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本日二話目……というか、元々本日投稿予定分になります。
「陛下、こちらアンジーナ子爵の奥方と子息です。
彼らが申すには……」
ジャーヴィン侯爵の説明を聞くと、正直気分悪くなった。
レストがフェーリオの取り巻きから外されて愚痴ってたそうだ。
そこで父親である子爵が取り巻きに戻してやると言い出した。
どうやったのかもニフェールをどうしたのかも知らない。
法廷に呼ばれた際に父親が僕を陥れたことを初めて聞き驚いている。
ウ ソ だ ろ ?
お ま え が ?
そ ん な 殊 勝 な こ と 言 う は ず 無 い !
じっと顔を見ると悲しそうに振舞っているが演技であることがバレバレである。
奥様も同じようだな。
演技力はレストより上だが。
え、これ、父親を犯罪者として差し出してレストがアンジーナ家を継ぐ話?
子爵の方を見てみると……なんか愕然としてる。
もしかして、奥様と息子に裏切られた?
何と言うか、泥沼の愛憎劇でも見せられるのか?
まさか息子が奥方をNTR?
そんなことを考えていると侯爵の説明は終わり、奥方とレストに真偽を確認。
二人とも事実であると明言した。
これ、仮に一家で僕を陥れようとしていた場合なんだけどさ?
三人とも処罰されるの分かっているのかねぇ?
「ジャーヴィン侯爵、その二人が言っているのは事実ではない!」
「ほぅ、どの部分が事実ではないというのだ?」
「レストが愚痴っていたのは事実だ。
ただし、取り巻きに戻してやるなどとは言っておらん!
第一儂にそんな権限は無いからな!
むしろ、レストが取り巻きに戻りたい。
だからニフェールを貶めてくれと言ってきたんだ!
妻もそれに賛成している!」
子爵の反論にレストが一言。
「父上、根拠は?
もしくは証拠でも構いませんが?」
子爵の顔が醜く歪む。
隣のラーミルさんから「うわぁ……」と小さな声が聞こえてきた。
うん、気持ちは分かる。
これ見ると、元セリン家が「善人の家」って言われたのが分かる。
アンジーナ家がどう見ても「悪人の家」にしか見えない。
こいつら人として終わってるわ。
そんなことを考えていると、ジャーヴィン侯爵がレストに質問する。
「ふむ、子息殿、レスト殿だったか?
そなたは証拠がないなら子爵の発言は無効であると?」
「ええ、当然ではないですか。
根拠のない発言に正当性はありませんよ」
うっわぁ、レストいい気になり過ぎ。
というか、想像つかないのか、記憶力に難があるのか……。
ジャーヴィン侯爵が何してくるか読めてないのか?
「ふむ、では次の者、入ってまいれ」
「え?」
予想通り、フェーリオとジル嬢が入場するとレストと奥方から悲鳴が聞こえた。
子爵はそれを聞き、挽回のチャンスと思ったのか表情が生き生きしている。
……いや、お前らまとめて罪に問われるだけだろうに。
「さて、フェーリオ。
昨日学園にてあったことを説明せよ」
「かしこまりました。
昨日昼に食堂にてレスト殿が私に『ニフェールが衛兵に捕まっている』と発言。
話を聞くと、アンジーナ子爵からニフェール殿を任意同行したのを聞いた。
そう食堂内に言いふらしております」
あぁ、陛下やその周りにいるお偉いさんが引きつった表情してますね。
「親子そろって何やってんだ!」とか思っているのでは?
答えは簡単ですよ?
親子だからじゃね?
やらかしっぷりが似すぎてますもの。
「その話を聞き、教師経由で国へ報告。
衛兵が来たので状況説明の上レスト殿達を引き渡しております」
一通り説明終わるとジャーヴィン侯爵から補足説明があった。
「なお、引渡された衛兵たちは王宮まで連れてきております。
ただし、その後引き継いだ衛兵たちが……。
レスト殿を勝手に、理由なく解放していることを確認しております」
ザ ワ ザ ワ ッ !
おいおい、ろくでもないことするなぁ。
確実にその衛兵たち罰せられるだろうに。
「レスト殿を解放した者たちは現在牢屋で話を聞いておる。
全員口をそろえたかのようにアンジーナ子爵からの指示だと言っておる」
「ちがう!!
そんな指示だしてない!!」
ジャーヴィン侯爵の説明にアンジーナ子爵が反論する。
そりゃそうだろうなぁ。
その頃って、アンジーナ子爵が捕まった前後じゃないの?
指示なんて出せないんじゃないかな?
どうせ、レストが「解放したら親父にうまく言っておく」とか抜かしたんだろ?
そして「親父からの指示だったと言っとけ」とか言ったんだろ?
バレないと思っているのかなぁ。
「ふむ、では答えよ。
今回の仕業、誰の依頼だ?」
「息子、レストの依頼だ!
レストが取り巻きから外されたんで、戻るためにニフェールを貶めようとした!
復帰のために手を貸してくれと言われた!」
あ、やっぱり。
でも、貶めるには無理があるんじゃないかな、レストの実力的に。
「それで殺すつもりだったのか?」
「い、いや、そこまでは考えてない。
ただ、取り調べに使用した隔離部屋なら邪魔は入らん。
だからそこに留めておいたまでだ」
「当たり前だが、人は食事をせず水を飲まねば死ぬ。
特に水は不足すると脱水症状や筋肉のけいれん、そして死が待っている。
貴様のやったことはニフェール殿を殺そうとしたに等しい!」
本当にそうですよね。
全く腹立たしい!
でも隣でラーミルさんが怒っている雰囲気が嬉しい♡。
「そしてその理由が息子のために他者を貶める?
貴様の息子はニフェール殿を貶めても取り巻きに戻ることはありえない!
日頃の行動に問題があり過ぎたから外しただけだ!」
「えっ?」
なんだ、レスト?
まさか自分は清廉潔白だとでも思っていたのか?
「取り巻きから外す」のは、そんな単純な内容じゃないぞ?
「取り巻きにしていると犯罪に巻き込まれる」という理由もあるんだぞ?
気づいてなかったのか?
「それに加え陛下の御前での虚偽報告。
また息子と奥方が共謀して嘘を重ねる所業。
これでよく無実だの言えたものだな」
ジャーヴィン侯爵は一通り言い放った後ノリズム陛下に向かい裁可を求める。
「アンジーナ子爵。
ジーピン家子息ニフェールに虚偽の理由での呼び出し。
食事も水も与えず閉じ込めること。
これらは殺意があったと判断する」
おっし!
「また、元セリン家夫人ラーミル嬢が訴えたと虚偽の発言を繰り返す。
ジャーヴィン侯爵に掴みかかる等貴族として分不相応な行動に終始している。
故に、アンジーナ子爵家を奪爵とし平民とする」
子爵だけでなくレストと奥方までショックを受けているようだ。
……なんで?
どこに奪爵されない要素があった?
「そして、元アンジーナ子爵エフォット。
そなたは国北東にある鉱山にて犯罪奴隷として採掘に従事することを命ずる!
とりあえずは牢屋に入れておけ!」
陛下の命令を聞いた元アンジーナ子爵は一瞬動きを止めた。
その後、大声で泣き、叫び、暴れる。
兵士たちが厄介そうに押さえつけ運んでいく。
そこまで泣き叫ぶくらいなら初めからやらなきゃいいのに。
というか、息子のおねだりにも毅然と対応してればよかったのにね。
「元アンジーナ子爵夫人、元アンジーナ子爵子息。
そなたらは父親に他貴族子弟を貶めるよう依頼。
それを実行した父親を切り捨て罪をなすりつけようとする。
その行動許し難し」
だよねぇ。
「故に、そなたらも父親と共に犯罪奴隷として採掘に従事することを命ずる!
なお、それぞれ別の鉱山を担当させるので生きて顔を合わせることは無い。
それぞれ別の牢屋に連れていけ!」
奥方はさめざめ泣き兵士たちが荷物を抱えるように持ち上げ連れて行った。
レストは元アンジーナ子爵と同様に泣き叫び暴れた。
ここだけ見ると似た者親子に見える。
「何故だ!
何故俺が犯罪者に!!
ニフェール、てめえのせいか!!!」
「違うよ」
というか、なぜ僕のせいと思った?
「じゃあなんでだよ!」
「レストが犯罪犯したから。
それだけだろ?
悩むほどの話じゃない」
いや、本当に悩む要素ないだろ?
「何が犯罪だって言うんだ!」
「父親に依頼した内容が既に犯罪だが?
それに加え任意同行の話を広めること、法廷で虚偽の報告をすること。
全て犯罪だが?」
というか、衛兵の取りまとめやってる父親の立場を乗っ取るつもりだったの?
なら法と犯罪についてもっと学べよ。
「その程度でかよ!」
「その程度でだよ。
そんなことも判断できない時点で貴族なんてやっていけないよ?
今までの報いだし諦めな。
大人しく罪を償うんだね。
ちゃんと償えば生きて鉱山から出れるかもしれないよ」
まだ騒いでいたが、兵士たちが牢屋に連れて行く。
静かになると皆ホッとした雰囲気となった。
「ジャーヴィン侯爵、衛兵たちの行動を再確認してくれ。
まずは今回の件で他にやらかしている者はいなかったのか。
それとアンジーナ家がどれだけ専横を振るっていたのか。
衛兵の信用問題にも関わる。
厳重に調査せよ!」
「かしこまりました」
まぁそりゃそうだよなぁ。
レスト一人でやってるはずは無いしねぇ。
トリスやカルディアあたりも名前が出てくるかもなぁ。
そんなことを考えていると、ノリズム陛下からお言葉を掛けられた。
「ジーピン男爵家子息ニフェール」
「は、はいっ!」
何事?
なぜ僕如きに?
「先の元セリン家の仲裁、今回のアンジーナ家の暴走。
どちらも本来一学園生が対応するものではない。
前者は本来家同士の話であるし二侯爵家の不和ともなりかねなかった。
今回は殺害される寸前であり、衛兵たちの行動によっては証拠隠滅もありえた」
いや、本当に「そうですね」としか……。
問題あったことが分かっていただけるだけでもありがたいですよ。
さっきのレストじゃないけれどねぇ。
問題起こした人たちは問題であることを認識しないから。
「本件に対して国として謝礼と謝罪を込めてそなたに男爵位を授ける」
え?
いや、ちょっと待って!
ジャーヴィン侯爵を見ると頷いているし!
まずいって!
本気で分かってないのか?
フェーリオは……ダメだこいつも分かってない。
ラーミルさんは……喜んでくれてますが、気づいてない?
あ~、もう!
頭をガシガシ掻きつつ、陛下の提案を断る。
「陛下、お気持ちはありがたく。
ですが、今この場にて爵位を賜ることは辞退させていただきます」
ザ ワ ッ !
「こ、こら、ニフェール。
幾らなんでもそれは……」
ジャーヴィン侯爵が慌てるが、ここはちゃんと言うべきかと。
「ジャーヴィン侯爵、今回のアンジーナ家の件の原因は分かっておられますか?」
キョトンとする侯爵。
「そりゃ、アンジーナ家子息の嫉妬だろう?」
「そうです。
侯爵のご子息フェーリオ様の側近の端に連なることを許されたこと。
それに対して嫉妬した結果が今回の事件であると考えます」
侯爵様、分からない?
今ご自分で答え言ったんだよ?
「さて、問題です。
今男爵位を賜る場合、この後どれだけの嫉妬と悪意を受けることになりますか?
何となくですが、同じ犯罪が起こりそうな気がするのですけど?」
ア ッ !
感づいた方々から声が上がる。
今回の事件が再度始まる可能性が高いことに気づいたようだ。
「今回はジャーヴィン侯爵家の寄り子内の話でした。
ですが、男爵位の話となりますと最低でも嫡男。
それと婿入り予定の学園生以外はほぼ敵となります」
学園の半数以上は敵になるんじゃない?
「もしかすると国内貴族の次男・三男あたりが全て敵となるやもしれません。
ただでさえ学園生がやらかしたのにそれに加えて敵を増やすのですか?
わざわざ火種をバラまくのは如何なものかと」
僕の説明に陛下を含めこの場にいる者たちが苦悶の表情を浮かべる。
国としては迷惑料と謝礼を足した形で爵位を与えることを考えたのだろう。
だが、今の学園では第二、第三のレストが出てもおかしくない。
「ちなみに、提案がございます。
爵位を賜れること自体はありがたいです。
ですが、一時期王家預かりとはできませんでしょうか?」
「なんだ、その王家預かりとは?」
陛下が興味を持ったようで、身を乗り出して聞いてくる。
「学園を卒業するまで爵位を賜るのを一時止めて頂きたい。
無事卒業できたならば、今回の件を含めた功績をまとめて頂きたい。
そして、それを爵位として賜れるようにすればよいかと。
それなら火種とはならずに済むのではないかと考えます。
学園生の身分で男爵となると火種になるかと思います。
ですが、既に卒業した者が爵位を賜るのは別におかしなことではないかと」
ふむ、と陛下は顎に手をやりしばし沈黙する。
「学園を卒業しても狙われるのは変わらない気がするが?」
「卒業しても狙われる可能性があるのは仕方がありません。
この提案は今回のような学園生の暴走を抑止するためのものなので」
周囲の者たちはひそひそと話しているが賛否半々のようだ。
「今から卒業までの間、そなたがそれまでの褒章を打ち消す失敗をした場合は?」
「当然、爵位を賜ることは無くなります。
逆に、卒業までに実績が追加された場合は、そうですね……。
男爵位ではなく子爵位以上を賜れればと。
あ、いきなり子爵位は無理なんでしたっけ?
なら、卒業時点で男爵位、一年後子爵位とか賜れれば良いのでは?」
ブ ハ ッ !
「そこまで言いよるか!
であればよかろう、そなたの提案を飲もうではないか!
なお、一時預かりの結果どう判断されたか。
これは学園の卒業パーティにでも教えることとしよう。
元々卒業パーティには王族が来賓として参加するのでな。
その時参加する王族に伝えておく。
それでよいな?」
ノリズム陛下は吹き出し笑いつつも提案を受け入れて頂けた。
これで学園で危険な思いをする可能性は減っただろう。
「かしこまりました。
提案を受け入れていただきありがとうございます」
「うむ、ではこれにて裁判を終わる!」
緊張した身体をほぐし、ほっと気を吐く。
いきなり法廷なのもきついんだが……。
子爵の暴走、レストのやらかし、そしていきなりの爵位話。
うん、僕、頑張った!
とりあえず爵位を貰えることがほぼ確定となったのは大きい。
卒業までにやらかさなければという条件はあれども男爵になれる。
そうしたら、ラーミルさんと……♡。
バラ色……というか、桃色の未来を想像していた。
そんなタイミングでそのお相手であるラーミルさんが声を掛けてきた。
「お疲れ様です、ニフェールさん」
「ラーミルさんもお疲れ様。
素晴らしいタイミングで援護していただき助かりましたよ」
互いに照れつつ、モジモジしながら互いの健闘を称え合う。
そんなほほえましいシーンに周りは――
「あ~ら奥様、あそこでイチャついてますわよぉ!」(フェーリオ)
「あ~ら旦那様、アッツいですわねぇ!」(ジル)
「ジャーヴィン侯爵、チアゼム侯爵、あの二人は?」(陛下)
「付き合い始めの初心な男女です」(ジャーヴィン侯爵)
「あたたかく見守る時期ですので干渉無用です」(チアゼム侯爵)
「あんな頃があったなぁ……あれ、何十年前だっけ?」(宰相)
「お主の結婚直後位まで遡らんといかんのでは?」(大公)
――ガッツリ見物してました。
あなたたち全部聞こえてるんですからね?
そんなふうに揶揄われ二人で顔を真っ赤にしていた。
その後、一通り終わったのでジャーヴィン侯爵家に泊めさせてもらう。
明日朝一で寮に戻りそのまま授業を受けようと思う。
既に数日授業休んでいるからなぁ、追い付かないと。
それと、家に状況報告の手紙を書かないと。
そして次の日。
アンジーナ子爵夫人については、面倒なので名前なしにしちゃいました。