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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
7:義兄救援
128/360

26

 最後の宣言から僕とマーニ兄は軽くおバカさんたちと遊んであげた。

 たかが文官科の輩が僕たちに(かな)うはずもなく、戦いとは恥ずかしくて言えないレベルの惨状だった。



 一分持たずに全員叩きのめした後、サバラ殿とクーロ殿を呼んでもらう。

 ラクナ殿とマーニ兄もこいつらの引き渡しの為に動き始めたようだ。


 並行して、カルとカリムに声かけると屋根の上から覗いていたようで傍に着地した。



「カル、何か新しい事分かった?(乙女っぽい声で)」

「止めてくれ!

 その声は俺に効く!」



 効くって何?

 まさかカル、お前もオルスのように若い女性にしか興味が……。



「違ぇよ!

 下手な女よりグッときて不味いんだって!」


「僕に浮気しようとしたらルーシーにばらすぞ?」


「やらねぇよ!

 やりたくねぇよ!

 元の本人知ってて堕ちるバカいねぇだろ!」




「フェーリオとか……」

「ハァ?」




 あれ、ほぼ堕ちてるよね?




「なんかヤバすぎて聞きたくねぇ……」

「諦めな。

 僕の近くにいれば嫌でも聞こえてくるから」


「何で俺はこんな仕事選んだんだ……」

「命失うことに比べればこの位マシじゃね?」




 なんか落ち込んでるけど、あの時は選択肢ほぼ無いからね?




「まぁそれはともかく、元々残ったのはなんだったんだ?」


「あぁ、うちらのような裏家業の面々が関わってないか念の為話を聞いていた。

 そこらへん一番詳しいのが俺だったからな。

 なお、特にどことも繋がりは無さそうだ」


「なら後はこいつらで辞職者全員なら今日の話は終わりかな?

 ちょうどサバラ殿達も来た様だし」



 お二人が到着し、顔を確認していく。

 たまに恐怖に顔が引きつったり内股になったりと変な行動をするが、見なかったことにしておこう。



「ニフィ……ニフェール殿でいいのかな?

 確認したが、全員退職した者たちだった。

 こいつらは騎士たちに引き渡すのかい?」


「今はニフェールでいいですよ。

 押し込むところが無いので、騎士経由で王城の牢屋行きでしょうね」


「となると、この後そちらの四人は手伝ってもらえるのかい?」

「ちょっとそれについてはお待ちいただきたいですね。

 それと、ノヴェール家で調べるのは後はもう無いの?」



 ちょっとサバラ殿もすぐに答えが出せないようだ。

 それ次第なのと、ついでにこちらも暗殺者ギルドの方の動きも決めないとな。



「ちょっと現場側でやるべきことが終わりなのか調べて頂いて、そこからですね。

 こちらも幾つかやりたいことがあるんで」


「分かった、そこは後日にしよう。

 では、先に屋敷に戻っているよ」



 僕たちも騎士たちが来たところでラクナ殿とマーニ兄たちにここを任せて屋敷に戻る。

 念の為、マーニ兄たちには引き渡し作業終わったら屋敷に来てと伝えておく。



「侯爵方、終わらせてきましたよ」

「おぅ、ご苦労さん。

 とりあえず化粧落としたら会議しようか」



「あぁ、そうですね。

 確かに股間がスース―してちょっと気になる……」



「そういう発言は止めておけ。

 女性に夢持つ者にはダメージでかいから」



 チラッとベル兄様を見ると、顔真っ赤にされてしまった。

 なるほど?


 さっさと化粧を落として着替えると、会議に向かう。

 マーニ兄たちも引渡しを終わらせたようで屋敷に戻ってきていた。


 チアゼム侯爵が司会となって会議を進める。



「さて、さっさと会議をすませるか。

 まずラクナ殿、捕まえた奴らは?」


「十二人確保、うち一名は首へし折られて亡くなってました。

 もう一人、股間に大ダメージあった者は先程までは生きておりました。

 血の量はそこまででは無いので王宮に到着し次第医療担当に引き渡されます。

 他十名は先の二人の事態を見て、怯えからか色々な発言が飛び交っております」


「例えば?」


「『あの女ヤベェよ、何あの抉り具合!』。

 『あの女暗殺者じゃねえのか!』。

 などとニフェールの行動に恐怖を感じているようです」



 まぁ、そこはあまり気になさらずに。



「まぁ、ニフェールのやったことだしな。

 騎士側の話は了解した。

 次にノヴェール家内部での調査状況だな。

 サバラ、報告を」


「昨日発見された契約書を確認致しました。

 ですが、あの暴利としか言いようがない金額でのやり取りはありえません。

 法的にもあの額で契約を結ばせたことは大問題ですね。

 ニフェール殿配下の方から大体時系列の説明を受けましたが、十分アンドリエ家を捕らえることができます」



 ふむ……。



「サバラ殿、今の発言からすると、この屋敷での調査は完了したということですか?」


「もう少しですね。

 明後日までには完了できると推測しております。

 なお、配下の四名には念の為その間こちらにいてもらえると助かります」


「あぁ、それは大丈夫です。

 ちなみに徹夜仕事とかじゃないですよね?」


「ええ、残りの作業からすると夕方位に終わらせても十分間に合う位です」



 そうか……なら試験最終日にギルドの件済ませたいな。



「サバラ、予定は分かった。

 ちなみにオルスはまだ必要か?」


「特には不要ですね。

 こちらの最終日に合わせて牢屋に連れて行こうかと思ってました」


「あ、牢屋ってどれだけ広いのか知りませんが、今日運ばれた奴らと別の辺りに配置願います。

 アイツら同士で会話されるのは避けたい」

「……なぜ?」




「僕の正体がバレる」

「あぁ……、確かに」




 ベラベラとニフィの名や僕の名を喋って欲しくない。

 特にオルスが混ざると僕=ニフィという解に届く可能性があるからなぁ。



「場所分けるのは分かった。

 こちらとしてもお前の正体は広めるべきではないと考えている。

 安心……はし辛いだろうがな」


「信じてはいますよ。

 今回があまりにもぶっ飛んだ内容だったというのはありますし」


「だよなぁ……」



 凹む気持ちは分かります。



「まぁ、こちらとしても信頼を壊さないようにしないとな。

 次、王宮側クーロ、報告を……と言っても情報は無いな」


「ええ、先に説明した以上は王宮に戻らないと無いですね。

 なお、期待の四名には三日後から来られるように準備しなくてはいけませんね」


「そうだな……ニフェール、この四名は今後どうするんだ?」


「今日と明日はノヴェール家に泊まってもらい、明後日仕事終わり次第チアゼム家に戻ってもらう予定です。

 なので、三日後からチアゼム家の馬車に同乗させていただき王宮に入る形にさせていただきたい。

 勝手にぶらつかれるのは避けたいので」



 クーロ殿は困惑しているようだが、こちらはまぁ仕方ないな。

 チアゼム侯爵は気づいたようで、チラッとこちらを見てくる。


 ギルドの件があるからあまり勝手に歩かせられないと気づいたのだろう。

 軽く頷いてあげると溜息をつきつつも理解をしてくれた。



「チアゼム家として馬車を一台四人の移動用として用意しよう。

 どうせ、後で本拠地襲撃の時も必要になるだろうしな」

「ありがとうございます」


「しっつも~ん、ニフェール様は王宮来るの?」



 ナット、もう少し礼儀を……まぁ慌てても仕方ないか。

 少しずつ直していこうな?



「学園終わってからという条件は付くけど、顔出す予定だよ。

 お前らにだけやらせる気は無いし、会議には出ておく予定」



 どうした、そんな安心して。

 王宮が不安か?



「とはいえ、王宮だと今までのように出入りできないからなぁ。

 チアゼム侯爵、王宮の仕事の期間だけ僕が宿泊していい?」


「通学、王宮、侯爵家の生活になるのか。

 それなら助かるな」


「こちらもアリバイ工作が無くなって楽なんですよね。

 ちなみに、学園にチアゼム侯爵家宿泊の理由なんですが……。

 王宮からの依頼に対応するためとかにできません?」



 キョトンとするチアゼム侯爵。

 え~っと、理解できてない?



「簡単に言うと、ジル嬢にくだらないこと言うような馬鹿を追い払うための理由付けですね。

 浮気とか、男連れ込んだとか言わせないために」


「……あぁ、そういうことか。

 確かにな。

 分かった、儂とジャーヴィンの連名で手紙を用意しておこう。

 明後日、ここの対応が一通り終わった時点で手紙を渡そう」


「お願いします」



 これでノヴェール家の件は試験終了までは落ち着くか。

 後は……ギルド側の話だな。



「……さて、大体方針は決まったな。

 では解散」


 各自移動しようとするところで待ったをかける。



「ごめん、今から言う人は残ってください。

 両侯爵、うちの四人、ラーミルさん、あとマーニ兄」


「ん、なんだ?」


「マーニ兄は初めてだったね。

 ちょっと面倒事。

 内容は声かけたメンバーから推測して?」


「……推測も何もあの関係者しかいないじゃん」

「……それ言っちゃおしまいだよ」



 そんな会話をしているとマーニ兄がふと気づく。



「あれ?

 ラクナ殿って関わってるんじゃないか?」


「ちょっと今はまだ早いかな。

 もう少ししてから声かけるか検討するよ。

 まだ今は胃腸を整えるフェイズだと思うし」


「いつも胃腸に優しくしてやれよ……」




「やってくる面倒事が『はやく胃に穴あけてやれ!』ってうるさいんだよ」

「そんな指示来るのかよ!」




 兄弟でおバカな話をするとなぜか両侯爵が戦々恐々な表情を見せる。


 ……ただのバカ話だからね?

 ……信じないでね?




「さて、バカ話は置いておいて、暗殺者ギルドの件です。

 マーニ兄は初めてだから簡単に説明するね」



 ざっくり懸念点を説明すると、マーニ兄が天を仰ぐ。



「あぁ、確かにその可能性はあったわ。

 あの時はアゼル兄の結婚式潰そうとするやつは消す一択だったから考えもつかなかったしな」


「だよねぇ。

 直接の被害者に近すぎて、もう少し広い視点で判断できなかったのが悔やまれる……。

 ついでに僕の場合、禿潰したいという思いが強すぎたのかもしれない」




 カルディアの件があるからねぇ。




「まぁ運良くカル達を生かして置けたんだから最低限の回避は可能なんだろ?」

「ん~、国としての判断が知りたかったんだけど、陛下たちとお話しされました?」



 そう聞くと、お二人とも視線を逸らし始めた。

 ……おい?



「まさか、王妃様がブチ切れてたから怖くて確認取れなかった?」

「それだけではないがな。

 今回の脱走騒ぎが邪魔をして話す時間も取れなかったというのもある」



 あぁ、そうか。

 あいつら偶然とはいえそこまで邪魔してたのか……。


 というか最近の生活が濃すぎて忘れてたけど、この件昨日の話じゃん。

 そりゃ割り込み入ったら何もできないな。



「んじゃ、今日か明日の午前中にでも決めてください。

 カル、こういう緊急の集まりって当日とかでも可能なのかな?」


「全員集まれるかは保証できないが、緊急なんだから当日でも可能だ。

 ただ、可能ならば前日に連絡しとくべきだな。

 特に今回は問題発生して直後とかじゃない。

 少し間をおいて集合する以上、少しでも前に連絡して全員参加できるようにしとくべきだ」



 ふむ、なら……。



「各ギルドへの連絡ってどうやるんだ?」

「今回ならうちらが各ギルドにパシるんだよ」


「それってカリムやナットでも可能?

 立場と連絡場所知っているかと言う意味ね?」


「あぁ、大丈夫だ。

 むしろこいつらは他のギルドにもそこそこ名が売れているんだぞ?

 先ほどの仕事の話で言うと中堅位かな?

 そんな奴がメッセンジャーとして来たら重要事項と見てもらえるだろうよ」



 ……カリムとナットってそんなに凄かったんだ?

 ちょっと驚き。



「なら、明日僕が試験終わるころまでに侯爵たちが王家と話し合い方向性を決める。

 その結果次第だけど、カリムとナットはメッセンジャーとして活動。

 カルとルーシーは僕と一緒に明後日のギルド間のやり取りの検討。

 で、明後日ノヴェール家での作業――これはベル兄様の様子を見に来られるティアーニ先生の対応も含めて――が終わり次第ギルド対応に向かう」



 各自頷いたのでこれにて終了と思いきや、マーニ兄から一言。



「実家に連絡しとけよ?」


「すべては試験が終わってからね。

 今は手が回らなすぎるから」


「あぁ……それは仕方ないか」



 あれやってこれやって試験やってって無茶苦茶キッツいんですよ!


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