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本話から場面移動 (「◇◇◇◇」のことです)の頻度が上がります。
ニフェール以外の視点が多発しますがお許しください。
最終的に収束するのは遠征の終わりあたりのはず。
◇◇◇◇
「おい、あのガキの発言ってどう考えても俺達狙い撃ちしてるよな、あれ?」
「んじゃねえか?
まぁ、こっちとしてもアイツの部下でいたいとは思わねぇがよ」
「なら、あのクソガキの人生終わらせてやらねぇか?」
あぁ、こいつら冥界への扉空けるつもりだ……。
忘れたのか、マーニ殿のあだ名である【死神】を。
「……やるか?
俺達深夜対応だし、アイツら気付くのは朝になってからだろ?
裁判直前で裁く対象がいないって大問題だな」
「ついでにうちらは普通に監視しているフリしておくか。
次のペスメーたちに罪を押し付けることもできるしな」
「うっわぁ、性格悪ぃ!
でも、個人的には賛成だな」
「あ、ついでにあの女犯さねぇ?
どうせアイツら逃げるんだろ?
なら俺たちにヤられてもどこにも文句言えねぇよ」
そんなの、アイツらも確実に把握してんだろ?
むしろお前らが暴走するのを期待しているの気づけよ!
あのガキの発言は「やったら殺す!」って宣言だろ?
それも気づかないのかこいつら!
「気づくわけないでしょ?
こいつら自分たちが世界の中心だと思ってんだから。
化け物を見ても見なかったことにするしねぇ (ぼそっ)」
おぉ、同僚よ!
化け物ってマーニ殿か?
それともニフェールか?
「どっちもでしょ?
それよりどうする?
アレに付き合って殺されたくないんだけど (ぼそっ)」
「でも、下手したらアイツらに殺されるからなぁ (ぼそっ)」
「なら、牢屋の入口守るということにしておくか。
アイツらが牢屋に入っていったら即マーニ殿を呼ぶってのは? (ぼそっ)」
「……採用。
俺が残るからお前呼びに行ってくれ。
二人ともいないのは怪しすぎるから (ぼそっ)」
「あぁ、ちゃんとマーニ殿にはインスもこっち側だって伝えとく (ぼそっ)」
「おぅ、インスたち、お前らも参加するよなぁ?」
「ん?
あぁ、一応参加にしておいてくれ。
とはいえ、わざわざあの嬢ちゃんと顔合わせたくねぇ。
だから牢屋の中のやり取りは任せる。
俺たちは入口監視しておくよ」
「……何でだ?」
「……年齢的には問題ないがつるペタは興味ない、というか趣味じゃない。
他は男だろ?
そっちの趣味はもっと無い」
「あぁ、そこは確かに漢として譲れない範囲だな。
たまにはつるペタもいいもんだが、趣味にどうこう言う気は無ぇよ。
分かった、入口の監視は任せるぜ」
ふぅ、こいつら馬鹿で助かった。
◇◇◇◇
さて、夜中、それもビーティ殿達が交代して戻ってこられました。
僕が完全武装しているのを見てめっちゃヒいてるんですけど?!
「ニフェール殿、やっぱりそういう予定でしたか」
「流石にバレバレでしたかね?」
照れ笑いするとビーティ殿も軽く笑ってくれる。
「まぁ、結構分かりやすい説明だったかと思いますよ。
ただ、あちらは気づいて無さそうでしたけど」
「二人程感づいた奴がいましたね。
でも、どちらに従うのかまでは何とも……」
「私どもも手伝いましょうか?」
優しいですね、ビーティ殿。
「あ、それは不要です。
アイツらが暴走したら殺気ばらまいて教えろとマーニ兄から指示出てるんで」
「あぁ……」
ねぇ、なぜそこで祈りを捧げるの?
アイツらの死亡確定に対して?
それとも【死神】への祈り?
「まぁ、そんなわけで兄弟で楽しんできますんで、ゆっくりお休みください」
「ははっ、ではありがたく、おやすみなさい」
さて、アイツらが逃げられないように、かつ見つからないように入り込む。
気配を消して潜り込むと、予想通り第八部隊の奴らが集まって話していた。
「んじゃ、予定通りに頼むぜ」
「あぁ、こっちは任せろ。
一応大声出したりはするなよ?」
「大丈夫だ、穴全部塞げば声なんて出せねぇよ」
「んじゃ、さっさと行ってきな。
交代まであと四時間だぞ?」
「おぅ、またな!」
うっわぁ、こいつら下種すぎ……。
ちなみにそんなことやって噛まれても知らんぞ?
あれ、インスともう一人一緒にいた奴……確か移動中に報告しに来た奴だな。
確か十対一の時にビビって動けなかった挙句、最後の二人まで生き残った奴か?
「そろそろいいか。
んじゃ、マーニ殿に言ってきてくれ」
「分かった。
ちゃんとインスがやらかして無いのは伝えとくからこちらは頼むよ」
「そこまで待たんでもいいよ?」
「うわ (モゴモゴ)」
インスが大騒ぎしようとしたんで慌てて手で口を塞ぐ。
ラーミルさんになら口づけで塞ぎたいんだがなぁ。
「いきなり騒ごうとしないでくれ。
それとそちらの人、行かなくていい、このあと呼ぶから」
「はぁ?
呼ぶってどうやって?」
「やり方があるんだよ、とりあえず中に入るか。
アイツらが強姦始める前にどうにかしないと」
急ぎ牢屋に入ると、カロリナの牢を開けてぞろぞろ入っていく第八部隊の面々。
役立たずでサカるだけって……。
種馬の方がマシだぞ?
あちらは実績あるから種馬になるんだし。
お前ら実績皆無じゃん。
さて、ちょっと全力で!
ブ ワ ワ ァ ァ ァ ! ! !
「ふぅ……。
全員気絶したかな?」
「こんな早くにやらかすとはなぁ……」
ウ ワ ァ ! ! !
「ま、マーニ兄、早すぎない?」
「どうせやらかすだろうと思っていたから、ビーティに起こすよう指示しといた」
「……『起・き・て♡』ってな感じで?」
「んなわけないだろ!」
お二人そういう関係かと……。
そんな会話をしているとカルとカリムがやってきた。
済まないねぇ、眠ってただろうに。
「ニフェール様、殺したんですか?」
「血塗れにはしてないだろうな?」
お前ら、もう少し優しい言葉が欲しいんだがなぁ。
「殺して無いし、血も出して無いよ」
「カル、カリム、わざわざすまんな。
んで、ニフェール、これどういう状態?」
ざっくり状況を説明すると頭抱えて蹲ってしまった。
気持ちわかるんだけどね。
「マジかこいつら……」
「まぁ、この件で処刑ってありかな?」
「ダメだと言われても俺が許す」
だよね。
「あ、でも今ここでは勘弁してほしいかな」
「……なにするつもりだ?」
「この街の人たちに僕たちが悪い事した奴には仲間であってもちゃんと処罰するというのを見せたらどうだろうって思った」
その、よほど不味い飯食ったかのような表情は何?
「……やっぱお前敵になるなよ?」
「マーニ兄が母上に悪戯しなければ敵にはならないよ?」
「それは難しいんだが……」
そんなこと言うから母上に怒られるのに。
そんな話をしていると、トップ集団が牢屋に集まってきた。
サバラ殿、ベル兄様、ラーミルさん、ルーシー、ナットと勢揃いだね。
まずは何があったかを説明すると、女性陣の視線が途轍もなく痛い。
刺さるというか、抉ってきてると言うか……。
僕が悪いわけじゃないんだから落ち着いてよ!
「さて、ニフェール殿、彼らをどうするおつもりで?」
サバラ殿、発言して頂いてありがたいです。
この間だけでも女性陣の視線を忘れたい……。
「まず、今日はこのバカ共を牢屋に入れておき、明日裁判で処刑とします。
裁判の順は軽い、ズブズブ、こいつら、アンドリエ&領主の順としたい。
できれば、こいつらの処刑は領主組にも見せる方向で」
「それはなぜ?」
「今回、こいつらはアンドリエの妹を強姦しようとしました。
なら、相手はそれを理由に文句言ってくるでしょうね。
『強姦するような奴らが罪を裁こうとするな!』とか?
なら、僕らが罪を犯すのならだれであっても許さないことを示せばいい」
僕たちと犯罪者は違うこと、犯罪を犯したら味方であっても処罰すること。
これを実際に見せて理解させる。
「そして、マーニ兄の方でこいつらの処刑後に騎士であろうと間違ったことを成した者は平等に処分する事宣言してほしい」
「あぁ、それは俺の担当だな。
分かった、やっておく。
小難しい単語は使わなくていいんだろ?」
「住民が分かるような言葉がいいな。
偉い人の寝言な感じのはダメ!
簡潔に、こちらが本気であることを示して欲しい」
「注文が多いな……だが何とかなるだろ」
そこは信じてますよ。
「それが終わったら領主組の裁判。
仮にこいつらのことで何か言ってくるかもしれない。
その時は処刑すること以上に何を望むか聞いてみて欲しい。
それと、こいつらがやらかしても領主組の犯罪は消えないことも伝えて欲しい」
「……なるほど、あちらが何を言っても言い訳にもならないこと宣言するんですね」
「そうそう、この街ではその辺りで十分だと思いますよ?」
「どうせ王都では言い分聞かずに処刑でしょうしね」
「ええ、なので、ここだけ乗り切ればいいんです」
サバラ殿と僕がにこやかに話し合うと、ナットが一言。
「……この二人怖い、夢に出てきそう」
「ナット、気持ちは分かるけど、相手を潰すときはこんなもんよ?」
ルーシー、フォローになってない!
「さて、方向性はこんなところで。
女性陣とベル兄様、サバラ殿はお休みになってください。
マーニ兄、カル、カリムは協力お願い。
こいつら牢に入れるのと、鍵とか持ってるだろうから手持ちの物取り上げる」
「それはいいんだが、こいつらどうする?」
インスたち二人の事?
どうするって言われてもなぁ……。
「こいつらはマーニ兄を呼びに行こうとしてた。
なら、こいつらを犯罪者扱いは出来ないよ」
「……そうだな、役立たずであっても犯罪者では無いな」
そういうこと。
そこ無視したら明日マーニ兄が宣言するのが嘘になっちゃう。
「なので、まず手持ちの物を取り上げるのをうちらで実施。
その後にこいつらを起こして牢屋に運ばせる」
「なるほど、力仕事はお任せってか。
起こしてからじゃダメなのか?」
「最悪、この二人がこっそり鍵を盗んで……なんてことになったら面倒。
それなら初めから信用せずに対応した方がいい」
「……だな。
ならサッサと持ち物検査しますか」
ざっと気絶した奴らを調べると予想通り牢屋の鍵を一人が持っていた。
これで、悪さは出来ないから運ばせるか。
インスともう一人を軽く叩く。
目を開け始めると、僕の顔を見てまた大声出そうとする。
「何度も口塞ぎたい訳じゃないんだから、少しは黙ること覚えてくれない?」
「驚かない奴なんているかよ」
「死んだ奴は驚いてなかったよ?」
「怖えよ!」
そんなこと無いと思うんだがなぁ。
「マーニ兄たちにも説明して君たちは無罪であること確定した。
同時に、こいつらは死刑確定しました」
「やっぱり……」
「止めなかったんだから君たちも同罪とか言おうかと思ったんだ。
けど、後々面倒そうだから生かしておきます。
で、君たちには一つお仕事を頼みたい。
そこの有象無象を牢に入れて。
起こさないようにそっと運んでね」
「……あぁ、分かった」
おや、珍しくあっさり言うこと聞いたね。
「カル、カギ閉めお願い」
「あいよ」
「カリム、僕とアンドリエ家の方手伝って。
マーニ兄は全体監視」
「かしこまりました」
「すまんな、手間かける」
マーニ兄の立場で僕にこき使われるのはまずいでしょ?
まぁ、今更かもしれないけど。
各自作業を進め、一通り終わらせる。
「ん~、マーニ兄。
こいつら起こす?
寝かせとく?」
「そうだな……人生最期の夜だし起こしてやるか」
「手加減して起こせる?」
「……すまん、頼む」
だから、毎回全力じゃなく手加減を覚えろと何度も……!
やむなく僕の方で軽く地面を揺らす。
ド シ ン !
牢屋にいる者たちが一斉に起き出す。
騒ぎ出すのは予想通りカロリナ嬢と元騎士。
「やかましい!」
マーニ兄、もうちょっと静かに。
「あ~、元騎士共。
お前たちがこちらのカロリナ嬢を強姦しようとしたのは僕たちも知っている。
というか、その場面見ちゃったし。
その前に牢屋に入る前にしゃべっているのも聞いちゃったよ」
「う、嘘つけ!」
「『穴全部塞げば声なんて出せねぇ』だったか?
下らん事考えるもんだね」
あ、黙っちゃった。
「あ、イ、インスたちはどうした!
アイツらも俺達と一緒に――」
「――あいつらはお前らが牢屋に入った後、マーニ兄を呼びに行こうとした。
そのシーンも僕の方で見ているからお前らと一緒に処罰はされない。
死ぬのはお前らだけ」
悶絶としか言いようがない、呻き、叫び。
まぁ、自業自得なんだけど。
「なので、あなたたち元騎士共は今日が最期の夜です。
明日の裁判まで心を落ち着けておきなさい」
「なっ、俺たちを殺せば実家が黙っちゃいねぇぞ!」
「そうしてくれると嬉しいな」
「はぁ?」
ん?
分からないか?
「こちらとしても、迷惑かけられ通しでイラついてたんだ。
貴様らのような存在を騎士団に押し付ける家なんていらないよ。
どうせ、今どんどん家が消えていってるんだし、貴様らの家も一緒に潰せばいい。
家八つ程度なら誤差だ、誤差」
なんか貴様ら引き攣ってるけどなんで?
「あ~、ニフェール。
事実を言っているのは分かる。
だが事情を知らない奴らには分からんだろ?
イカレタ発言としか思われないんじゃねぇのか?」
「あ、そういうこと?
ん~、まあいいか」
「……いいのか?」
「だって、こいつらが死んだ後の話なんて、聞かせても意味ないでしょ?
後で冥界で家族にあったら聞いてもらえばいいんだよ。
【死神】に抱かれようと【狂犬】に噛み付かれようと変わらないんだし」
冥界以外の逝先ないしね。
「……確かにそうだな」
「でしょ?
なら先に逝くか後で遅れて逝くかの違いでしかない」
「だな、なら放置と言うことで」
クズ共が騒いでるが、無視だ無視!
「ちょっと、私強姦されそうだったんだけど、どうしてくれるのよ!」
「ん?
聞いてなかった?
あなたたちの前に処刑するよ?
一応、見たいかなと思ったから見学はさせてあげる予定。
よかったね、女の敵が死ぬとこ見れるよ♪」
カロリナが騒いだと思ったら今後は黙っちゃった。
なんでそんな黙るかな?
遠慮なく喜べばいいのに。
「あ、マーニ兄、ちょっと帰るの待って。
一緒に来て欲しい」
牢屋の別の一角に来ると、かなり多くの方々が怯えた目でこちらを見ている。
軽い罰で済む人たちの牢屋。
「突然騒いですいません。
もしかするとこちらでも聞こえたかもしれませんね。
先ほど私たち騎士の一部が強姦しようとしてました。
対象はアンドリエ商会のカロリナ嬢です」
ざわつく皆さん。
まぁ、それが普通なんだけどね。
「なお、最悪の事態になる前に止めて、取り押さえました。
この問題騎士たちは明日の裁判の時に我らの方で責任を持って殺処分します」
「こ、殺すんですか?」
「ええ、いくらカロリナ嬢が犯罪者であっても騎士が強姦するのは犯罪です。
そして、誤魔化して無かったことにするのは許されません。
皆さんが正直に対応して頂いたことに対する侮辱にしかなりません。
我々は罪を犯した者はだれであれ処分を行います。
騎士だから処分されないということはありません」
ざわつきが少し落ち着いてきたかな?
「我々は全ての罪に対して平等に対応します。
平民、貴族、農家、商家。
立場が違えども法に基づき処分します。
それが国の、そして国に仕える者がすべきことですから
それでは失礼します」
最後に一礼をして牢屋から出ていく。
マーニ兄も僕に合わせて礼をしてくれたようだ。
皆怯え、顔が引き攣り、唖然としている。
だが僕が言った言葉が少しでも頭に残っていれば毛嫌いはされないだろう。
とはいえ……こういう目で見られるのはやはりキッツいなぁ。
覚悟していたつもりではいたんだけど。
「なぁ、ニフェール。
……さっきの発言パクっていいか?」
「オマージュなら許します。
完パクならロッティ姉様にお願いして罰を受けてもらいます」
「どんな罰だよ!」
「過去に受けたでしょ?
暴走したロッティ姉様に襲われまくる毎日」
……思い出したようだね、顔が青いよ?
「……完パクとオマージュの線引きは?」
「どこかマーニ兄の意見を入れて。
ほぼ同じ内容なのは仕方ないけど自分の意見が無いのはちょっと……」
「……分かった、善処する」
その後、僕は牢の見張りをインスたちと共に行い、マーニ兄達は休ませる。
インスたちは僕が化け物であるかのような反応を続けられてしまう。
交代時間まで互いにかなりキツイ時間を過ごした。
というか、僕が少しでも動いたら「ヒッ!」とか声出すの酷くない?
一応、大枠でかも知れないけど人間だよ?!
細部は自信ないけど!
時が過ぎ、ペスメー殿たちが交代に来たところで事態の説明を行う。
呆れと諦めの入り混じった表情で慰めてくれた。
うん、僕頑張ったの……。
怖がられてるけど頑張ったの……。
化け物扱いされてるけど頑張ったの……。
分かっちゃいたけどね。
その後枕を濡らして眠った。
早く忘れてしまおう……。




