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「ただいま~!」
農家対応を血を見せずに終わらせたので少し笑顔で領主館へ帰ってきた。
妙にニコニコしている僕を見て、ルーシーが一言。
「そんなに殺戮楽しかったの?」
「いや、殺してないからね?!
怪我も負わせてないからね?!」
「え゛、ならなぜそんなに笑顔なのよ?」
「血なまぐさい事せずに仕事終えたから喜んでんだよ!」
人を何だと思ってんだよ、失礼な!
一緒に領主館に来た人たち (親・夫が商会とズブズブだった家の代表)がガチでビビってるだろうが!
「カリム、こちらの方々を先行してお通しした方と同じ所へ
ルーシー、そっちの仕事は?」
「カンペキ!」
「なら、この後サバラ殿と会いたいが可能かな?」
「さっきまで仕事していた部屋にいるわよ?」
「分かった、ちょっとしたら行くと伝えて欲しい」
そのまま調理場に向かい、連れて来た人たちに昼食を用意してほしいこと伝える。
ちょっと時間かかるがOKとのこと。
それと、もう一つお願いすると、困惑されたがこちらもOK出してくれた。
急な依頼で済まないねぇ。
さて、準備は出来たのでサバラ殿に会いに行く。
部屋に入るとやり切った雰囲気の文官の皆さんが……。
なんか、肌までツヤツヤして無いか?
「あぁ、ニフェール殿、農家側対応終わられましたか?」
「ええ、そこで、ちょっとご協力願いたいのですが、今よろしいですか?」
疑問符だらけの表情をされてしまった。
が、詳細を説明すると驚きと悪戯に賛同するかのような表情を見せた。
「……なるほど、アリですね。
すぐにでも始めますか?」
「ええ、下手に間を置いて正気に戻られても困りますので。
既に準備をお願いしてますので、すぐにでも始められます」
二人して「ヒッヒッヒッ……」と嗤う様はかなり気持ち悪かったのだろう。
文官の皆さんもうちのルーシーやナットも見て見ぬふりをしていた。
「あ、僕とサバラ殿は昼飯別の所で取りますので。
ラーミルさんにも伝えといてください」
「……ねぇ、何企んでんの?」
「犯罪者側の身内で味方になってもらえないか、ちょっと探ってみようかと」
「あぁ、腹黒な何かを思いついたんだ!」
ルーシー、もうちょっと言い回しを……。
「まぁ、もう、それでもいいや。
そんなわけで、すまんが僕たちは農家の方々と食べるから」
「……マジ?
……ってそういうこと?」
何か気づいたか?
「そういうことがどういうことかは知らんが、正解知りたいのなら後にしてくれ。
どうせ、マーニ兄に報告するんだし」
「分かった、こちらは気にしないで。
ラーミル様にも説明しておくわ」
「ああ、すまんが頼む」
ルーシーに頼んで、サバラ殿と一緒に連れて来た農家の人たちの所に向かう。
牢屋の方は後でにして、まずは代理人たちと話し合うために待機場所の方へ。
「皆さんお待たせしました」
この場にいる四人 (最初のロキシさんの長男とその後に対応した中から三名)が席を立ちお辞儀をしてくる。
まぁ、立場的に国から指示受けて来た人だから偉い人と判断されるんだろうな。
ただの学生もいるけど。
「皆さんの家長さんたちの行動に対する賠償額の整理。
そして家長さんが鉱山行きになる予定日数についてご説明いたします。
ただ、詳細は他者に知られたくないと思われます。
なので一人ずつ個別に話し合いさせていただきます」
自分たちがどれだけ借金を背負うのか知られたくなかろうと考えたが予想通り。
皆頷いてくれた。
「なお、昼食を用意しましたので、待ち時間にでもお食べください。
また、こちらも話し合いの途中で食事しますが、そこはご了承ください。
正直休む時間が無いので、仕事しながら食事するしかないので……」
「え゛……そんなに忙しいのですか?」
「今回は、一つの街ほぼ全体に関わるような犯罪ですよ?
これを到着後三日で裁判を行える状態に持ち込むなんてありえません。
休憩や睡眠を削って最速で仕事しております。
時間置けば置くほど、街の方々に不信や不安が蔓延してしまうので……」
自分たちも不安に駆られたことを思い出し、納得してくれた。
「では、最初にロキシさんの長男の方、我々と一緒に隣の部屋へ。
そちらの侍女さん、こちらの三名にお昼をお願いします」
「かしこまりました。
残りの一名分は後ででよろしいですね?」
「はい、こちらの方の話し合いが終わったら出してあげてください。
それと、僕たちの分は隣の部屋に」
淡々と配膳をする侍女さんたち。
ロキシさんの長男さん、あなたも後で食べれるんですから!
まずはさっさと話合い終わらせましょ!
隣の部屋に入りサバラ殿と僕、ロキシさんの長男さんの三名で話し合いを始める。
まずはどれだけ想定以上の金銭を貰っていたのかの説明から。
「えぇ?
こんなにうちの家は過剰に貰っていたのですか?!」
「ええ、大体ですが金額五割増しでやり取りしていたようです。
そして大変厄介なことがありまして。
あなたのお父上はこの金を犯罪と知りつつ受け取り、他の方を誘っております。
直接牢屋に連れて行かれた方々の事ですね。
なお、誘われた方々は大体二割増しでもらったようですね」
絶句する長男さん。
そりゃそうだよな。
生活楽だと思っていたら親父が犯罪やらかしていた。
それも農家側の中心人物っぽい。
多分「こんなのどうしろって言うんだよ!」とか思ってるんだろうな。
「で、その金額を一括返済って……多分無理ですよね?」
「絶対無理です!
時間かけても無理です!!
本来の金額とうちの父がいなくなること。
これらを考えると返済完了までどれだけ時間かかることやら……」
サバラ殿にアイコンタクトを送ると……。
……ねぇ、ウィンクしたわけじゃないんだから、そこで頬赤らめないで!
まだニフィのインパクトから逃れられてないの?
ほら、さっさと説明始めて!
「さて、いきなりこんな額を返済できないというのはこちらも理解できます。
なので物納、それも期間をそれなりに設定させていただこうかと。
そして余裕を持って返済して頂ければと考えております。
だいたいこんな感じですね」
サバラ殿、今日からでも貸金業でやっていけそうな雰囲気が……。
「かなりこちらの事情を考慮して頂けているというのは理解できます。
正直とてもありがたいとも思っております。
ですが、これでも結構きついかと……」
でしょうね。
反省の意味も込めているので単純に楽できるとは思わないでしょうね。
けど、それでもカツカツ位なんじゃないかな?
不作時期が重なった場合、かなりキツいだろうね。
「ふむ、ではこの位なら如何でしょう?」
ほぅ、その位の数字だとより時間はかかるけど生活に余裕ができるのは確実。
ただ、長男さんの今後の人生を返済に回すことになるんでしょ?
そう考えるとこれでも厳しいんだろうなぁ。
「これなら、まぁ大丈夫かと」
「それに加えて、余裕があったら金銭返済も加えて頂ければ返済が早まります。
そこはそちらの努力次第ということで」
「そうですね……」
悩んでいるけど、これ以上の提案は出せないだろう。
「さて、返済の話はこれくらいで、次に――」
「失礼します、サバラ様とニフェール様のお食事をお持ちしました」
おっと、昼飯が来たか!
僕の方で扉を開けて侍女さんたちを招き入れる。
持ってきてもらったのはパンに野菜や肉を挟んだもの。
大したものじゃないけど、腹が膨れる程度のもの。
「あ、あの、これだけなのです?
お二人とも貴族かと思ったのですが?」
「ええ、私たち二人とも貴族です。
単純に大急ぎで食事を終えないと仕事が終わらないので……。
簡単に食べられるのを用意してもらっただけですよ」
唖然とする長男さん。
「打ち合わせ開始前にも少し話しましたけど……。
休み時間を削って仕事している状態なんです。
なのでフォークとナイフを使った食事は王都に戻るまで無理でしょうね。
まぁ、個人的にはここの名産品を食べてみたいなとは思いますがね。
王都に帰る前に少しでも時間が取れれば、ですが」
多分、自分たちより質素だとか思ってるんだろうなぁ。
まぁ、嘘だけど。
忙しいのは事実だけど、食事ができない程ではない。
だけど、それだけ僕たちが苦労してこの場を用意している。
そんなインパクトを与えること。
その結果、彼らの頭の中でこんなことを考えるんじゃないかな?
貴族が、調査している奴らがあそこまで質素に、時間に追われている。
それなのに、自分たちは何しているんだ?
自分たちはどれだけ余裕かましているんだ?
仕事している貴族よりまともな量を食べているのに?
全員が思うとは考えていない。
でも一部の人達の頭にこのことが植え付けられたら、僕たちに反抗しづらくなる。
なんせ、自分たちの尻拭いで滅茶苦茶忙しく働く。
質素な飯を食い、休みも削る勢いでいる。
これで、文句言ったらどれだけ自分らはろくでなしなんだ?
そんな考えを持つものが増えれば増えるだけ暴動の可能性は低くなる。
それに加えて罪を償うのに負担を考慮して返済計画を用意してくれた。
ここまでしてもらっているのに文句は付けられない。
今日、商会とズブズブだった四組の面々はこの話を家族にするだろう。
もしかすると家族経由で他の奴らにも話すかもしれない。
彼らが何処まで善人でいられるか、もしくは人でなしでいられるか。
明日以降の裁判時の反応を見せてもらおうか。
「おっと、お父上の刑期の話がまだでしたね。
と言っても、その期限は現時点で明確には説明できません」
「……なぜでしょう?」
「決定権が僕らに無いからです。
刑罰と言うことになりますが、本来裁けそうな領主も犯罪者ですからねぇ。
王都に戻り、陛下に判断して頂くしかございません」
そこはある程度納得されたようだ。
「とはいえ、過去の同様の裁判実績から大体の年数はお教えすることはできますね。
こちらに集められた四名の方は大体十年程度かと思います」
「十年ですか……」
まぁ気持ちは分かるけど、そこは減らせないんだ。
「なお、鉱山側で模範となるような仕事ぶりを見せれば刑期短縮はあり得ます。
逆に反省しない輩は刑期が延びる可能性もあります。
家長の方々の行動次第とお考え下さい。
早く刑期を終えれば、返済するために働いてもらえるでしょうしね」
「確かに、何としてでも早く刑期を終え戻ってきて欲しいものです」
だろうね。
難しいだろうけど。
鉱山である以上、かなりきつい仕事場だろう。
となると、生きて帰れるか一切保証できない。
けど、そこはここでは言わないでおこう。
「さて、一通り話し合いは終わりですが、質問等ありますか?」
「……親父と会うことは出来ますか?」
「残りの三名との話が終わり次第、少し会えるようにします。
とはいえ、牢屋での話し合いになりますが、そこはご容赦を」
「いえ、むしろ我儘聞いていただいてスイマセン。
ちなみに、先ほどの返済の話はしても大丈夫ですか?」
「ええ、構いませんよ。
先程の話は裁判で言う予定なのを事前に伝えておいたというだけです。
なので、言ってはいけないことは一切ございません」
「わかりました、では他の方が終わり次第牢屋に連れて行ってください」
「はい。
では次の方と交代しましょうか。
待っている間に昼食ちゃんと取ってくださいね?」
僕の方で待たせている部屋に連れて行き、次の人を連れて来る。
それを繰り返し、四人分済ませて待機場所で軽く話し合う。
「一通り皆さんへの説明は終わりました。
この後家長との面会を求めるということでよろしいですか?」
「はい、お願いしたいです」
「うちも……」
全員希望するということですね。
「では、少しこちらでお待ちください。
騎士の配置変更もございますので調整してきます」
サバラ殿と一緒に待機場所から席を外し、互いにニンマリと笑い合う。
「ある程度成功したようですね」
「いやいや、かなりの成功じゃないですか?」
二人で褒め合っているとどこからともなく【死神】が……。
「ほぅ、楽しそうなことをしているようだ。
俺も仲間に入れてくれんかな?」
「……寂しいの?」
「違うわボケッ!
報告が欲しいと言っとるんだ!」
「……犯罪についての取り立て方面は文官の仕事だと思うんだけど?」
「それも分かってる。
とはいえ共有はして欲しいんだよ!」
「まぁ、それはまだ途中だけど構わないよ。
どうせ、騎士たちにも協力してもらうし」
「はぁ?」
ちょっと拗ねているのに加え困惑しているマーニ兄を別の部屋に連れて行き、何をしたのか、何をするのか一通り説明する。
納得はしてもらったようだが、まだ拗ねているようだ。
「事前に教えてくれても……」
「それは仕方ない。
農家回りしてて思いついた手だからねぇ。
マーニ兄に伝えるチャンス自体が無かったんだよ」
「確かに事前に検討した策とは思えなかったですね。
ですが、農家側が反抗しづらくなる手口だとは思いますよ?
なんせ、私たち二人分の食事を少し質素にする。
四家族の代表に昼食を奢る。
これだけで味方にできる可能性が高まるんですから」
弟と文官のツープラトンアタックに【死神】も勝てないと悟ったのか他の話題に変えていった。
「で、騎士に協力してもらうってのは?」
「四家族の代表と家長を会わせることを求められた。
牢屋に連れて行って話をさせる。
もしくは、一時的に牢屋から出して騎士が見張る中で会わせるか。
どっちがいいか、ちょっと検討中」
ちょっと考えてマーニ兄は質問してきた。
「その顔見せでそっちで話した内容を知られても構わないのか?」
「むしろ、話してもらった方がいい。
こちらが家を潰したり街から追い出そうとしないことを吹聴してほしい位」
「……一人ずつ、牢屋に連れて行く。
その間騎士がつくことを認めさせてくれ」
「マーニ兄が?」
「いや、うちの上位者二名に張り付かせる。
会話の邪魔はしない。
だが、一定時間以上――そうだな、十分を限度とする――はダメ。
これを念押ししておいてくれ」
まぁ、その位は基本かな。
「後は、二人とちょっと意識合わせしたいが……時間はあるか?」
「この牢屋での顔合わせを誰かに任せておけばそれで時間作れるよ?
まぁ、最初の説明は僕たちがいた方がいいと思うけど」
「あぁ、それでいい。
ちなみに、商会側の進捗の話と書類進捗のすり合わせだけだ。
そこまで悩む話じゃないはずだ」




