43
「それと、これは前の打ち合わせでは言えませんでしたが、この後娼館ギルドに連絡してきます。
前の会議で週一程度の連絡の話があり、遠出する際には連絡することになりましたので。
なお、個人的にはそこで強盗ギルドの状況を確認したいと考えております」
「以前犯罪者の会議に出たというのは侯爵たちから聞いた記憶がある。
強盗ギルド……確かそなたら暗殺者ギルドより財政に不安のあるギルドだったか?」
よく覚えてらっしゃいますね。
大体合ってますよ。
「はい、犯罪者たちの中で直接戦闘力があるのは暗殺者と強盗がメインとなります。
まぁ、個別では娼館ギルドも用心棒がおりますが、それは置いておいて。
そいつらが金稼ぎに無差別に暴れ出すと面倒なので、状況確認と言ったところです」
「……王都の騎士たちでは止められぬか?」
「無計画で少数なら止められるでしょう。
ですが、計画的かつ多数の箇所で暴れられると手が回らないと思われます」
そんなムッとした顔しないでください。
今までのツケが回ってきただけなんですから。
「元々騎士の中でも強く賢き者は兵站に回してますよね?
なので、兵站にいる者たちを一時的に戦力とする話をジャーヴィン侯爵とした記憶があります。
あれってどうなりました?」
「既に動いている。
今日も数部隊顔合わせして兵站部署の面々の実力を思い知っているよ。
明日には全部隊が知ることになるはずだ」
ほぅ、早いですね。
元々僕たちが一週間かけて移動準備する予定だったから、その間に終わらせるはずだったはず。
かなり急がせたのかな?
「なら、初めの想定よりかは被害を減らせるかと思います」
「まぁ、どうしても後手に回るのは仕方ない。
先手を打ちすぎると無関係な者たちまで疑わなくてはならなくなるからな。
ならこの件は取り合えず現状では問題なしと」
後は……陛下の御名で書かれた書類と僕の学園に渡す書類の件か。
「僕からの報告は以上ですが、学園に長期休暇の届けを出す必要がございます。
陛下・王妃様・両侯爵の名を入れて頂き、学園側が許可を出さざるを得ないような届けを頂けますか?」
「あぁ、それはすぐに用意しよう。
ジャーヴィン侯爵、急ぎ用意してくれ。
その間に吾の方で用意した書類について説明する」
ジャーヴィン侯爵は書類用意の為に離席した。
……ねぇ、なぜホッとしているの?
……まさか、王妃様の説明が終わるまで戻ってこないつもり?
ギロッと睨みつけると、にこやかに部屋から出て行った。
スキップしかねない位に喜んでいきやがったなコンチクショウ!
チアゼム侯爵も無茶苦茶羨ましがっているし。
うちの四人なんか呪いの言葉吐いてるけど。
「さて吾の用意した書類の話だが。
簡単に言うとマーニ・ジドロとニフェール・ジーピンの両名に少々大きめの権限を与えようと思うてな」
マーニ兄と一緒に顔を見合わせる。
(想像つくか?)
(つかないけど、嫌な予感しかしない)
二人の間のアイコンタクトも「二人とも分からん」以上の情報のやり取りができなかった。
「両名には本件に関する行動である限り王家としてどのような行動も許し、罪に問わないこと。
それを記してある」
え゛?
それって、つまり暴れ放題・殺し放題ってこと?
マーニ兄を見ると、僕と同じような判断に行きついたのか固まっていた。
「既に感づいたかもしれんが、これは必要とあれば犯罪者を切り殺して構わんという意味だ。
正直、この手の犯罪者共に加減する理由も無いしの。
さっさと皆殺しにして終わらせても構わんかと思っておる」
うわぁ、ぶっちゃけた。
「とはいえ、そのようなことをしていれば国を信用してもらえなくなる。
それ故、まずそなたらは犯罪者に説明をするのじゃ」
まぁ、説明なしに殺したら只の殺人鬼ですしね。
「そして説明に従い捕らえられた者は死刑が確定していても王都に連れてくるように。
逆に一切従わなかった者は本来罰金刑で済ませる程度の犯罪であっても殺して構わん。
まぁ、以前の打ち合わせで吾が言った内容を保証するための書類じゃな」
あぁ、あの発言(7.義兄救援-38参照)ですね。
確かに言ってますね。
「正直、僕たちには大きすぎる権限と考えますが、そこまで僕たちを信じるのは危険じゃないですか?
まだマーニ兄はそこそこ制御するかも知れません。
ですが、僕はラーミルさんに喧嘩売ってきたら即刻みじん切りにしますけど?」
「そこは想定しておる。
それでも、そなたらなら下手な人物に任せるよりもうまく事態を治めてくれると思うておるのじゃよ」
いや、その、そこまで信用して頂けるのはありがたいのですが……。
「つい最近も王都で首へし折って殺したり、股間の一物と玉を引っこ抜いたりしてますけど?」
「……それでもじゃよ」
「アゼル兄の結婚式で、ラーミルさん襲っちゃえなんて言葉吐いた暗殺者&クズ騎士共を暴走して殺しまくりましたけど?」
「…………それでもじゃよ」
既に滅茶苦茶不安そうに見えますが?
特に今回ラーミルさん関連の相手だから暴発の可能性高いんですよ?
自分でも自覚できちゃうくらいには危険なんですけどねぇ。
「ったく……。
そこまで覚悟されたうえでこの書類をお渡しいただけるのであれば、何とか自制してみましょう。
可能な限りですけどね」
「あぁ、それでいい」
ホッとした様子の王妃様。
危険物使うのならこの程度でホッとされてもねぇ。
「そう言えば、向こうで金銭でケリ付ける者たちは王都連れてこないで向こうで金払わせるでいいんです?
確か他商会と農家の大半は金でカタ付けるはずだったはずですけど?」
「そうだな……」
少し考えた上で王妃様はチアゼム侯爵に問いかける。
「一緒に行くもので一時的に直轄領領主となる者がいたな。
その者はどこまでできる?
裁判やらせて大丈夫か?」
「……申し訳ありませんが、ジャーヴィンでないと分かりませんな。
こちらも人手不足なので騎士から人をお借りしている位ですから」
だよねぇ、普通騎士に領主代理やらせる時点で珍しいと思ったんだ。
「ただ、裁判までは想定されていないと思います。
むしろうちのサバラにやらせましょうか?
あいつなら金銭を伴う裁判は可能ですよ」
そりゃそうか。
騎士の方の政治的実力なんて分かるはずない。
……ジャーヴィン侯爵がスキップしながら逃げて行ったことに対する恨みとかではない……よね?
「ふむ、一応ジャーヴィンが戻ってきたら確認してみよう。
無理そうならサバラメインでやらせるように。
その結果、決められた金銭を取り立てるのは仮の領主でも可能だろう。
マーニ、ニフェール。
そなたらは裁判の補佐として手伝って欲しい」
「かしこまりました」
ふむ、そこで金銭組は本拠地に置いて行けるようにするんだな。
……ということは、本拠地着いたらアンドリエ商会の情報総ざらいすることになるのか。
ラーミルさんに手伝ってもらおうかな。
やらかしてきた下種共を【才媛】の実力で黙らせる。
この方向で説得してみるか。
……ベル兄様は何させよう?
一緒に調査させるか、領主経験無いけどダイナ家の調査の方に回すか……。
……兄妹で別にするより一緒にするか。
「カル、ルーシー、カリム、ナット。
向こうの本拠地でもこちらでの調査と同じようなことをやるようだ。
また書類と戯れる覚悟はしておいてくれ」
頷く四人。
ただし王妃様が怖いのか、まだ一部涙目だけど。
そんな会話をしていると扉の方に気配が……。
多分、ジャーヴィン侯爵だな。
まだ話が終わった感じがしないから入るのに躊躇しているのだろう。
……ったく、平民の面々がビビりつつも耐えているというのに!
侯爵ともあろう者が隠れるってあり得ないだろ?
「それと、多分戦闘が入ると思う。
ルーシーは参加できないだろうが、他三名は消耗品とか必要な物あるか?
以前見たジャグリングから投げナイフ辺りが必要になるかと思ったんだが……」
「あぁ、三人とも正面から近接するより投擲とかの方が自信ある。
なので投げナイフをそれなりの量補充させてほしい。
近接用の武器はあるから、そちらは気にしなくていい」
……王宮の備品で投げナイフなんてあるのか?
……騎士で投げナイフ使う人なんていないと思うし。
「あのぉ、王宮に投げナイフなんてあります?
何となくなんですが、無い気がして……」
王妃様、チアゼム侯爵が揃って首を捻る。
……陛下、風景一体化能力使いながら首捻っても誰も気づきませんよ?
「ジャーヴィン侯爵が戻ってこられたら調整します。
ナイフ使う三人、ジャーヴィン侯爵が戻ってきたら呪いの言葉と一緒に聞いてみようか」
ブ ハ ッ !
チラッと扉の方を見た後、チアゼム侯爵にも声を掛ける。
こちらの意図に気づいたようだ。
「もしよければチアゼム侯爵も如何?」
「とても素晴らしい提案だ。
全力でニフェールの提案に協力しようと思う。
未だに戻ってきていない奴に少し思う所もあるしな」
あぁ、やっぱり。
恨みがたっぷりと溜まってらっしゃいますね。
僕は唇に人差し指を当て、扉の方にこっそり近づき……一気に扉を開ける!
こっそり盗み聞きしていたジャーヴィン侯爵が、予想通り転げ出て来た。
「やぁ、ジャーヴィン侯爵。
こんなところで何されてるのです?」
当社比150%UPのにこやかさで質問すると、なぜか怯えて後ずさりする。
そんな怯えないでくださいよ~。
別に取って食ったりは……しないと思いますから……多分。
「なんか怯えているようですが、書類持ってきたんでしょ?
席に戻って説明お願いしますよ。
いない間にジャーヴィン侯爵に確認すべき件が幾つか出てきたんですから」
「あ、ああ」
王家の二人以外の皆からの冷たい視線を浴びつつ自席に戻る侯爵。
……マーニ兄も思うところあったんだね。
「で、まず最初に僕の書類は?」
「これだ。
儂の分は書いてあるので、他の方々のサインをお願いする」
陛下、王妃様、チアゼム侯爵の順でサインをして頂いたものを受領する。
「とりあえず、これでいいですね。
あ、学園が『信じられない!』とか言い出したら王宮に確認しろと伝えます。
なので、その時には追いつめてあげてください」
偉い人四人ともイイ笑顔でうなずいてくれる。
いや、何もなきゃいいんだけどね……。
「次に本拠地に連れて行く騎士の中に一時的に領主となる方がおられると聞いてます。
その方って裁判とか対応できますか?
金銭で済ませる予定の罪人について対応できればと思ったのですが」
「すまん、それは無理だ。
可能な限り領主が出来そうな者を選んだつもりだが、本格的な領主としての行動はとれん。
どうやっても一時的な引継ぎ担当でしかないのだ」
あぁ、やっぱりそうですか。
「では、裁判はサバラ殿にやって頂きましょう。
で、マーニ兄と僕が補佐と言うことで。
チアゼム侯爵、サバラ殿への説明はお願いします」
チアゼム侯爵とマーニ兄を見ると、頷いてくれる。
「最後に、うちの四人に武器を供与して頂きたいのですが、投げナイフってあります?」
「ん~、騎士団として使う者が少なすぎる。
それ故、予備として残してある分も僅かしかないからなぁ。
むしろ街で買った方が早いな。
どれくらい必要なんだ?」
チラッと使用する面々を見ると、三人で指折り数え始めた。
一通り検討したところで代表してカルが答える。
「予備含めて一人三十本、合計九十本かな」
「それだけの量を売ってくれそうな店に心当たりは?」
「一応、前のギルドで購入するときに利用していた店がある。
ただ、足りるか分からないから幾つか知っている店を回るしかないな」
……それって駄目じゃね?
犯罪者ギルド共から監視されそうな気がするんだが?
「カルが店を回ったら目立つんじゃないのか?
他のギルドがお前らをつけ回すのを懸念しているのだが?」
「あ……」
「カリムとナットは有名なのか?」
「俺ほどじゃないが、それなりに。
若手のホープって感じだな」
さて、困ったな。
「確認だが、カルの伝手のある店って騎士とかが行ってもおかしくない店?」
「まぁ、表向きは普通の武器防具屋だからなぁ」
「騎士の人に皆の持っている投げナイフ渡して、『これと同じのくれ』ではダメ?」
「……まぁ、それなら俺たちの顔は見えないから安全だろう」
んじゃ、それでいこうか。
「カル、その店のある場所をマーニ兄に教えて。
それと投げナイフ一本渡して」
「おう」
「マーニ兄は明日指定された店に行って渡されたナイフを見せて、同じものを用意してもらって欲しい。
金はそっちで支払って、王宮に持ってくるのもそっちで。
明日は放課後に四人とラーミルさんと僕で王宮に向かうんで、その時に渡してもらいたい」
これでカル達が目立つことは無いだろう。
「部下にやらせればいいんだよな?」
「当然!
マーニ兄自体が動く必要は無いよ。
ただ、夕方までに九十本集められればそれでいい」
「分かった、俺の部下に指示しておくから地図とナイフよこせ」
カルが地図を書き、カリムがマーニ兄にナイフ一本渡す。
「ちなみに、その店ってなんて店なの?」
「特に店の名は無いんだよなぁ。
ただ、マギーさんの頃の人が廃業後にやっている店なんだ」
あ、そういう関係か。
「カルの味方と思っていいか?」
「敵対はしてないな。
後輩を見守る引退者って感じだな」
ふむ、この件が終わったらちょっと顔繫ぎしてみるかな。
暗殺者でも迷惑に思わない人物なら伝手作っといた方がよさそうな気がする。
「ちなみに、この人は商業ギルドか生産ギルドに入っている?」
「そうだな。
商業ギルド兼暗殺者ギルド専属武器屋って感じだった。
ちなみに武器を作っているわけでは無く、作っている奴から買ったものを店で売っている感じだ」
「あぁ、作り手と買い手を繋ぐ感じの店か」
問屋とかそんな感じかな?




