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短編「狂犬のデート」の章となります。
毎日一話ずつ投稿予定。
私、ラーミルは告白されてすぐ、実家であるノヴェール家に帰る。
そして、私の兄上であるベルハルト――ベル兄さんに相談した。
セリン家での離婚とチアゼム家で働くことは手紙で伝えておいた。
だが、ニフェール様の件は(私にとって)重大事。
であるからして、直接会って話をしたかった。
今ベル兄さんはノヴェール家の当主として辣腕を振るっている……はず。
「ん~、まとめると――
『セリン家を助けようと尽力してくれた年下の男性に告白された』
――でいいんだよな?」
「ええ、その認識で合っているわ」
「ならさっさと告白受け入れて抱かれちまえばいいのに」
「ちょ、ちょっと!
簡単に抱かれろなんていわないでよ!!」
ベル兄さんは仕事はできるのですが……やり方が少々乱暴?
強引な部分がありそのせいで周囲からは扱いづらい人物として見られています。
まぁ、実際厄介な人物なんですけどね。
「でも、ラーミルは既にその子――ニフェール君だよな?――に惚れたんだろ?
なら時間置いてないでさっさと婚約結んでしまえばいい。
あっちの親御さんも許しているのならなおさらだろうに」
いや、言いたいことは分かりますわ。
個人的にも胸の谷間見られても嫌悪感は感じなかったし。
「まず、私が……その、惚れたかどうかも分からないのに……」
「は? 赤子か?
そこらのガキどもでも惚れたかどうか判断できるだろうに。
いつまで若いフリしてんだよ。
自分の年考えろよ」
若いフリって言うな!
まだまだ若い……はずよ!!
「まぁ、ニフェール君が既にお前に堕ちているみたいだし?
さっさと回答してやれ。
彼の時間を奪うんじゃない」
「いや、そりゃそうなんですけど!
私にだって考える時間は欲しい」
一応これでも乙女なんですから……。
「はっ!
選択肢がある状態だと思っているのか?
五歳近く年上、離婚歴あり、非処女。
これでニフェール君ほどの優良物件見つけられると思うな!」
「ちょっと待ってベル兄さん!
非処女だけは違うわ!!
私はまだ処女よ!!!」
「え?」
ベル兄さん、そんな恐ろしいものを見たかのような反応やめてください。
セリン家で元夫との夜の営みは無かったことを説明する。
「なんだ、元セリン伯は勃たなかったのか?」
「いやそうじゃないわよ。
前の奥様を愛しているので他の女性を抱く気がないみたい。
元々義理の娘の為に後妻になってくれと言われたじゃない?」
「いや、そりゃそうだが、全く抱かれないのも正直驚きだぞ?」
「まぁ、そこは私も驚いたけど無理に『抱け!』なんて言うのも変だし……」
「まぁ言ったら痴女扱いされたかもしれないな」
痴女言わないでよ!
「ただ、それなら何をグダってるんだ?
さっさとくっつきゃいいのに。
まさか、もっと若い子の方がいいか?」
「違うわよ!」
妹を何だと思ってるのよ!
少年をつまみ食いするような趣味はありませんからね!
ロッティじゃあるまいし!
「なら、グダグダ言っても無駄だ。
ニフェール君はお前の年でも問題ないと判断したんだろ?」
「ええ」
「それを受け入れるだけだろ?
お前の乙女心なんて糞の役にも立たん。
そして告白してくれたニフェール君の覚悟にちゃんと向き合え」
「それは分かってるわよ」
だけどこっちにも覚悟する時間が欲しいのよ!
「即断できないのなら、デートでもしてみればどうだ?
あぁ、何かを見に行くとかではないぞ?
一緒に散歩してちょっと屋台で軽く摘まむとか?
適当に菓子など食べる様なお前の年齢位なら八割くらい経験あるような奴」
何なの、その八割とかいう具体的な数字は?
いや、確かに経験全くないけど。
「どうせ、デートなんてしたこと無いだろ?
とても簡単な、悩む必要のないコースでいいんじゃね?
何となくだが、ニフェール君も経験豊富とは言えないじゃないのか?
それに、学園で寮にいる男爵子息なら金そんな持って無いだろうし。
ニフェール君の懐にもやさしいデートコースだと思うんだが?」
何よ、その上から目線は。
「……言い方が正直気に食わないけど、でもありがとう。
ちょっとデートに誘ってみるわ」
◇◇◇◇
チアゼム家での告白から一日。
学園で普段通り学んでいた……はずだが。
「ニフェール、お前キモイ」
「よしフェーリオ、表出ろ。
ガッツリ噛み付いてやる」
いきなり喧嘩売ってくるフェーリオ。
寄り家寄り子の関係無視して喧嘩しちゃうぞ♡
「いや、お前自分の顔見たか?
そのだらしのない顔どうにかしろよ。
周囲の者たちからキモイ、怖いってクレームがかなり来てるんだ。
ちなみに教師からもだからな」
「そこまでか?」
「自覚ないのかよ!」
無茶言うなよ。
やっと思いを伝えて安心したからか表情筋が緩んでいるのは事実だが。
「んで、告白したけどこの後どうすんの?」
「まぁお休みに合わせてデートに誘おうかと」
「あら、今日でもよろしいのですよ?
すぐにでも強制的に休みを取らせますわよ」
怖っ!
ジル嬢、マジで怖いっス。
「いや、流石にそれはだめでしょ。
真面目に仕事している人には嫌がらせとも取られますよ」
「そこまで?!」
「どうしようもない予定変更とかは理解できます。
ですが、いきなり休めと言われても正直僕も困ってしまいます。
またその理由が婚約者とデートして来いと言われるとねぇ。
『側近の仕事は遊びじゃねぇんだよ!』と言いたくなりますね」
ヒ ク ッ !
「なので、ラーミル様との初デートは普通の休みの日に行く予定です。
なので、休みを無理やり用意するなんてことはやめてくださいね?」
( コ ク コ ク コ ク ッ ! )
珍しくジル嬢が大人しく受け入れてくださりホッとしている。
でも、どうせ初デートの日はストーカーするつもりなんでしょ?
そこは諦めているんで、遠くから見るだけにしてくださいね?
なお、ジル嬢の側近たち(男女問わず)から無言で握手を求められた。
一部は目が潤んでいる者もいた。
……まさか皆さん既に監視付き強制休暇実施済み?
あ~、ご愁傷様です。
もう少ししたら僕もそちらの仲間になりそうですが。
◇◇◇◇
「そういえば、先日何もできなかったヘタレがいただろう?
あれは今どんな調子だ?」
「まだ鬱屈している様子で、でも何もしていない状態です、ストマ様」
ルドルフの回答に顔を顰める。
流石にここまで何もしないのは俺でも想像できなかった。
国王派はこんな輩も貴族として残しているのか?
懐が広いと言うか、周囲を見れない愚か者と言うか……。
「そいつの親は何をやっている輩だ?」
「確か……衛兵の取りまとめ役をしているようです。
とはいえ、大したことはしていないようですが」
「ふむ、その職場に我らの派閥の者は?」
「貴族は配置されていないのですが、そこの職員の中に派閥の者の親族が」
「ふむ、では……」
俺は思いついた遊びをルドルフへ指示する。
さて、今回はどれだけ遊べるかな?
前回がつまらなかったからなぁ。
少しは期待したいものだが。
◇◇◇◇
十日ほど後にラーミル様の休暇が予定されている。
そんな情報を得て、デートの申し込みをしてきた。
照れて顔真っ赤になったラーミル様を見てほっこり。
念の為「強制休暇じゃないよね?」とジル嬢に質問。
追加でロッティ姉様にも念の為確認した。
ロッティ姉様が困惑してらっしゃった。
まぁ、気持ちは分かる。
学園での側近の行動を教えてあげると「殺意に目覚めたロッティ姉様」に変身。
ジル嬢が駄々をこねているが問答無用とばかりに確保される。
脇に抱えられて侯爵夫人の所に連れ去られていった。
なぜだか足音もせず滑るように移動しているのが妙に恐ろしく感じた。
ロッティ姉様、マーニ兄が悲しむからあまりその状態でいるのは止めてね。
さて、時間を飛ばしてデート当日。
チアゼム家にラーミル様を迎えに行く。
すると、門番担当の面々にからかわれてしまった。
「初めてなんだろ(ニチャァ)?
チカラ抜けよ」
「カタくなりすぎんなよ(ニヨニヨ)!」
門番の皆さん、どこのチカラを抜くのでしょう?
どこがカタくならないようにしろと?
一応、意味は分かってるんだからな!
経験はないけど!!
情報源はフェーリオだけど!!!
ちょっと離れたところでラーミル様やロッティ姉様が顔赤くしてますよ?
……って、ジル嬢もいるじゃないっすか。
もしかして、門番の皆さん気づいてない?
……後で目一杯叱られてください。
「お待たせしました」
「いえ、ではまいりましょうか。
あとラーミル様、こちらを」
チアゼム家に向かう途中で花屋に寄り赤いラナンキュラスを一輪購入した。
それをラーミル様の髪に飾ると……何ということでしょう!
ラナンキュラスより真っ赤なラーミル様が出来上がったではありませんか!
ちなみに花言葉は「とても魅力的」。
赤色の花にしたので「あなたは魅力に満ちている」。
伝わってくれたらいいな(照)。
さて、デートの予定は以下の通り。
1:屋台巡り
2:ケーキ屋突撃
飢えてるのかと言うなかれ。
金のない僕にはプレゼントなんてたいして買えない。
なら、甘味で攻めるしかない。
1の屋台巡りも甘味関連の屋台はチェック済み。
これで貧乏要素を誤魔化す!
……と思っていた頃が僕にもありました。
ラーミル様、健啖家なんですね。
甘味だけでなく肉もガッツリイケてます。
どこに入るのでしょうか?
謎です……まさか胸?
さて2のケーキ屋に向かおうとすると、チラチラ見えてますね。
フェーリオにジル嬢、楽しそうですね。
そんなに覗きが楽しいのですか?
まぁケーキ屋教えてくれたのがフェーリオなので先回りは想定通りでしたが。
ラーミル様は気づいていないようなので、そのまま入りましょうか。
「さて、ラーミル様」
「あ、え~と……ちょっとよろしいですか?」
ん?
なんだろ?
「その、そろそろ様付けるの無しでお願いします(照)」
ラーミル様、めっちゃ顔赤いです。
いかん、僕も興奮してきた。
フェーリオとジル嬢、「よく言った!」とか騒ぐのやめてくれ。
「では、ラーミルさん(照)」
「は、はい(照)」
「静かに後ろを見ていただけますか?」
「へ?」
変な声を出しつつもこちらの指示通りに後ろを向く。
そうすると、フェーリオ&ジル嬢がいやらしい笑顔で手を振ってくる。
「ギュン!」と音がしそうな位一気に僕を見て、一言。
「な、何ですか、あれ!」
「僕たちの雇い主です」
うん、間違ってはいない。
このタイミングで見たくはなかったけど。
「いやいや、ここで何してんですか!」
「僕たちの初デートを見たかったようですね。
ちなみに、ここのケーキ屋を教えてくれたのがフェーリオです。
まさかとは思いましたが、やっぱり覗きに来たようです」
頭を抱えだすラーミルさん。
「気持ちは分かります。
僕も気付いたときはショックでした。
ですが、まぁあの二人のすることなんで諦めてください。
まぁ、あれを気にせず楽しめればいいなと思います……ラーミルさん」
「……はい(照)、ニフェール様」
ん?
「あの、ラーミルさんも様なしでお願いします」
「あっ!」と言わんばかりに驚き、モジモジしだす。
……なるほど、これを見ているとフェーリオたちの気持ちが分かる気がする。
「その……ニフェールさん(照)」
ブフォ!
こ、これはかなり破壊力!!
チラッとフェーリオとジル嬢が鼻血出してる。
興奮し過ぎだ馬鹿もの!
周囲の側近方ご苦労様です。
おバカな上役の面倒お願いします。
【ノヴェール家:国王派文官貴族:子爵家】
・ベルハルト・ノヴェール:子爵家当主、ラーミルの兄。
→ アルフレッド・ベルンハルド・ノーベルから。




