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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
7:義兄救援
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「大きく分けて六つ。

 まずは先程も言った娼館ギルド。

 王都最大のギルドであり、ある意味王都のギルドの本体と言ってもいい。

 今の長は【妖魔】ピロヘース」



「【妖魔】?」

「年齢が分からねぇんだよ。

 見た目だけなら四十くらいか?

 だが、以前聞いたところでは……。

 他のギルドの長も自分たちが長になった時点でピロヘースが長やってたって聞いたな。

 ちなみに現在二番目に長く(おさ)をやっている奴が三十年超えてる」



 ……年齢不詳、どころか実年齢七十とか八十でも驚かないって感じか?

 確かにそりゃ【妖魔】だわ。



「二つ目は詐欺師ギルド。

 前のうち並みの人数なんである意味少数精鋭だな。

 やってることは頭使って騙すタイプの犯罪者の集まり。

 今の長はダメンシャ」


「あれ、こいつはあだ名付いてないの?」

「あだ名付いているのは【妖魔】だけだ。

 あそこまでぶっ飛んだ奴は他にはいねぇ」


「え、でも、カルって【アサシンズ・マスター】とかいうこっぱずかしい名前付いてなかった?」




 ブ フ ォ ッ !




 侯爵様方、遠慮なく笑ってください。

 初めて聞いたとき僕も滅茶苦茶笑いたかったです。



「あれはダメンシャの配下たちが適当につけた奴だよ。

 ダメンシャ自体は気にしてないんだが、配下共が【妖魔】みたいに全ての長に二つ名付けちまえって暴走してな……」

「ん~っと、僕よりすこし若い子供たちが『自分の考えたカッコイイ二つ名』を広める感じ?」


「大体合ってる。

 ダメンシャも恥ずかしすぎて困っているようだ。

 だが、このテンションを下げる発言もし辛くて、他ギルドの長に聞き流してやって欲しいと頭下げてな……。

 皆憐れんでスルーしている」




 ……ダメンシャ、苦労人なのはよく分かった。

 ラクナ殿辺りが仲良くなりそう……。




「……つづけるぞ?

 三つ目は強盗ギルド。

 このギルドの範囲は広すぎてな。

 強盗恐喝なんでもござれなんだが……」



 犯罪の何でも屋って感じ?



「簡単に言うと、詐欺師ギルドと暗殺者ギルド以外の仕事は全てここ。

 つまり、頭使って騙すのはやらない。

 殺しもやらない。

 まぁ、偶然殺してしまったとかはあり得るんだがな。

 唯々脅して殴って盗み取る。

 今の長はザイディ」


「今の話聞く限り、人数だけなら娼館ギルドに匹敵する?」

「そこまではいかないんだよなぁ。

 スリとかかっぱらいとかも入るんだけど、すぐに消えるから……」


「……捕まるってこと?」

「いや、かっぱらった後に盗んだものの内部で奪い合った挙句殺し合うから」




 オ イ ッ !




「ちょっと待って、殺しはやらないって……」

「外部への殺しはやらないけど、内部では血塗れな状態だよ」




 内部が地獄じゃねえの?




「四つ目は生産ギルド。

 と言っても別にこいつらは犯罪を犯しているわけでは無い。

 うちら犯罪者にも作った物を売る者たちという意味だ。

 店によっては関わって欲しくない店もあるからな。

 そこを切り分けるために参加している」



 表と裏の違いがよく分からないな……。



「なお、表・裏問わず生産ギルドに加入しておけば、強盗ギルドからの攻撃対象から外れる。

 なので、表側の生産ギルドには皆所属するようになったと聞いている。

 ついでに危険な物作って金稼ぎしたい奴が裏にも関わるって感じかな。

 所属してない奴は……まぁ強盗ギルドにボコられてるな。

 今の長はシロス。

 ちなみに先ほど話題になった二番目に長く長やっているのがこいつ



 うわぁ……もしかして衛兵が信用できないから犯罪者側と繋がり持って身を守ってるとか?

 両侯爵もほぼ同じ思考にたどり着いたようだ。

 顔真っ青なんだけど?



「五つ目は商業ギルド。

 何となく気付いているかと思うが、生産ギルドと同じ理由で参加している。

 今の長はリシアシス」


「ん?

 あれ、以前領地に来たシーカム兄弟ってもしかしてこっちにも所属している?」


「大当たりだ

 詐欺師ギルドの奴がたまに商人ギルドにも所属する場合がある。

 シーカム兄弟はその典型だ」



 なんだろうこれ、国が舐められてるのか、国に期待できないのか?

 ……どっちもなのかなぁ。



「そんで、六つ目がうちら暗殺者ギルド。

 うちだけは殺すこと前提の仕事しか受けない。

 なので殺す必要が無い犯罪は強盗ギルドへ。

 また、殺すのと同時に何か盗んて来てくれと言う依頼もある。

 その場合は内容次第だけど強盗ギルドとの共同戦線を取ることもある」


「あれ?

 捕まった誘拐犯に禿が薬を飲ませたのはなぜ?」

「ああ、あれは毒殺の範疇になるからうちが担当した」



 あぁ、そこは厳密に決められているのね。

 まぁ、下手に互いの領分を犯すようなことになったら戦争だろうしな。



「いくつか質問。

 まず、今から言う作業の担当割り当てを教えて欲しいんだが……情報収集ってどこが担当だ?」

「それは個々でやる。

 分担はしない」



 つまり、暗殺者ギルドの情報網という単語を使えば僕の持ってくる情報を使えるんだな?



「次に、今の説明の範囲外の仕事はやっても文句なし?

 つまり、暗殺以外の仕事をこのギルドに依頼するってできる?」


「……例えば畑耕すとかを他のギルドが文句言うことは無いが、そういう意味でいいのか?」


「ああ、生産・商業・強盗ギルドの対象範囲が広すぎて不安だったんだ。

 それぞれのギルドの条件を満たさない仕事なら受けられそうだな。

 今の例だと、人を殺さなくてもできる犯罪じゃない仕事を探せるな?」




 少し悩んでカルは諾を返す。




「可能ではあるが、何故そんなことを考える?」

「暗殺だけで食っていけると本当に思ってる?

 特に、ディーマス家が壊滅したら金ほとんど入らないだろ?」




 黙ってしまった。




 実際、ディーマス家九割じゃなかったか?

 それがゼロになるなら当然別な収入手段検討しないとダメだろう?



「今すぐじゃないけど、収入確保手段の検討は必須だぞ?

 それと新生ギルドの場所を決めないとな。

 そこの家賃を考えると本気で稼ぐ必要があるのは分かるだろ?」


「そうね、前回の場所は流石に使えないものね」



 流石に前のギルドを維持した女傑。

 この辺りはルーシーの方が詳しいんだな。



「カル、一時的にギルドの場所無しと言うのは可能なのか?」

「……あまり長期は嫌がられると思う。

 やれて年内かな?」



 残り三ヶ月切っている状態で稼ぐ方法考える?

 キッツいなぁ……。



「なぁ、ニフェール。

 国としてただで家を――」


「――却下です。

 チアゼム侯爵、気持ちはとてもありがたいけど、それやった場合に他のギルドが感づく可能性が高い。

 そして、気づいたら消しに来る可能性がある」



 お気持ちはありがたいんですけどね。

 未来を考えるとそれは不味すぎます。



「そうか……商業ギルドも絡むから下手なことするとすぐばれるのか……」


「王家から仕事貰うとかならいいんですけどね。

 もしくはこちらが家賃をちゃんと払う形で家を借りるとか?

 そのパターンならありかなと思います」


「となると、今助けてもらっているノヴェール家の件って……」


「報酬期待してますよ?

 うちとしては今回頑張った四人に全額渡すつもりです。

 つまり報酬の多寡=国の彼らに対する評価直結となりますので……ちゃんと払ってね♡」




 四人が滅茶苦茶喜んでいるな。

 でも、額を決めるのは僕じゃないからまだ喜ぶのは早いぞ?




「あとカル、明日の流れなんだが……暗殺者ギルドが壊滅したことを最初に言って欲しい。

 そこで、壊滅の詳細は僕に振って」


「ニフェール様の立場はどうする?」


「禿ほどじゃないけどそれなりに仕事できるという程度に扱ってほしい。

 そして、あの日はカリムとナットを連れていたことにする」



 そうじゃないとカリムたちが生き延びている理由を用意できない。



「……禿の下じゃないんだな?」


「禿は指揮役として別の場所にいたことにすればいい。

 で、陛下たちが教会に入るのも見たこと。

 ジーピン家が襲ってきた暗殺者&騎士を全滅させたこと。

 禿がジーピン家の輩に撃ち落されたのを説明する」


「禿が王宮に捕まっていることは説明するのか?」


「両手両足を切り落としたことも説明する。

 と言っても、ギルドを騎士たちが確保しに行ったときには既に切り落とされて運ばれたのを見たという設定にするつもり。

 ちなみに、ダッシュって有名人だった?」


「古参の長は禿の師匠ってことは知っている」


「なら、ダッシュの身体が半分になったことも伝えるか。

 そこまでは僕が説明するよ」




 それ以上は僕の発言では不味すぎる。

 なんでそんなとこまで知っているんだと言われると対応できそうにないからなぁ。




「そして、見届けた後に一旦王都から抜け出し、身の安全を確保して戻ってきたのが最近。

 この辺りはカルの方で説明してほしい。

 それと、他のギルドも知ってるかもしれないけどディーマス家が調査されていること伝えてやって」



 カルが悩んでいるようだが、どうした?



「……どこから聞いたとか言われそうだな」


「聞いたというより、陛下のいるところに襲撃かけさせたこと。

 それに加えて、暗殺者ギルドホームに調査が入って襲撃依頼を見つけただろうという推測。

 このあたりから分かると思うよ?

 ディーマス家の指示した内容が反逆の罪に当たるし、国としては潰すしか無いんじゃない?」


「……確かにそこらまでなら俺たちでも推測はできる範囲だな」



 だろ?



「最後に、ディーマス家やその寄り子に依頼を受けている、もしくは金貸しているところは早めに回収した方がいい事伝えて終わりかな」


「それは、ディーマス家が潰れることを見込んでと言うことか?」


「潰れなくても、反逆者がどうやって金稼ぐの?

 どうやって国から金貰うの?

 一気に貧乏生活に入るはずだよ?

 その前にさっさとディーマス家とその寄り子から金返してもらうんじゃない?」



 特に生産・商業ギルドは全力で損しないように金を巻き上げるのでは?

 自分たちである程度情報を得ているだろうけど、陛下を弑しようとしたのは知らないはず。

 そこに実際に見た人物の情報が入れば一気に動き出すと思う。



「反逆の情報を渡せばカルの評価は地に落ちることはないでしょ。

 なんとか立場維持にはつながると思うけど?」

「……まぁ、最低限の維持は出来そうだ」



 とりあえずこれでギルドの件は一旦終わりかな。

 後は……。



「じゃあ、カリムとナットをメッセンジャーとして派遣しておいて」

「ああ、任せとけ」




 次にノヴェール家の件について打ち合わせを行う。

 メンバーはベル兄様、両侯爵、ラーミルさん、サバラ殿、僕。




「……進捗についてはこの通りです」



 一通りサバラ殿が説明してくれたが、明日の夕方前には確実に終わるようだ。



「そう言えばチアゼム侯爵、オルスの代わりの執事を一時期貸してほしいと言った気がするんですが、人回せそうです?」



 僕の質問に侯爵はあっさりと返答してくれる。



「あぁ、明後日からこちらに派遣する。

 とはいえ、一年の期限付きだがな。

 それまでの間にノヴェール家で執事を雇ってくれ」

「ええ、可能な限り早くお返しできるように致します」



 ベル兄様の回答に侯爵は頷き、これでノヴェール家の面倒は大体落ち着い……あ、ダメだ、一つ忘れてた。



「ベル兄様、次回食糧とかが届くのはいつ?」

「後数日中だった気がするが……ラーミル、すまんがサンドラに聞いてみてくれ」



 ラーミルさんが出て行ってからジャーヴィン侯爵が確認してくる。



「ニフェール、それはアンドリエ家の関係者を全部ひっ捕らえるという意味か?」

「それもありますし、逆にこちらの状況を向こうに流したくないので」



 下手に情報を与えると、どんでん返し喰らいそうで。



「既に捕まえる根拠があるのですから、早めに捕らえておいて相手の情報を吸いだした方がよいのでは?」

「確かにな」



 そんなことを話しているとラーミルさんが戻ってきた。



「兄さん、ニフェールさん、予定では明後日だって」

「王都に入る時点で荷物検査されるでしょうね。

 なら、そこで明後日から王都の門の辺りに人を伏せとくことできませんか?」


「到着したら王宮に連絡させて、ノヴェール家に騎士団を派遣すればいいな?」

「ええ、それで本件一通り終わるまで確保しておいてください。

 本拠地襲撃終了後に無関係な奴は解放し、関係ある奴はまとめて処分すればよろしいのでは?」



 少々侯爵方も悩んだようだが、情報が洩れるくらいなら留めた方がマシという判断を下したようだ。

 これで、あちらにこれ以上情報が漏れるのを防げる。


 現時点で流出の可能性はマイトがノヴェール家に来る直前に情報を流したかどうか。

 それと、一斉辞職とマイト解放後に即刻手紙を送ったかどうか。

 そこ以外では情報は漏れていないはずなんだが……。



「両侯爵、王宮勤めの者が手紙を送る場合ってどうやりますかね?」

「ん?

 王宮から地方都市なら国で面倒見ているぞ?

 緊急とかじゃない限り、一日一回馬車を走らせているが?」


「次に、王都に住む一般人が手紙を送る場合は?」

「幾つか手段があるが、よく使われるのが商業ギルドに頼んで、送ってもらうパターンだな」

「それ、調べられます?」



 一瞬キョトンとしたが、すぐに理由に気づいたようだ。



「マイトが情報流しているかかな?」

「ええ、七日前にオルスが初めて暴走しましたがその情報を元に調査部隊が作られたのでは?」


「そうだな、それは七日前の夕方から夜にかけて編成した。

 つまり、その時点で手紙を書いてアンドリエ家、もしくはダイナ家へ報告した可能性があると?」



 そうそう。



「ええ、念の為連絡が飛んでない事って調べられます?

 王宮から送られる手紙、何時誰から誰へ送ったか分かればと思ったのですが」


「内容は分からんが、その程度なら分かるはずだ。

 明日にでも調べて報告しよう。

 ちなみに、商業ギルドの方は調べられるか分からん。

 元々希望する方面に行くキャラバンに持って行ってもらうというだけだから、まともな管理はされてないはずだ」



 あ~、そりゃそうだ。



「であれば、王宮の情報だけでもあればありがたいです」



 これで、あちらに情報が漏れたかだけでも判断できるな。



【犯罪者ギルド関係者】

 ・ピロヘース:娼館ギルドの長(表裏とも)

  → らせん状形態の細菌の一種スピロヘータから。

    なお、有名なものだと梅毒トレポネーマ (性感染症の一種)。

    

 ・ダメンシャ:詐欺師ギルドの長

  → 認知症の英名デメンシャから。

  

 ・ザイディ:強盗ギルドの長

  → 不安障害の英名エンザイエディ ディスオーダーから。

  

 ・シロス:生産ギルドの長(表裏とも)

  → 肝硬変の英名シロッシスから

 

 ・リシアシス:商業ギルドの長(表裏とも)

  → 結石の英名リシアシスから


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