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その後、会議は終了となり各ギルドは自分たちの本部に向かい、僕たちは色々と繁華街をウロチョロしている。
「追ってきてるねぇ。
どこのギルドだろ?」
「すぐ動けるとしたら娼館ギルドだし、他もこちらを監視する可能性は十分にあるしな」
全く仕事熱心なんだから。
「……カリム、ナット。
最初にお前らに会った時の場所覚えてるか?
僕の目の前で禿が人殺した時の場所」
「あぁ、分かるが?」
「あの時の場所を通って撒こうかなって思うんだけど」
「分かった、こっち」
道案内を任せて初めて顔合わせたときの場所に向かう。
当時の暗さは変わらず、でも人気は当時より無くなっていた。
監視役もいなくなっているな。
薬製造していた奴らが消えたからか?
「ここからどうやって撒くつもり?」
「その前にルーシー、屋根の上に上がるとか、屋根と屋根の間を飛び越えるとかって……」
「できるわけないでしょ!」
「ではカル、ルーシーを担ぐなり抱っこするなりして飛び越えるとかできる?」
「……一人ならともかく抱っこしては無理だな」
「……ねぇ、それってまさか――」
「体重じゃないからな?!」
ルーシー、あんまりトゲトゲしくなるな。
「仕方ない、僕が運ぶよ。
カリム、お前らが屋根登ったところって覚えてる?」
「大体は」
「なら案内頼む。
ルーシーはお姫様抱っこするからこっちこい」
「……変なことしたらラーミル様に報告するからね?」
「変なことしなくても、ラーミルさんには僕から報告するけどね」
「へっ?」
「拗ねられるのは嫌だから、正直に報告する。
かつ、同じようにお姫様抱っこして不満解消してもらう」
何だよ、その「何このバカップル」的な視線は?
「そこまでするの?」
「これが実績ある対処方法だからだよ」
「……誰をお姫様抱っこしたの?」
「ベル兄様」
ブ フ ォ ッ !
「拗ねられたので早速お姫様抱っこしてキスしたけど?」
「……苦労しているのね」
正直に答える代わりに視線を逸らしつつお姫様抱っこする。
ラーミルさんより……いや、止めておこう。
僕も命は惜しい。
「さてカリム、案内を」
「了解」
急ぎ進み屋根に登れそうな場所に連れて行ってもらった。
「この後は僕についてきて」
先頭を代わり、過去に使ったルートを思い出しながら進んでいく。
屋根から降り、細い道を通り、壁に板がハメられている場所がある。
ルーシーを降ろし、各自に鎮まるように言い、耳をすます。
特にイタしている音は聞こえないので、さっさと板を外し入り込む。
「なぁ、ニフェール様。
ここどこだよ?」
「お前さんたちがスカイストリートと呼称してるとこ」
ブ フ ォ ッ !
「以前薬物の件で偵察した時にこのルート使ったんだ。
ここから出るルートも覚えているからついてきて」
後ろから「ニフェール様、心が汚れてる」とか、「ラーミル様とこういう所に」とか聞こえる。
大きすぎる勘違いだからね?!
出入り口の直前で止まり、各自に指示を出す。
「カル、ルーシーと一緒に出て、右に曲がってまっすぐ進んで。
カリム、ナットは少し遅れて同じように進んだ上でカル達に合流。
そのまま、僕と最初にまともに会話した公園覚えてるか?」
「あぁ、串焼きいっぱい奢ってくれたとこだな?」
あれは、お前の喰い過ぎだと思うんだが……。
都合の良いように記憶改竄するんじゃねえよ!
「あの場所で待っててくれ。
僕も別ルートからあの公園に向かう」
「何で?
一緒に行けばいいんじゃない?」
ナット、まさかこの場所がどこか理解してないのか?
「ナットはカリムと僕と三人プレイをしたと見られたいのか?」
ブ フ ォ ッ !
ナット、顔真っ赤。
カル、笑いたいんだろうが、ちょっと我慢してくれ。
大声は不味い。
「ここから出るのは基本男女一名ずつだ。
それなのに男二女一なんて目立ちすぎて仕方ない。
なので、僕は別ルートで移動する。
分かった?」
顔真っ赤にして頷くナット。
カリムにナットを任せ、各自移動再開する。
僕は元来た道を戻り、抜け道を通って入口に近づく。
特に気配も無いので急ぎ抜け出し公園に向かう。
……誰かあそこに見張りを置くと思ったんだけどなぁ。
サボリか?
公園に到着すると、カル達も到着していた。
「お待たせ」
「いや、全然待ってねぇよ。
どうやってここまで来たんだ?」
「僕たちが入った所から出たんだよ。
あそこに見張り立てているかと思ったら全く監視されてないし、実際拍子抜けだった」
「監視役いたらどうするつもりだったんだ?」
「消すけど?」
あっさり答えると、何故かカルが慌てている。
むしろ、消さない選択肢無いだろ?
「まぁ、全員揃ったし帰りましょうか」
のんびりノヴェール家に向かうと、ラーミルさんと両侯爵、そしてマーニ兄までいた。
マーニ兄、オルス運んだ後戻ってきたんだ。
「おぅお疲れ。
会議の説明は可能か?」
「化粧落としてからでもいいですか?」
許可をもらい、ラーミルさんの寝室で化粧落としをしてもらう。
そこで、ルーシーをお姫様抱っこしたことを正直に報告。
お怒りを鎮めるためにお姫様抱っこ&キスをして許しを得た。
何と言うか、キスするための言い訳になっているよなぁ……。
まぁ、個人的には得してるからいいんだけど。
その後会議室に集合して会議の状況を一通り説明する。
「驚いているのは演技とかじゃないんだな?」
「何とも言えませんね、僕じゃ見極められるとは思えませんし。
ただ、説明中の反応は嘘ではないかと思いました」
あれで嘘だったらなかなかの演技派だと。
「かなり想定外のことが起きたというように感じました。
ほら、僕たちも大暴れしちゃたし」
「あれを『大暴れ』の一言でまとめるのがジーピン家らしいよ」
ジャーヴィン侯爵、そんな呆れないでくださいよ。
「ディーマス家関連で不味い状態なのは強盗ギルドだけか?」
「そんな感じを受けました。
正直、娼館・商業・生産は少し赤字になってもダメージは少ないでしょう。
詐欺師ギルドも目立つほどの赤字にはならないかと。
ですが、暗殺者と強盗はある意味ディーマス家の手下のような感じだったのではないかと。
そうなると、当然依頼が減るし収入も減るでしょうね」
チアゼム侯爵が考えながらつぶやくように聞いてくる。
「そいつらが金無くなったらどうなると思う?」
「ありそうなのが金稼ぎにそこかしこの商会や屋敷を襲撃する。
一応会議に影響を及ぼさない範囲でね」
まぁ、このパターンは無いだろう。
条件に該当する店なんて僅かだろうから金にならないしね。
「後は分裂して、いくつかの犯罪者ギルドに纏まる。
それと……最悪は会議なんてどうでもいいとばかりにルール無視で暴れまわる。
この場合一番被害に遭うのは商業ギルドかなぁ。
金あるくせに守りは弱そうだから」
「娼館は?」
「一緒に来ていた護衛はラクナ殿レベルの強さに見えましたよ?」
「生産は?」
「確かにこっちも狙い目でしょうけど、金で言えば商業ギルド一択かなと。
感覚的にそう思っただけですけどね」
何となく生産ギルドは商業ギルドよりは金無さそうだったんだよね。
たいして差は無いのかもしれないけど。
「ふむ、最悪への対処だけは検討しないといけないな」
ジャーヴィン侯爵がボソッと言うが、僕はハタと気づいてしまった。
一番ヤバいパターンってルール無視パターンだけじゃないじゃん!
「ごめん侯爵、もっと最悪なのがあった!」
「……なんだ?」
「僕が本拠地に殴り込みに行っている最中に先ほどの最悪条件が重なること!
犯罪者側でもカル達がいない状態だから強盗ギルドを止める力はほぼ無い!
マーニ兄も連れて行くつもりだったから、王都で暴走止めれる人っていないんじゃない?」
愕然とする両侯爵。
え……マジで止めれる人いないの?
「ラクナは置いて行くんだよな?」
「その予定。
でもラクナ殿レベルの人ってそんなにいるの?
一人じゃ手が回らないと思うけど?」
沈黙するジャーヴィン侯爵。
手持ちの騎士たちを考えているんだろうけど、多分足りないんだろうなぁ。
その時、マーニ兄が素晴らしい発言をしてきた。
「手駒ということなら、一応いるんじゃないですか?
王宮で兵站担当にして燻ぶらせてる人たち。
その中には当時の成績上位者がそれなりにいると思ったんですが?」
あぁ、以前似たような話をしたね。
「一時的に現場で働かせるってこと?」
「そうだ。
どうせ燻ぶらせているのならこういう時に使えばいい。
ただ、その前に軽く今の騎士たちと手合わせさせた方がいいけどな」
「あぁ、『兵站やってたくせに現場なんてできるのか?』とか言いそう」
「大体合ってる。
なので、事前に叩きのめさせておいて、上下関係思い出させておく。
必要があれば一時的に兵站から現場に戻す。
そして暴動を止めるための現場指揮官として暴れさせるって感じかな」
マーニ兄、どうしたの?
凄い頭の冴えだけど?
変なものでも食べたの?
「マーニ、いい案だ。
すぐにでも使わせてもらおう。
チアゼム、ニフェール達を行かせるのはまだ先だな?」
「先日の辞職騒動のお陰で一週間は動けんよ」
「なら十分だ。
今まで我慢してもらっていた兵站部署の面々に暴れるチャンスを用意しよう!」
……ジャーヴィン侯爵、ウキウキですね。
「ちなみにニフェール。
本拠地襲撃時にマーニを外すという選択肢は?」
「正直難しいかと。
理由としては、本拠地を治める貴族とアンドリエ家が何処までべったりか分かりません。
最悪、両方同時に潰さなければいけないとなると僕一人では到底手が回りません。
それに加え、どちらかを取り逃がす可能性もあるので……」
王都でできる限りの準備を整えるつもりだけど、手が回らない可能性は高いんだよなぁ……。
最低二方面作戦取れる状況じゃないとまずい。
それも、もう一方が動き出す前に潰せるだけの戦力も必要。
となると、マーニ兄連れて行くのは必須だね。
「とりあえず一週間様子見か?」
「ですね、個人的にはマーニ兄と僕がいるときに暴走してくれれば協力しますけど」
「その時はすぐに学園に依頼する」
まぁ、発生しなければ一番いいんですけど……。
「こんなところか?」
「ん~、一つルーシーに質問。
先程の集まりって、元々のきっかけは何だろう?
商業・生産・娼館の各ギルドが詐欺師・強盗・暗殺者の各ギルドを抑え込もうとしてる?
何となく、前者が後者を手駒にするつもりでやってるのかって思ったんだけど?」
「……また答えづらい質問するわね。
でもその可能性はあると思うわよ」
やっぱりそうなんだ。
「もしかして暗殺者ギルドが自立しようとしたら嫌がられるって感じ?」
「むしろ自立するのなら単純に商売相手になるだけじゃない?
まぁ、あの三ギルドから殺しの依頼なんて極僅かだしねぇ。
それもターゲットは王都でのそれぞれのギルドの流儀に反した奴らだったからねぇ」
まぁ、殺すより金奪って実力差を見せつける方があの三ギルドらしいか。
「だいたいこれくらいかな。
では明日から四名は王宮での仕事を頼む。
初日は儂がついて行くが、二日目以降は自分たちで頼む。
ニフェールは学園終了後、王宮に来てくれ。
後、明日本拠地から荷物が来るんだったな。
朝一から門に人を張り付けておくのと、派遣要員はマーニを予定している」
チアゼム侯爵の方針整理を聞き、一通り漏れの無いこと確認して解散となる。
チアゼム侯爵と四人組はチアゼム家へ。
マーニ兄とジャーヴィン侯爵はそれぞれ自分の家に戻っていった。
僕もラーミルさんから学園への手紙を改めて貰い、寮に戻る。
文官科試験にベル兄様とティアーニ先生との顔合わせ、ギルドとの会議とやること目白押しで疲れた……。
今日は自主勉強もしない!
家への手紙は……無理、眠い!
明日だ、明日!
書き溜めが無くなったので少しお休みいただきます。
9/16(月)から再開予定です。
詳細な説明はいつも通りこの後投稿する活動報告に記載します。




