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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
7:義兄救援
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 大体質疑応答が終わったようなのでマーニ兄の方を見ると、あちらは順調に説明を終えた様だ。


 また、ラクナ殿の方を見ると、陛下たちを見送っていた。

 いや、追い出したかったのかもしれないけど。

 侯爵たちも陛下について行ってるので流石に戻ってくることは無いだろう。



「マーニ兄、そっちも終り?」


「あぁ、後はカル達に投げナイフ渡すのと、念の為上位者での意識合わせかな。

 あ、ノヴェール子爵たちも参加願います」

「構わないよ」


「では、こちらに」



 いつも打ち合わせしている部屋に連れて行かれ席に座る。

 メンバーはサバラ殿、マーニ兄、ベル兄様、ラーミルさん、うちの四人に僕。


 マーニ兄は机の上に結構大きな袋を出してきた。



「何はともあれ、まずこれだな。

 カル、ナイフ90本確保しておいた。

 分配はそちらでやってくれ」


「かしこまりました」



 ……結構重いだろうに、カル大丈夫か?



「もう少ししたら侯爵方やラクナ殿が来るから、少し待っていてくれ」

「……まさか陛下や王妃様がサプライズでなんてことは無いよね?」

「前回泣かせているから、多分やらないとは思うが……」



 既にうちの四人がビクついているんで勘弁してほしいんですけどね。



「おう、待たせたな!」



 ジャーヴィン侯爵がチアゼム侯爵、ラクナ殿と共に入ってくる。

 陛下や王妃様はついてきていないようで、うちの四名が胸を撫でおろしている。



「さて、出発前最後の打ち合わせを始めるか。

 ニフェール、マーニからナイフは受け取ったか?

 それと学園側の方は?」


「はい、ナイフは受け取りましたし、学園の方も問題なしです。

 陛下と王妃様の連名が途轍もなく影響が大きかったようで、あっさり対応して頂きました」



 まぁ、ビビってたという方が近いかもしれないけど。



「なら遠慮なくニフェールがフル稼働できるな♪」



 いや、加減してよ!



「あ、そういえば今日は本拠地から最速で人がやってくる日ですよね?

 ラクナ殿、ダッシュの店と定宿の情報の確保をお願いします。

 明日の朝に情報集めてマーニ兄に引き渡しておいてください」


「そうだな、そこはこちらで対応しておこう。

 ……来ると思うか?」


「来なかったらその程度の頭しかないってことだし、こちらも楽ですね。

 逆に来た場合、現地の対応は少し手間かも……。

 ベル兄様、ラーミルさん。

 アンドリエ家の人たちって頭いい?」



 二人とも悩んでいるけど、そんな判断しづらいの?



「妹のほうだけど、まず頭はいい方だと思うけど性格は悪い。

 相手を潰すために時間がかかることも厭わない。

 これはノヴェール家を潰すためにオルスを派遣したことを考えると、そう間違ってはないと思う」



 確かに、そんな雰囲気はあるなぁ。



「何となくだが、脇の甘いニフェール君って感じがする。

 ちなみに、兄の方とはほとんど接点が無いんで、ラーミル答えて」



 ベル兄様の説明を聞くと、確かに僕に似ている。

 違いがあると言えば自分で殺せるか、他者に殺してもらうかかな?



「脇が甘いというより、経験不足な気がしますけどね。

 でも、大体合っているかと思います。

 それと、妹の方が頭が回ります。

 とはいえ、兄の方も馬鹿なわけでは無いのですけど、ここで論ずるほどの危険性は無いかと。

 多分あの男に期待されているのは妹の補佐と偶像かしら?」



 あぁ、仕事上表に顔出すのが兄で実際頭使うのは妹ってとこかな?


 イメージとしてはあちらの兄がベル兄様と同等かそれより能力的に低い?

 あちらの妹は僕より格下ってことは【才媛】に勝てるとは思えない。

 足元掬われないように気を付ける必要はあるけれど、怯えるほどではないと。



「なるほど、ならニフェール達なら鎧袖一触ではないか?」



 ジャーヴィン侯爵があっさりと言うけれど、状況次第なんですよね。



「そうだったらいいのですが、相手がこちらの動きをどこまで察知できるかですね。

 先ほどのダッシュの店と定宿の情報が試金石かなと思います。

 まぁ、現地でマーニ兄と僕が暴れれば基本的に確殺できるでしょうね。

 でも少しは殺す数を減らしておこうかなと思うので」


「あまり無理に減らさなくてもいいんだぞ?」


「侯爵、僕を殺人鬼に仕立て上げるのは止めてくださいよ。

 下手に殺し過ぎてスホルムの街が王家に反抗するような土地にはしたくないのです。

 殺すことはやるでしょうけど、最小限で留めておかないと王家の名に傷がつくのでは?」



 第一、ジーピン家大集合を止めたのはそれが理由だろうに。

 人数減らしても【死神】と【狂犬】だよ?

 僕らでも時間が少しかかるけど死者の街にすることできるんだからね?



「確かに。

 とはいえ、お前たちが怪我したりするのは困る。

 必要ならば殺し尽くしてでも帰ってこい。

 アンドリエ家やダイナ家如きを皆殺しにしても王家は悲しまん。

 だが、王家に従う者たちが怪我なんぞしたら悲しむぞ」



 女装が見れなくなるとかの方で悲しんでいるとかじゃないよね?

 王妃様、そっち方面の信用度が少々低いからなぁ。



「さて、後話すことはあるか?」

「両侯爵とラクナ殿、今回あの騎士たちが選ばれた理由分かります?

 不明なら調査願います。

 どう考えても誰かの嫌がらせにしか思えません」


「あぁ、そこはすぐにでも動く。

 元々のこちらの命令は『実力ある者を十名出せ』なんだ。

 だが、どうやったらあんなのを送り出すんだかこちらも知りたい位だ」



 まぁジャーヴィン侯爵からしたらそうだろうね。

 指示を意図的に無視したんだから、そいつは立場の剥奪もあり得るんだよなぁ。



「こちらに嫌がらせしたい輩が割り込んでアイツらを入れたんだと思うんだ。

 けど、色々敵の多い面々だから誰が狙われたか判断できないんですよね」


「……そんな多いか?」


「この場にいるもので王宮内で敵がいないはずなのはうちの四人とラーミルさんくらいでしょ?

 ベル兄様だって王宮で仕事している以上、敵はいるだろうし」



 王宮に関わって敵のいない人物って想像つかないんだよねぇ。

 表向きはどうであれ、実際はどこで恨み買ってるか分からないし。



「まぁ、そんなわけで僕らが戻ってくるまでに調べておいてください。

 遠征時のこちらの情報と合わせて叩きのめせばいいと思うんで」


「あぁ、任せろ!」



 ジャーヴィン侯爵、殺る気マンマンですね。



「それと……マーニ兄、食糧ってどんなの詰め込んだの?」


「普通に使う糧食だな。

 硬いパン、塩漬け肉、塩漬けの野菜あたりか?

 だからパン・塩辛いスープ・塩漬け野菜の日々が続くな」


「鍋とか騎士側の物使わせてもらえる?」


「鍋、皿、椀、フォーク、スプーン、ナイフ位かな?」



 それを聞き、少し考えた上でマーニ兄に相談する。



「少し、金に余裕ある?」

「……何考えてる?」



「飯で忠誠を得ること」



 両侯爵は呆れた表情をしている。

 サバラ殿も同様のようだし、うちの四人やベル兄様も同じ。


 どうも、飯と忠誠の繋がりが分かってない?


 だが、三人程お手並み拝見とでもいう反応を見せた方がいる。

 ラクナ殿、マーニ兄、そしてラーミルさん。


 現場経験者のラクナ殿、ジーピン家直伝の手口を知っているマーニ兄。

 そして、ラーミルさんは三科試験対応の時に気づいたのかな?



「どのくらい使う?」


「そんなぶっ飛んだ額を使う気は無いよ。

 第一、明日はうちの四人とベル兄様とラーミルさんくらい?

 マーニ兄の分追加してあげてもいいけど」


「是非頼む!

 お前らが食っている所に俺がちょっと入り込んで、塩辛いだけの飯じゃないこと言えばいいんだな?」


「そうそう、そしてグダグダ言ってきた奴らに条件を付きつけようかと思う」

「教えてやるけど、その為の準備を手伝えってか?」


「流石マーニ兄、明日の昼飯、少し多めにしてあげよう」

「あざっす!」



 僕とマーニ兄が話していると、侯爵たちが説明を求めて来る。

 状況が分からないからか腹減ったからなのか見た目には分からないんだが?



「ニフェール、何を考えている?」


「これから移動中は味気ない昼飯になります。

 なので、少しでも気が紛れるように食事作る時にひと手間かけてみることを話しました。

 そして、その成果から僕の部下に一時的になった者たちからの忠誠を求めようかと」



 微妙に理解が及んでいないようだ。

 領主科はこの辺の知識無いんだろうなぁ。



「何となく皆様は学園で騎士科の知識を得ることがなかっただと思うんです。

 なので、遠征の苦労する部分を気づかなかったのかもしれません。

 実際、文官科や領主科では学ばない部分ですしね」


「騎士科のみ?

 ラーミルは……あぁ、三科試験か?」



 ジャーヴィン侯爵が疑問を呈してきたが、ハズレなんだよなぁ。



「いえ、騎士科でもこの辺りを理解していない者も多いです。

 授業ではそこまで細かく教えてもらえませんしね。

 多分、ラクナ殿は長年の騎士としての経験から糧食の変化と士気の向上の関係性にお気づきなのかと」


「あぁ、遠征時に部下の気力を保つために少し酒を振舞うとか、食事に変化を付けるとかすることがある」



 やっぱりね。



「マーニ兄はジーピン家で親から一緒に教えてもらったから知ってます。

 ラーミルさんは……ある程度は騎士科の筆記試験の為に学んだ内容。

 それに加え実際遠征した場合の問題点を検討したとかじゃないかと。

 自分が指揮官になったときを想定して考えたら士気の向上をどうするかは大事ですから」


「そうですわね、学園の図書館で自主学習した時に読んだ本に色々書かれておりました。

 確か『我が小隊の士気向上のために』だったかしら?

 私どもの祖父位の時代の方が書かれた書物でしたわ」


「あぁ、あの本ですか。

 確かにあれは指揮を執る者は見ておくべき本ですね」



 そのまま本の話に花が咲きかけたが周りの雰囲気を感じて止めた。

 他からあれだけわかりやすく「イチャイチャすんなや!」という視線を送られたら僕だって諦めるよ?



「ニフェール様、食事位でそんなに違うの?」

「あぁ、慣れてしまえば同じ食事が続いても我慢できるのかもしれないけどね。

 でも、変化があった方がやる気が出て来るよ」

「そんな変わるのか……」



 ナットが驚き……よりも困惑か?

 もしかして、ピンと来てないのかな?



「ナット、今から言う内容をイメージしてくれるか?

「??

 いいけど……」



「カリムとデートに行く際にいつも串焼き一緒に食べて帰るのみ。

 でも、今日は搾りたての果汁を飲んで、知っている曲を演奏しているのを偶然聞きながらデートした。

 こんな時、少し気分が良くならないか?」



「確かになる!

 なるほど、そりゃ味変えるのは大事だね!」



 周囲の大人たちは生暖かい視線を送り、カリムは顔真っ赤にして俯いている。

 いやカルとルーシー、お前らも似たような立場だろうに。



「そんな感じで少しでも気分を変えることで騎士たちの士気を維持。

 今までの同じ味の飯しか食えない遠征を経験した者たちの気持ちを鷲掴みにするつもりです」


「あ、あの、できれば文官メンバーにも分けて頂けると。

 お恥ずかしながら、料理できる者がいないので」



 あ、そりゃそうか。

 文官側、もしかしてスープ自分で作れない?



「確かにそれはきついですね。

 分かりました、元々僕が面倒見る予定のメンバーと文官をまとめてどうにかしましょう。

 それと……ルーシー。

 済まんが料理できるか?」


「最低限の事は何とか……」



 あら、そうなんだ。



「ナットやカリムは?」

「食べること専門かな……」

「ナットと同じです」


「ラーミルさんやベル兄様は?」

「……ナットちゃんと同じです」



 ……やべ、予定狂ったかも。



「ニフェール、もしかして途中で先遣隊として移動する際にどうするか考えてるか?」

「うん、その間の食事作るの任せようかと思ったんだけど……」



 マーニ兄が声かけてくるが、どうしよう……。



「……教えるしかないんじゃね?」


「だよねぇ……ルーシー、ナット、カリム。

 それとベル兄様にラーミルさんにサバラ殿。

 物凄く簡単にではありますが、料理の仕方教えます。

 四日目までは一緒に居られるので、そこで最低限のやり方を覚えてください」


「え、カルは?」

「教えてもいいけど、どうせ僕と先遣隊として移動するから訓練の成果を見せるチャンスは無いよ?」



 ルーシー、なにその「ずるい!」と言わんばかりの表情は?

 カル、なのその「おっしゃ、回避!」と言わんばかりの表情は?



「ちなみに、騎士たちは野外料理自体は出来るんだろうから、そちらはあまり気にしなくていいよね?」

「あぁ、むしろデキない方が問題だ」



 だよね。

 遠征行けない騎士って衛兵と何が違うのって感じだし。



「あれ、サバラ殿とベル兄様って外で食事したことってある?

 簡易かまどとか作れる?」



 二人ともタイミングを合わせたかのように首を横に振る。



「……カリムは?」

「街で暮らすのにかまど作るなんてしませんよ?」



 あぁ、こっちもか。



「はい、カルも含めた男性陣は簡易かまどの作り方教えます。

 これは文官の他メンバーもこき使いますので、ちゃんと覚えてくださいね?」

「……はい」



 そんな怯えなくても、叩いて教えるとかできなきゃ飯抜きとかはしませんよ?



 とりあえず話すこともなくなったので、各自仕事に戻ることとなった。

 ベル兄様は明日朝にチアゼム侯爵家に馬車で来てもらい、その後乗り換えて移動することとなった。


 僕たちはチアゼム侯爵家に帰る途中で食料を販売している店に行き、数点買い物をしていく。

 と言っても梨が三つとマッシュルームを数個程度なので、僕の財布でも購入できた。



「……本当にこれだけでよいのですか?」

「ええ、明日の分だけですし、これで十分ですよ。

 明後日以降の分は明日泊まる街で少し買えばいい話ですし。

 では帰りましょうか」



 料理経験無いからかラーミルさんからも不安の声が聞こえてきた。

 味をちょっと変えるだけなので、そんなに色々購入する必要は無いんだよなぁ。



「そう言えばルーシー、ナット。

 以前化粧の仕方教えろって言ってたよな?」


「あぁ、女装した時の話?

 ええ、言ったわよ?」


「移動中、宿で教えてあげるよ。

 必要な物準備しておいてね。

 ラーミルさん、教えるのご協力頂けません?」


「いいですよ。

 基本は道具の使い方かしら?」


「そうですね、化粧の基本と作業の流れ、細部の道具の使い方でしょうか。

 化粧品の種類とかは基本覚えてから好みで選べばいいと思うんで」



 ルーシーたちがキャッキャと喜んでいる。


 カルとカリム、変なもの見たような顔すんな?

 女性陣からしたら大事なことなんだから、下手なこと言うなよ?

 恨まれるぞ?


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― 新着の感想 ―
投稿感謝です^^ 美味しいものときれいな異性(最近は多様化しているようですが^^;)がキライな人はそうそういないので、そこから人心掌握していこうとするニフェールの天然策士っぷりと、それを即座に理解す…
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