22
コンコンッ
「失礼します、ニフェール様は……っていた!
ちょっと来て!
なんか面倒くさそう!」
ナットが僕を探しに来たようだ……って、何、その面倒くさそうって発言は?
「ナット、分かる範囲でいいから教えて欲しい。
ルーシーが僕を呼んでいるの?」
「そう!
一つ目の書類を調べて期待通りの契約書だったんだ。
けど、二つ目の書類を見た途端、ルーシーの眉間にシワが!」
……それは確かに面倒くさそうだけど、眉間のシワで判断するのか?
まぁ、そろそろ下に降りる時間だったか。
「分かった、これから執務室に向かう。
ベル兄様、ラーミルさん、一緒に行きましょう」
「あぁ」
急ぎ執務室に向かうと、ルーシーから怒りの感情が……。
「あぁ、ニフェール様来たわね……ってベルハルト様やラーミル様まで。
ちょうどいいわ、面倒かもしれないけど聞いてちょうだい。
そして、一緒に考えて欲しいの!」
そう言って書類の説明を始めた。
まとめると、一つ目の書類はオルスが契約した物。
内容は……契約に問題ありそうな記載が幾つも見つかっている。
これはチアゼム侯爵に引き渡して本職にチェックしてもらう予定。
で、二つ目の書類なんだけど、オルスの前の執事がまとめた契約書類らしい。
名前をベル兄様に確認してもらい正しいことを確認する。
「この二つ目の書類の契約先もなぜかアンドリエ商会だったの!
確か、昔から仲が悪いんじゃなかったっけ?
それなのにここ使うなんておかしい!」
はぁ?
ベル兄様やラーミルさんを見ると、唖然とした表情で固まっている。
僕も困惑した表情のまま、それでも話を繋げようと質問をしてみる。
「二つ目の前の執事が契約した書類、何時から契約している?
それとその時の金額は普通の額だった?
ラーミルさん、サンドラさん呼んで。
状況整理するのに必要だ」
ラーミルさんは急ぎサンドラさんを呼びに行き、僕はルーシーと契約の期間を確認する。
また、日記から先代引退、オルスが執事になった日を抽出。
サンドラさんにもチェックしてもらい、時の流れを整理した。
1:先代の契約した書類
金額・流通量は普通
契約時期はベル兄様が生まれるかなり前から
2:先代引退、オルス執事に
3:アンドリエ家やらかして平民へ、ノヴェール家と縁切り
4:オルスが契約した書類
金額が王都の数倍
契約は4のタイミングから、今まで変更なし
「この内容から察するに、元々貴族としてのアンドリエ家から購入していた。
ただ元々仲が悪いという話なので、ノヴェール家にこれ以上ちょっかい出させないように正規の金額での購入位は関わっておくかってところでしょうか」
下手に全切りすると騒ぎ出しそうだしね。
「うっわぁ、面倒くさいんだね貴族って」
「気に喰わない奴で、代わりの仕入れ先も十分あるのに使うことになるって結構ストレスだわ……」
ナット、その一言で纏められると貴族としては何も言えんよ。
ルーシー、気持ちは分かる。
「当時双方貴族であり血の繋がりもあることから、下手に縁を切り過ぎると面倒なことになることを懸念したのかもしれない」
「実際両家が不仲だったのでしょう。
けれど、噂に立つほどの動きを見せると面倒な憶測を真実であるかのように囀る輩が出てくるのを避けたのでしょうね」
多分そうでしょうね、ラーミルさん。
「で、執事交代・双方親の代の方の死・アンドリエ家のやらかしで向こうは平民となった。
その時に縁を切ったはずが再契約をしている。
それも莫大な額で」
大体流れは固まったかな?
後はチアゼム侯爵の情報待ちだな。
というか、まだ来てないのか?
いつもなら大喜びで様子見に来るのに。
……まさか暗殺者ギルド再建話が面倒なことになっている?
それとも一斉退職の手間?
「すいません、アリバイ作りに一旦抜けます」
急ぎ学園に戻り、とんぼ返りでノヴェール家に戻っても侯爵はこちらに来ない。
サバラ殿にも確認したが、連絡はきていないようだ。
こちらで見つけた契約書を渡すと膝から崩れ落ちているが些細なことだ。
その後、普段の会議もサバラ殿メインで行う。
関係者の皆さんが迅速に進む喜びと部外者に仕事あっさり進められてしまうショックの板挟みを楽しんでおられる (個人の意見です)間も侯爵は来ない。
どうしようも無いので、その日は寮に帰ることとなった。
……そこまで面倒事なのか?
いや、それならメッセンジャー飛ばしてきそうな気がする。
可能なら変な飛び火は勘弁してほしいんだがなぁ。
次の日。
一般生徒からしたら試験最終日。
僕のように他の科の試験を受ける者からすれば明日の本番への肩慣らしの終わりの日。
そんな試験日の昼休み。
フェーリオとジル嬢が互いに硬い表情をしながら食堂に入ってきた。
二人が同時にそんな表情をする。
「どうした、二人とも。
フェーリオが僕に堕ちたときでもそんな顔しなかったのに」
「むしろ、それはじっくり見ていたかったので……」
ジル嬢、本音出まくってんぞ?
「それはともかく、昨日父がかなり遅くなって家に戻ってきました。
ニフェール様に謝罪していたと伝えて欲しいと。
それと本日はノヴェール家に集まれるからそこで一通り話すと」
「うちも同じだ。
正直久しぶりにあんな憔悴した父を見た。
なぁ、推測で構わないのだが何が起こったか分かるか?」
いや、それで答えられたらどんな予知能力者だよ!
「全く分からん。
というか、現時点で持っている厄介事だけでも憔悴させるのに十分な話なんだがな。
多分それを超えた話、もしくは今の厄介事をより悪化させる話が出てきたのではないかな」
暗殺者ギルドの話か?
王宮側でノヴェール家関連の調査していた奴が逃げたか?
辞めると言ってた奴らが王宮を裏切ってアンドリエ家側に情報流したか?
その辺りかなぁ。
最悪全部乗せとか?
そんなサービスいらないんだけどなぁ。
「……そんな事態が起こり得るのか?」
「関係者の欲望の混ざり方によっては十分に。
どうせ、この世の悲劇や事件なんて欲望――希望などの善なる考えもあれば下種な欲もある――の絡み合いなんだから」
嫌そうな表情をする二人。
でもね、そんな面倒な対応を二人はしなくてはいけないんだよ?
特に、侯爵家なんだから寄り子の面倒も見ることになるし、慣れた方がいいよ?
「まぁ、今日説明して頂けるようですからそこで判断しましょうか」
「あの父が頭抱えるくらいだからかなり厄介だとは思うんだけどな……」
「まぁ、期限によりけりかな……」
「……試験か?」
「そう、明日から三科試験の本番だから、今日の夜から明後日試験終了まではあまり僕も余裕がない。
今日の説明でどこまで厄介かによっては僕も頭抱えそう……」
「だよなぁ……」
全く、なんでこんなタイミングで厄介なことが発生するのやら。
「まぁ、僕としては試験も今やっている厄介事もさっさと終わらせたいね。
って、そういえば二人に質問。
複数人デートしない?」
「……フェーリオ様とニフェール様?」
おいっ!!
「違います。
というか、後誰が参加するんですか、そのデート!」
「え?
私とラーミルとか?」
ジル嬢、欲望垂れ流すなや!
というかラーミルさんはやらん!
「ノヴェール家当主とティアーニ先生のデートが前回ズタボロだったみたい。
そのテコ入れ策として僕とラーミルさんもついて行こうかと。
ちなみに、提案はマーニ兄。
ロッティ姉様と一緒に連れて行こうと思っている……財布役として」
「そこに私たちも参加ということですね……基本何かするわけでは無いと?」
「当主――ベル兄様――が学園生の頃ボッチだったみたい。
で、彼女どころか友人と街を出歩くということ自体が経験無さそう。
なので、二人でデートする前の慣らしって感じかな」
……ねぇフェーリオ、そこまで憐れまなくていいんだよ?
……ジル嬢、なぜ涙を拭くそぶりをしているの?
「あぁ、ニフェール。
全面的に協力するよ!」
「えぇ、ノヴェール家の未来に関わりそうですし……」
なんか不安だなぁ……。
「一応言っておくけどおふざけ無しだからね?
ただでさえベル兄様の前回のデートが冗談抜きで心壊しかけてたからな?
もうそんなことさせたくないんだよ」
「それは理解しているから心配するな。
未来の寄り子でお前の義兄だし、お前も以前言ってたろ?
知り合いになっとけば云々ってやつ」
おぉ、ちゃんと覚えてたか。
「お前の義兄なら大丈夫だろ。
もしやらかしたならお前が鉄拳制裁するだろうし、それ以前にラーミルがブチ切れるか?
どちらであっても安心してみてられる」
まぁ、ストッパーの方が危険だしね。
「スケジュール等全く決まってないので、すぐは無理だけど……本拠地襲撃日程次第かなぁ」
「そこは我々じゃどうしようもないからなぁ。
まぁ、ある程度決まったら教えてくれ」
「あいよ!」
そんなこんなで午後の試験も終了。
今日は最終日なので午後の試験は一科目だけだった。
大体いつもと同じ成績は維持できそうだ。
大半の学生はこの後二日お休みとなる。
なので、王都で遊ぶことを考えてワイワイと騒ぐ学生が多くいる。
その楽しそうな雰囲気に参加できないのが三名。
フェーリオ、ジル嬢、そして僕。
明日から他科の試験をするため、今までより勉強に集中しなくてはいけない。
さて、そんな雰囲気の中で変質者じみた人物がのそりのそりと近づいてきた。
ゴリラみたいだけど、本当に大丈夫かよ?
「昨日はあまり変化なし。
といっても屋敷を歩いたり、内部の厄介事にちょっと参加したりと元気になっています。
僕としても、ある意味ホッとしてますよ。
ちなみに明後日の件、僕とラーミルさんも参加します。
具体的に言うとベル兄様を性犯罪から守るため」
「ちょ!」
「まぁ妥当ね」
当然だが先に反応したのはティアーニ先生、後に発言したのがオーミュ先生。
当人だけが危険性を認識していないようだ。
「まぁ、待ち遠しいのは分かりますがあと二日。
落ち着いて待っててください。
もしくは今のうちに採点業務を終わらせておくとか?」
「既に終わらしているわよ?」
マジですか?!
オーミュ先生を見ると、呆れつつも頷く。
「事実よ、信じられないかもしれないけどね。
私も採点中の顔見てヒく位だったわ。
何と言うか……悪魔に魂を売り渡した人みたい?」
「【悪魔崇拝者】とかのあだ名がついたりしない?」
「……多分大丈夫だと思うわよ?
あの表情見たのはスティーヴン先生位ね。
あの人はそんなあだ名を言いふらす人じゃないから信じていいんじゃないかしら?」
あぁ、スティーヴン先生なら大丈夫かな。
兵站教育担当にふさわしく安全安心確実をモットーとしている。
噂話なんぞに手間かけるなんてことはしない先生だ。
僕が納得しているとティアーニ先生がぶー垂れてくる。
「む~、なんでスティーヴン先生の方が信用あるの~!」
「今の性犯罪者的表情止めてからもう一度言ってみてください」
「グフッ!」
表情については自覚してるんですね。
とりあえずティアーニ先生をオーミュ先生に任せて僕はノヴェール家に移動する。
到着するとチアゼム侯爵とジャーヴィン侯爵が待っていた。
ベル兄様、ラーミルさん、うちの四人組、サバラ殿と本件の関係者がズラリ。
追加でお一人いらっしゃるけど、あの人誰?
それに加えて……。
「よっ、ニフェール。
何か大変なようだな」
「マーニ兄?
それにラクナ殿?
なんでここにいるの?」
え、本拠地強襲するにしても今日じゃないでしょ?
まぁトップクラスで信用できる騎士だけど、どうして?
「ジャーヴィン侯爵に呼ばれたからだよ。
とはいえ、詳細はまだ聞いてないんだがな」
「それは両侯爵の説明待ちだから僕も知らないよ?
なんか厄介事が群れなしてやって来たんだろうけど」
ちらっと両侯爵を見ると重々しく頷いてくる。
うっわぁ帰りてぇ。
そんな気持ちでいるとチアゼム侯爵が説明し始めた。
「ニフェールが言った通り、厄介事が連続でやってきた。
正直事態の把握のために昨日はこの屋敷に来れなかった。
すまなかったな。」
「いえ、それは仕方ありません。
ちなみに新規の厄介事ってあります?」
「何を持って新規と言えばいいのか悩ましい。
今回のノヴェール家の騒動に関わる件が燃え広がった感じだから既存の拡大?」
……マジ?
「ちなみに、この会話だけでニフェールは憶測つくかね?」
ねぇなんで楽しそうに質問してくるの?
「今日の昼食時にジル嬢たちから聞いて思いついたのくらいかなぁ。
王宮側でアンドリエ家の調査していた人がバックレた?
マイトをとっ捕まえているはずだけど協力者がいて逃げられた?
最近辞めるとか抜かしてた奴らが王宮裏切ってアンドリエ家とダイナ家側に情報流した?
オルスってまだ王宮に引き渡してないはずだけど、もしかして辞めると言い出してた奴らが逃がした?
追加で両侯爵の噂をあること無い事何も知らない王宮の侍従侍女、武官文官に広めて混乱させた?」
ねぇ、なんでそこまで驚くの?
「……打ち合わせ終わっていいか?」
「何言ってんの!
ちゃんと何あったか等全部話して!
マーニ兄やラクナ殿は全く情報ないはずなんだから!」
ぶー垂れつつチアゼム侯爵の方で説明し始めた。
ちゃんと仕事してよ!




