかを覚悟をしておりました。
ですが、それが不要となりました。
これは私ども親として、これ以上ないほどの御慈悲を頂けたと考えております。
改めて、ありがとうございました!」
「「ありがとうございました!!」」
農家の人たち、ずるいよ……そんなこと言われたら――
――泣くしかないじゃん!




