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「これで終わりかな?
では解散としようか」
「あ、すいません。
ちょっと別件でお話あります。
両侯爵、ラクナ殿、マーニ兄、うちの四名は参加して。
陛下や王妃様は……お好みで。
チアゼム侯爵、適当な場所ってあります?」
チラッと見ると、頷くチアゼム侯爵。
多分内容も推測ついているのでしょう。
「ああ、すぐに準備はできる。
陛下、王妃様。
参加なさいますか?」
「あぁ、見学させてもらおうか」
……王妃様が答えるんですね。
陛下、まだ風景一体化能力使用中?
指定メンバーと共に別室に移動し、各自席についたようなので説明を始める。
「あっちで言えなかった部分の確認のために集合いただきました。
ついでに少し紹介も含めて……カル、ルーシー、カリム、ナット。
前のギルドの立場について自己紹介よろしく」
「うえっ?
ちょっと待って、陛下だよ?
そんな人の前で言うの?」
ナット、当人の目の前でその発言は無いぞ?
「君たちを生かし、ギルドを復活させるのに陛下たちに許可を頂いたの忘れたの?
君たちも状況によっては陛下たちの命の元動く可能性はゼロではないんだよ?
別に諂えとは言わんけど、自己紹介位はしなよ」
ん~、まだ怯えてるのかな?
「自己紹介でギロチンにはならないから。
第一、そのレベルで怒る人だったら僕は何度死んでると思うの?」
……ねぇ、君たち?
その納得した表情腹立たしいんだけど?
なにあっさり自己紹介してんの?
当人たちがちゃんと自己紹介したのだから、これ以上文句言うのも憚られるんだけど。
腹立つなぁ。
「元暗殺者ギルドの面々の自己紹介させたのは、この後の会話がそちらの方に関わるからです。
四人とも……と言ってもメインはカルとルーシーかな。
アンドリエ家かダイナ家が王都の犯罪者関係のギルドと繋がりがあるか調べる方法はあるか?」
二人とも、悩んでいるな。
「まず、暗殺者ギルドとして繋がりがある可能性はあるか?」
「……当時の資料はディーマス家関連を除いて全て燃やしたので判断できない」
まぁ、そりゃ分からんわな。
「では、二人が覚えていて『特殊』だった依頼と言うのはあるか?」
「はぁ?」
あ~、分かりづらい質問だったか?
「ノヴェール家の親御さんは事故で死んだそうだ。
ただ、同時期にアンドリエ家の方も死んでいる。
ただの偶然か双方暗殺者を雇ったのかは分からない」
「まぁそうだな」
「だが、仮にノヴェール家が狙われ、かつ暗殺とは別に死んだとなれば?
記憶に居残る位、かなり『特殊』な例となるかと思ったのだが……」
とりあえずこちらの言いたいことは伝わった様だ。
「ふむ、『特殊』の意味は分かった。
で、何年前か分かるか?」
「ざっくりではあるけど十年近く前じゃないかな。
十年前、前後三年程度で考えて欲しい」
少し考えた後、カルがボソッと話し出した。
「昔過ぎるので記憶に自信が無いが、暗殺失敗の話を覚えている。
暗殺する前に死んじまったんで、その事実を伝えに行かせたな。
うちとしては失敗自体が珍しいので思い出せたよ。
ちなみに、依頼主は平民で家名は無くオラウスと名乗っていたな」
「その時の殺す相手は?
それと報告しに行ったところはどこだ?」
「すまない、相手も場所も思い出せない」
その後を受けて、ルーシーが補足する。
「補足だけど、報告しに行かせたところは今回の本拠地、スホルムだったわ。
暗殺できなかったからやむなく金掛けて報告しに行かせたの。
赤字とは言わないけど儲けは減ったからイライラしたのは覚えてるわ」
これ、大当たりじゃね?
「カリム、急ぎサバラ殿に連絡。
アンドリエ家が貴族であった頃の当主はオラウスって名前か確認。
結果を聞いて戻ってきてくれ」
「了解っ!」
これが当たりとなると、あちらは暗殺者ギルドに連絡とって……どうすんだ?
オルスの口封じ?
ノヴェール家壊滅させる?
どちらであっても潰すためにはどうしよう。
「……カル、以前の暗殺者ギルドに依頼する場合、どうやるんだ?」
「とある場所で合言葉を言うことが条件だ。
……話の流れから、その詳細を知りたいんだよな?」
「ん?
ああ、その通りだが?」
「教えるのは構わんが、その合言葉を作ったのはかなり前の、マギーさんより数代前の長だ。
そこは間違えないでくれ」
珍しく真顔で説明するが……よほど恥ずかしい合言葉なのか?
「あぁ、それは分かった。
で、合言葉は?」
「『クミスを一杯。それと鮑のソテー。デザートは桃を出してくれ』
これをダッシュの酒場で伝えると暗殺者ギルドへ案内される」
クミス?
鮑?
桃?
これに恥ずかしい要素ってドコ……?
チラッと周りを見ると、年上は皆分かっているようだ。
僕と同様に分かって無さそうなのがナットだけ?
「カル、詳細な説明求めていいか?
恥ずかしがる理由が分からない。
なんとなくだが、僕とナット以外の皆分かっているように見えるんだが?」
大人たちが互いに視線を送り合い、最終的にカルに全ての視線が集まる。
立場的にもお前しかいないよな。
「クミスは馬の乳からできる酒だ。
鮑は女性器の隠語。
桃は尻の隠語」
わざわざそんなのピックアップしたのかよ!
「つまり、母乳出る胸と女性器と尻を食事のシチュエーションに合わせて言わせたがってんだよ。
ちなみに、当時の長は結構なエロ親父だったらしい。
当時の側近はこの合言葉に反対だったと聞いてるぞ。
でも強引に通しちまったようだがな」
……マジデスカ?
チラッとナットを見てみると顔真っ赤にしている。
大人たちを見ると、生暖かい視線を多方面から飛ばしてくる。
仕方ないじゃないか!
僕はそっち方面の知識少ないんだよ!
僕も顔真っ赤にしながら視線を彷徨わせつつ話を続ける。
「仮に今この情報を知ってあの場所に行ってもダッシュの酒場は無いから連絡取れないよな?
ラクナ殿、あの店って最終的にどうなりました?」
「とりあえず死体の処分は終わらせた。
血塗れなのは貸主がどうにかするんじゃないのか?
修繕費を求めるべき相手が居ないんだからな」
その言葉と共にカル達を見るが、三人とも視線を逸らし始める。
「つまり、今のあの場所は空き部屋で血塗れの部分をどうにかしているかは貸主次第と?
ちなみに、改めて数日借りることできますかね?」
「そりゃ可能だろうが……国でか?」
僕が払うと、そして払えると思ってるんですか?
「そりゃ、僕が借りるなんて無理でしょ。
そんな金無いし。
犯罪者を捕まえるために協力してもらえないか相談してみてください」
「明後日には来る可能性があるから、明日中だよな?」
「ええ、ちなみに血塗れなら全力で洗い落とすのも追加です。
貸主が放置しているのなら、その分安く借りれないか交渉願います」
いや、流石にもう洗い落としていると思うけどね。
「とりあえずは分かった。
ちなみに、そこでダッシュ役は誰がやる?」
「騎士の方でどなたか演技うまそうな方にお願いします。
合言葉言ってきた奴の名と目的を確認して合致したら牢屋へご招待。
ちなみにカル、酒場ルートで依頼ってそんなに来るのか?」
ちょっと思い出すように視線を落としつつつぶやくカル。
「いんや、年に二回か三回か。
大半がディーマス家からだったから、ルートはあるけどほぼ使われてないな」
「なら別の依頼者が来る可能性はほぼ無いでしょ。
キッチリ来た奴を捕まえて情報引き出してください」
こちらの意図をキッチリ理解して笑顔を見せるラクナ殿。
微妙に八重歯が見えているのがとってもらぶりぃ。
そこにサバラ殿に確認していたカリムが戻ってきた。
「ニフェール様、先代アンドリエ家当主はオラウスで合っているそうです!」
おっ!
確定か!
「元暗殺者ギルドに依頼する可能性は高そうだね。
ラクナ殿、あとよろしくお願いします」
「承った。
こっちは気にせず準備を進めとけ。
何か情報得られたら教えに行く」
とりあえずはこれで話し合いは終わりかな。
「ふむ、終わりのようだな。
マーニ、ニフェール。
出発前にもう一度会おう。
それまでににそなたらの立場を明確にする書類を用意しておく」
王妃様がにこやかに終わりの宣言をしお帰りになられたが……立場を明確にする書類?
サバラ殿とマーニ兄と同様の権限を持たせる書類ってことかな?
まぁ、次回会ったときにもらえるのならそれでいいや。
「なぁ、ニフェール。
今の王妃様の言う書類って?」
「へ?
権限の話かと思ったのですが?」
チアゼム侯爵が不安げな表情をしているが……違うの?
「いや、お前の言う権限の話は儂とジャーヴィンで用意する。
なので、王妃様が書類を作る必要は一切ないはずなのだ。
となると、王妃様は何を用意するつもりなのだ?」
……何か滅茶苦茶怖いんですけど?!
そういや、妙ににこやかな表情だったな。
よっぽど楽しんだ?
それとも、この後滅茶苦茶楽しむ予定?
それと、マーニ兄と僕がピンポイントで言われた理由が思いつかない。
普通サバラ殿も一緒に声かけないか?
……もしかして武力で叩き潰してこいとか?
まさかね……まさかだよね?
「……ちょっと探り入れといてください。
有効利用できそうなのか、事前に知っときたいんで。
可能ならば陛下にお願いしてそっち経由で聞いてもらった方がいいかも」
「そうだな、我々が問うても教えてはくださらんだろう。
なら陛下に頼むべきだな」
……侯爵たちも王妃様に直接物申すの嫌なんじゃねえの?
なぜか陛下に頼むことに決めた途端安堵の表情見せたし。
「そう言えば、一つ聞きたかったんですが、王妃様がなんかテンション高くないです?
僕が王妃様の傍付になるの断ってあの反応は正直怖いんですが?」
「確かに、最近楽しそうな雰囲気が感じられることが多いな。
ジャーヴィン、何時頃からだったか覚えているか?」
「……ここ最近、結婚式の後であることは確かだ。
お前らが領地に戻っている頃には確実にあのウキウキ感を出していたな」
となると、その間に誰かが王妃様に楽しそうなネタを呟いた……と。
それに、あの反応は僕を狙っているようにしか思えない。
そんなことやらかす人は……カールラ姉様は結婚式で大忙し。
ロッティ姉様は王妃様との接点はそこまでは無いはず。
……一人いた。
あの人だとすれば……面倒事が確定してしまう?
「チアゼム侯爵、すいませんが確認をお願いしたいです。
王妃様に謁見、もしくはちょっと会いに来たか手紙を送った人物って調べられます?
該当期間内でいいです」
「可能ではあるが、調べるのは誰だ?」
「パァン・ナーナル。
学園の礼儀作法担当教師であり、多分学園最年長の先生」
……ねぇ、両侯爵が同時に引き攣った表情見せるのはなんで?
「ニフェール、アレの名を出す理由を聞いても良いか?」
アレって……。
現在パァン先生に女装の訓練を施していただいている事。
そしてジル嬢が僕をライバル宣言したことを教えた。
……流石にフェーリオが僕に堕ちたことは伝えてない。
「……ジルから何も聞いてないんだが?
……ライバル宣言も初めて聞いたんだが?」
まぁそうでしょうね。
「まず、奥様方に聞こえたら何されるか分かったもんじゃないので、止めてもらってます。
ライバル宣言については、今の淑女科の学生でライバル視できる人がいないみたいで……。
まぁ、僕やフェーリオもそれぞれの科でライバル視できそうな人物がいないので、気持ちがわかってしまうんですよね」
二位と平均点ニ十点くらい差があるからねぇ。
「ちなみに、ニフェールレベルと言うのは筆記だけか?」
「他の女生徒と比較して、ダンスは確定で僕の方が上みたいですね。
化粧は……よくなっているようですので、もしかすると大半よりは上かも。
後は……刺繍でしょうか。
こちらもそれなりに評価されました」
「あぁ……やっぱり」
チアゼム侯爵、なぜ納得する?
「まぁ、ジル嬢が満足できるほど張り合える相手が見つからない以上、ライバル視は時間の問題だったのではないかと。
ただ、そこから王妃様に繋がる理由が正直ピンと来なくて……」
「ニフェールの女装を見るだけで納得しそうな気がするんだがなぁ」
ジャーヴィン侯爵、パァン先生が関わっていること忘れてませんか?
「その程度なら……いや良くはないんですが、影響はたいしてないんです。
ただ、パァン先生と王妃様が同時に関わると僕の想像を軽く超えてきそうで怖いんですよね。
どれだけ面倒なイベントがやってくるのか想像できないと対処策も考えられませんし」
両侯爵も思いつかないようだ。
まぁ、常識的な行動を取るとは一切思えないしな。
「先ほどの王妃様の書類ネタと並行して情報仕入れて頂けますか?
多分ジル嬢とフェーリオが巻き込まれるのは確定だと思います。
ですが、それ以外に何が起こるのか対応できるようにしておきたいので」
「分かった。
とはいえ、対処策考えるのも無駄な気がするがな」
「なぜ?」
「あちらが王妃権限で命ずればいい話だからだ」
あぁ、そういえばそうだ。
その権限出されるとお手上げだ。
その後、会話を終わらせ仕事場に戻る。
と言っても僕たちは今日十分働いたし、残りの調査は明日にしよう。
【アンドリエ家】
・オラウス・アンドリエ:アンドリエ家当主。
→ ノーベルの父方の先祖、オラウス・ルドベックから
【アンドリエ家本拠地】
・スホルム
→ ス (トック) ホルム
ノーベルの生誕地




