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2 ようこそ学園生活改善部へ!

「お邪魔しまーす……!」


 おれはできるだけ大きな声で言った。珍しく大きな声を出したような気がする。

 しかし誰もいなかった。返事がない。ここはただの第二生徒会室のようだ。っていうか第二生徒会室ってけっこう珍しくない!?


「誰もいねぇのか……! くそ!」


 おれは一人で叫んだ。なにをやっているんだろうなおれってば。けっこう傍から見ていると痛い人かも知れないけれど、そこはおれだ。痛い人を演じることにかけては右に出る者はおらず、詰まるところおれは素で変人だから変人に見られたところで失うものはなにもなかったりする。悲しいね!


「おじゃましま――す!」

「おっすー! 新入部員!? ねぇねもしかして新入部員なカンジ!?」

「うわっ――!」


 びっくりしたぁ! なんだなんだ! おれは後ろから声を掛けられてビックリしてしまう。振り返るとそこにはいかにも陽キャです! って感じのギャルが立っていた。おれの瞳を覗き込むように腰を折って、緑色の瞳を不思議そうに輝かせていた。


「し、新入部員って言うよりかは、相談に来たって感じです!」


 おれが言うとそのギャルが不思議そうな目でおれを見つめ、ふーんと呟いたあと、


「そっかぁ! まぁゆっくりして行きなよ! アァあたし三年の黒川たつみって言うんだぁ! よろしくね、えーっと、ごめん君名前なんて言うんだっけ?」

「神崎です! 二年の神崎みかげです!」


 おれは思わず声が裏返ってしまいそうなほどに叫んだ。ま、マジかよ! マジカマジカマジカ! この人たつみ先輩じゃん! 学園の有名人たる彼女がなぜ学園生活改善部かいう部活に入っているのか!?


「し、失礼ですけど、ほ、本当にたつみ先輩ッすよね……!? おれマジで大ファンなんです!」

「あ~~、そういう感じ!? もしかしてあたしのファン的なあれかな!? だとしたらごめん、帰って貰えるかな?」


 どうやら盛大な勘違いをされてしまったらしい。いいや勘違いというよりかは、五割本当といったところか。


 おれは首を振って訂正した。な、なんにしてもこの先輩からは嫌われたくはなかったのだ。


 黒川たつみ先輩。金髪サイドテールの彼女はいわば学園の女王様と言っても過言ではない。特に秀でた技能があるわけではないけれど、その他を圧倒する容姿で多くの人から尊敬を集めている。そして何より噂によるとすごい優しいらしい。学園の女王でもありアイドルでもあった。


「く、黒川先輩に会いに来たっつうよりかは、本当に学園のことで悩んでるカンジで来ました!」


 おれはビシッと背筋を伸ばしていった。だがたつみ先輩は聞いていなかったらしい。……ってえ!? 聞けよあんた!


「えっとぉ、名前なんだっけ!?」

「神崎ですよ! 今名乗ったじゃないですか!」

「えーっと、かん、かんざわくん?」

「違います! 先輩もしかして頭残念なタイプですか!?」

「たはーっ! 言われちゃった! そうそう、あたしけっこう痛い子に見られてんだよね! ウケる!」

「ウケねぇよ! ウケてんのあんただけだわ!」


 な、なんだこの人……! 話すテンポがうちの義妹と一緒だ! そして脳みそは義妹以下だ! 


「それで神崎みかげくん。学園生活改善部に何の用だっけ? ケンカ?」

「しねぇよ! 誰とすんの!? え!? ここそういう場所なの?」

「んな訳ないじゃん! いい加減にしてよね(ぷくっ)!」

「頬膨らませないで下さい! いい加減にすんのあんたですよ! もう先輩どうなってんですか……! イメージと全然違う……!」

「ああ、それよく言われる奴! ってかあたしってけっこう外見が先走りすぎてて、わりかし中身残念、みたいな! うけるよね!」

「うけねぇっつってんだろうが! 黙れよ! あんたも義妹とおんなじ匂いがするよ!」

「義妹って? もしかして神崎くん義理の妹さんがいんの? マジ!?」

「ま、マジっすけど……!? それがどうかしましたか?」


「いいな~~~~~! あたしも兄弟とか姉妹とか欲しかったんだよね~~~~! ね、あたしにその子頂戴!」

「満面の笑みでなに言ってるのあんた! 軽い脅迫じゃないっすか! ってか今一瞬だけオッケーしかけた自分が怖いわ!」

「で神崎くん? 小説の原稿は?」

「用件代わってますよ! なにその読んで貰える人がいないから誰かに読んで貰うための部活みたいな感じ! ここは奉○部かよ!」

「む! 神崎くんまさか『俺ガイナイ』読んでる感じなん!?」

「え!? 先輩も『俺ガイナイ』読んでるんすか!?」

「まじまじ! あたしめっちゃ大ファンで! マジか~~~! クラスでそんなこと話せる友達いなかったんだ! ね!? めっちゃ話そうよ! ラノベとかってけっこう神崎くん読んだりする感じなん!?」

「読みますよ! もうラブコメマスターと呼んで下さい!」

「よっ! ラブコメマスター!」

「せんぱ~~い、褒めてもなにも出ませんって!」


「とにかく入りなよ! あ、神崎くんなにか飲みたいもんある!? あたし用意すっけど!」

「そんなお手数掛けさせるわけにはいかないっすよ、さすがに」

「いいって遠慮すんなって! 若いもんは年上に頼るもんだぜ!」

「一個しか変わんないじゃないっすか! じゃ、じゃあお言葉に甘えて緑茶でもいただこうかな」

「はいよー」


 こうしておれは学園生活改善部部室たる第二生徒会室に足を踏み入れることになった。っていうかこんな流れで入っていいの!? マジかよ! あの憧れのたつみ先輩と今すんなり会話してたよねぇ――おれ! おれもしかして脈ありなんじゃね!?


 おれはたつみ先輩に案内されてパイプ椅子に腰を掛ける。落ち着く部屋だな。観葉植物とかコスプレとか置いてある。あとは本棚とか机とかだな。って待て! 


 コ ス プ レ !? !?


 どないなっとんねん! なんでコスプレが用意されてんの!? あれか!? もしかして学園生活改善部の誰かが趣味とかでここに置いてるとかか? ほんげー、色々あるな、ゴスロリ、メイド、大正ロマン風の衣装、執事服、ビキニ、透明スーツ……………………なんでもござれだな!


 おれはふとたつみ先輩がそれを着ている姿を想像する。に、似合うだろうな! たつみ先輩美人だからえげつないほどに似合うんだろうな! 一回見てみたくなってきた。


「先輩ってもしかしてずっと学園生活改善部にいたんすか?」

「ガクセカ部でいいよー! んー、そうだね、一年の時からずっといっかな!」

「楽しいんすか?」

「どうだろうねー。弁護士とかに似てんのかも! ほら弁護士って誰か依頼人の困ってること解決して、お金をもらうって感じっしょ。アタシ達も似たようなもんで、生徒たちの問題を解決して、お金じゃなくて感謝の言葉をもらうって感じかな! ほいお茶入ったよ!」

「先輩これけっこうなお点前です!」

「へへ! だろぉ! あたし緑茶入れんのは得意なんさ!」

「マジで天才っすね!」

「だろだろぉ! たつみん一押しのハーブティーだぜ!」

「緑茶頼んだんだよ! なにハーブティー入れてんだよ!」

「いーじゃん! あたしがハーブティー淹れたい気分だった!」

「そ、そんな気分で淹れるんすか……! ケドおいしいっすね。ラベンダー。なんか葉っぱ浮いてますけど……」

「へへ、うまいっしょ! あたしの自信作。いえい!」

「い、いえい……!」


 なんだこの人! 距離詰めるのうますぎだろ!


「んでさんでさ! 神崎くんってどんな感じのラノベ好きなん!? ラブコメって言ってたよね!? なに読むん!?」

「え、あー、ラブコメに限らず学園ものが好きっすね……! 『万波くんはコーラ瓶の底』とか『ようこそ排他的経済主義の学園へ』とか、さっき言ったように『俺ガイナイ』とかっすかね……!」

「マジ!? めっちゃわかる! 特に万波くん! あいつマジイケてるよね! ああいう陽キャってなかなかいないから苦労すんだわ!」

「へ~、やっぱ現実にはいないモンなんすか!?」

「そりゃそうだ! 現実に万波くんみたいな奴がいたら惚れてるに決まってるよ! ケド綾小路清麿も捨てがたいよね!」

「わかります! 先輩は『ようがく』のキャラクターの中で誰が好きなんすか!?」

「え~、そうだね! やっぱり――」

「あぁ待って下さい先輩! せーので言いましょう! おれも今から好きなキャラ言うんで、『せーの』で言い合いっこしましょう!」

「お! いいね! のった!」

「じゃあいきますよ、せーの――」

 

「さくらぎ」「あいりんちゃん!」

 

「マジで先輩わかってますね!」

「それな! マジそれな!」

「先輩はどこのシーンが好きなんすか?」

「えーっとねー、やっぱり満場一致試験のとこかな――」

「マジそうっすよね! 清麿最高っすよね!」


 おれたちはこうしてマジで怒られそうな会話をしていく。それからもラノベの話題は尽きることなかった。っていうかライトノベル好きは得てして語りたがるものなのだ!


「そー、ハルヒいなくなっちゃったときのキョンくんの心情描写、あそこマジうまいよね! スニーカー文庫最高って感じ!」

「そうっすよね! マジであそこハラハラしましたよね!」

「神崎くんはラノベキャラ全体で誰が好きなん? 作品問わずで! 清麿? 万波くん?」

「後方のアックアです!」

「渋っ! 渋すぎるよ神崎くん! わかる! けどわかるわ! あの感じチョーイケてるよね! 不器用なんだけど男らしさがあるあの感じね! わかるわかる! もしかして神崎くんのその髪型もウィリアムさん意識してる感じなん!?」

「そ、それはあんま関係ないっすね! ただオールバックにした方がかっこよく見えるだろうって感じで……!」

「そーなんだー! いやめっちゃイケてると思うよ! マジでかっこいい! もうね! 神崎くんが聖人に見えるよ! チョーイケてる!」

「マジっすか! ヤバいっす! 顔赤くなってきました!」

「やば! 照れる神崎くんちょー可愛い! え!? 写真撮っていい!? 今日の活動報告ってことで!」

「いいんすか!? やった――ぁ! 先輩から認めてもらったことマジで今後の人生の誇りに思います!」


 ヤバい! この先輩もしかしたらおれのことちょー好きなんじゃね? そう考えると俄然やる気になってきた!


「先輩今度一緒にアニメイト行きませんか!? 一緒に色々買いましょうよ!」

「お! 行こう行こう! 神崎くんのこともっと知りたいし!」

「……うっす…………!」


 この言葉におれは噛みしめられるものを噛みしめられるだけ噛みしめた! マジか! たつみ先輩とデートだ! おれは嬉しくて今にも叫びだして地球の裏側まで行きたい気分だったけれどやめておいた。なぜならここは学校であるからだ。しかもうち門限あるしね。ねーよ。


 おれが御茶を飲み干すと、たつみ先輩がゆっくりと切り出した。


「本題! に戻ろっか! 神崎くんはどうしてガクセカ部に来たんだっけ? なんか学校生活で悩んでることがあるんだよね? 言ってみ? ほら言ってみ!?」

「ご、強情ですね先輩! ケド先輩のそういうところマジで嫌いじゃないっすよ」

「え、えへへ、そっかな! 神崎くんから見てあたしっていい女?」

「はい! マジでいい女っす! 絶世の美女です!」

「ぜ、絶世の美女ぉおおおおおおお~~~~~~~~~~! そ、そんな、え!? マジで!? ヤバいちょ~~~~~~嬉しぃいいいいい~~~~~~~!」

「先輩落ち着いて下さい! お願いだから机揺らさないで!」

「神崎くん女口説くのに限っては天才的だよねぇ!」

「違います! 先輩がビックリするくらい距離つめるのうますぎるんですよ!?」

「え、そっかな! あたしはあたしでいつもどおりやってるつもりなんだけどなぁ」

「素! 素ってすごい! これが天然姫オーラって奴っすか! 眩しい! 眩しすぎて直視できない! これはあれっすよね! たとえるなら小学校で習う水溶液くらい透明度高いっす!」

「あは! 神崎くんそれよくわかんないよ!」

「え……!? あすんません! 先輩にはちょっとわかりづらいたとえだったかも知れないっすね!」

「水溶液ってなに?」

「そこから!? え!? そこからなの!? 水溶液って言うのは、水に溶ける物質を水に溶かしたものを水溶液って言うんですよ!」

「あぁ! じゃああれだ! 海水!」

「微妙なライン! ふつうは食塩水とかその辺出てくるんですよ! 先輩義務教育受けたんすか!?」

「忘れちった(てへぺろ)!」

「忘れんなアホ! ふつう忘れねーわ! あの意味のわからないなんのために役立つかもわからない授業でも、ちゃんと覚えてるのがふつうですよ! ほら、帯分数とか謎でしょう!」

「あー帯分数マジで謎だよね! ふつうに分子に乗っけろよって感じだよね!」

「水溶液分かんないくせにそれわかんの!? 帯分数はわかんのかよ! 失礼だけどわかんないと思ってたわ! すんませんなんか! 先輩なめてました!」

「そ、そんな……! 神崎くんがあたしのことなめてたなんて! はっ、いつの間に!」

「そういう意味じゃねぇよ――! なんだこの天然! だんだん腹立ってきた!」


 キーくんってこんな気分だったんだろうか。いやキーくんのことを考えてもしょうがない。ここはたしかに生徒会室ではあるけれど、生徒会活動はしていないのだ。そうなにを隠そうここは天下の学園生活改善部なのだ!


 おれがちょっとどころかものすごい疲れていると、ガラガラッと扉が開けられた。なんだ部員か。またたつみ先輩と似たような人だったら困るぞ? とか考えていると、その人が入ってきた。


「おーっすお疲れー! お! なんだなんだ! 来客か! イヤーそいつは歓迎だな!」


 入ってきたのはいかにも陽キャオーラを出している男子生徒だった。髪の毛の色は赤色で、髪型はセンターパート(?)とか言うんだったか。いかにもイケメンなその人は、どうやらたつみ先輩に敬語を使っていないことから三年生だと推測できた。


 高身長でイケメンで、しかもあんな白い歯をしているのだ。さぞかしモテるだろうな……とおれはほんのちょっぴり劣等感を抱いた。今たつみ先輩と大分仲良くなれたけれど、彼女とこの先輩はいつもおんなじ部屋にいるんだよな……。もしかして彼氏とかだったりするんだろうか。


 おれがしばらく二人の姿を不思議そうに眺めていると、たつみ先輩がいきなり形相を変えて舌打ちした。


「――――ちっ!」


 嘘でしょう、たつみ先輩。おれの想像していたたつみ先輩の斜め四十五度ずれたその行為におれはドン引いた。たつみ先輩怖い! おれと話していたときとの形相と全然違ったので、さしものおれもビックリした。ささいなことでは動じない、それこそ道端にヘビが現れても『なんだただのヘビか』くらいにしか思わないこのおれがである。


「ちっ!」


 もう一回したァ! べつにいいじゃないですかと突っ込みたくなる。え? なにこの赤髪先輩、もしかしてものすごいたつみ先輩に嫌われていると言うことだろうか。


 おれは渋々顔を上げた。なんかものすごい修羅場に遭遇している気分だった。それこそおれの彼女と幼なじみがうんタラレベルだ!


「あんたなんで来たん! キッモ! うわ、テカ女クサ!」

「ち、違う! べつに昨日はその……成り行き上仕方がなかったんだ!」

「言い訳はいいから、早く座ったら? お客さん待たせといてその反応でどーなんですかぁ!」

「す、すまん! えーっと客人! 客人だよな!? 悪いなこんないかにも険悪なムードに巻き込んでしまって!」


「いや慣れてるんで!」

「肝すわってる! なんだこの少年! 炭治郎かお前は!」

「先輩うるさいですね! 声デカすぎですよ!」

「お前もな! ずいぶんと度胸ある後輩でビックリしたわ!」

「せ、先輩の名前を聞かせてもらっても……?」

「お、おおおおれは荒金雅之という名前の人間だ! 性別はこう見えても男だぞ!」

「見なくてもわかりますよ! ってか第一印象ととことん違いますね……」

「あぁ。まぁな。と、とにかくこのたつみの前だと、どうにも緊張してしまうタイプでな!」

「へー、もしかして先輩って、たつみ先輩のこと好きなんですか?」

「違う!」「は? ありえねーし」


 たつみ先輩怖いっす! そんな顔でにらまないで下さいよ! び、びっくりした~~! そんな表情されるとは思ってなかった。部屋の空気が南極並みに冷え切った瞬間だった。絶対零度超えてたんじゃねーの!?


「す、すみません。おれの名前は神崎みかげって言います。今日は相談があってきました」

「ほう、相談か……! おれでよければ乗ってやるぞ」

「いえ、たいしたことじゃないんすけど、その……学校生活にあんまなじめないって言うレベルの話で……! そ、それよりもおれとしてはたつみ先輩と荒金先輩の関係性の方が気になりますよ! なんですかいきなりギクシャクして!」

「あ、あぁ、それ聞いちゃう感じ?」

「聞きたいです荒金先輩!」

「聞かないでくれお願いだから!」

「なぜに!? たつみ先輩、もしかしてえげつない関係性だったりするんですか!?」

「あたしに聞いちゃう!? ……まぁそいつ、一言で言うと『やりチン』なのよ……!」


 ん、今何つった?


「やっ……やりっ…………………………やりチンんんんんん~~~~~~!」


 おれは思わず大絶叫! おれは十六年間を生き続けてきたものの、今までほんもののやりチンと出会ったことはない! っていうかふつう会わねーよ! どういう巡り合わせだよ! 


「せ、先輩それ本当なんすか……?」

「いやぁ、まぁ……………………うん」

「認めるのかよ! あんた敵だ! 嘘だろ! 本当にやりチンなんすか!」

「まぁな!」

「開き直った! ビックリするくらいの勢いで開き直ったよこの人! マジでやりチンなの!? 衝撃の事実だわ! 今日会ったばかりだけど、あんた激しく軽蔑するわ!」

「べ、べつにやりたくてやってるわけじゃないんだ! ただ向こうから求められているだけなんだよ! わかってくれ!」

「わかるかアホ!」「わかってたまるかアホ!」


 おれとたつみ先輩の声がシンクロする。よ、よかった……。たつみ先輩のセリフからするに、たつみ先輩自身は食われてないらしい。っていうかたつみ先輩顔真っ赤だ。もしかしてこの人けっこうこの手の話題に弱いのではないかと思った瞬間だった。


「あんた童○の敵だ! 消えろ! 高校生の分際でセックスしてる奴なんかこの世にいなくなればいいんだ! 十八歳未満はしちゃいけないんですよバーカバーカ!」

「うわなんだこの後輩! 調子に乗らせればおれにとんでもなく噛み付いてきやがるぞ!」

「知ったことか! ○貞の敵! 死ね! 死ね死ねこのやりチン!」


 ほんもののやりチンクソ野郎がここにいる!


「んで、聞きますけどストライクゾーンはどこなんすか?」

「む? 具体的なところは言えないが、全員十八歳以上だぞ! 少なくともうちの学校の生徒には手を出したりはしてねーぞ!」

「詳しく聞かせて下さい! 誰とどこでやってるんすか! べ、べつに今後の参考のためってわけじゃないっすよ! タダの興味本位ッすからね!」

「ラブホで人妻とだな……その……………………ランデブーだぜ!」

「――ちょっと神崎くん! 首絞めちゃダメだって! その人とんでもないクズだけど、殺すのはマズいって! かーんーざーきーくぅ~~~~~~ん! ダメ! ダメダメ!」

「離して下さい! この人殺さないと気が済まないです! しかも抱かれる方の人妻も人妻じゃねぇか! なに高校生に手を出してんだクソビッチが! 犯罪です!」

「ちょ、ちょっと待つんだ神崎! 正当だ! 正当なんだ! おれの誕生日は四月十日で、つまりもう成人しているんだ!」

「な……んだと……………………!」


 またもや衝撃の事実! さすがにそれを言われては言い返せないではないか! た、たしかに成人しているのならいくらランデブーしたって構わないはずだ! ……そうだったっけ? まぁいい! ともかく! あの中学生時代の忌々しい担任教師よりかは、この人の方が遥かにマシなんじゃねーの!? 俺の書きかけのラブレターを奪ったあのクソ教師!


「神崎くん騙されちゃダメだよ! そいつ一年生の時からこんなんだから!」

「あんたマジで救いようねーな! マジで殺すぞ! てめぇぶっころす! 地球の裏側に埋めてやるよ! マチュピチュ遺跡の残骸の一部にしてヤンよこら――ァ!」

「神崎くんだめっ! 本当に忌々しくてウザくて顔がいいだけのクソ野郎でも、殺しちゃダメ!」

「そうだぞ神崎! おれはあくまで求められてるからやっているまでだ! 他意はない!」

「大ありだ! なんなんだこいつ! ぶっ飛ばしてやる! 地球の果てまでぶっ飛ばして田舎のじいちゃんのお供え物にしてやる!」

「どういうこと!? おれ飛んだら供えらんねーよ!?」

「アホ! てめぇにはそんなこと言ってねぇクソやりチン! 万波くんに報告してやる! ここにほんものの『やりチンクソ野郎』がいるってな! 死ね!」


 ぜぇはぁとおれが息を切らしていると、ふとしたときにたつみ先輩が声を掛けてくれた。


「あー、神崎くん。悪いんだけど、こんな奴でも一応はガクセカ部の部長なんだ……!」

「○○○○○○○○○○○○○○○! ○○○○○!」

「神崎くん落ち着こっか! ね!? 声にならない怒りが溢れんばかりに漂ってるから!」

「もうあんたを部長とは呼ばねーよ!? ザー○ンマスターが!」

「やめて神崎くん! あたしその手の下ネタ苦手だから!」

「神崎お前今日初対面だよなァ! お前のネーミングセンスのなさにビックリ仰天だわ!」


 荒金部長の最後の一言にたつみ先輩がビクッと肩をふるわせた。


「もういっそ殺しちゃいましょうそうしましょう! 神崎くん美術室にカッターあったわよね? それ持ってこよっか?」

「おいおいおいおい待て待て待て! 殺すな! わかった! おれはおそらく世間的に見ればクズなんだろう! だがわかって欲しい!」

「なにをです?」「なにを?」



「ちゃんとゴ○はつけている――!」



「さ、神崎くん行こっか!」

「そーですね! もうあいつなんてほっといていっそのこと新しく新生ガクセカ部つくっちゃいましょう!」

「それもそうね! 神崎くんと作る部活ってなんか楽しそうでいいな!」

「ですよね! おれもたつみ先輩と部活作るの超楽しみです!」

「ま、待ってくれ! おれの立場がなくなるじゃねぇか――!」

「先輩黙って下さいよ!」「うるせーわカスが」


 うわたつみ先輩マジでどストレートの発言ですね……。さすがの荒金部長も応えたらしく、不格好に右手を前につきだした状態で、小さな声で「待ってくれ話せば分かるんだ……」と呟いている。あーーーーーーあーーーーーー惨めですね先輩!


 おれは半ば晴れやかな気分でガクセカ部をあとにしたのだった……



 

 って書いてて思ったけどおれこれ本当にあとにしてよかったの!?

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