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第七章『義兄救援』始まります。
ちなみに、この章のヒロインはベル兄様ですがお相手どうしよう。
ティアーニ先生が大本命だし、その方向で進めるつもりですが、ニフェールが割り込んできそうで……。
ジーピン領でのアゼル兄&カールラ姉様の結婚披露パーティを終え王都に戻って来た僕たちジーピン家関係者王都組。
そこで「お疲れ~、かいさ~ん!」と簡単には言えず、いくつか回らなくてはいけない。
まずは大公家かな。
フィブリラ嬢置いて行かなければいけないし、変質者がいたことも伝えておくべきだろう。
王都に入ってまっすぐ大公家に向かうと大公様にすぐに会えることとなった。
……今日平日だろ?
まさか、フィブリラ嬢が戻ってくるまで待機していた?
「おお、お帰り!
楽しかったかい?」
「ええ、お父様。
とても楽しんでまいりましたわ♡」
ビ ク ッ
大公様、何ですかその反応?
大公様、なぜ僕を睨むのです?
大公様、なぜ僕の胸ぐらをつかむのです?
「ニフェール、うちの娘に何した?」
「アムルと日がな一日一緒にいましたね」
「それであんな笑顔が出てくるのかね?」
「普段王都で笑顔を見る機会が無かったからでは?
今回領地でお祭り騒ぎでしたから十分に楽しまれたと思いますよ」
まぁ、アムルとキスしてましたとは報告できないけどな。
「お祭り騒ぎって、平民たちの中に入ったということか?」
「むしろ、それせずに楽しむってどうやるんです?
まぁ、最低限の護衛はジーピン家が対応してますけどね。
王都じゃ大公家は目立ちすぎて自由な行動なんて無理でしょうから、そうそう体験できない楽しみ方だったのではないかと」
大公様はまだ何か言いたそうだったけど、次の僕の言葉で意識が別の方に向いたようだ。
「ちなみに自由行動時にフィブリラ嬢にちょっかい出そうとした輩がおりました。
当人たちは王都の商人だとか言ってましたが、実際はただの誘拐&人身売買犯。
ジーピン家で調査の上、処分しているはずです」
「……しているはず?」
「僕たちは結婚報告の祭りの日は楽しみましたが、その次の日には王都に向かってます。
縁起の良い日に血を見るのは良くないとアゼル兄も後回しにしてます。
多分、僕らが移動している途中で処分したんじゃないでしょうか」
僕の説明を反芻し疑問を呈してくる。
「そいつらがどうやって犯罪者と判断した?」
「僕の部下になった暗殺者ギルドの長に顔見てもらったら一発で分かりましたが?」
「あ、そういえばそうだな。
犯罪方面の情報はすぐ手に入れられるのか」
「今後新しく出てくる人物は分かりませんけどね。
過去名が売れた輩かの判断くらいです」
納得いったのかそれ以上の追及は無く、解放された。
フィブリラ嬢には、また冬にアムルに会えること伝えて大公家を辞する。
次はジャーヴィン侯爵家。
「おぉ、戻って来たか」
土産話は誘拐&人身売買犯の話。
嫌な顔されたがちゃんと聞いてくれる。
「そいつらが属しているギルドはどうする?」
「下手に潰すと面倒そうなので放置でいいんじゃないかなと」
「そうだな、どうやっても潰しきれないしな。
お前らの暗殺者ギルド壊滅が奇跡過ぎただけだ」
「まぁ、あれはジーピン家に対して全戦力ぶつけてきたのが悪いとしか……」
二人して「だよなぁ」といいつつ茶を飲む。
「ちなみに、反逆者処分の進捗は?」
「少しづつではあるが潰していっておるよ。
とはいえ、一通り潰せるのは冬に入りそうだの」
それは仕方ないか。
根本的に数が多いからなぁ。
「ということはディーマス家の処分も冬まで保留と?」
「そうだな。
大体の処分方針は決まっているのだがな。
現当主は斬首。
新当主は子爵に落とす。
周囲の家も現在子爵位までの家は全て平民に。
伯爵位は男爵位に」
その位の処分は確かに必要だろうなぁ。
なんせ陛下を弑そうとしたんだから。
「それと助けたい女性陣の家の確認だが、表立って動けないので信頼できる部下をごく少数だけ動かしている。
すまんが結果はもう少し待って欲しい」
確かに目立っちゃいけない話ですしね。
ちなみにこの件に伴う人員減少はどうやって乗り切るんだと聞くとついっと目を逸らされた。
あんまり無茶させないようにね?
部下が逃げだしますよ?
最後にチアゼム侯爵家。
こちらも特に何もなく、ロッティ姉様、ラーミルさん、うちの新人四名を引き渡す。
「あ、そうだ。
カリムとナット。
二人とも学園寮への報告は以後定期連絡は不要だ。
とはいえ何かあったら今まで通りに連絡してくれ」
「……いいのか?」
カリムが聞いてくるが、特に二人に依頼すること自体が無いんだよなぁ。
「当然厄介事が発生したら定期連絡に戻るかもしれないが、今は慌てる話は無かったはずだし、まずは侍従侍女の仕事に専念してくれ」
「分かった」
移動で疲れているのもあるし、各自休めるところに移動。
僕も寮に戻り明日からの学園生活の準備をする。
これでゆっくりできると思っていた。
でもそうは問屋が卸さなかった。
次の日、朝から普通に授業に出る。
一限前のクラス内でホルターを見つける。
「おぅ、戻って来たぞ」
「お?
ということはティアーニ先生の面倒はもういいんだな?」
「一応引継ぎ位はして欲しいんだが?」
「あぁ、とはいえ先週は浮かれ続きだったけど今週はおとなしかったぞ?」
おとなしい?
「それは浮かれるのを抑えられるようになったってことか?」
「ん~、喜びの要素が消えた感じ?」
は?
ちょっと待て、それヤバくないか?
「何慌ててんだよ、ニフェール?」
「ホルターの発言が事実だったら面倒なことになるかも……」
「え゛?」
「先週は彼氏見つけて浮かれた。
今週はその浮かれが無い。
それも喜びの要素が消えた」
「それってつまり……」
「週末デートして失敗した可能性あり?」
二人で顔を見合わせる。
多分ホルターは「不味い話聞いちまったなぁ」って程度だろう。
だが、僕は彼氏が誰だか知っている。
ベル兄様がティアーニ先生を振るなんて正直想像もつかないんだが。
となると、よっぽど厄介な理由か?
「とりあえず、事態は理解した。
ホルター、ありがとな」
「おぅ、もうやりたくないがな……」
「……前半そこまで暴走してたのか?」
( コ ク ン )
何かすまん……。
そんな話をしているとプロブが登校してきた。
そうだ、こいつにも言っておかなきぃけないことがあったんだ。
「おぅ、プロブ、ちょっといいか?」
「ん?
おぉ、ニフェール、戻って来たのか?」
「あぁ、で、ちょっと確認したいんだがいいか?」
キョトンとするプロブ。
こいつ、本気で感づいていないようだな。
「先日王宮でマリーナ・ディーマスという女性に会ったんだっが、お前の婚約者で合っているか?」
「おや、バレちまったか」
おやおや、鼻高々な反応だな。
この後へし折られるのに。
「んで、確認なんだが、誰が一年で首席だって?」
ザ ワ ッ !
「僕が首席だったのは覚えているが、プロブが首席になれたなんて初めて知ったよ」
ザ ワ ザ ワ ッ !
「あ、一応真実をマリーナ嬢には伝えておいたよ」
「ば、バカッ!
教えてどうすんだよ!」
「おいおい、誤解を訂正しただけなのに何騒いでいるんだ?」
軽く煽ると半泣きで僕を罵倒し始めた。
「なぜしゃべるんだよ!
黙っていればバレないで済んだのに!」
は?
何抜かしてるんだ?
「よく理解できないが、どっちにしてもバレるんだからさっさと正直に伝えればよかったのに」
「何バカ言ってんだ!
お前が言わなきゃバレなかったんだよ!」
本気で理解してないのか?
「だってお前、来年も二年だろ?」
ざわついていた教室が一気に静まり返った。
「お、おい、ニフェール、流石にそれは……」
ホルターまで僕を注意しようとする。
「一応確認だが、根拠のない発言は慎めと言いたいのかな?」
「あ、あぁ」
「では根拠の説明を。
プロブ、お前一年の春夏試験終了時点で必須科目落としているのあったよな?」
「あ、あぁ」
「その科目、二年で取り直せたのか?」
「……いや」
「だよな?
で、二年から三年に上がるための条件は知ってるよね?」
大半の生徒は「あっ!」と反応するが、予想通りプロブは分かっていないようだ。
「分かってない人のために言うと、『一年の必修単位全取得』が上がる条件。
この時点でプロブは来年も二年なのが確定」
「あ!
あぁ……」
やっと理解したようだが、
「今の条件をベースにもう一度言う。
どっちにしてもバレるんだからさっさと正直に伝えればよかったのに」
「そ、それでも黙っていてくれれば……」
「今年度終わりには確実にバレるよな?
だって、来年も二年になった時点でバレバレだし」
愕然とするプロブ。
って、その位気づけよ!
「そんなわけでマリーナ嬢に嘘ついてたことちゃんと謝罪してより戻さないと本当にお前有責で婚約破棄されちまうぞ?
というか、マリーナ嬢にコナかけられて迷惑だし」
ザワッ!
「な、なぁニフェール、コナかけられてって?」
ホルター、目を血走らせながら聞いてくるのはなんでだ?
「僕が領地に戻る前に王宮で兄たちの陞爵、叙爵があったんだよ。
そこでマリーナ嬢が偉そうにプロブの嘘を真実であるかのように広めようとするから、現実を教えたら僕に婚約者になれって言い出した」
「そ、それで?」
本当にホルター、落ち着け?
怖いから。
「僕には婚約者がいますって言って断ったよ、当然じゃん」
「……え?
嘘だろ?」
「婚約者の話なら事実だよ。
今年の春季試験から夏季試験の間にできたんだ」
うぇえええええええ!!
いや、お前ら、そこまで驚くか?
「え、いや、だって、お前女っ気皆無だったじゃん!」
「え?
皆が気づかなかっただけでしょ?」
「嘘だろ……」
「なぜあいつが……」
「俺のニフェールが……」
おい、最後の奴!
僕はお前のじゃない!
ラーミルさんのだ!
「そんなわけでプロブ、さっさと謝ってこっちに面倒事が来ないようにしてくれ。
正直前回会った時も僕の婚約者の目の前でコナかけて来るんで迷惑なんだよね」
「ア、ハイ」
プロブも流石にここまで言われれば理解できたのか項垂れ返事をする。
「婚約者を紹介しろ!」「婚約者の友人との合コン企画しろ!」等と駄々こねるクラスメートを受け流し、授業の準備を始める。
本日最初の授業は……法律。
ティアーニ先生の授業だが、ホルターの報告からするとデート失敗だったようだ。
だが、ベル兄様とのデート失敗となるとうまくボッチから抜け出せられなかったあたりか?
仕方ない、オーミュ先生あたりを混ぜてじっくり聞かないとな。
となると放課後に時間を取ってもらうか。
そんなことを考えているとティアーニ先生が入室してきた。
いつもの生に満ちた明るさは無く。
いつもは無い死に満ちた暗さがある。
ホルター、どこが「喜びの要素が消えた感じ」だよ!
ああ、もう!
どう見てもヤバすぎだろ!
死にかけじゃねぇかよ!
お前そんなんだから前の彼女から「空気読めない」とか言われて振られたんじゃないのか?
これ、無理にでも僕が動くしかないじゃん!
先生が授業を始めようとする前に手を上げる。
気づいたようで指そうとするけど、それが僕だったことで動きが止まる。
「あ……あ……」
って、ちょっと待て、過呼吸になりかけてないか?!
先生の胸の動きが早くなっている気がする。
僕は勝手に立ち上がり、先生のそばに行きいくつか指示を出す。
「先生、色々あるけど、まずは深呼吸!」
キョトンとしつつもボクと一緒に深呼吸をしてくれた。
他の生徒は事態が理解できていないようだが、信頼なのか面倒の押し付けなのか黙ってくれている。
一回の呼吸を時間をかけてゆっくりさせるように促すと、少し落ち着いてきたようで少しは会話が可能な状態になった様だ。
「……ニフェール君、助かったわ」
「息苦しくなってました?」
コクリと返答するティアーニ先生。
色々相談したいことはあるが、今は無理だな。
「先生、本日放課後時間下さい。
可能ならオーミュ先生も関わって欲しい。
教師としての仕事放課後までに終わらせられますか?」
「……今日は会議も無いし大丈夫」
「んじゃその予定で」
自席に戻り授業を聞く体勢になる。
(復帰初日からこれかよ!)と思いつつも放置はできず、頭を抱えるのであった。




