15
「やぁ、ニフェール。
今日の試験は終わったのかい?」
「ええ、今日の分は終わりましたよ。
ベル兄様、少し歩いたとか?」
「ああ、少し散歩してね。
久しぶりに歩いた気がするよ」
まぁ、歩いた記憶が薄れるほどに心がすり減っていたんだろうかなぁ。
「というか、フェーリオ様とジル様をこの家に迎えることになるとはね
このような体勢で失礼します。
ノヴェール子爵家当主ベルハルト・ノヴェールと申します」
「ご丁寧にどうも。
フェーリオ・ジャーヴィンと申します。
姉の結婚パーティにお越しになられてましたね。
こちらが無理に来たので、体勢は気にしなくていいですよ?」
「ジル・チアゼムと申します。
突然お邪魔して申し訳ありません」
……二人とも、まともな発言できるんですね。
普段を見てると忘れてしまいますが。
「ちなみに今日は昨日のオルスの暴言に対する回答編というか最終章になります。
聞けそうですか?」
「……大丈夫だ。
むしろちゃんと聞かないといけないだろ?
こんなのでも当主なんだから」
覚悟はできていると。
あんまり無茶しないで欲しいんだけど、兄様も現状から抜け出し立ち上がろうとしているのかな?
なら手伝いましょうか。
「ん、じゃあベル兄様。
僕たちと一緒にオルスの前に出てください。
発言は不要です。
アイツが調子に乗っている所から没落するまでを余すとこなく見てください。
もうあの男に振り回されなくて済むようになるのをちゃんと見届けて」
僕の指示にベル兄様は真顔で頷く。
かなり足が震えているようだけど、見なかったことにしてあげよう。
「では準備できたら呼びに来ますんで、それまでお待ちください。
今、うちの四人組がオルスを虚仮にするネタを選別してますんで」
「凄いのが出てきそうだね」
「あまり凄いのが多いと後で最終選考するときに苦労するので、手加減してほしいんですけどね」
ベル兄様も微笑んでくれた。
まだ固い気もするが、この短期間でここまで笑顔作れたら上出来かな。
寝室を辞去して執務室に戻ると、四人からの期待の視線が突き刺さって来た。
お前ら、そこまで楽しみだったのか?
「ニフェール様、用意したからチェックしてくれ」
カルに渡された日記には栞がいくつも挿められていた。
簡単に栞の種類の説明を聞き、ネタの最終選考に入る。
……ガチで選んできやがったな。
これ、本気で選ぶの難しいぞ。
というか、ノヴェール家を陥れようとするネタはある程度まとまっているからこれそのまま使おうか。
ただ、オルスの恥ずか死ぬ系ネタが……いや、ここまでやるのか?
それも、全員振られた奴を複数選択してきやがった。
すげえな、ここまで振られまくるとは……って、あれ?
告白一人目にサンドラさんの名前があるけど。
この年だと十代か?
二人目以降も十代だよなぁ。
それ以降も、新人にコナかけてやがる。
あれ、別のタイミングのサンドラさんにはババア呼ばわりしてるな。
数年程度しか経ってないのに告白からそこまで変わるのか?
もしかして、こいつ……。
「ラーミルさん、侍女長のサンドラさん呼んでもらえる?
ちょっと嫌な質問することになりそうだけど、お願いしたいんだ」
「……そんなに嫌な話ですか?」
「当人は気にしてないかもしれないけどね。
気にする人は気にし続けそうなので……」
「呼んできますが、会話の中で不穏な部分を感じたら止めますよ?」
「それで構いません」
ラーミルさんが侍女長を呼んでくる間、四人組が騒ぎ出す。
「ニフェール様、何考えてる?」
「四人が選んでくれたネタを見て、ちょっと気になったことがあってね。
もしかすると、オルスの性癖が分かっちゃったかも……」
「……説明できるか?」
「サンドラさんにいくつか確認して当たっていたら説明する。
僕も正直驚いているし、困惑もしているんだ」
カルが代表して聞いてきたが、答えづらいんだよなあ。
当たってたら大ダメージになりそうだけど。
……あれ、確かラーミルさんって……。
もしかしてこれが絡んじゃうとか無いよね?
……無いよね?
「お待たせしました、ニフェールさん。
サンドラを連れてきました」
「ありがとうございます、ラーミルさん。
サンドラさん、すいませんが幾つか質問させてください」
「はい、なんでしょう?」
僕は息を整えてサンドラさんに問いかける。
「昔、オルスに告白されたことありますね?」
「あ、はい、ありますけど、即刻断りました」
「その告白されたときっておいくつでした?」
「十八だった気がしますが……」
「それって、この年ですかね?」
そう言って奴の日記を見せる。
恥ずかしそうではあるが、確認して事実であることを確認する。
年齢も十八で合っているそうだ。
となると、ババア呼ばわりしているのは……二十歳。
「奴は他の方にも告白しているようですが、彼女たちが告白されたときの年齢って分かりますかね?」
一通り見せてみると、皆告白は十代後半。
十八か十九だった。
そして、一・二年経つとババア呼ばわりしていた。
「サンドラさん、お答えいただきありがとうございます。
それを踏まえて、ちょっと全員に説明します」
皆緊張した表情を見せてくるが、そこまで大した話じゃないよ?
「まず、四人とも色々と選んでくれてありがとう。
ノヴェール家を陥れようとする証拠についてはこのまま使おうと思う」
おぉ、笑顔にあふれているな。
「そして、オルスの恥ずかしい話だが……全体を纏めてみてみると条件があることに気づいた」
「条件?」
ナット、もしかしてこういう話大好きか?
うずうずしているようだけど?
「オルスが告白するのは決まって十八か十九の方を狙う。
なぜお断りされたのかは知らないが、その後に皆日記上ババア呼ばわりされる」
ゴ ゥ ッ !
ちょ、ちょっとサンドラさんなぜ殺気振り撒くの?
どこで訓練したんだよ!
「……そして、ババア呼ばわりされるのは決まって一・二年後。
つまり、全員二十歳になったらババア扱いされている」
「え?
つまり、若い女性にしか手を出さず、二十歳越えたら女と思ってない?」
「ナット、大体合ってる。
実際、サンドラさんが告白されたのは十八の時。
それ以降も二十歳になる前は女性として扱っている記載があった。
でも、二十歳を越えたくらいからババア呼ばわりしかされてない」
実際に日記の該当箇所を見せると皆驚き、呆れた。
「……納得ですわ、告白された時もなんか変な感じを受けてお断りしたのですが、その感覚があっていたということでしょう」
「多分断って正解ですよ、これ。
この予想が当たってる場合ですが、結婚して二十歳になるまでは妻として扱われますけど、二十歳越えたらババア呼ばわりするんでしょ?
一緒に住むなんて無理じゃない?」
「ですね、自分の感覚を今日ほどありがたく思ったことはございません」
サンドラさんのその言葉が全てだろう。
そして、もう一つあるのだが……これは言わない方がいいかな。
そう思っていると、ラーミルさんが質問してきた。
それも、悪鬼の表情と母上並みの覇気を纏って。
……これ、感づいたんじゃね?
「ねぇ、ニフェールさま。
これって主家側にも同じ反応するのかしら?」
ラーミルさん、とりあえず落ち着いて欲しいな。
男どもが皆震えてるから。
ベル兄様連れて来なくて大正解だ。
「可能性は高いでしょうね。
流石に仕事中に主家の者をババア呼ばわりはしないでしょうが、見えないところでは確実に言い出すと思っています。
ただ……その記載が日記に無いので断言できません」
今年ラーミルさんは十九歳。
来年はババア呼ばわりされる二十歳。
確実に不快な対応されるでしょうね。
だが、先代ノヴェール夫人をババア扱いする文章が無いんだよなぁ。
もしかすると立場的に勝てない相手には大人しくしているのかもしれない。
……もしかして、ラーミルさんがババア化する来年になる前にケリをつけたくなったとか無いよな?
ラーミルさん、【才媛】と呼ばれたその知識と知恵、ここでフル稼働させなくていいんですよ?
知らないことが幸せなこともありますからね?
だ・か・ら・そ・の・覇・気・を・お・さ・え・て・?
い・ま・す・ぐ・終・わ・ら・せ・て・!
いや、本当に僕まで震えが止まらないから!
あ~、もう!
こんな形で暴走しないでよ!
フェーリオとかも涙目になってるし!
仕方ない、やるか。
ラーミルさんに近づき、軽くハグする。
怒りに満ちたラーミルさんの表情が少しづつ緩んでいき、それに伴い覇気も減少してくる。
頭を撫でてあげると緩むのも覇気減少も加速していった。
チラッと周りを見渡すと男性陣は震えが止まっているようだ。
フェーリオ、涙目でこっちみんな!
お前の場合は感謝か恋慕か愛欲か分かりづらいんだよ!
「ラーミルさん、まさかとは思うけど、オルスをこの家で雇い続けるとか無いよね?」
「当たり前です!」
「もしくは、僕と結婚した後あいつを雇うとか無いよね?」
「けっ……(ホワァ♡)。
な、無いですわぁ♡」
お~い、もどってこ~い。
「なら、あいつが何言っても負け犬の遠吠えにしかならないのでは?
第一もうそろそろ会うことも無くなるでしょうし……あいつが裁判にかけられる時くらい?
それなら気にしなくていいのでは?
どこかの鉱山で寝言抜かしても僕たちに影響は皆無だもの」
「……そうですね、もうあれを気にしなくていいんですもんね」
ラーミルさんも落ち着いてきたようなので、この後の方針を説明する。
「まず、オルスの所に向かうのは僕と四人組。
そしてベル兄様とラーミルさん、そして最後に見つかった件の都合上サンドラさんにも参加してほしい」
「サンドラは何故ですの?」
「先ほどのやり取り――年齢とオルスの性癖――について、一番正しい情報を持っている人物です。
僕やベル兄様たちがいくら説明しても一蹴される可能性がありますが、サンドラさんを一蹴することはオルスにもできません。
なぜなら告白した一人ですから」
「あ~……」と皆さんが納得の声を上げる。
他者の情報ではなく、断った実績持ちの発言だ。
それも日記に書いてある。
これ以上誤魔化しようのない証拠・証人の揃った情報となる。
「それと、フェーリオとジル嬢は両侯爵と一緒に廊下で盗み聞きして。
細かい方法は両侯爵が慣れてるから」
「盗み聞きに慣れてる侯爵って……」
「父上は一体何をしているのでしょう……」
そこ、二人で黄昏れないの!
「後は先程声かけておいたサバラ殿が参加する位ですね。
で、流れは関係者全員入った時点でオルスがイキってグチグチ言い出すだろうから軽く聞き流しておいて、ノヴェール家に損害与えた情報を突きつけます。
ちなみに、この部分の日記の朗読は選んだ担当に読ませますんで」
四人組、怖いからその笑いかた止めな?
これで、この時点で証拠は挙がっているからオルスが犯罪者として扱われることが確定。
「で、その後はオルスの性癖暴露会。
読むのは……僕がやろう。
そして、それに対してサンドラさんに質問し、その時の該当人物の年齢を答えてもらう形にしようと思う。
すまんが、オルスをこき下ろすのはサンドラさんに譲ってやって欲しい」
四人は「まぁ、これはねぇ」「やむなしだよなぁ」と譲る気になっている。
まぁ、僕もあの殺気をぶつけられたくないしなぁ。
「そしてサンドラさんからの情報を元にオルスの性癖暴露しておしまいの予定だ。
流れはこんな感じだけど、何か疑問は?」
ルーシーがちょっと不満そうな表情で質問してくる。
……不満?
「段取りについてではないけれど、今日オルスを貶めた後はアタシたちどうなるの?
チアゼム家で侍従侍女の日々かしら?」
「一応その予定。
まぁ、なんとなくだけど少ししたらまたこの件で手を借りる可能性が高いと思ってるけどね」
「ふ~ん……」
……もしかして、侍従侍女よりこういう調査とかの方が性格的に合ってる?
ちょっと後日検討かな。
「他になければベル兄様呼んで始めましょうか。
それと、カリム、ナット。
隠し扉のドアノブがくっついている破片ってある?」
「ん?
あるけど……オルスに現実を教えるため?」
「そうそう、持ってきておいてね。
幾万の言葉より簡単に伝わるだろうし」
ベル兄様を呼び、サバラ殿に声かけ、両侯爵にはフェーリオ&ジル嬢と共に廊下で盗み聞きの体勢になってもらい、いざ最終章:性癖暴露会の会場へ!




