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◇◇◇◇
ニフェールが捕らわれの身(絶対お姫様とは言わねぇ!)になって次の朝。
連絡が来ないということはまだ任意同行と言う名の連れ去りのままか。
一応昨日のうちに父上には報告している。
だが、理由もなく衛兵側を追及しても反抗されるだけだろう。
知らない者からすれば「正しく仕事しただけなのに!」と憤慨するだろうしな。
「フェーリオ」
学園に向かおうとしたところで父上から呼び止められる。
「ニフェールからの連絡は無いんだな?」
「はい」
まだ解放されないのだろう。
となると、監禁に近い状態なのか?
「そうか、であれば今日くらいに何か動きがあるだろう。
学園の動向に注意しておけ」
「それは人質として金銭要求とか?」
「いや、誰に要求するのだ?」
呆れられてしまった……。
「そうではない。
ニフェールがいないことで得をする者たち。。
そしてニフェールに汚点をつけたい者たちが動くだろう。
だからちゃんと確認しとけということだ。
推測通りなら任意同行を犯罪者として捕まったと言い出すのではないかな?」
は?
そんな愚かな言い回しする?
「いや、流石にそのようなことは……」
「自分が有利になった時、自制できない奴はかなりいるものだ。
そして、そういうときほど口が軽くなる。
そんな奴らがニフェールに目をかけていたお前に嘲笑する可能性が高い」
あぁ、お調子者がやらかす、か。
数人心当たりがあるな。
皆取り巻きから切った面々だが。
「思い当たるようだな。
そいつらがちょっかい掛けてくるだろう。
ちゃんと把握しておけ」
首肯すると父上は王宮に向かった。
さて、俺も学園に向かおうか。
学園に到着し庶務課に向かいニフェールが休むことを伝える。
側近たちを集めニフェールに起こったことを説明。
そしてこの後起こる可能性のある内容もだな。
まぁ、一部はデート監視に付き合わせたから知っているんだけどな。
「正直何が起こるか分からないし、何もしてこないかもしれない。
ただ、気づいたことがあったら教えて欲しい」
朝になっても解放されない時点でおかしいというのは認識できているようだ。
皆、警戒を強める。
敵が誰だか分からない以上、自分たち以外皆敵のつもりで疑うしかない。
説明終えた頃にジルが側近を引き連れてやってきてくれた。
同じ説明をすると、全力で協力すると言ってくれた。
……言ってくれたのはうれしいのだが妙に力が入っているのが気になる。
「なぁジル、そっちの側近たちは何であんなに力入っているんだ?」
「今回のきっかけとなった元セリン家のグリース嬢のこと。
覚えてらっしゃいます?」
「名前くらいは……」
「あの子が伯爵家令嬢だったので注意しずらい雰囲気があったのですよ。
私の方で注意はしていたのですが、あまり効果が無かったようで」
あの子は注意してもその理由が理解できないんじゃないの?
「効果が無いというより、理解できなかったようだけど?」
「その可能性はありますわね。
それも、あのドタバタ劇のおかげで分かったのですけれど。
そんな訳でうちの下位貴族の寄り子たちからニフェール様はとても高評価。
あのグリース嬢をキッチリシメたのですから」
シメたって……一応淑女だろ、言い方!
「それと、ラーミルとの逢瀬を知って……」
「ちょっと待て!
なぜそこまで知っている?
いや、あの時一緒に来た側近たちは知っているかもしれない!
だが全員じゃないだろう?」
「淑女たちの情報網を甘く見てはいけませんわよ。
ラーミルのどう見ても交際経験ほぼゼロな行動。
ニフェール様の同様に交際経験ゼロだけどできる限りのことを努力する姿勢。
淑女たちは全力で応援するつもりでおりますわよ。
まぁ、美味しいネタになりそうなのも否定しませんが」
……ニフェール、ゴメン。
ジルを止められなかったよ。
そして昼休み、学園の食堂で事態は動いた。
「おやおや、フェーリオ様、お久しぶりですねぇ!」
レストがニヤニヤしながら近寄って来た。
お前、呼んで無いのに何で来る?
わざわざ「自分、怪しい者です」と名乗っているようなものだぞ?
「あれ、ニフェールどうしたんですか?
いつもならべったり傍についているのに?」
「あぁ、見当たらないねぇ。
まぁ彼も色々あったから休みなんじゃない?」
「あいつが休みです?
ありえないですよ」
トリス、その根拠は?
「あ、俺見舞いに行こうかな」
カルディア、善意で言ってるのか?
ニフェールがいないことの確認か?
「行っても無駄だぞ、カルディア。
俺の情報ではニフェールは今衛兵に捕まっているからなぁ!」
ザ ワ ザ ワ ッ !
いやぁ、わざわざ言ってくれて助かるよ、レスト。
チラッと周囲に視線を送り、側近たちが逃げ道を塞がせる。
「俺の親父が王都の衛兵の指揮を取っているんですよ。
で、昨日ニフェールが任意同行されたって聞いたっす。
あいつの事だからまた噛み付いたんじゃねぇの?
なんせ【狂犬】だし!」
「あー、あいつならやりそう」
「えー、見舞い行こうとしたのにいないの?
寂しいなぁ~」
トリス、お前はレストと一緒に終わらせてやるよ。
カルディア、お前本当にどっちなんだ?
お前だけは本当に分からん……。
まぁ、レストが言った以上は一緒に責任取ってもらおうか。
「レスト、お前の父親がニフェールが任意同行されたことを言ったのか?」
睨みつけつつ質問する。
一瞬ビクッとするがまたニヤニヤした顔に戻してレストが答える。
「ええ、親父からちゃんと聞きました!」
「誰かを任意同行を求めたなんてことを漏らしてはいけない。
本当に犯罪を犯したことが確定したならともかく、任意同行では犯罪ではない。
お前の父親は職務に違反しているな」
「え?」
「お前の父親は国の法に違反したと言っているのだよ。
ジャーヴィン侯爵家として見過ごせない発言だ」
側近たちに合図し、一人は学園の教師たちに連絡、他は三人を包囲する。
レストもトリスも大慌てだが、カルディアはのほほんとしている。
……もしかすると、カルディアだけは生き延びるかもな。
側近が呼んできた教師に今のレストの発言を説明し、国へ通報するよう願う。
教師も法に違反していることは理解できてるようで大急ぎで動き始める。
レストとトリスは「俺は悪くない!」「無実だ!」と騒いでいる。
だが、今更なんだよなぁ。
そんな中急ぎで衛兵たちがやって来た。
……あれ?
先日のニフェール呼びに来た衛兵じゃね?
「失礼、衛兵関係者が情報の漏洩をしたとの連絡を受けたのですが?」
「ジャーヴィン侯爵家三男フェーリオと言います。
そちらのレスト・アンジーナ。
彼の父親が衛兵の関係者でエフォット・アンジーナ子爵となります。
その子爵がそこのレストに任意同行の情報を漏らしたようです。
ジーピン男爵家子息ニフェールの情報を声高らかに騒いでおりました」
「確かに漏洩ですね……って、フェーリオ様でしたか?
もしかして昨日……」
「ええ、ニフェールが任意同行を求められた際にその場にいたものです。
ちなみに、まだ任意同行から解放されていないようですね?
なので、なぜこの者たちが悪意ある情報漏洩を行っているのか。
そして任意同行なのに徹夜で対応させる理由を調査頂きたい」
「かしこまりました」
面倒そうではあるな。
少しやる気を出させてみようか。
「なお、元セリン伯の件で呼ばれたのは存じておりますが……。
何故か寄り親であるチアゼム家に問わないのか。
そして、元令嬢が移された修道院に確認しないのか疑問です」
衛兵二人は困惑の表情を浮かべる。
「そんなの俺たちゃ知らねぇよ!」ってところだろう。
気持ちは分かる。
「あぁ、あなた方が分かるとは思っておりません。
多分指示出した者がそこまで情報をよこさなかったのでしょう」
二人そろって頷きだす。
面倒事に巻き込まれたくはないだろうからなぁ。
「多分お二人は今回の情報漏洩に関わってはいないと思います。
ですが我がジャーヴィン侯爵家では、この件は重大な問題と見ております。
また、チアゼム家でも同様に不快感を表明されております」
おーおー、ビクついているなぁ。
両侯爵家が動きそうと分かったら上司なんぞさっさと切るのだろう?
巻き込まれたくないだろうしな。
さて、このままだと巻き込まれて君らもどうなるか分からないよ?
上司ちゃんと告発しろよ?
「両侯爵家ともこの件で動くつもりです。
ですが、衛兵の皆さんの自浄能力に期待したいところもあります。
どうかこの問題を解決願えますか?」
侯爵家子息らしく真面目な顔。
ただし、言ってることはただの脅し。
そんな貴族の対平民基本的交渉術を使う。
二人とも事態を理解しているのか全力で協力することを約束してくれた。
やはり権力……!!
権力は全てを解決する……!!
レスト&トリスが顔真っ青になっているが、まあ気にすることは無かろう。
まぁじっくり白状してくれ。
後は食堂の者たちを味方にしてっと。
「ああ、皆さん突然騒がしくして申し訳ない。
先程アンジーナ子爵子息が騒いでいたジーピン男爵子息が任意同行された件。
実際に任意同行を求められた。
だが、内容は元セリン伯の売爵についてと聞いている」
「え?」という者たちと「やっぱり」という者たち。
ニフェールを信じられない前者は関わるべきではなさそうだな。
周りを見れてない者は不要だ。
「あの件はご存じの方もいると思うが……。
元セリン伯令嬢の勘違いと暴走が主な原因なのだ。
そして、ジーピン男爵子息は被害者である。
被害者である男爵子息を侮辱する行動だったので少々口出しさせていただいた」
一部の者からは疑問や否定の声が聞こえる。
「うっそだろ?」とか?
「【狂犬】のやらかしじゃなかったの?」とか?
情報収集できてないなぁ、こいつら。
「特に実際被害にあったジーピン男爵子息の弟君はまだ十歳。
このような誤った情報で若き少年の未来を潰す。
そんなことは年上のものとして、そして貴族としても許すわけにはいかない。
どうか皆も自らに恥じることのない行動を求めたい」
これだけ言えば流石に分かるだろう。
そして、これだけ言っても分からないのなら学園で学ばせる必要も無かろう。
数名、ジルを含めた高位貴族の者たちを見回すと皆首肯してくれた。
……もしかして皆、面倒な部下に困っていたのか?
大体期待通りの反応で食堂も落ち着いてくれたので急ぎ父上に情報を渡そうか。
後は大人の世界の話になりそうだ。