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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
7:義兄救援
166/360

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本話と次話途中まで学園側の話になります。

◇◇◇◇


 ここは学園の学園長室。


 一般の生徒が入ることはまず無い、教師でも入ることは稀なんじゃないか?

 そんな場所。


 そんなところに俺、プロブはいた。

 それも教師数名に取り囲まれて。



「さてプロブ君、一通り先生方が説明してくれたが、この内容について言いたいことはあるかね?」



 静かな声で学園長が問うてくるが、特に何も言いたくない。

 黙っていると、少しイラついたのか問題事項を改めて説明し始めた。



「……先日、授業を滅茶苦茶にしようと授業内容をクラス組み手を提案。

 ニフェール・ジーピンと最初に戦うことになると開始と同時に敗北宣言。

 意図を問うとクラスメイトが留年するように、嫌がらせの為に提案したという。

 これは全て事実かな?」

「……あぁ」



 一言返事を返すと、やっと話が進むと安堵したのか学園長が話を進める。



「プロブ君の行動に対し、先生方はどういう罰が良いと思う?

 まず現場にいたカパル先生」


「最低限停学ですね。

 可能なら退学も視野に入れるべきかと」

「その理由は?」


「騎士になるものは味方へ嫌がらせするなぞありえません。

 騎士科でも騎士にならない者もいるでしょう。

 ですが、どの分野においても味方に害を与えるものは嫌われます。

 後から攻撃するような味方は害悪でしかないからです」



 害悪ねぇ。

 言うこと聞かなければ全てが害悪かよ!



「ふむ、スティーヴン先生。

 あなたの意見は?」


「今までの成績から考えるとこの件がどうであれ、プロブ君は留年となります。

 なら、今年度一杯は停学という形で自宅で反省してもらいましょう。

 そして来年度から改めて二年の授業を受けた方がよろしいかと。

 ただし、現時点の彼の理解度から察するに、来年度も留年する可能性は高いとみております」



 ふ、ふざけるなよ?!

 そこまでバカじゃねぇよ!



「なので、一年生で取るはずの単位の再確認を実家で確認してもらう方が良いかと思います。

 あぁ、すでに取れている分も含めてですね。

 この停学期間に一年生での知識を深めておくこと。

 それで来年度の二年生の授業もある程度は落とさずにいられるかと。

 まぁ、ちゃんとやればという条件はありますがね」



 はぁ?

 停学になってもまだ勉強かよ!



「それと念の為ですが……。

 彼には来年度並行して一年生で取れなかった試験科目があることを言い続ける必要があります。

 それも、何度も繰り返して言わなければいけないかと」



 確かにそれは繰り返し言って欲しい。



「実際、今年は一年次に落とした単位を取らなくてはならないのに、一切取ろうとしていない。

 この学園の仕組みを理解していないのか、学園に反抗して試験を受けなかったのかは分かりません。

 ですが、そのような行動をしていたらまた留年するだけです」



 ……それについては何も言えないな。

 実際二年から三年に上がるための条件知らなかったし。



「よし、プロブ君。

 君の処分は今年度残りの期間を停学とし、来年二年からやり直してもらう。

 なお、ご実家には今回の件について一通り説明した手紙を送る」


「いや、不要だ。

 退学にしてくれ!」



 なぜか、教師共が皆「はぁ?」という表情をしているが……なぜ?



「それは、プロブ君が貴族の地位を捨てるということでいいのか?」

「へ?」



 なんで?



「確か、庶務課の者が説明しているはずだが?」

「あの日の授業中にニフェールも説明していたぞ?」



 あれ、そうだっけ?

 何か学園長が呆れた表情をしているが、そこまで?!



「……一応、再度説明をしておく。

 退学になるというのは自発的に貴族から抜けるということだ。

 まぁ、淑女科の生徒が婚姻を優先するために退学というパターンもある。

 だが、それは夫側が貴族であるから問題ないというだけだ」



 なんだ、退学しても貴族でいられるルートがあるじゃん♪



「男性が退学して女性側が貴族位を維持するということも、ないとは言わん。

 だが、そんなの何十年に一度あるかないかという程度の話だ。

 今、君には婚約者はいるかね?」

「ディーマス侯爵家長女マリーナ様と婚約してるけど」



 なぜか三人の教師が憐れむような表情でこちらを見る。



「ディーマス家は現嫡男であるストマ殿が継ぐだろう。

 それに、マリーナ嬢に爵位を分け与える可能性は低い。

 となると、婚約解消か一緒に平民になるかのどちらかだ。

 そしてディーマス侯爵がわざわざ自分の娘を平民にしたがるとは思えん。

 なら婚約解消だろうな。

 もしかすると婚約破棄と言うことにして君の家に賠償金を求めるかもしれんが」




「えっ?!」




「なぜ驚く?

 当然だろう?」



 えっと……。



「貴族でいるためには学園卒業が必須。

 退学したら貴族の地位を捨てること確定。

 現時点で貴族の地位を確保するためには留年を選択するしかない?」


「そうだ。

 ついでに言うと、今回の件で停学にすることで成績による留年の情報を上書きする形になる。

 来年度の二年の者たちからは停学しか分からないだろうから本来の留年は気づかれにくいだろう。

 まぁ、春季試験終わるまでのごまかしでしかないがな」


「ちなみに、退学、停学、留年のどれも実家には連絡が行く?」


「当然だろう?

 実家だけでなく、国にも情報が届くぞ?

 退学の場合、国からしてみれば貴族にできない以上、管理している家系図から外す必要がある。

 それに停学・留年をするような学生は王宮側でも確認している。

 そのような輩が国で働けると思っているのか?」



 え?



「病気とか金銭的な理由なら特に問題ない。

 未来への影響もない。

 だが、今回の問題だらけの行動の場合、安心して仕事を任せられない。

 ならば、そういう評価を下すしかあるまい」



「じゃ、じゃあ俺は……。

 実家に連絡なしに貴族を維持することは……」



「できんな。

 というか、実家に教えるなと言うが国で把握している以上無意味だぞ?

 なぜそんなに実家に知られることを恐れる?」



 いや、だって……ぜってぇ言えねぇよ!



「ちなみに、この場から逃げて誤魔化そうとするなよ?

 退学・停学のどちらを決めぬまま逃走したら、問答無用で退学処分だ」



 くっ!

 先回りして来やがる!



「なぁ……なぜそこまで実家に教えたがらないのか、説明してくれないか?

 停学・退学のどちらであっても実家に連絡は入るのだぞ?」



 待て、待て!

 貴族でいたいから停学からの留年しか選択肢は無い。

 でも実家にバレたくはない。

 バレたら……むしろ退学と変わらない!



「それに留年となると、来年度の学費を出してもらうことになる。

 今まで親御さんが支払った三年間分の金額では足らないのだよ。

 加えて、君はどうやっても学園卒業までに合計四年は最低掛かる。

 入学年度をご家族が覚えているのなら、卒業予定年度に二年生やっている時点でバレるだろ?

 どうあがいても隠すことは出来んぞ?」



 あっ!



「……」

「学園側としても、そこまで誤魔化そうとする理由を教えてくれぬから助けることもできん。

 我らとて喜んで停学や退学にしたい訳ではない。

 一切学園に頼らず、学園の規則を把握せずにいた結果が今なのだよ?

 だからこそ、ちゃんと理由を説明してみてほしい?

 我らが助けの手を伸ばせるようにな」



 そんなこと言ったって、アンタら役に立たねぇだろ?!

 俺は貴族のままでいたいし、婚約継続したいし、三年で卒業したいんだよ!



「なぁ、俺が来年三年になりたいと言ったら?」

「学園の規則上不可能だ。

 プロブ君は一年で取る必修科目が取り終えてない。

 そんな人物を三年に上げることは出来ん」


「そこを何とかできないか?!

 知らなかったから試験を受けなかったが、今から受ければ俺なら合格するはずだ!

 その成績を持って――」



 溜息を付きつつ俺の発言を学園長が留め、説明する。



「まず、学園はこれでもとてもやさしい対応をしている」

「どこがだよっ!」



 優しければ俺がこんな苦労するはずないじゃないか!




「本来、一年の必修科目を取り漏らす程度の実力なら、二年に上げる必要はないのだよ」

「……え?」




 なんで?



「一年の必修を全て取り終えたもののみ二年にすればいい話だ。

 だが、一つや二つ落とす学園生もいるだろうこちらでは考えた。

 それ故、ある程度取れたら二年に上げることにしている。

 それを優しさと言わずになんという?」



 いや、そりゃ優しいとは思うけどさ……。



「なら、同じようにすれば……」

「ああ、同じように三年に上がれる条件は二年の必修単位をある程度取れたら。

 ただし、一年の必修科目を全て取るのを条件に加えただけだ」



 だけだ、じゃねえよ!



「一応言っておくが、プロブ君のような生徒のためにこうしたんだぞ?」

「はぁ?

 何言ってんだよ!」


「学園の卒業条件は三年間の必須科目全取得と選択科目を指定科目数取得。

 君の条件を認めた場合、全員三年までは上がれるな?」

「そうだ!」

「で、その状態で三年になって、今更一年の勉強をする気はあるか?」

「え……?」



 何言ってんの?

 三年なんだから三年の勉強するんだろ?



「そんなのする訳無いじゃん。

 卒業するために三年の勉強を――」

「そこが大間違いだ。

 先ほど言ったろ?

 三年間の必修科目全取得が卒業条件だって」


「あ、ああ、そうだな」

「なら、一・二年で取りこぼした分をどうするつもりだったんだ?」

「え?

 三年の単位(・・・・・)獲れたなら(・・・・・)一・二年の(・・・・・)単位なんて(・・・・・)どうでもいいじゃん(・・・・・・・・・)!」



 なぜか頭を抱える三名の教師。

 なんでわっかんねえかなぁ?

 それでも教師かよ!



「例えば三年で習う算術の単位が取れれば一・二年の算術の単位も一緒についてくると言いたいのか?」

「当然だろ?」


「当然ではない!

 各学年の算術は繋がりはあれども同じ単位ではない!!」

「何でだよ!」



 言ってること訳分かんねぇよ!



「……例えば、武器というカテゴリの中に入るから剣術が合格したので弓術も一緒に合格にしておいてと言うつもりか?」

「いや、そりゃ流石に無理だろ?」


「それと同じだ。

 単位ごとに意味を持たせている以上、三年の算術と一年の算術は別物だ。

 なら、一年の算術の単位を三年の算術単位で置き換えることは出来ぬよ。

 逆もまた然り」



 ……え、あっ、ああ!

 え、そういうこと?

 嘘でしょ?



「理解したようだな。

 プロブ君の案は何の意味もない」



 教師たちの憐れみの視線がザクザクと刺さっていく。



「そして、一年の必修全科目取得を条件にしているのは、このまま三年の授業を受けてもついていけない。

 なんせ、一年の内容を理解していないと三年の内容はまともに理解できないからな。

 それなら二年に留めて、一年の単位を確実に取得させた方が三年でついて行ける可能性がでてくる」



 ……まじかよぉ。

 そんなならニフェールに纏わりついてでも点を取ろうとしたろうに……。



「な、なら、今からでも一年の残っている単位の試験をしてくれよ!

 合格すれば三年になれるんだろ?!」



 え、また頭抱えるの?

 今度はなんだよ?



「プロブ君、学園での規則を変えるつもりは無い。

 そして、君だけを特別扱いすることはしない。

 君が一年の残っている単位を取りたいのなら来年度にしなさい」


「今がいいんだって言ってんだろ!」

「まず、学園の規則如きを守れない輩は貴族として認められない」



 はぁ?

 なんでだよ!



「学園卒業して貴族となった者は、貴族・王宮の規則に従うのが最低条件だ。

 規則に従えない輩は処分される。

 爵位を落とすか、平民となるか、処刑されるかは内容次第だがね。

 そして学園程度の簡単な規則を理解できず、守れず、捻じ曲げようとするのなら貴族として認められない」

「はっ、認められないならどうするんだ?!」




「貴族として認められないのだから退学にするだけだ」




「ちょ、ちょっと待てよ!

「学園は貴族社会に入るための第一歩だ。

 法を守り、国に従う。

 これを守れる程度の能力が無ければこの国の貴族として不適格だ。

 なら退学とするしかあるまい」



 学園長の目が笑ってない。

 これはどうやっても退学になるのか?



「さて、改めて聞こう。

 なぜ君は実家に誤魔化そうとする?

 ここで解決しないことには君も困ったことになるだろ?

 正直に教えて欲しい」



 言、言えねぇ……。



「ちなみに、ちゃんと言ってくれたなら一緒に対処策を考えてやろう。

 最悪、私が君のご両親と顔合わせて君が叱られないようにフォローするのも付き合おう。

 ただし、今、ここでの決断が最後のチャンスと思ってくれ。

 答えない、逃走する等を選んだら我々学園側は問答無用で君を退学にする」



 退学はダメだ!

 でも、親には絶対バレたくない!



「……すみません、決断する時間を貰えませんか?」

「そこまでこちらは暇じゃないんだがなぁ。

 なら、明日の午前中までにこの部屋に来て説明しなさい。

 当然だが逃げたら退学の意志を見せたと見なして処理を始める」



 ふぅ、なんとか時間を一日稼いだか。

 とはいえ、たかだか一日だけ。

 どうにかして――。



「スティーヴン先生、停学と退学の書類準備を始めておいてください。

 明日午後に、どちらかにサインします」

「かしこまりました」



 ――ちょっと待て!

 気が早すぎねぇか?



「ちょ、ちょっと待ってよ!

 どちらかって……」

「どちらかだろ?

 停学か退学の決断だけだし、君の理由を聞いても停学が無くなることは無いよ?」



 嘘だろ?



「理由を聞いて留年取り消しとかは?」


「留年は君の実力の問題だから理由を聞いても何も変わらない。

 停学による留年か、成績不良による留年かの違いだけだ。

 停学を選ぶのなら、来年度君は二年生だし、退学を選ぶのならその時点で君は平民になる」



 あ、ダメだこりゃ。 

 ガクッと力が抜けて来た。



「これは個人的な発言だが、平民になった後に貴族に舞い戻るのはとてもなく難しい。

 現在二年で首席のニフェール君並みの実力があり、かつその実力を国に見せるチャンスがあれば騎士となる可能性はある。

 だがそんなのは普通の学生では絶対に無理だ。

 最低でも今の騎士科生徒で退学後貴族に舞い戻れそうな人物は彼以外いない。

 いや、ここ十年でもそんなことできる人物は彼とその兄だけだ」



 いや、ニフェールが強いのは分かるけど、そこまでの実力じゃないだろ?

 アイツ程度でどうにかなるのなら、他の生徒だって解決できんだろ?

 チョット勉強できてチョット実技の点数がいいだけじゃん。



「君が実家に停学や留年を知られたくないようだが、どうやっても誤魔化しきれないぞ?

 なんせ、三年で卒業は絶対できないんだから。

 サッサと実家に説明して留年を認めてもらえば学園卒業の芽は残る。

 そうすれば卒業後に貴族として見てもらえる」



 そこまで言って、学園長は俺をじっと見つめて一言。



「プロブ君、君が正しい判断をすることを期待している。

 話は以上だ」



 カパル先生とスティーヴン先生と共に学園長室を後にする。

 本当にどうしようか?




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― 新着の感想 ―
投稿感謝です^^ プロブ君の貴族籍に(-人-)ナムアミダブツ~
と、とんでもねぇバカがいる。 思考回路がヤバいよ。 怖い((( ;゜Д゜)))
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