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3/8投稿分、二話目です。
◇◇◇◇
「その、突然泣きわめいてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
やっと落ち着き、恥ずかしながらも周りに号泣を謝罪する。
そうすると、アラーニ様から予想外の言葉を頂いた。
「いや、二つの侯爵家の仲に亀裂が入るのを防ぐ。
一伯爵家を存続させようと動き、寄り子たちの選別のためにデコイになる。
ここまで成し遂げるには相当の心労があっただろう。
それに加えご母堂に久しぶりに直接褒めてもらったのだろう?
そりゃあ泣いてしまうのもわかるさ」
「そう言っていただけるとホッとします」
じ ゅ る り
恥ずかし気に言うとサプル夫人とカールラ姉様の方から……。
何故かヨダレを啜るような音が聞こえた。
チラッと見てみるがお二人とも平然としている。
気のせいかな?
「ふむ、大体話は終わったようだが、この後は?」
「マーニの婚約者にご挨拶をと考えておりましたが、流石に時間も遅い。
明日にでもご挨拶に伺おうかと」
アラーニ様とアゼル兄の会話にフェーリオが割り込んできた。
「なら今日ここに泊まって明日チアゼム家に行ったらどうだい?
それと、うちも一緒に行ったらいいんじゃないかな。
今回の一連の話について認識合わせ。
そして今後について整理するのもアリだと思うけど?
最後に姉上、義理の妹と顔合わせした方がよくない?」
侯爵家ご夫妻は少し悩んで賛意を示された。
なお、カールラ姉様はノータイム、かつ全力で賛成された。
アゼル兄の妻としての扱いをされたことにお喜びなのだろう
で、だ。
フェーリオ、お前何考えてる?
まぁ簡単に予想できる範囲のネタなんだろうが。
そんなに僕がラーミル様に恋心を伝えるのを特等席で見たいのか?
五分入れ替え制にして金取るぞ?
さて侯爵家でおいしい食事にすばらしいベッド。
侯爵家ともなるとこんないい生活できるのか。
そんな戯言を心に留めチアゼム家に家族&ジャーヴィン家総出で向かう。
その途中、馬車の中で【邪神】様よりお言葉を賜る。
「さて、ニフェール。
フェーリオ様の行動から推測だが、あんた好きな子できたね?
とっとと白状おし!」
これに逆らうなんてとんでもない!
命が惜しいのでおとなしく全て白状する。
「……本気かい?」
「惚れたという点では本気です。
同年代でまともな女性は既に売約済み。
残っている者たちは妻とするには人格等に問題あり。
そんなことを考えていた所で偶然ではありますが、お会いしました。
顔を合わせ話をして、頭も人格も問題ないと判断しました」
チラッと【邪神】様を見ると『続けろ』と合図してくる。
命に従い今日の方針を一通り伝える。
「まずマーニ兄の婚約者さんに謝罪。
そしてラーミル様へ元伯爵夫人に対しての謝罪。
多分あちらも作戦を失敗させたことについて謝罪するでしょうね。
娘の代わりに」
皆首肯する。
「そこで双方手打ちにしてこの件はこれ以上蒸し返さないことを確約。
その後で想いを伝える予定です」
二人の兄たちはこちらの作戦を検討しているようだ。
笑ったりしないのが本当にありがたい。
本当にいい兄たちだよ。
「ですが離婚して間もない相手です。
なので、まずは想いを伝えるに留めておこうと考えてます。
こちらが冗談や憐れみで告白したわけでは無い。
その事をまず理解していただくことが先決かと」
一通り説明終わると【邪神】様は母のような顔で一言呟いた。
いや、ガチで母なんだが。
「大体分かった。
今更覚悟は問わない。
後はぶつかってきなさい」
「いえすまむ!」
なおこの間、口出ししたそうな父上がいたが全員無視していた。
「あ、ちなみにアムル、ちょっと教えて欲しい」
「何でしょう兄上?」
ちょっとアムルから情報を聞く。
このネタで未来のお姉様方に少しでも良き感情を持ってもらおう。
チアゼム家に到着するとほぼ顔パスで屋敷に入る。
ジャーヴィン家とジーピン家は関係者全員(置物の父上は放置)。
チアゼム家からは侯爵であるヘルベス様とアニス夫人、ジル嬢。
そして二人のメイド。
一人は先日マーニ兄の婚約者と知ったあのメイドさん。
もう一人は……ラーミル様。
二人とも、今日はメイドとしてではなく令嬢としての装いでいらっしゃる。
ヤバい。
何と言うか……似合いすぎててヤバい。
このままお持ち帰りしたいくらいに似合っている。
ラーミル様が恥ずかしかったのか顔が赤くなっている。
ちょっと視線が集中していたかもしれない。
怒ってなければいいのだけれど。
◇◇◇◇
なぜでしょう。
私、ラーミル・セリンは現在チアゼム家のメイドとして働いております。
いえ、離婚したのでラーミル・ノヴェールですね。
本日なぜかジャーヴィン家、ジーピン家が大挙してお越しになりました。
チアゼム家を継ぐジル様の関係上ニフェール様が来るのは覚悟しておりました。
ですが、なぜ一家総出で?
いや、元娘のグリースが多大な迷惑をお掛けして正直顔合わせ辛いんですよね。
申し訳なさ過ぎて。
でも、ニフェール様がこっちを見ておりますね。
妙にじっと見られると恥ずかしい(赤)。
まだ私にも乙女な部分があったのですね。
で、それはいいんですけど、一つ疑問が。
なぜ、私も顔合わせに参加?
それもメイドとしてではなく?
なんででしょうか、侯爵様?
え、奥様の命令?
いや、メイドとして先輩であり学園の後輩でもあるロッティ。
彼女が参加するのは分かりますよ?
婚約者と久しぶりの顔合わせってのは聞いてますし。
でも私一切関係ないですよね?!
え、それでも来い?
来なきゃ給金やらん?
分かりました行きますよ(泣)!!
ちくせう!
という訳で応接室に集まりましたが、人多いですね、これ。
同僚の侍従、メイドたちが苦労してセッティングしてます。
ごめんなさいね、今日は手伝えなくて。
ん?
この後大変だろうし気にするな?
……ねぇ、何を隠してる?
ちょっと待て、逃げるな!
同僚に逃げられた悲しみを背負いつつ打ち合わせ場所に大人しく座りました。
可能な限り空気と化しておきましょう。
ええ、私は当時そんなことを考えてました。
今では甘ちゃんだったと恥ずかしく思います。
ここまで仕込まれておいて全く感づいていなかったんですから。
「あら、アゼル様もついに結婚ですのね」
「ええ、夫もやっと認めてくれまして、これ以上待たせるのなら……ねぇ」
「あぁ、分かりますわ。
少しの焦らしは楽しみですけど、長いとただの嫌がらせですものねぇ」
ジャーヴィン侯爵夫人サプル様とチアゼム侯爵夫人アニス様。
お二人がチクチクと夫イビリを始めました。
めっちゃ楽しそうで、止めようがありません。
なんか、ジャーヴィン侯爵小さくなってます。
ジーピン前男爵も大豆並みに小さくなってませんか?
って、チアゼム侯爵まで!
男って本当に……。
あれ、ニフェール様がジーピン前男爵夫人キャル様に合図送ってますね。
OK出たようでロッティに話しかけました。
「ロッティ様」
え?
確か次男――マーニ様――の婚約者だったのでは?
ロッティも困惑しているようですが。
「申し訳ありません!」
え?
なぜ謝罪を?
ロッティも理解できないのか困惑した顔を見せ謝罪の理由を聞こうとします。
「えっと、ニフェール様、なぜ謝罪を?」
「私どもジーピン家のやらかしなのですが……。
僕はロッティ様がマーニ兄の婚約者であること。
それを先日初めてお会いした時点で知らなかったのです!」
「「はぁ?」」
あら、私まで一緒に驚いてしまいましたわ。
驚きと困惑に満ちた私たち(といってもロッティメインですが)。
最近分かった騒動の話をニフェール様は説明していきます。
セリン家での話。
グリースが弟君であるアムル様の婚約者であったことを知らなかったこと。
その報告をしにチアゼム家に報告しに行ったとき婚約者と知らずにいたこと。
どころか、マーニ様に婚約者がいるとは知らなかったこと。
その後処理を学園内で実施している時にフェーリオ様に教えてもらったこと。
そして、昨日父上を締め上げると「伝えるのを忘れていた」と言われてること。
また、その言葉が真実なのか?
それともニフェール様を追い詰めるために嘘をついているのか?
未だ誰も判断できないこと。
……マジですか?
いくら何でもひどすぎます。
確かに嫌がらせと言われても信じてしまうほどろくでもないですね。
「ロッティ……」
おや、マーニ様が……。
「ニフェールの言っていることは真実なんだ。
元々、俺と入れ替わりに学園に入る弟がいるとは伝えたと思う。
それがニフェールだ。
他の兄弟や母上も、父上の『自分が伝える』を信じて連絡していなかった。
それ故、誰もロッティの名をニフェールに教えることができなかった」
ホントろくでもない父親ですね。
「もしかするとジーピン家から婚約者として認められてない。
そんな風に捉えてしまったかもしれない。
だが、それは無いことは明言しておく。
とはいえ、ロッティに不安な思いをさせてすまない。
俺からも謝罪する。
本当に申し訳なかった」
マーニ様まで謝罪し始めた。
何と言うか、親の尻拭いで子供が謝罪ってかなりヒドイ。
「はぁっ……」とため息をつきロッティは頭を下げている兄弟を見て声を掛ける。
「マーニ、それとニフェール様、頭をお上げください。
ニフェール様、謝罪は受け入れます。
知らなかったのに責任を負わすなんてことはしませんよ。
それとマーニ、婚約破棄とかいう訳ではないわよね?」
「当然だ!
むしろアゼル兄の結婚予定が決まったんだよ?
なので、次に結婚できるように調整に来たってのに……」
おやおや、お熱い事で。
ロッティ、顔赤いわよ?
「なら問題なしです。
謝罪は受け入れますが、気にしなくていいですよ」
緊張した空気だったのが弛緩した空気に変わっていく。
よかった、あんな雰囲気はもう十分ですわ。
そう思っていたらニフェール様が危険な発言をしてきた。
「あ、そうだ、ロッティ様。
アムルに聞いたのですが『ロッティ姉様』と呼ばせているとか」
「ええ、そうですが?」
「僕も『ロッティ姉様』ってお呼びしてもよろしいですか?」
ブ フ ォ ッ !
ちょ、ちょっと待って!
それロッティにはまずい!
というか、アムル様も合わせて二人で首コテッて傾けるの無し!
チラッとロッティを見ると……あぁ、やっぱり。
年下に「姉様」呼ばわりされるのが性癖にクリーンヒットしていた。
「恋愛は同年代がいいけど、年下に『お姉様』呼びされるのは止められない」
そんなことを学園生の頃に抜かしていた。
正直性犯罪者にならないかヒヤヒヤしていたのですが……。
チアゼム家に就職できたと聞いて安心しておりました。
でも、治ってなかったんですね。
とりあえず、ヨダレを拭くようハンカチを渡すと慌ててゴシゴシと拭き始める。
マーニ殿は、ってあぁ諦めているのですね。
とりあえずロッティに「返事位しなさい」と伝えようとしました。
ですが、なぜかジャーヴィン家のカールラ様が割り込んでこられました。
長兄アゼル様の婚約者でしたわよね?
「ロッティ様、お気持ちよ~く分かりますわ!」
……え?
「アムルちゃんとニフェールちゃんが『姉様』なんて呼んでくれるのですよ!
涎垂らして鼻血噴いてもやむ無しですわ!」
え、そっち?
ジャーヴィン家長女もそっちの趣味?
「そしてロッティ様、私たちだけが”二人から”『姉様』呼びされますのよ?
そんな神からの贈り物を捨てるなんてありないでしょ!」
あ……ああ……ロッティの同士がこんなところに居たの?
これじゃあ、ロッティが!
「その通りですわね!!」
暴走するだけじゃない!
誰か止めてよ!!
「カールラ様、『お義姉様』ってお呼びしてもよろしいかしら?」
「よろしくてよ!
むしろ、あたしも『義妹』と呼ばせていただくわ!」
「光栄ですっ!!」
ねぇ、誰か本当に止めて!
ジャーヴィン侯爵夫人!
チアゼム侯爵夫人!
なぜ止めな……まさか、お二人もそっち?
その笑顔はそっちの人ね!!
アゼル様、マーニ様、止めて……って何ですの、その諦め顔は!
負けないで!
もう少し!
最後まで足掻いて!
誰かいないの?
弟妹趣味”以外”の人!
この世の儚さ(?)を嘆きつつ暴走するカールラ様とロッティ……。
この二人を私は見守ることしかできなかった。
そこに【女神】が現れた!
【ノヴェール家:国王派文官貴族:子爵家】
・ラーミル・ノヴェール:現チアゼム侯爵家メイド、元セリン伯爵夫人
→ ノーベル(ダイナマイトの発明者)から
【カルース家:国王派文官貴族:男爵家】
・ロッティ・カルース:マーニ・ジーピンの婚約者、ラーミルの後輩
→ マニジピン(高血圧の薬)の商品名カルスロットから




