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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
7:義兄救援
177/361

75

 その後、一緒に来た騎士に商会長を監視してもらい、店の他の場所を調べる。

 壁尻ならぬ壁首化したヤツは中々キモかったとだけ言っておく。


 特に隠れている人もおらず、書類もかなり集まった。



「三人で終わる量かな?

 具体的に言うと夕食前。

 できればもっと早く終わらせたい」


「アンドリエ商会の時に比べれば軽いモノだけど……ちょっときついわね」

「なら、先行して調査していてくれ。

 僕はあの壁首を持って領主館に戻って、手すきの応援を頼んでくる」



 調査を二人に頼み、商会長を引っぺがす。

 意識を失っているのか、反応は無いが死んではいないようだ。


 騎士に外部から干渉されないよう商会を守るよう頼んで領主館に向かう。


 急いで首根っこ捕まえて引きずる僕を見た住民たちが逃げ去って行った。

 恐ろしいものを見たかのような表情をしていたが、そこまで怖いのか?

 子供がガン泣きしているんだが……。



 領主館に近づくと、僕を見て衛兵の一人が全力で館の方に駆けだしていった。

 お~い、衛兵の仕事放棄かよ!


 そう思っていると、マーニ兄が駆け足でやってきた。

 って、何で殴りかかってくるの!


 やむなく、【商会長ブロック】で受けると呆れた表情をして叱ってきた。



「ニフェール、何殺気ばらまいてんだ!

 慣れない人にトラウマ作って……」


「え、殺気放ってた?」

「それなりに」



 それなりってことは、騎士科生徒下位が逃げ出す位か?

 そりゃ子供がガン泣きするわ。


 慌てて深呼吸して心を落ち着かせ殺気を抑える。



「んで、どうした?

 そいつ生きてるのか?」

「マーニ兄の攻撃で死んでなければ……」



 マーニ兄、目を逸らすなよ……。



「脈はあるから大丈夫だろう……多分。

 で、そいつは問題の商会の奴だな?

 お前がそこまでブチギレるということは、アンドリエ商会の関係者だったか?」


「ちょっと中で話そう。

 それと、文官組やノヴェール家も集合。

 面倒だから最大戦力でさっさと終わらせたい」


「分かった、文官組の執務室に先に行っててくれ。

 俺もこいつ牢屋に入れたらすぐに行く」



 商会長を渡すとマーニ兄は急ぎ牢屋に向かった。

 僕は兄を呼んでくれた衛兵に謝罪とお礼を述べ、執務室に向かった。

 あそこまでガチでビビられて、そのまま放置はできないしなぁ……。

 これで、少しは落ち着いてくれればいいんだけど。



「あら、ニフェールさん。

 どうなさったんですか?」



 はぁ……ラーミルさん。

 その癒しの表情に本当に助けられてます♡



「商会の説得に行ったところ、予想以上に面倒な話になってます。

 なので、捕らえて皆さんに手伝っていただこうかと思い戻ってきました。

 マーニ兄が来たらまとめて話しますんで、もうちょっと待ってください」



 そうしていると、マーニ兄もやってきたので一通り説明する。



「マジか……これってどうなるんだ?」


「書類見ないと断言できないんだ。

 最低でも僕を殴ったという罪はあるから連れて来ることはおかしくない。

 後は、どこまでアンドリエ商会に服従していたのか。

 今から僕含めて三人でどうにかするのは時間的に厳しい。

 なので皆に集まってもらった」



 各自少し現状を考えて、外に出るメンバーが決まった。


 騎士からマーニ兄。

 文官組からはサバラ殿。

 ノヴェール家は二人とも。

 うちのカリムとナットもこちらに。


 文官組の部下たちと残りの騎士たちは農家の皆さんへの説明を終わらせる。



 期せずして王都組の最大戦力を集めた形になってしまった。


 文官組が使っていた馬車に皆で乗って商会に移動となった。

 ちなみに御者は僕とマーニ兄という危険な二人だったのは偶然だ。



「お、来たな……って何このぶっ飛んだ面子は?」



 カル、気持ちは分かる。



「さっさと済ませたいとお願いしたら最大戦力が集まっちゃった」

「この面子が集まればすぐ終わっちゃいそうな気が……」



 ルーシー、それならそれでいいんだ。

 あの商会長が何隠しているのか。

 そしてどれだけアンドリエ商会と仲良かったのかさっさと調べたいんだ。



「それならそれでいい。

 さっさと終わらせよう」




 あ っ !




 と言う間に書類チェックが終わってしまった。


 内容的にはこちらの想定通り、ズブズブだったようだ。

 ただ……調査の速度がおかしい、おかしすぎる。



「アンドリエ商会の時よりペースが速い気が……」

「やっぱりニフェール様もそう思う?」



 ルーシーと困惑しつつ理由を探る。

 他の面々も本気で驚いているようだ。

 ベル兄様なんて驚きで固まってるし。



「これ、原因サバラ殿だよね?」


「原因という言い方はちょっと失礼じゃない?

 でも、言いたいことは分かるし、多分当たっていると思う。

 凄い仕事しやすいんだ。

 僕の処理能力が二割増し位になった気がするくらいだもの」



 書類振り分けとかが物凄い的確なんだ。

 それに加え、この面々の能力をバランス良く配置して最大効率を叩き出す?



「なんというか指揮官タイプ、それも教導指揮官タイプなんじゃないかなぁ。

 マーニ兄や僕は指揮官にはなれるけど、基本は『俺についてこい!』なんだ。

 教え導くのは二人ともあまり得意ではない。

 特に騎士の方は身体能力的に隔絶してるからうまく教えられないんだ」


「あぁ……何となくわかる」



 カル、しみじみ言われるとなぁ。

 まぁ、事実だから凹んでも仕方ないけど。



「こちらとしてはニフェール殿がここまであっさりと見抜くのは想定外です。

 そして皆さんがここまで処理速度上がるのも想定外です。

 本当に、うちの部署にお持ち帰りしたいくらいですね」



 サバラ殿も驚かれてますね。



「いや、調査要員にサバラ殿が入った。

 それだけでここまで処理速度が上がれば流石に分かりますよ」


「いや、実はそこまで理解できない人が結構いて……」


「もしかして王都の文官たち?

 つい先日叩きのめした中堅メンバーとか?」



 コクリと頷くサバラ殿。



「それだけではないのです。

 指揮官レベルの者たちでも理解できている人はそういません。

 確実に分かっているのは侯爵とクーロくらいかな?

 まぁ、今回ノヴェール子爵にバレちゃいましたけど♪」



 う~わ、冗談でしょ?



「もしかして、この仕事のしやすさって条件付き?

 恩恵を受けた人間の処理能力によって大きく違いが出てくる?

 もしくはサバラ殿をどこまで信用するかとか?

 実力、もしくは信用が低ければ気づきづらいのかもしれませんね」


「確かにそれはあるかもしれないわね。

 あの中堅組ってうちのカリムやナットにも負けている面々でしょ?

 恩恵少なそう……」



 ルーシーと検討しているとナットが質問してくる。



「ねぇ、その実力差で変わるのは理解できるんだけど、信用って?」


「あ~、例えば……。

 サバラ殿がこちらの能力を想定して仕事を割り振る。

 けど『もっと俺は凄い仕事できるのにこんなのやらせんなよ』みたいな反応される。

 そうなると、想定より処理が遅くなる」


「あぁ……それはねぇ」


「サバラ殿の事だから気づいた時点で最高の割り振りを諦めるんじゃない?

 で、当人がそれなりに満足できる配置に変更。

 出来る限りの最善を目指そうとするのかなぁと思う。

 以前、うちらが突如乱入してノヴェール家で調査手伝った時あるじゃない?

 あれも、他の面々に影響なく処理できるように動いたんじゃないかな?」



 チラッとサバラ殿を見るとお手上げポーズをしていた。



「そこまで読まれたら何も言うことはございません。

 ほぼ合ってますよ」



 よかった、一通り説明して違ってたら結構恥ずかしいからねぇ。



「あの時、こちらが失敗したのは皆様の能力を過小評価しすぎていたこと。

 ノヴェール家での滅茶苦茶な処理速度を想定できませんでした。

 それに、ノヴェール家のお二人方々を混ぜた状態。

 この処理能力は正直恐ろしくもあります」



 いやぁ、それほどでも♪



「正直、アンドリエ商会の調査を到着したその日に終える。

 これを王都で説明してもほぼ皆から嘘つき呼ばわりされるでしょうね。

 信じるのは侯爵とクーロだけでしょう」



 まぁ、そこは何となくわかります。



「なので私としても一緒に仕事してみて、処理速度が上がるのか見たかった。

 本来領主館で若い衆の面倒見るべきだったのでしょうけどねぇ……。

 ちょっと興味関心が勝っちゃって♪」



 テヘッって感じで白状するサバラ殿。

 まぁ、いいんじゃないですか?

 下の者たちに簡単な仕事振って成長を促したと考えれば。



「ついでなので、二つほど相談が。

 一つ目、この書類調査から商会としてアンドリエ商会とズブズブだったのは確定。

 なので農家のズブズブメンバーと同じ対処になるかと思いますが合ってます?

 違いは儲けた金は国としてもらっていくくらいかな」


「そうですね。

 これはおっしゃられた感じで対処していいと思います」



 やっぱりそうですか。



「では二つ目。

 明日の裁判ってどういう流れでやります?

 先に軽い犯罪者を処分する?

 それともアンドリエの兄妹と領主を先にやる?」


「ん~、やる側としては正直どちらでもいいです。

 ですが、見物させる民たちの反応を考えると……。

 先に軽い犯罪者を処分した方がいいですね」



 反応?



「物語でもあるでしょ?

 初め弱かった人物が最後に強敵を倒すという話。

 民からしてみれば、裁判はただの娯楽ですからね。

 飽きさせないようにしないといけません。

 そして勧善懲悪を印象付けるには最後にボス役を用意しないと」



 あぁ、そういうことですか。

 確かに無関係な人たちからは演劇と大差ないですもんね。



「ニフェール、なぜこのタイミングで聞く?」

「この後暗殺者に顔合わせしてスケジュール調整する予定だからだよ、マーニ兄」

「……俺も行ってもいいか?」



 ……事前に顔合わせておいた方が確かにいいか。



「そうだね、マーニ兄とうちの四人は顔見せしとこうか。

 そうじゃないと、マーニ兄がいきなり大鎌の餌食にしかねないしね」


「分かってんじゃねぇか。

 詳細は後で報告するが、他の面々は先行して館に戻っていてくれ」



 馬車で皆がいなくなった後、皆で素泊まり宿に向かいティッキィの部屋に突撃。



「いや、来るのがダメとは言わんけどよ。

 こんなに来るとは流石に想定してなかったんだが」

「すいません、本当にすいません!」



 そりゃそう言われますよね。



「ティッキィさん、お久しぶりです!」

「おぉ、ルーシー!

 カルが済まんなぁ」


「ええ、でも他の女に持っていかれるよりはマシかなと……」

「いやいや、これだけ愛されてて無反応ってのもなぁ……」



 なんか、カルが針の筵になっているけど、仕方ないよね♪

 カリムやナットからの視線が針……どころか槍レベルで刺さってる。


 けど、どうしようもないよね♪

 日頃の行いって大事だ、本当に。



「ちなみに今日は裁判前の最終確認でいいんだな?」

「ええ、予定通り裁判の最後に領主と兄妹を据えてます。

 そのタイミングで襲ってきてください。

 襲撃タイミングは任せますので、対応お願いします」


「承った……そっちのニフェール殿の兄さんも問題ないか?」



 おや、まだ紹介してないのに兄弟だって分かるんだ。



「あぁ、構わん。

 というか、兄弟ってよく分かったな?」

「いや、あんたら結構似てるからな?

 目の辺りとか結構似てるぞ?」


「そうか。

 一応自己紹介しておくか。

 マーニ・ジドロ、昔はマーニ・ジーピンって名だった。

 現在男爵、ニフェールの兄でジーピン家四兄弟の次兄だ。

 マギーのおっちゃんにはよく世話になった」


「俺はティッキィ、マギーさんが暗殺者ギルドを仕切っていた頃の部下の一人だ。

 聞いてるとは思うが、今回はニフェール殿を襲撃する。

 勢いで俺を殺さんでくれよ?」

「善処する」



 いや、はっきりと殺さないと言ってやれよ、マーニ兄!

 ティッキィもなんか冷汗かいてるし。

 ここで下手(したて)に出たくないのは分かる。

 けど、下手(へた)打って殺されたらすべてが台無しだよ?



 その後裁判時の各自の立ち位置を説明し、襲撃地点を間違えないように話し合う。

 一通り明日のスケジュールを話終えたところで僕から一つ提案をする。



「ティッキィ殿、あなたは明日でこの宿引き払うんですよね?」

「あぁ、その通りだが?」


「なら、手荷物とか馬とかうちで預かっておきましょうか?

 まさか馬に乗って襲いに来るわけでは無いでしょ?

 白馬の騎士とかじゃあるまいし」



 皆忘れてたとばかりに「あっ!」と 驚きの声を上げる。

 何、カルも忘れてたの?



「確かにそうだな……騎乗して柵を飛び越えて暗殺?

 ないわぁ……」

「騎士が姫を救うならともかく、犯罪商会の妹?

 そんな作品誰が読むんだ?」



 カルもティッキィも言いたい放題だな。

 まぁ気持ちは分かるが。



「そんなわけで後で馬をお渡しください。

 僕らが王都に戻るときに一緒にティッキィ殿も犯罪者の体で連れて行きます。

 そして適当なところで解放します。

 馬の面倒は王都から連れて来た馬車馬と同等の対応と言うことで」


「ああ、それでいい。

 というか、むしろ至れり尽くせりだな。

 ここの宿ではそこまでしてもらえてないからなぁ……」



 そりゃ金掛からない宿だからねぇ。

 馬の世話なんか最低限で済ませるだろうよ。



「こちらもお礼に一つ情報を。

 ディーマス領で見たことのある暗殺者がこの街に来た」



 マーニ兄と僕の目が厳しいものになる。

 メインでマーニ兄が対応する。



「俺が知っている限りではアイツはクロスボウを使っての狙撃が得意だ。

 弓も使えるが、狙撃できるほどではないようだ」


「禿みたいなやつだな……」


「?……ああ、ダッシュの弟子とか言う奴か。

 ダッシュもクロスボウ使いだったし、確かに近いな」



 あのタイプか……。


 性格までは同じとは思わないけど、戦いについては面倒だった。

 身の隠し方とか狙いの付け方とか。


 僕の女神様(ラーミルさん)の加護あってうち抜けたようなもんだからなぁ。



「となると、裁判を行う広場で狙撃しやすい場所か……」

「あぁ、それは調べておいた。

 広場を見て左側にある教会の辺り、鐘楼から狙うのが一番やりやすそうだ」



 確かにそんなのがあるのなら狙い放題だなぁ。

 僕が狙撃担当でも同じところを使いそうだ。



「ちなみに狙うのが誰なのか分かるか?」


「全く分からん。

 多分ではあるが、俺と同様に無茶な依頼をされたんじゃないか?

 その場合、偉そうな奴を狙うと思う。

 可能性としては、あんたら二人だな。

 ちなみに裁判取り仕切るのはどっちだ?」


「どちらでもない。

 別の人物が取り仕切る。

 それと、この街の仮の領主となるのも他の者だ。

 なので、重要そうな奴は四名だな」



 なぜか驚くティッキィ。

 そこまで驚くことか?



「あぁ、いや、アンタら二人で片を付けに来たのかと思っていたから……」


「裁判を行える権利を俺たちは持っていないんだ。

 それと、一時的とは言え領主にはなれない。

 弟は学園生だし、俺は騎士団の部隊長だから」


「あぁ、なるほど。

 商会を黙らせるために来ただけで本来は王都詰めか。

 なら確かに裁判と仮領主は別人を用意するか」


「……正直アンタがそこまで頭が回るのに驚いているよ」


「お互い様だ。

 頭は弟に任せるただの脳筋かと思ってたんだが……。

 判断がまともなのは部隊長になれるレベルの実力者だからか」



 ……微妙に貶してない?

 まぁ、マーニ兄は気にしてなさそうだけど。



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― 新着の感想 ―
投稿感謝です^^ 某友の会オールドルーキー内定者?のティッキィ氏、マーニ兄を軽く同族嫌悪してそう? マーニ兄が圧倒的上位互換だと思い知ったのち、身も心もニフェール家被害者友の会の一員に加われそうな予…
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