18
「なら、我々はいなくなりましょう!」
ニヤニヤしながらクズ共は鬼札を切った――
「ああ、分かった。
貴様らは依願退職としておく。
また陛下にも一通り説明しておくよ。
そこまでの発言をしたんだ、当然貴様らの実家にも影響するだろうな」
――しかし侯爵には通じなかった。
「な、なぜ実家に!」
「仕事できない輩が仕事放棄までしでかした。
王宮では役立たず扱いされるだろうし、お前らが家を継ぐとなったら他の家は関りを断つだろうな。
婚約者がいる奴はこの情報知られたら即刻お前ら有責で婚約破棄するだろうよ」
なんか驚いているようだけど、なぜそんなに驚くの?
「ちょっと疑問なんですけど、むしろなぜチアゼム侯爵がおっしゃられたことが起きないと思ったんです?」
「え、だって……」
「仕事放棄の時点で王宮で仕事は無いでしょ?
責任放棄の時点で貴族として認められないんじゃないの?
ご実家だって皆さんと縁切って平民に落としたいんじゃないの?」
「……」
「最低でも実家を継ぐことは拒否するでしょうし。
そしてそんな人物と婚約したら女性側終わりでしょ?
あぁ、女性側実家もこんな発言する位だからあなたたちのご実家と縁切りたがると思うよ?」
第三者的な発言をすると、ラーミルさんもノッて来た。
「そうですわね、女性視点でも責任なく未来ない方と一緒になりたくないですわね。
仕事できない、責任感皆無。
そんな方に自分の人生を預けたいとは思いませんわよ?」
セリン家に嫁に行ってただけあって言葉に重みがありますね。
まぁ、あの家は責任感はちゃんとあったけど。
「んで、どうするんです?
本気で辞めるのなら次を用意して頂かないと……。
ちなみに、次は自分の仕事に責任を持てる方を希望します」
「ん?
あいつらが辞めたがってるんだ、希望通り退職とするしかあるまい。
それと希望は承った。
最低でもこいつらよりかは覚悟を決めた奴を連れて来る」
「りょ~かいです」
「あぁ、貴様ら、明日は王宮に行け。
儂もこの後王宮に戻り貴様らの所業と退職手続きに動く。
明日には退職金が支払われるはずだ」
ガチで退職が決まったのに、なぜかクズ共が慌て始める。
希望通りなんだから騒いでどうするんだ?
むしろ喜べよ。
「さて……お前らの中で辞める奴は誰だ?
この後書類書かねばならんのだ、辞める奴は名を名乗れ」
……あれ?
辞めるんじゃなかったの?
誰も名を名乗らないって……。
「おいおい、儂の仕事を遅らせようとするな。
貴様らの望み通り退職準備してやると言っているのだぞ?
儂も早く終わらせて眠りたいのだ、さっさと名を名乗れ!」
ホント、何してんだか。
「そちらの『なら、我々はいなくなりましょう!』と騒がれたあなた。
いなくなるのであれば早く名を名乗りましょうよ」
……なぜ、僕を睨むのです?
「い、いや、あれは勢いで出た発言でして……」
「だからその勢いのまま辞めて構わんぞ?」
涙目で周りを見渡すが、他に騒いでいた輩は皆俯いている。
騒いでいなかった面々は……楽しそうにニヤついている。
「その……先ほどの発言は取り消させてください……」
「ん?
取り消す必要なぞないだろ?
辞めたいのなら辞めればよろしい。
下らん遠慮するな」
「侯爵!
人手不足なのにクビにするのですか?!」
「仕事しないのなら、いないのと変わらんだろ?
ならクビにすればこれ以上そいつへの報酬は不要となる。
そして、ちゃんと仕事した奴らへの報酬に置き換えるだけだ」
なんでそんな唖然とした表情になるかな?
「確かに残る奴らの仕事は大変だ。
だが、足を引っ張るしかしない人物はクビにした方が残る奴らからしてみれば総合的には楽になる。
邪魔されないし、余計な囁きも無くなる。
集中して仕事できるからむしろ万々歳だが?」
でしょうね。
本当に仕事しているのか不安な人物より、遅くても確実に仕事する人物の方が安心できるしね。
こんなやり取りが続き、最後は号泣し始めたがそんなのに構ってられないとさっさとサバラ殿に当人たちの名を確認し終えた。
退職者は総勢四名。
その後サバラ殿や僕に八つ当たりしてきたが、自業自得としか言えない。
辞職希望者を追い出した後、残りの者たちで話し合い。
「あいつら追い出した後の配置だが、サバラをトップとして中堅が不足している所には追加要員と一部下位の者たちを入れる。
ニフェール達は……」
「まず契約書の調査でしょうね。
机に無かったけど、実は面倒な隠し方してないか調査する必要があるでしょう。
もしくは隠し部屋か……」
うちの者たちも盗みとか隠すとかが主な仕事じゃないからなぁ。
殺すことが仕事である以上探すのは畑違いだから素人に毛が生えた程度でしかないけどやるしかないか。
「一応ぶっ壊した机も再調査対象として調べましょう。
明日は……雨は降らなそうですし、明るいうちに机の調査させますか。
現時点ではアンドリエ家との契約だけですか?」
「調べた限りではそことしかやり取りしておらん」
「どこの街にあるのか知りませんが、移動だけでかなり無駄な金を払ってたんでしょうね。
そりゃ食糧が王都の五倍の額にもなりますよ」
「当主は気づかなかったのだろうか?」
「一応親がいた頃から働いている執事だから疑いづらかったのでは?
とはいえ、要所要所で訳の分からないこと言われたようですし、怪しいとは感じていたのかもしれませんけどね」
そんなことを話していると、ラーミルさんが一言。
「確かに、金銭的には兄も感づいていなかったと思います。
ですが、発言のおかしさは感づいていたので兄妹で少し調べ始めたことはあります。
とはいえ卒業後結婚してしまいましたので、そこで私の調査は止まってますし兄も味方を見つけること自体が難しかったかと」
あぁ、他が執事の側に付いているか判断がしづらかったのかもしれないな。
ラーミルさんも「兄妹で……」って言ってたから味方無しで動いていたのかな。
そんな話を終えて僕とラーミルさんはカル達の所に向かう。
「おぅニフェール様、打ち合わせどうなった?」
一通り説明すると、カルから一言。
「バカだろ、そのクズ共。
元のギルドでもありえない位酷いぞ?
裏切りは死を持って償う。
どのギルドでも同じだ」
まぁ、予想通りではあるけどな。
「自信喪失は分かる、実力不足もな。
そんな奴らを見捨てることはしない」
暗殺者ギルドの長を勤め上げただけあって言ってることはまともだな。
「だが裏切りはダメだ。
生かしておくこと事態が害悪だ。
ならば消すしかない」
あ、ここはらしい発言だな。
「まぁ、王宮の流儀からすればクビあたりが限度だろう。
侯爵の対応はやれる範囲でベターな行動だったんじゃねぇか?」
「そんなとこだろうな。
後は新しく来るメンバーがまともであることを祈るのみだよ」
「そんな簡単かねぇ?」
「何でだ?」
「空きができたところに入ってくる輩がまともな対応できるか?
このチャンスに勢力拡大狙ってくる方が多いんじゃね?
もしくは、別の輩が割り込んで来てしっちゃかめっちゃかになるか?」
いや、勢力拡大って昔のお前らじゃないんだ……か……ら……。
え、ちょっと待って?
あれ?
もしかしてヤバくね?
顔色悪くなる僕を心配するラーミルさん。
「ニフェールさん、どうされました?」
うまく説明したいが頭の中で纏まらない。
とりあえず、嫌な予感が事実か確認しておくか。
「カル、ルーシー。
突然な話になるが、暗殺者ギルド潰したけどそれって他のヤバそうなギルドに知られるとしたらどうなる?」
「はっ?
いきなりだな……多分、各ギルドで暗殺者養成するか、合同で下部ギルドの形で共有化するか、新しくギルドを興す輩が出てくるかかな」
「お前がマギーの後を継いだ時は最後だな?」
「あぁ、と言っても継ぐというのも違う気がするから、俺の場合も興したになるんだろうがな」
「次の質問だが、お前らが生きていることを教えた場合はお前らにどんな影響がある?」
「……何を考えているのか知らねぇが、教え方にもよるんじゃね?
例えば命からがら生きて帰ったように見せかければまあだ暗殺者ギルドの長として扱われるだろう。
ただ、それ以外の理由だと……邪魔だから殺されるくらいじゃね?
まぁルーシーは都合の良い穴扱いされるかもしれねぇが」
……マジで不味くね?
「ラーミルさん、すいませんが侯爵たち連れてきてもらえます?
別件で相談とお伝えください」
「……分かりました」
え、まさか、また仕事増えた?
ラーミルさんが侯爵二人を連れてきてくれた。
二人とも不安そうな表情を浮かべているが……大体合ってるよ。
「突然すいません。
カル達に状況説明している最中に別の危険な想定をしてしまったのでご相談をお願いしたく……」
「ニフェール、表情が硬すぎるぞ。
どんな想定をしたか知らんが、説明できる程度には落ち着いてくれ」
ジャーヴィン侯爵からそんなことを言われるくらい僕は落ち着けてなかったようだ。
深呼吸を繰り返し、少しでも落ち着かせたうえで想定した内容を説明する。
「まず、別件と言うのは暗殺者ギルド壊滅の件です。
現状壊滅してますが、それが他犯罪者ギルドの視点からどう見られるか。
個人的にはカルがやったように誰かが勝手に継ぐのかと思った。
だが先ほど確認したら僕の想定が一部抜けてました」
本気で、この辺り考えてなかったんだよなぁ……。
「王都と言う一番金のある地域に空白地帯ができた。
これを奪い合うために他地域の暗殺者ギルドが乗り込んでくる。
そして、その場合優劣をつける為に王都が血の海に塗れる。
もしくはそれぞれの新しいギルドが実力誇示の為に暴れまわる可能性があると考えました」
両侯爵はそれぞれ考えに集中しているようだ。
どちらも眉間にしわを寄せ、悩んでいる。
「ねぇねぇ、ニフェール様、今言った別組織が奪い合って何が悪いの?」
ナットが軽い感じで聞いてくる。
「こちらとしては平和な生活を求めているだけだからね。
例えば、僕に向かって暗殺者を向けられたら面倒なんだ。
ナットだって四六時中襲われるのは嫌だろう?」
これで襲われたいとか言われると怖いんだけど……。
「まぁねぇ。
でもその可能性ってあるの?
暗殺者ギルドの件は置いておいたとしても、薬製造場所の壊滅って皆喜ぶんじゃないの?」
「それやって平和を享受する人たちは喜ぶだろうね。
でも壊滅の結果損した人たちからしてみれば僕らの事が憎くてたまらないと思うんだ」
「そりゃそうか。
……ってことはニフェール様は暗殺者に狙われる可能性あり?」
「だけじゃなく、ラーミルさんやナットたちも襲われる可能性あり」
ヒ ク ッ !
「え、私たちも?」
「というか、最近僕たちは殺してやりたいと思われるネタを作っちゃったしね。
ノヴェール家の調査で仕事放棄したバカ共なんだけど」
「……そいつらが新しい暗殺者ギルドに駆け込む可能性があるってこと?」
頷くと、ナットまで頭を抱え始めた。
「こっちは何も悪いことしてないのに!」
「事実はともかくとして暗殺される側は皆そう思うんじゃないかな?」
ルーシーも事態は理解したようだが、困惑の表情を浮かべてくる。
「これ、解決できるの?」
「解決になるかは分からない。
一応時間稼ぎはあるけど、どちらにしてもカルに暗殺者ギルドの長に戻ってもらわないと不味い」
名指しされたカルは……なんか調子に乗ってる感じがする。
「おっ、俺の出番かい♪」
「死にたくなければ、そして皆を死なせたくなければ戻ってもらいたいね」
ヒ ク ッ !
「……そこまでヤバいのか?」
「自分が先程言った答えを思い出せ?
襲われかけたけど生き延びたならセーフだがそれ以外なら殺されるってお前が言ったんだぞ?
その未来にしないためにもお前が危機回避して戻ってきたことにすれば何とか現状維持は可能だと思うが?」
「いや、確かにそう言ったしそこ回避しようとするのは理解できる。
ただニフェール様に敵対するというイメージが湧かない」
ん~、そんな難しい話じゃないんだがなぁ。
「カル、お前は結婚式の次の日に軽く体を動かした時、調子に乗って僕に精神的にボコられたの覚えているか?」
「忘れてぇよ!」
殺気ブチ当てて気絶させ……を繰り返したあの時、お前は泣いてたな?
「あれはボコる前に僕の実力を知らなかった、それ故にボコられた。
さて、お前の立場を新しく王都で勢力を伸ばそうとするギルドに変えたらどうなる?」
「……ウザすぎて殺してぇ」
「理解が早くて何よりだよ。
で、それに加えて相手は一ヶ所にとどまってくれるわけではない。
むしろ、散らばってヒットアンドアウェイでもしてくるんじゃないかな?」
「蠅か蚊かよ!」
「実際そんなものだよ」
うざったいのも潰すの大変なのも蠅並みだよね。
「そんなわけで対処をしなくてはいけないことは分かったかな?」
「あぁ、これどうにかしないと今の生活維持できないってんだろ?」
「理解が早くて助かるよ」




