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「ただいま~」
「おぅ、帰って来たか。
話はうまくいったか?」
「うん、今日は信用を得るための行動ってところだから問題なしだよ。
本番はここでの裁判の時だしね」
「おぅ、これから全体会議、トップ会談、ジーピン家会談を続けてやるから」
「ジーピン家会談って……まぁ合ってるけど。
ラーミルさんが顔赤くして悶えそう」
「実際悶えてたぞ?」
あ、やっぱり?
「まぁ、そこは後でイチャつくとしようかな」
「俺の部屋じゃなければ構わんよ。
お袋との約束さえ守れるならな」
「……結構キツイデス」
「……耐えろ、俺も耐えた」
あぁ、マーニ兄もそっち側で苦労したんだね。
そんな話を終え、会議室に全員集合。
「さて、各々情報共有といこうか」
マーニ兄の宣言から会議が始まる。
僕の方で商会側の対応を一通りと、ついでに今の街中の状況も教えておいた。
「街の人がビビってるか……。
まぁ、それは仕方ないんじゃね?」
「うん、僕もそう思う。
殺気ぶちまけたり商会から死臭が漂ってきたらそりゃ怖がるだろうし。
なので、できるだけ早く終わらせようかと。
僕らが王都に帰れば街の人は安心するのは確実だからね」
どうやっても好かれるはずがないから、それなら最速で消えるべき。
「そうだな、いるのが長ければそれだけ暴発の可能性も高くなるだろうしな。
ちなみに、商会組の明日は?」
「この街の衛兵さんに協力頂いく必要があるけど……。
農家の皆さんに事態の説明と一部は捕獲も必要かな。
最悪、逃げようとしたら殺すけど。
あと、商会から派遣されて他の商会を乗っ取ろうとしている奴らだね。
確か二・三人残っているんで、そいつらは商会のメンバーと同じように扱う」
むしろ、そいつら捕まえとかないと面倒なことになるからなぁ。
「ニフェール君、農家はともかく他商会の方はそこまでやる必要はあるのかい?」
おや、ペスメー殿。
「乗っ取ろうとしてますからねぇ。
この後この街がまともになるためには邪魔な存在です。
それに下手に残しておいて第二の商会になられても困ります」
「あぁ、そういうことか。
乗っ取って、でも名前だけそのまま使う。
ヤバくなったらサッサとトンズラってやつか」
「えぇ、そのパターンを懸念してます」
ホルターのようにそれなりに会話ができるんだ。
予想より頭の方も使える方だな。
「後サバラ殿、協力した者たちの処分方針について。
この後のトップ会談でご相談させてください。
個人的には農家の面々に『ちゃんと罪を償えばこの程度で済む』。
そんな説明をしてあげて逃走しないように説得したいなと思ってます」
「分かりました、後ほど話し合いましょう」
「大体終わりか?
なら、領主館の話をしようか」
そう言って、マーニ兄は簡単に説明し始めた。
場所が変わり、大人しくしている人が多かったというだけで商会とあまり変わらない気がした。
……死体の数の違いだけだよね?
「明日の俺たちは街の治安維持メインだな。
それと現在牢屋に入れている奴らとの話し合い。
そして一通り出そろったら明後日にでも裁判をしたいところだ」
一息ついて、追加で説明を入れる。
「あ、ちなみに牢屋の監視と守りは我々で行う。
既にメンバーには説明しているが、商会側や領主側の狂信者のような奴らが襲ってくるかもしれん。
ちゃんと仕事しろよ?
では、サバラ殿、文官側の進捗を頼む」
文官側の説明を始め、明日の午前中には纏め終わると宣言。
ちゃんとこちらの協力の話もしていただけると手を貸した意味があるってもんです。
「ふむ、ならニフェール。
可能なら午後互いの情報を整理して明後日裁判できるようにしたいが……可能か?」
「ん~……確定はし辛いなぁ。
商会はそんな掛からないかもしれないけど、農家がなぁ。
家族の事を考えて犯罪であろうとやらかす人とかいそう……」
「あぁ……」
「確かに、そういう方はどこにでもいますねぇ」
マーニ兄とサバラ殿が肯定してしまった。
いや、その反応が普通なのはわかるけど、やっぱり面倒事なんだなぁ。
「……まず、商会の件は俺が引き受けよう。
どうせ、その商会全員殺すとかじゃないんだろ?」
「うん、対象のスパイ……というか商会の手下?
こいつらを捕らえたいだけで他商会には一切影響なし」
「なら、こっちでやっとこう。
またサバラ殿、こういう対応経験ある部下ってどなたかいないか?」
「……済まない、そこは……」
「あぁ、先日のアレで、ですかね?」
中堅メンバー一斉退職ですね。
「あぁ、その経験がある人物もいたんだが……。
今頃首を捻り過ぎで墓の下だ」
アイツですか!
「そいつよりすこし劣る程度の奴もいたんだが……。
今頃股間が寂しくなってるだろう」
アイツですか!! (二度目)
いかん、頭痛くなってきた。
この件知っている皆が哀れむ目で見て来るし……。
分からない奴らはキョトンとしている。
いや、ペスメー殿はもしかして気づいたか?
「それって……」
「ペスメー、ステイ!」
「ちょ、マーニ殿ひどくね?」
「色々あるんだよ、この件は。
あまりほじくり返すのは無しだ」
「答え言ってるようなもんじゃねぇか!」
「とりあえず、無理なのは分かった。
ニフェール、すまんがそっちでどうにかしてくれ」
「そうだね、どうにかするよ……僕なりに」
あ~、サバラ殿、そんな怯えない!
そしてペスメー殿、そんな呆れない!
「ついでに提案。
ベル兄様、ラーミルさん、ルーシー。
文官方のお手伝いお願い。
ナット、三人の護衛ということでお前も領主館組。
カルとカリムは僕と一緒に農家組」
「凄い助かります!」
サバラ殿落ち着いて。
そこまで全力で反応されると騎士の面々が驚いてるよ。
「んで、今日商会に行った騎士の面々はこのまま明日農家組に。
マーニ兄の方は別商会強襲組と治安維持組と領主館護衛組かな?」
「そうだな。
治安維持は二名ほど、護衛組は四名ほど、残り四名と俺は強襲組だな」
……ちょっと言っておくか。
「……大鎌利用禁止 (ボソッ)」
「ちょっ!!」
「いや皆殺しならともかくだけどさ?
一商会ごとに一人しか捕獲対象いないのに鎌使っちゃダメでしょ!」
「いいじゃん!
目立てるじゃん!」
おいおい、何言ってんの。
「大きくて邪魔なだけでしょ?
戦場ならともかくこじんまりとした家の中では使いづらいでしょうに」
なぜか、ウルウルした目で強請ってくるマーニ兄。
「マーニ兄なら部屋の中でも扱える実力あるのは分かるよ?
でもこの街の住人はそんなこと知らないんだから、ここは引いて欲しいな。
わざわざ無関係な面々を恐怖に陥れたい訳じゃないでしょ?」
「むぅ……」
ムッとしつつも、理解は出来ているのか頷いてくれる。
「明後日予定の裁判では大鎌見せびらかしていいからね」
コクリと頷くマーニ兄。
そういうシーンをロッティ姉様に見せてあげればいいのに。
確実に襲ってくると思うよ?
というか騎士の面々、なにそんなに驚いているの?
「いや、マーニ隊長をそこまであっさりと扱えるのは正直……」
「あぁ、驚きっすよ!」
ビーティ殿もメリッス殿も驚かれているようだ。
そこまでか?
「まぁ、兄弟なんでこの位の軽い会話は別におかしくないでしょ?」
「大鎌利用禁止なんて言ったら大暴れしますよ?」
「はぁ?」
マーニ兄を睨みつけると、「ヤバッ!」とばかりに視線を逸らす。
「マーニ兄、母上にオシオキしてもらうように手紙で依頼しようか?」
「マジで止めてくれ!
あれやられると数日視界がブレるんだよ!」
だろうね。
僕も経験者だし。
「知ってるよ、僕も一度やられたときそうなったし。
一応騎士なんだから必要な時に必要な武装でいること!
僕らと一緒に暴れるときには遠慮なく大鎌使えばいいよ?
けど今回は下手したら暴動誘発しかねないんだから!
そこはちゃんとしとかないとダメでしょ?」
「……は~い」
拗ねるマーニ兄なんて余程レアなのだろう。
騎士の皆が口ポカンと開けて見ていた。
「はぁ、大鎌を使うチャンスが……」
「止めてよ、フラグ建てるの禁止!」
そこフラグ建っちゃったらこの街か王都で大暴れってことだよ?
分かってる、マーニ兄?
全体打ち合わせも終り、次はトップ会談。
「なぁ、ニフェール。
何となく、この会談って話すこと無い気がするんだが……」
「一応、暗殺者と話した情報を展開すること。
領主館に来たときにこっそり話した件。
それと、農家組として、説得用にどういう形で罪を償うのかの確認。
この三つかなと思ってるけど。
まぁ、暗殺者とは挨拶だけだったんでほとんど意味無いんだけどね」
「あぁ、そういやあったな。
なら、議事進行頼む!」
あぁ、面倒なんですね。
ざっと説明開始。
ティッキィの事は挨拶だけなので特に反応無かった。
第八部隊の件は文官でも似たようなことがあったのを思い出したのか、皆溜息をついていた。
「やらかしますかね?」
「外れて欲しいですけど、ねぇ。
やらかすのは文官だけの特権じゃないんで」
「ですよねぇ……」
サバラ殿と一緒に溜息吐いてしまう。
「ちなみに、ベル兄様やラーミルさん、ルーシーを領主館対応にしたのはこの件があるから。
農家組として動くとなると、今日のような馬車移動はやらない。
そうなると守りが甘いとしか言いようがないんだ。
馬車の中に逃がすことができないしね。
それなら文官の方々と纏めて一部屋にいてもらった方が守りとしては安全。
ナットを置いて行くので護衛としても対応可能」
「あぁ、そりゃそういう判断するね。
納得!」
ナット、納得してくれてありがたいよ。
「一応、騎士側としては牢屋の監視と護衛はやらせない。
明日の対応も俺につける第八部隊の面々は強襲に回す予定だ。
そこなら俺が抑えられるからな」
「だねぇ、治安維持でやらかしたら暴動が怖いし、領主館護衛組は脱獄狙えるしね。
となると一番面倒なのはやっぱり農家組か」
「そこはすまんが苦労してくれ。
正直選択肢が無さすぎて俺も手を出せない」
「うん、それは分かる。
まぁ、どうにかしてみるよ」
仕方がない、何とかしてみるか。
「それと、農家への対応についてですね。
商会にズブズブに繋がっている奴ら。
そしてそうでない奴らに分けて方針を教えて頂きたいです」
「そうですね、では簡単な繋がってない面々から。
こちらは高値で商会に作物を売ったことになります。
なので、その差額分を国に返却。
もしくは金の代わりに物納と言う形で対応することになるかと思います」
ふむ……。
「その返却、もしくは物納ってすぐじゃなくても大丈夫ですかね?」
「返却の予定を示してもらえれば十年位の時間はアリですね」
「なら、それで進めましょうか。
各々の農家ごとの話は後回しにして、方針だけで十分でしょ。
明日の午後、残っている分がまとまった時点で求める額、そして物納量を決めますか」
「ですね」
ふむ、なら後は繋がっている奴らか。
「で、ズブズブな奴らですが、王都での裁判の後、鉱山で罪を償うことになりますね。
返却・物納の方も対応してもらいます。
ですが家の主が連れて行かれるのでしょうから、返済期間はより長くなるかと」
「それはやむなしですね。
仮に逃げ出したのでこちらで処分した場合、どうなるんでしょ?」
「返却・物納を予定より増やした形で求めることになるのでしょうね。
労働で罪を償うのを拒否したということですから、別の形の罰になるかと。
でも当人が亡くなっているので生きている者たちで代わりに償えってとこですね」
事前に説明しておかないと暴動始まりそうだ。
気を付けないとな。
こんなところで会談終了。
最後にジーピン家会談。
「で、本音ぶちまけ会談になるんだが……」
「ネーミングが的確過ぎて涙が出て来るよ。
まず、先ほど周知した第八部隊の暴走は先ほど言った通り。
最悪の事態は明日の夜に商会の兄妹や領主を逃がすこと。
やらかす奴がいる可能性がある以上、全力で対応する」
「だなぁ、それはやらざるを得ないだろ」
「文官のパターンを考えるとそのとおりね」
カルとルーシーが納得してくれるようだし、対応は大丈夫だろ。
「で、ティッキィの話。
本当にただの挨拶のつもりだったんだ。
けど、カルの方でちょっとアゼル兄の結婚式の話をしてガチでビビらせてます。
ちなみに、僕とマーニ兄がこの街にいること説明してます。
なので、かなり危険な状況であることちゃんと理解しているようです」
「ひでぇなぁ、こんなに優しいお兄さんなのに」
「寝言は寝てから言ってよ。
知らない人があの時何やったか知ったら冗談抜きで冥界への道案内にしか見えないんだから」
マーニ兄、なぜそこで凹む?
まさか本気で優しいお兄さんのつもりだったの?
家庭内では優しいけど敵には【死神】でしょうに。
「それくらいかなぁ。
ちなみに、ふと考えたのですが……」
「……なんだ?」
「本件、この街での仕事終わったらティッキィに声かけてみるのはどうかな?
カルが長なのは変えないが、部下が増えたときの先生役が出来そうな気がする。
人格的にはかなりまとも、カルやルーシーも知っている顔だから安心だろうし。
カリムやナットも技術的に教えを乞うのもアリかも。
マギーのおっちゃんの事も不快に思ってなさそうだし」
カルは以前相談していたので特に反応無かったが、ルーシーたちは驚きに目を見開いていた。
なお、一応確認したが全員賛成だった。
「ついでに状況次第なんだけど……。
元暗殺者で一般人に戻った面々に声かけてみようかなと思ってる。
僕が男爵になった時に出入りの商会になってもらえればなぁって感じ。
こちらはまだ妄想話だけだけどね」
「ニフェール、その心は?」
「両親がやらかした暴走の謝罪ってとこかな」
「あぁ……」
マーニ兄、言いたいこと分かっちゃいますね。
「でも、誰でもいいというつもりは無くて、ちゃんと仕事している店にお願いするつもり。
ラーミルさん、やるとしたら店の見極め協力して――」
「――是非っ!」
食い気味に答えてくれたけど、かなりあっさり許可が出たな。
もっと悩むと思ったけど。
まぁ見極めの流れでそのままデートにしてもいいんだし。
「まぁ、街での裁判が終わったところでティッキィに相談するつもり。
なので、今は気にしないでおいて。
それに、来てもらってもすぐに仕事は無いし」
「あぁ……そうだな」
今、暗殺者ギルドは開店休業状態だしねぇ。
「チアゼム侯爵に相談するか……」
「一時的に騎士団で雇ってもいいぞ?
俺の専属になるがな」
「ラクナ殿とかガチで羨ましがりそう……」
まともで実力ある存在って騎士団で見つけるのって難しいだろうしね。
◇◇◇◇
「なぁ、あの小僧邪魔じゃね?」
「止めておけ、俺たちがあいつに敵うと思うのか?
商会ほぼ全員殺した奴だぞ?」
「と言っても、役立たず扱いされて黙っているのか?」
「俺たちが役立てると思ってるのか?
無理だと思うぞ?
今回は大人しくしておいた方が無難だと思うがね」
「ケッ、ヘタレが!」
唾吐きかけんばかりの愚痴を俺、インスにぶつけて帰っていく奴。
よっぽど気に食わないようだな。
だけど、どう考えても勝ち目無い相手に喧嘩売るなんて自殺行為でしかないだろうに。
なぜ気づかねえんだ?
「やぁ、あいつも愚痴ってたのかい?」
同僚も同じように愚痴に付き合わされたようだな。
「あぁ、一応止めたけど無駄な気がしてきた……」
「無駄と言うか、以前情報流しても聞かなかったからなぁ。
俺達の発言は聞く価値無いとでも思ってんじゃないかな?」
そこまでか……。
「この後どうする?」
「他の奴らが暴走しようとしたら即報告。
それくらいしかできないよ」
こいつが思いつかないのならどうしようもないか。
「即報告するような事態が発生しうるのか?」
「他の奴らの行動から考えると十分あり得ると思うよ」
ってことはほぼ確定か。
ったく仕方ねぇ、バカ共の監視しておくか。
話終えて眠ろうとしてハタと気づく。
また名前聞くの忘れた!




