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「う、嘘だろ、こんな程度で退学になるかよ!」
「なるじゃない、退学にするんだ」
カパル先生が宣告する。
プロブが驚いているが、なぜそんな反応するんだ?
「お前、自分で宣言したよな?
留年するんだ、道連れにしてやるってな?」
「あ、あぁ」
「それは他生徒を留年に追い込むってことだ。
当人の実力がないための留年はともかく、他者を留年に巻き込むなぞ言語道断!
学園として、教師としてその行動は許容できん!!」
プロブ、なんでそんなに驚愕の表情をするんだ?
「騎士となる以上、味方を貶める存在は害悪でしかない。
仲間がいつ自分に刃を向けるか分からない状態で一緒に仕事ができると思うか?
疑心暗鬼に捕らわれ仲間を信じられなくなる。
そんな事態を引き起こす輩は国に必要ない!」
めっちゃ正論ですね。
これ、本当にカパル先生の評価爆上げ状態なんですけど。
「だ、だからって退学になんかできないだろ?」
「できるぞ?」
なんか黙ってしまった。
というか、なぜできないと思ったんだ?
ちょっと聞いてみるか。
「なぁ、プロブ。
成績、もしくは授業態度などのチェックは先生方がやってるんだぞ?
当然停学や退学の判断も先生方がやるだろ?
というか、誰なら退学させられると思ったんだ?」
「え、そりゃ、学園長とか……」
いや、そりゃそうだけどさ。
それ最終決定者だし。
「学園長に報告はするだろう。
最終決定の権限も学園長だろう。
でも、その前段階は各教師の裁量じゃねえの?」
目が虚ろっぽいな?
理解できなかったか?
「先生方が学園生の問題行為を報告し、情報を集め、事実であることを確認する。
そして、その情報を元に学園長が決定する。
報告はカパル先生がするだろうし、情報収集はクラスの面々が協力するだろう。
後は学園長がどう判断するかだけだ」
僕の説明が理解できたようだが、同時に獲物を狙う目をしてクラスメイトに視線を送っていた。
もしかして、情報収集協力するなってか?
それ無理じゃね?
「プロブよ、お前は何を狙っている?
俺たちに脅しかけて情報提供を止めろとか言うのか?
止められる程の実力も無いのに?」
ホルター、手加減無しの口撃だな。
的確ではあるけど。
プロブの顔が真っ赤になってる……恥じてじゃないな、あれは。
ブチ切れただけか。
「ふ、ふざけんな!
クラスメイトが退学の危機なんだぞ?!」
「自業自得だろ?
それに道連れとか抜かしている奴になぜ協力しなければならない?」
あら、黙っちゃいましたね。
「分かってないようだが、お前を助けたら、その礼に俺たちを留年させようとするだろう?
あぁ、『そんなことしない!』とか言うなよ?
さっき道連れと言った時点で俺たちはお前を見限った、それだけだ」
ギリッ!
ダッ!
……あら?
プロブが歯ぎしりしたと思ったら走って逃げて行ってしまった。
「あ~、残りの時間で授業は……微妙に厳しいな。
早いが今日はこれで終わりだ。
これから学園長に報告してくる。
後日この日の状況を確認するために呼び出されるかもしれないが、そこは協力してほしい。
ニフェールは……」
カパル先生、僕はお仕事でいませんよ?
「明日から王都からいなくなりますし、今日も授業終わったら急ぎ王宮に行くので無理ですね。
ホルター、クラスの代表として対応してくれ」
「仕方ない、そこは対応しよう。
お前が戻ったら奴は退学になっているかもしれないが、何か奴に伝えることあるか?」
伝えること?
「何も無いなぁ。
僕から恨み節なんて聞きたくないだろうし……」
「恨み節?」
そんな、キョトンとされてもねぇ。
「『勉強教えてもらってる癖して脱がそうとすんじゃねぇよ!』とか?
もしくは『騎士科首席なんて嘘ばら撒いてんじゃねぇよ、最下位常連者!』とか?
今更言っても無駄だろ?」
あの虚言癖付き性犯罪者としか言いようのない奴に何を言えと?
「あ~、お前はある意味一番の被害者だったな。
分かった、後はこっちでどうにかする。
お前は仕事の方に注力してさっさと帰ってこい」
「あぁ、そっちはどうにかしてみるよ」
以降の対応を一通り任せ、僕は学園を出てチアゼム侯爵家に向かう。
「ただいま」
「ニフェール様、今日は早いね、どうしたの?」
ナットが興味関心が湧いたのかちょっとしつこく聞いてくる。
武器の準備など王宮へ出発準備を整えつつさっきの話をすると――
「何そのバカ?」
「理解しようと考えるだけ無駄だから止めておけ。
僕も理解できなかったよ」
――加減皆無の発言が飛び出してきた。
他の面々も「なんだそいつ」と言わんばかりの表情を見せるが、僕も何なのか分からんよ。
やらかしも突然だし、訳分からん。
「あいつのことは気にしないでいい。
それより王宮行く準備は?」
「大体できてるよ!
後はラーミル様だけ……って、いらっしゃったよ!」
ナットが指差した方を振り向くと……女神様がお出ましになった。
個人的には跪いて邪神様から改宗したいくらいだ。
だが、そんなところを見せたら四人にドン引きされるので、貴族っぽくラーミルさんをエスコートする。
……あれ、ラーミルさんからもヒかれるかもしれない?
皆で一台の馬車に乗り王宮に向かうと、偶然サバラ殿達が。
「あれ、どうなさったので?」
「ああ、ニフェール殿が騎士たちと顔合わせすると聞いたから我々文官側も参加しようかと思ってね」
単語的には合っているんだけど、実際は騎士を調教するんだが?
まぁいいか、現実は後で知ってもらおう。
「あ、ならうちの四人一緒に連れて行っていただけますか?
僕たちはノヴェール家当主に声かけますので」
「え、なら一緒に……(モガモガ)」
カリム、反応早いな。
本気で驚いたぞ。
「ニフェール様、行ってらっしゃいませ。
私たちはサバラ殿に訓練場まで案内してもらいますので」
カリム、ほんと~にありがとう!
「ラーミルさん、行きましょうか?」
「はい!」
その場で別れてベル兄様の所に向かう……前にラーミルさんを連れて隠れる。
驚いているが、この後の声を聴いて隠れた理由に納得したようだ。
「ちょっとカリム!
何いきなり口塞ぐのよ!」
「ナット、もう少し静かに!
……なぁ、まさかお前気付かなかったのか?」
「何がよ!」
「ニフェール様がラーミル様を簡易デートに誘おうとしていたんだぞ?
まぁ、推測だけど」
「……うそっ?」
「最近お二人とも大忙しでデートの一つもできる状態じゃないだろう?
多分このわずかなチャンスを使って一緒に居ようとしたんじゃないかな」
カリム、お前どこまで見抜いてるんだ?
「ニフェールさん、カリム君の判断は?」
「ほぼ完璧に僕の行動を読み切ってますね。
正直怖いくらいですよ」
カリムは侍従の仕事が天職かも。
もしくは執事とか?
「まぁ、カリムがとりなしてくれたようですし、ベル兄様の所まで久しぶりに二人で歩きますか?」
「はいっ♡!」
その後二人で軽いデートをしつつベル兄様を迎えに行く。
ベル兄様が僕たちのイチャつきっぷりに呆れていたのは、まぁ見なかったことにしよう。
周囲で呪いの言葉を吐いている人たち、僕たちに効果ないよ?
そのまま三人で訓練場に向かうと、先に行ってもらっていた面々は既に到着し、暇を持て余していた。
そんなところで暴走娘はまたぶちまかす!
「あ、ニフェール様にラーミル様!
デート終わったの?」
ブ フ ォ ッ !
あぁカリム、一手遅かったようだ。
口を塞ごうと手は出たんだけどな……ちょっと届かなかったな。
カル、ルーシー、咽るな?
大笑いしたいんだろうけど、場所考えろな?
「ああ、久しぶりにイチャイチャしていたよ。
まぁ、今回のドタバタが終わったら本格的にデートしたいもんだがね」
「……終わるの?」
「なんとか終わらせるけどねぇ。
まぁ、ベル兄様用の複数人デート検討してるからそこで最低一度はデートするしね」
……いきなり訓練場が静まり返った。
僕とラーミルさんは互いに顔を見合わせるが、静まる理由が思いつかない。
二人して困惑していると、二匹の女豹が襲いかかってきた!
「ニフェール様、複数人デートって何!」
「ずるい、アタシもいきたい!」
ルーシー、お前ナットよりも運動苦手な癖になんでこんな時だけイカレた速さで突撃してくるんだよ?
ナット、ずるいって何?
カルとカリムを見ると、カルは唖然としカリムは頭を抱えている。
いや、頭を抱えたいのは僕の方だからな?
「とりあえず二人とも落ち着け。
元々、今回のドタバタのきっかけは覚えているか?」
問いかけるとルーシーが答えて来る。
「ベルハルト様がオルスに騙されてた件?」
「その前の話になるんだが、アゼル兄とカールラ姉様の結婚式の時の話。
ベル兄様とティアーニ先生――僕の法律の先生――が出会った。
そこで、僕たちが実家に戻っている時にデートしたそうなんだけど、色々あって失敗。
並行してマーニ兄がベル兄様のヘタレボッチ解消のためにダブルデートを提案」
ベル兄様、落ち込まないの。
「とはいえ、ダブルデートではヘタレ方面の解消という案は良かったんだが……。
どうにかなっても僕とラーミルさんの監視付きデートにしかならないと判断した。
なので、複数人デートと言う形にして大人数でデートしようかと。
現状マーニ兄とロッティ姉様、そしてフェーリオとジル嬢にも参加してもらおうと考えている。
なお、ベル兄様たちには既に説明済み」
なんか驚いているようだが、僕の伝手で参加を求めたらこんな感じだぞ?
「ハイ、ニフェール様、参加したいでーす!」
ナット、元気なのはいいのだが……。
「お相手側に許可を得てから参加表明してください。
それと、正直大したことはしないぞ?
皆で集まって軽く飯食ってお店をチラッと見たりとか、そんなものだからな?」
「は~い、カリム、イイよね?」
ブ フ ォ ッ !
……カリム、気持ちは分かるが諦めろ。
ナットはとてもあけっぴろげな性格をしているようだから、彼氏隠すなんて思いつきもしないのだろう。
まぁ、バレバレと言うのもあるがな。
「あ、あぁ……(照)」
「ニフェール様、オッケー出たから参加しまーす!」
「はいはい、スケジュール決まったら教えるから」
「あ、こちらも参加したいわね」
ルーシー、お相手のカルの許可は?
カルを見ると、お手上げのようだ。
むしろ降参のポーズ?
「二人で話し合っての参加なら構わんよ。
まぁどっちにしても遠征終わってからだけど」
「ええ、それは流石に分かってるわ。
とはいえ、ご褒美あるとヤル気出るわね!」
「金銭は自腹でお願いしますね?
僕もお金ないんですから……」
「そこは大丈夫よ。
陛下からご褒美入った後なら余裕で支払えるわ!」
あぁ、そういえばそうだったな、なら大丈夫かな。
というか、そういえば僕も陛下から金貰えるんだから、自費で参加できそうだな。
となると、陛下から金貰ってからスケジュール決定するか。
そんなことを考えていると、ラクナ殿とマーニ兄が騎士たちを引き連れて訓練場に入ってきた。
……それとほぼ同時にとある方々がこっそり見学しに来ているのも。
ねぇ、侯爵方はまだ分かるのですよ。
でもね、陛下に王妃様。
あんたら仕事はどうしたんだ?
わざわざ騎士たちにバレないように動いているってことは、僕が追いつめるのを見たがったの?
イイ性格してるよ全く。
「あぁ、全員揃っているようだな。
明日からスホルムへの遠征となる。
そこで我ら騎士と文官側、そして協力者たちとの顔合わせの為にこの時間を設けた。
まずは騎士側から自己紹介を頼む」
ラクナ殿の指示により、マーニ兄の自己紹介と騎士たちの紹介が始まる。
ノヴェール家で荷馬車引いてた者たちを捕らえたときの人たちが数名いる。
皆マーニ兄配下だったんだな。
「次に協力者であるニフェール・ジーピンの配下になる騎士たちだ」
マーニ兄が滔々と説明する。
けど、騎士たちの方からやる気無さそうな雰囲気がヒシヒシと感じられるんだよなぁ。
一通り説明し終えて元の場所に戻るときにマーニ兄が僕にウインクしてきた。
それって「後は煮るなり焼くなり好きにしろ」だよね?
次に文官側をサバラ殿が一通り説明する。
こちらは特に反応もなく終わる。
騎士たち、そんなそっけない行動してどうすんだ?
「次は協力者の方々だな。
ニフェール、各自の紹介を頼む」
ラクナ殿の指示を受け、まずは自己紹介から。
一歩前に出てイイ笑顔を見せると、ラクナ殿とマーニ兄は苦笑で返す。
多分、後ろのラーミルさんやうちの部下たちも何となく感づいただろうなぁ。
「文官の皆様は既にご存じかと思いますので……騎士の皆様」
ここまでは普通の挨拶。
ここからは騎士たち選別用の挨拶といこうか。
「初めまして、ニフェール・ジーピンといいます」
ブ ワ ッ !




