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 悩んだ挙句、連載版作っちゃいました。

 これで少しは読みやすくなったかな?

「狂犬の初恋」「狂犬のデート」の部分は早めに出して、続きはのんびり書こうかと。

 なお、追加設定のおかげで作者内コードネームである「高血圧物語」が変わってしまいました。

 現在のコードネームは「成人病物語」です。

 なお、第二章(短編でいうと、「狂犬のデート」)までは一日数話投稿し、第三章以降はのんびり投稿にします。

「ニフェール・ジーピン、あなたとの婚約を破棄いたしますわ!」



「……誰ですか?」




「は?」




 ここはサイナス王国、王都サイナス。


 国と首都とついでに王家の姓も同じという捻りもくそもないそんな国。

 いい年の若者を集め王家に歯向かわない。

 できれば従順になることを学ばせる学園にて。



 昼休み中、食堂でゆっくり塩パスタ特盛を堪能していた。

 そうするとどこからともなく現れた女性が婚約破棄をしてきた。



 僕は国王派武門貴族の一員、ジーピン男爵家三男ニフェール・ジーピン。

 まだ誰とも婚約をしていない。

 そして、この女性を僕は見たことがない。


 同学年っぽいが、学年全員参加の授業でも見た記憶が無い。

 目立つことして無いのかな?


 周囲の観客がざわつく。

 そんな中唖然とした表情をする女性に対してもう一度問いを行う。



「もう一度聞きます、あなたは誰ですか?

 僕はあなたと会ったことが一切ないのですが。

 それと、僕に婚約者はいませんよ?」



「嘘ですわ!

 あなたの御父上であるアダラー様。

 そして我が父ニーロ・セリンとの間で婚約の書類にサインをしております!」



 父上から聞いたこと無いんだが?


 それと、確かセリン家って国王派文官貴族にいた気がするなぁ。

 なんか有名なあだ名をつけられていた記憶が……。



「それはいつの話ですか?

 一度も聞いたこと無いのですが。

 また、セリン家の話を家族と一度もしたことが無いのですよ」



 僕の説明にショックを受けつつも女性は噛み付く勢いでしゃべり倒す。



「五年程前ですわ!

 王都の我が家にアダラー様をお呼びして書類を作成しましたのよ!」



 知らんが?

 聞いたこと無いぞ。



「五年前ですか。

 その話自体初めて聞きましたが」



「そんな!」



「確認ですが、婚約後一度でも僕から手紙とか届いてますか?

 また、あなたから僕に手紙を送られましたか?

 最低でも僕は一度もあなたに手紙を送ったことがありません。

 なんせ、あなたの事を知りませんから」


「なっ、なっ、なんてことを!」



 いや、そんな文句言われても。

 こっちは全く知らないんだから。



「先ほどから申し上げておりますが?

 僕はあなたを一切知らず、話をしたこともありません。

 手紙を送ったこともございません。

 多分、人違いかと思います」



 ここで手を抜いても面倒なことになる。

 一気呵成に攻め立てるか。



「もしくは我が父上の名が出ていたので、うちの兄弟の婚約者なのでしょうか?

 とはいえ、記憶の限りでは長男以外に婚約者はいなかったはず。

 そして長男の婚約者は僕も知ってます」



「流石に今学園にいる範囲の年齢よ!

 あなた、ジーピン家の末っ子でしょ!」




「いえ?」




「は?」




 なぜ驚くんだ?

 名指しで婚約破棄を求めてきたのに。



「僕はジーピン家の三男で、下にもう一人おりますよ?

 ただ末っ子となると、まだ十歳なので学園にはおりません。

 あなたの発言はどれが真実なのか分からないのですが?」



 僕の想いはただ一つ。

「発言の真偽をちゃんとまとめろや!!」

 これを遠回しに言うと黙ってしまった。


 そこで黙られると困るんだけど。



「とりあえず、僕が対象であった場合は婚約破棄で構いません」



「えっ?」



「まず、父上から婚約話を一切聞かされておりません。

 そんな状態で一切お会いしたことも無い方に懸想する理由もありません」


「……」



 ポカンとしているが、なぜそんな顔をするのでしょう?

 知らない相手に懸想するってどんだけ妄想豊かな人物と思われているんでしょ?



「ただ、本当の婚約者がどなたかちゃんと確認してはいかがでしょうか?」



 悔しそうにこちらを睨んでくる女性。

 けど、僕には何の痛痒も感じない。


 あなたの訳の分からない発言がきっかけなんですからね?

 そこ間違えないでくださいね?



「それと僕とあなたの間に実際婚約の話があったとします。

 その場合、家同士の話になりますよね?

 なら基本的にニーロ様と我が父上の間で整理することになります」



 これは当たり前なんだけど、分かりますよね?



「なので、まずそちらはセリン伯ニーロ様にお伝えして処理を進めてみては?

 こちらからも父上にこのような話が出ている理由を問いただしたいと思います」



 黙って頷いているのでそのまま話を続けるが、大丈夫かこの子?

 妙に不安を感じるんだけど?



「ただ、領地に手紙を出すことになるので回答に十日は見る必要があります。

 またその後に王都に来るとなると、ケリをつけるまで一月はかかります。

 そこはご了承ください」



 淡々とこちらの意見をデコレートした言葉で伝える。

 ぶっちゃければ以下の通り。


「婚約破棄を受け入れる、書類処理を進めるために親共の尻叩け!!」


 あの女、理解度低そうだからなぁ。

 ちゃんと伝わっているのだろうか?



 女性はまだ何か言いたそうだった。

 だが、これ以上騒いでも話が進まないというのは感じたようだ。

 急ぎ自宅に戻っていった。


 多分、婚約破棄の書類を急ぎ作成しに行ったのだろう。



 食堂では先程のやり取りについて噂好きな者たちがこっち見ながら囀っていた。

 無視してすこし冷えた塩パスタを楽しむ。

 冷えたからなのか、訳の分からない婚約破棄に怒りが燻っているのか。

 いつもより固く、味が落ちている気がした。




 学業の時間も終わりさっさと学園生寮に帰ろうとする。

 そうすると、我が家の寄り親で国王派武門貴族のトップ。

 ジャーヴィン侯爵家の三男、フェーリオ・ジャーヴィンが近づいてきた。


 ……いや、そんなこっそり近づかんでいいんだぞ?



 いつも通り家の紋章のついたリボンタイをつけている。

 狼の横顔と二本の槍を交差させた形の紋章。


 武官貴族なら皆知っている、他貴族でも知らぬものはほぼいない有名な紋章。

 ってそのリボンタイ、この前婚約者に貰ったとか抜かしていたやつか?



 こちらが気づいたのを見て一瞬ニヨニヨしやがった。

 とはいえ、すぐに真面目な表情に戻し質問してくる。



「ニフェール、今日の昼の件は本当に何も知らないのか?」



 心配してくれているのは分かる。

 気持ちはありがたいのだが、答えようがないんだよなぁ。



「全く知らない。

 と言うか、今もあの女の名前が分からないんだ」




「は?」




 なおフェーリオに対して本来立場(寄り子)的に敬語で話すべきなのだろう。

 だが、妙に気が合ったのか普通に話していいと許可をもらっている。

 まぁ、場所をわきまえてという条件は付くけど。



「先ほどの食堂であの女名乗ってないんだよ。

 セリン家の者であることは会話から分かるんだが、むしろお前知らないか?」


「おいおい。

 いや、俺も知らんけど」



 まぁ、そっか。

 いくら何でも学園の生徒全員の名を知っているとは流石に思えんし。



「正直、こちらからするとその程度の認識しかないんだよ」


「そんな輩がうちの側近に喧嘩売るとは、なかなかいい度胸だな」


「寄り子としては喜ぶべき言葉なのだろうけどなぁ。

 なんとなくあの令嬢そこまで理解していない気がする」


「ふむ、そこまでか。

 名前くらいならこっちで調べようか?」



 フェーリオの提案に驚きつつも僕はお願いする。



「すまないが頼めるかい?

 ちなみにどうやって調べるの?」


「え?

 ジルに聞くだけだからそんな大変なことじゃないぞ?」


「あぁ、婚約者殿か」



 婚約者のいない僕としてはなんとなく負けた気になる。

 しかし情報を得ることは大事だと自分に言い聞かせ調査を頼むことにする。




 そのまま学園生寮に戻り、急ぎ父上に数点追及をする手紙を書く。


「事態の報告」

「セリン家と当家の関係」

「自分の婚約についての確認」


 こんなところだろうか。



 ただし、少々心がささくれ立っていたので、かなり汚い言葉で書き殴っていた。

 内容を見れば父上にもこちらの怒りを理解してもらえるだろう……多分。



 まともに対応してくれないのならば、母上にいくつか情報を流すか。


 確か執務机の右側最下段の引き出し。

 そこの二重底になっている所に隠してある若い女性の詳細な裸絵画。

 そんなのが数枚入っていたはず。


 あれを教えたら父上の顔がかなり変形するだろうからまともに動き出すだろう。



 そんな感情に振り回されていると、一つ大事なことを思い出す。



 ……あれ?

 ……あの女性に名を名乗られてないだけじゃないな。


 ……五年前、どこであったのかも言われてないぞ?

 ……実はあの女性の妄想とか?



 結果、迂遠な記載しかできなくなってしまった。


「この婚約破棄を言い出した娘から名を名乗られておりません。

 また、どういう流れで僕と接点を持ったのかも一切情報ありません。

 父上とセリン家当主の名を出していました。

 なのでそこから誰なのかそっちでご判断ください」


 ……何とも締まらないなぁ。



 手紙の準備が終わり急ぎ学園の庶務課に依頼をする。

 今は雨の少ない季節なので三日か四日で領地に届くだろうとのことだ。

 となると急ぎ回答してくれたとしても、八日と見た方がいいな。



◇◇◇◇


 食堂で婚約破棄騒動が終盤に差し掛かったあたり。

 別のテーブルにいた俺はこの事態を楽しそうにニヤニヤして見ていた。



「ストマ様……」


「なかなか面白いことになっているじゃないか。

 確かジーピン家の三男だったか?」


「はっ」



「では、これ(・・)を使って軽く遊んでやれ。

 都合の好さそうな愚か者はおるか?」


「ふむ、あそこの腑抜けた面の三名は都合がいいのでは?

 元々先程の者とあまり仲が良くないようで。

 確か同じ国王派武門貴族だったはずです」



「なら、あの者たちに囁いてやれ」


「かしこまりました。

 おい、いくぞ!」


「はっ!」



 俺、ストマ・ディーマスの指示に従い側近、取り巻き共が動き出す。


 まったく、国王派の者たちはなぜあそこまで頭が固いのやら。

 兵、下士官、その位は頭が固い方がむしろいいかもしれぬ。

 指示を確実に履行できるのが大事だからな。


 だが、将軍やその側近はもっと柔軟な頭を持っていないと意味がない。


 まだ中立派の者たちはそこまでではない。

 だが、それでも俺たち貴族派と比べると国王派と五十歩百歩にしか見えん。



 さっさと二つの派閥を弱体化し俺たちでこの国を運営しないとな。

 放置しておけば本来俺たちに入るはずの金が消えちまう。


◇◇◇◇


「おい、食堂で婚約破棄されている奴がいたぜ」


「だれだよそのバカ?」



「騎士科のニフェール・ジーピン、【狂犬】だよ」


「マジか?

 何やらかしたんだ?」


「知らねぇ、【狂犬】って位だし、サカっちまったんじゃねぇの?」


「それとも、その女喰らいすぎたか?

『こんな激しいの無理ィ!』とか?」




「……え?

 そんなすげぇの、【狂犬】?」


「知る分けねえだろ!

 抱かれたこと無いし、抱かれたくも無いし。

 お前が試してみたら?」


「やだよ、ソッチの趣味は無ぇよ!」



 ぶらぶらと歩いている所に聞こえてきた情報。


 おれ、レスト・アンジーナ子爵子息は偶然(・・)聞こえてきた情報にほくそ笑む。


 ポッと出のニフェールが側近の端っこに拾われた件。

 あんなのおれがその場にいればもっとスマートに片付けられたのに!


 気に食わないから【狂犬】なんてあだ名を流布してやった。

 だが、それでも気に食わねぇ!


 あんな噂話が出る位だ、余程間抜けなことをしたのだろう。


 トリスとカルディア連れて揶揄ってくるか。



 ニヤニヤしながらおれはニフェールがウロチョロしてそうなところを探す。

 ベラベラ噂話をしていた奴らから嗤われているのも知らずに。


◇◇◇◇



 庶務課の方に礼を言い寮に戻ろうとすると、三人のガラの悪い奴らに絡まれた。



 レスト、トリス、カルディア。



 三人とも僕の家と同じ寄り親に仕える者、まぁ取り巻きたちだ。

 僕も元々は同様に取り巻きの一人だった。

 だが、とある事件を経て有能と判断されて側近の末席の立場を頂いている。


 その頃から僕の事が気に食わないのかよく無駄な嫌がらせをかけてくる。

 まぁ、僕もこいつらが嫌いだが。



「よう、【狂犬】。

 お前何やらかしたんだ?

 噂では食堂で婚約破棄されたって話だが?」



 妙に苦しそうな呼吸をしながらレストが話しかけてくる。

 体調悪いのなら無理に声かけなくてもいいのに。


 ちなみに【狂犬】のあだ名については後ほど。



「僕も知らないよ。

 第一、まだ婚約者はいたことがないんだから」


「は?」



「親が隠しているのでない限り、僕に婚約者はいない。

 なので、あっちの勘違いの可能性が高い」


「おいおい、そんな馬鹿な話あるかよ」



 胸が苦しいのか胸元を押さえながらトリスが否定してくる。

 だが、こちらとしては情報が無いから何とも言えないんだよなぁ。



「そういわれてもなぁ、騒いでいた女の顔も初めて見たし」

「はぁ?」



 そんな呆れないでくれよ。

 本当に知らない人物から声かけられてこちらも困惑してるんだから。



「え~っと、それ本気で言ってる?」



 立ち眩みを起こしているのかフラフラしながらカルディアが聞いてくる。

 お前は関心持つ前に保健室に行ってきた方が良くないか?



「本気だよ。

 というか、もしお前らが何か知っているのなら教えて欲しいくらいだ」


「いや、噂で聞いただけだから俺たちは何も知らねぇ。

 だからこそ聞きに来たんだがよ」


「なら諦めてくれ。

 僕も情報が欲しくて困ってるくらいなんだ。

 それに『あちらの勘違い』と『うちの家が僕に婚約者居るのを伝えない』。

 どちらが可能性高そう?」


「流石に家のやらかしは想像しづらいな。

 チッ、何か情報得られるかと思ったんだが、無意味だったか」



 三人は僕が本当に何の情報も持っていないと判断したようだ。

 そのままいなくなってしまった。


 多分、揶揄おうとしたのだろうが無駄だったな。



 ご覧いただきありがとうございます。

 一話目から早くもネタ追加してます。

 まぁ、短編部分が終わるまで大して目立たせるつもりはないんですけどね。

 

 以降キャラ&世界観情報です。

 

===========

【国の名前】

 サイナス王国

  → 不整脈の医療現場での呼びかた(サイナス)から

  → 指摘ありました。(24/4/9)

    不整脈ではなく、その対義語である「整脈」「正常洞調律」をサイナスと呼ぶそうです。

    作者の勉強不足でした。


【国内勢力情報】

 国王派、貴族派、中立派の三派閥に分かれている。

 なお、その中でも武官、文官等で分けている派閥もあり。

 


【ジーピン家:国王派武官貴族:男爵家】

 ・ニフェール・ジーピン:主人公(三男)

  → ニフェジピン(狭心症、高血圧の薬)から

 ・アダラー・ジーピン:父親

  → ニフェジピンの商品名アダラートから


【セリン家:国王派文官貴族:伯爵家】

 ・ニーロ・セリン:伯爵

  → ニトログリセリン(爆薬ではなく狭心症治療薬として)から


【ジャーヴィン家:国王派武官貴族:侯爵家】

 ・フェーリオ・ジャーヴィン:侯爵家末っ子(三男)

  → フェロジピン(高血圧の薬)から

  

【ディーマス家:貴族派:侯爵家】

 ストマ・ディーマス:侯爵家嫡男

 → ストマは胃ガンから、

   ディーマスはガン

   →キャンサー(英語読み)

   →とある漫画からデスマスク

   →読み方を変更


【アンジーナ家:国王派武官貴族:子爵家】

 レスト・アンジーナ:子爵家嫡男、取り巻きその1

 → 安静時狭心症の呼称アンジーナ・オブ・レストから


【エスト家:国王派武官貴族:男爵家】

 トリス・エスト:男爵家次男、取り巻きその2

 → 名はラテン語で胸のペクトリスから。

   姓は英語で胸のチェストから。


【パッロ家:国王派武官貴族:男爵家】

 カルディア・パッロ:男爵家次男:取り巻きその3

 → 名は頻拍症の呼称タチカルディアから

   姓は発作性の呼称パロキシイスマルから


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